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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#13

第二章 青い春 〜涙の跡〜

「ふぐっ……ひぎぃっ…」
「なぁ、いい加減泣きやめって」
蛍が呆れたような笑顔を浮かべながら、蝶舞を慰める。蛍と蝶舞は映画を見終えた後、2階下の階にあるフードコートの椅子に向かい合って座っていた。同じ階で幼児イベントが開催されていたこともあり、沢山の親子で賑わっていた。蛍は、向かいに座っている蝶舞が悪目立ちしてはいないかと居心地悪そうに周囲を見渡した。だが、赤ちゃんの笑い声や幼児の泣き声、ゲームセンターからの騒音や店内放送が混ざりに混ざった音で、蝶舞の嗚咽は掻き消された。

「がんどうしぢやったんだよっ…(感動しちゃったんだよ)」
蝶舞は両目から流れ出す涙を袖口で拭い、鼻を勢い良く啜った。毎日のようにバスケ部から勧誘を受けるような巨体は、身体を縮こませて椅子に座り、俯いて静かに嗚咽していた。
「泊のせいで映画の内容に集中出来なかったじゃんよ」
蛍は蝶舞の鼻から垂れた鼻水を見て、ハハッと軽く笑った。

蛍と蝶舞は並んで映画館の座席に座っていた。映画の開始早々、グスグスと蝶舞が鼻を啜る音が最後まで蛍の耳に響いた。正直、蛍はそれをありがたいと思った。映画の主人公の演技を観ていると、ふとした拍子に蛍の脳裏には、眩しい光に包まれたような世央の笑顔が浮かんだ。世央のことを思い出すたび、世央が隣にいない現実を憂う自分。蛍はそれを自覚するまいと、必死に世央との思い出から目を逸らそうとした。だから、蝶舞の嗚咽で映画に集中出来ないくらいが蛍にはありがたかった。もしそうでなければ、蛍は衝動的に映画館から飛び出していたかもしれなかった。

ピピッ!

「あ、俺が取ってくるわ」
蛍の手に握られていた小さな板状の黒い機械が、喧しい電子音を放った。
「スガキヤのラーメンでも食って落ち着け」
蛍がそう言って蝶舞の背中を強く叩くと、蝶舞は両手で目を擦りながら小さく頷いた。

「塩ラーメン2つ、どうぞ〜」
蛍が慎重にトレーを運んで席に戻った頃、蝶舞は蛍が座っていた辺りをじっと黙って見つめていた。
「ごめん。ありがと」
「おん」
蛍が席に着くと、塩ラーメンの食欲を唆る香りが蛍の鼻の穴を通って全身に染み渡った。



『俺って変?』



蛍の心にこびりついて離れない言葉。これは、映画の中の主人公が自分の「異質さ」を自覚した時に親友に相談した時の台詞。そしてそれはまさに、映画を見る直前に、蛍が蝶舞に今朝尋ねた言葉そのものでもあった。蝶舞が今朝のやり取りを忘れてしまった筈はないとは蛍にも分かっていた。だが、誰にも悟られまいと、蛍はその問いを胸の奥にしまい込んだ。

僅かに白く濁ったスープ。箸で麺を持ち上げると、蛍の右手にその重みが伝わる。蛍は麺を何度も何度も咀嚼し、そしてゴクリと飲み込んだ。

「っ…」
蝶舞はメンマを箸で掴みながら、蛍の方を見て言いかけた言葉を飲み込んだ。蛍は知らなかった。蝶舞だけが気付いていた。

蛍の頬に、乾いた涙の跡が一筋走っていたということを。

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2025/12/03 17:59

花火
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