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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#11

第二章 青い春 〜パンドラ〜

夏季休業中、変わらぬ日々が繰り返される。眩しい日差しと蝉の音に起こされる朝。毎朝お決まりの味噌汁と一杯の白米を食べたら家の周りを軽くジョギング。
「あっつ……」
そして今日も蛍はジョギングを終えたら真っ先にシャワーを浴びに向かった。汗で服が背中に張り付く感覚。なかなか終わりが見えない夏季休業中の課題へのストレス。全てを流し去るように、蛍は頭から冷水を勢い良く被った。

「蛍くーん」
シャワーを浴びて濡れた髪をタオルで乾かしていると、祖母が蛍を呼ぶのが洗面所まで聞こえた。
「何ー?」
蛍は湿ったタオルを首に掛け、洗面所の扉を開けて祖母の声が聞こえた方を探すように顔を覗かせた。台所から渡り廊下を伝って吹いてくる冷房のひんやりとした風が、蛍の両耳を撫でる。
「あんたの電話ちゃう?」
「え?」
蛍からは祖母の姿は見えなかった。祖母はどうやら台所の奥にある畳の部屋で本を読んでいるらしかった。蛍が耳を澄ませると、台所の方から軽いポップな電子音が喧しく鳴っているのが聞こえた。蛍はスマホを台所のコンセントで充電していたのを思い出し、慌ててスマホのもとに駆け寄った。まだ完全に乾き切っていなかった蛍の髪から水滴が何滴かポタポタと床に散った。

「泊か」
左手にタオルを持って髪を乾かしながら、右手にスマホを持って画面を確認すると、蝶舞のLINEのアイコンが表示されていた。小学校の修学旅行で行ったと思われる厳島神社の朱色は、人気の観光地になるだけあって見惚れさせるものがあった。
「もしもし?」
蛍は応答ボタンをタップし、画面が濡れないように耳との間にごく僅かな隙間を作った。
『あぁ、斗波?映画見に行かん?』
「映画?え、なんで?」

1週間前にテレビで見た映画の予告映像が、蛍の脳裏に浮かんだ。

『夏休み中に映画を見て英語で感想書かなあかん宿題あったやろ。丁度ええんちゃう?上映中やろ、今』

蝶舞が蛍に見ようと誘ったのは、他でもない、蛍の胸をざわつかせたあの映画だった。ただ、蛍も何の映画を観ようか迷っていたところではあった。

『同性間の恋愛って、人権講座でも話聞いたやん。あぁ、でもそうか。男二人で見に行くの気まずいか?』

蛍が蝶舞からの電話を取ってから、蝶舞が一方的に話していた。蛍はあの映画のことを思うと、胸の奥が苦しくなり上手く声が出せなくなった。

『どう思う?嫌やなかったら見に行きたいけど、都合悪い?』

蝶舞の言葉の節々が途切れ途切れに脳内で処理されていくような妙な感覚に蛍は包まれた。明るいはずの視界は何故か暗く、先週見た映画の場面が何の脈絡もなくフラッシュバックする。

『許してください』

映画の中の男子大学生が男性会社員を押し倒し優しく口付けする場面が色鮮やかに蘇る。脳の奥にこびり付いて離れない。世央の笑顔が鮮明に脳内に浮かぶ。蛍の中の何かが世央を衝動的に呼ぶ。蛍の理性がそれを必死に抑える。蛍は気付けば息をするのも忘れていた。やっとそれに気が付いた頃には、蛍は絞殺される寸前に釈放されたかのような呼吸の仕方をしていた。

「俺って変?」
蛍の口が勝手に動いた。蛍の脳が心に浮かんだ言葉を自覚するよりも前に、言葉が自ずと口の外へと飛び出した。

『…え?』

電話の向こうには沈黙が流れる。蛍の心臓の音で喧しかった。スマホを握る蛍の手が小刻みに震えた。本当は僅かな時間だったかもしれなかったが、蛍にはその僅かな沈黙が果てしなく長く感じられた。

『……あ……え…』
「ごめん!変なこと言った!」

蝶舞が何かを言おうとしたのを感じたが、蛍はそれを遮るように叫んだ。パンドラの箱を開けてしまった気がした。戸惑いと困惑と不安と僅かな期待が、蛍の胸の中をグルグルと駆け巡る。

「良かったらもう、今日見に行かん?それで映画見終わったらついでに飯食おうや」
『…今日?ええで。じゃあ、感想書くプリント持って、チャリでイオンシネマの入り口で待ち合わせで良い?』
「分かった」

電話を切った後、蛍は暫く何をする気にもなれず、右手には画面の消えたスマホを握ったまま、窓の外をボンヤリと眺めていた。

「早う髪乾かさんと風邪引くに?」
蛍は、背後から聞こえた祖母の声にハッと我に返り、後ろを振り向いた。寝室の棚の上に置かれた祖父の遺影と、今朝祖母が生けたばかりの花が蛍の視界の右端にチラリと見えた。
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2025/12/02 18:03

花火
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