「そこにドアがあるでしょ?そこを通ったらすぐだよ」
「これが?」
俺はやけに真っ白の建物前にいた。見上げれば尖塔が建物のあちこちにあって、なんだか巨大な教会を思わせるような造りだ。目の前には両開きの大きな木製ドアがずっしりと鎮座していた。
「これ開くのか?」
「手をかざしてみて」
言われたとおりドアにかざしてみる。すると、重そうにズズズと音を立てて内側にゆっくりと開く。と、同時に建物内の光が一気に溢れ出してきた。
「まぶしっ」
「さあ、君がゆっくりできる場所だよ」
「……なんじゃこりゃ…」
言葉を失う、とはこういうことか。
光の先に見たのは、
「……草原?」
ドアの向こうには別の世界が広がっていた。嘘だろ?
「これは俗に言う別次元とかってやつか?」
「まあ、それに近しいものだね」
俺は一歩踏み出してみる。途端、グッと体の内側が引き込まれたような感覚に陥った。
「おわっ!」
ドアの内側へと引きつけられたと思えば、そこはあたり一面が草原だった。後ろにはあのデカいドアもない。
「君は完全に境界の扉をくぐったんだ」
「境界の扉?」
「そう、さっき言ってたように、いわば別次元のようなものなんだ。正確に言えば空間自体が変わってる。その空間のつなぎ目があのドアだよ」
「出るときはどうすりゃいいんだ?」
見た感じ出口のドアなど見当たらない。
「そのときは言ってね」
「わかった」
とりあえず、俺はやっと落ち着けるんだな。転生とか最初は考えらんなかったが、もうこの小一時間でこんだけいろんなもの見せられたら信じるしかないよな。
やはり俺と同じように休息の地を求めるものは他にもいるようで、各々がこのだだっ広い草原で時間を過ごしている。
適当に歩いているとふかふかそうな椅子を発見したものだから、そこに腰を下ろすことにした。
上には青いキャンバスにかすれた筆で描いたような薄い雲がぽつぽつとあった。こういうのを見ていると脳がぼんやりとしてくる。心地よいお日さまのもとで寝そうになるな。
「あれ、カズキさんじゃないですか」
このやけにはずんで明るい声は…
「…アグネスか」
「はい!私です!」
少しも遠慮することなく、俺の隣によいしょと座る。
「仕事は?」
「休憩です、休憩」
「一日中働き詰めなのか」
「いやーそんなことは…ないですが……」
なぜ言葉を濁す。
「おそらく、日本の社会人よりはホワイトかと……」
天国じゃねえか。
「そういや、仕事以外は何してんだ?」
「そうですね…」
少し言葉を選ぶように言って
「…実は…何もしてないんです」
「なにも?」
「いや、何もしてないってわけじゃないんですが…」
「街をふらついたりしないのか?」
「…ひとりじゃつまんないですよ」
……ひとり?
「…なあ、これはもしかしたらパンドラの箱になるかもしれないが…」
俺は慎重に言った。
「もしかしてお前、同期とかいない?」
「ッ!」
どうやらこれがダム崩壊の決め手になってしまったらしい。アグネスの目からボロボロと大粒の涙が落ちてきた。
「…ヒグッ……ぞうでずよ……わだじ友だぢ…いないん゙でず…うわぁぁぁん!」
おい、大声で泣くな。困るだろ…。
「なんか…ごめん」
「ヒギッ………わだしも行きたいでずよぉ……友だちと一緒に街とが………ヒグッ……」
「………」
弱ったな…。俺も友だちが多いほうじゃないから、どうしてやればいいのか。せいぜいネットの中と中学以来のやつだけだ。
「……じゃあ、行くか?」
「………え?」
アグネスが涙腫れした顔を上げた。
「買い物だよ」
「かい…もの?」
「友だちいないんだろ?俺がなるよ。一人目の友だち」
「ほ…ほんと?」
「ああ」
「でも…一日だけじゃないですかぁ……」
「そんなことないって」
「どうせ転生したら忘れちゃうんです……」
あーもう…
「決めた!」
バッと椅子から立ち上がった。
「俺の転生のオプションはお前と友だちになること、どうだ!」
これなら何も言えまい。
「俺がなりたいんだ!」
「………ほんと………ですか…?」
「そう、俺が、なりたいの!」
その言葉を聞いた途端、頬を伝っていた涙を拭いたと思いきや、
「行きましょう!行きましょう!!」
「わかったよ」
やれやれだな。
「これが?」
俺はやけに真っ白の建物前にいた。見上げれば尖塔が建物のあちこちにあって、なんだか巨大な教会を思わせるような造りだ。目の前には両開きの大きな木製ドアがずっしりと鎮座していた。
「これ開くのか?」
「手をかざしてみて」
言われたとおりドアにかざしてみる。すると、重そうにズズズと音を立てて内側にゆっくりと開く。と、同時に建物内の光が一気に溢れ出してきた。
「まぶしっ」
「さあ、君がゆっくりできる場所だよ」
「……なんじゃこりゃ…」
言葉を失う、とはこういうことか。
光の先に見たのは、
「……草原?」
ドアの向こうには別の世界が広がっていた。嘘だろ?
「これは俗に言う別次元とかってやつか?」
「まあ、それに近しいものだね」
俺は一歩踏み出してみる。途端、グッと体の内側が引き込まれたような感覚に陥った。
「おわっ!」
ドアの内側へと引きつけられたと思えば、そこはあたり一面が草原だった。後ろにはあのデカいドアもない。
「君は完全に境界の扉をくぐったんだ」
「境界の扉?」
「そう、さっき言ってたように、いわば別次元のようなものなんだ。正確に言えば空間自体が変わってる。その空間のつなぎ目があのドアだよ」
「出るときはどうすりゃいいんだ?」
見た感じ出口のドアなど見当たらない。
「そのときは言ってね」
「わかった」
とりあえず、俺はやっと落ち着けるんだな。転生とか最初は考えらんなかったが、もうこの小一時間でこんだけいろんなもの見せられたら信じるしかないよな。
やはり俺と同じように休息の地を求めるものは他にもいるようで、各々がこのだだっ広い草原で時間を過ごしている。
適当に歩いているとふかふかそうな椅子を発見したものだから、そこに腰を下ろすことにした。
上には青いキャンバスにかすれた筆で描いたような薄い雲がぽつぽつとあった。こういうのを見ていると脳がぼんやりとしてくる。心地よいお日さまのもとで寝そうになるな。
「あれ、カズキさんじゃないですか」
このやけにはずんで明るい声は…
「…アグネスか」
「はい!私です!」
少しも遠慮することなく、俺の隣によいしょと座る。
「仕事は?」
「休憩です、休憩」
「一日中働き詰めなのか」
「いやーそんなことは…ないですが……」
なぜ言葉を濁す。
「おそらく、日本の社会人よりはホワイトかと……」
天国じゃねえか。
「そういや、仕事以外は何してんだ?」
「そうですね…」
少し言葉を選ぶように言って
「…実は…何もしてないんです」
「なにも?」
「いや、何もしてないってわけじゃないんですが…」
「街をふらついたりしないのか?」
「…ひとりじゃつまんないですよ」
……ひとり?
「…なあ、これはもしかしたらパンドラの箱になるかもしれないが…」
俺は慎重に言った。
「もしかしてお前、同期とかいない?」
「ッ!」
どうやらこれがダム崩壊の決め手になってしまったらしい。アグネスの目からボロボロと大粒の涙が落ちてきた。
「…ヒグッ……ぞうでずよ……わだじ友だぢ…いないん゙でず…うわぁぁぁん!」
おい、大声で泣くな。困るだろ…。
「なんか…ごめん」
「ヒギッ………わだしも行きたいでずよぉ……友だちと一緒に街とが………ヒグッ……」
「………」
弱ったな…。俺も友だちが多いほうじゃないから、どうしてやればいいのか。せいぜいネットの中と中学以来のやつだけだ。
「……じゃあ、行くか?」
「………え?」
アグネスが涙腫れした顔を上げた。
「買い物だよ」
「かい…もの?」
「友だちいないんだろ?俺がなるよ。一人目の友だち」
「ほ…ほんと?」
「ああ」
「でも…一日だけじゃないですかぁ……」
「そんなことないって」
「どうせ転生したら忘れちゃうんです……」
あーもう…
「決めた!」
バッと椅子から立ち上がった。
「俺の転生のオプションはお前と友だちになること、どうだ!」
これなら何も言えまい。
「俺がなりたいんだ!」
「………ほんと………ですか…?」
「そう、俺が、なりたいの!」
その言葉を聞いた途端、頬を伝っていた涙を拭いたと思いきや、
「行きましょう!行きましょう!!」
「わかったよ」
やれやれだな。
- 1.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 1
- 2.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 2
- 3.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 3
- 4.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 4
- 5.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 5
- 6.2話 とある女神の休憩時間 1
- 7.2話 とある女神の休憩時間 2
- 8.2話 とある女神の休憩時間 3
- 9.2話 とある女神の休憩時間 4
- 10.2話 とある女神の休憩時間 5
- 11.3話 死は混沌の至誠也 1
- 12.3話 死は混沌の至誠也 2
- 13.3話 死は混沌の至誠也 3
- 14.3話 死は混沌の至誠也 4
- 15.4話 見知らぬ、街道 1
- 16.4話 見知らぬ、街道 2
- 17.4話 見知らぬ、街道 3
- 18.5話 ゆく猫くる猫 1
- 19.5話 ゆく猫くる猫 2
- 20.5話 ゆく猫くる猫 3
- 21.5話 ゆく猫くる猫 4
- 22.5話 ゆく猫くる猫 5