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探偵は眠らない!

#7

2話 とある女神の休憩時間 2

「なんだか騒がしいな」
 十字路の中心には芸術的な噴水が置いてあり、どうやらそこに人が集まっているようだ。
「ざわ…ざわ…」
「なんかあったみたいだね」
「ちょっと見に行くか」
 十人ほどがみんなして噴水の彫刻をしかめっ面で睨んでいる。
「何があったんだ?」
 俺はとりあえず近くの人に聞いてみた。
「ああ、なんか彫刻に貼り紙があってな」
「紙?」
 …ダメだ読めん。まるで意味がわからんぞ!今まで見たこともない言語だ。
「救いはすぐそこにある、だね」
 エスメラルダの声が聞こえた。
「救い?」
「僕もわかんないけどね」
「…まあ、きっと死んだショックでおかしくなったやつが貼ったんだろ」
 他の人も周りに各々の考えを話したり、かと思えば何事もなかったかのように解散する人もいた。
「わからんものには興味ないね。行くか」
 何かの伏線なのだろうか?だとしたら雑すぎるか?
「で、右だったよな?」
「そう、その先が目的地だよ」
 俺は指示に従い、街の賑わいを聞きながら安息の地へと向かう。
「なあ、エスメラルダ」
「何?」
「やっぱこの人たちって死んでるんだよな」
「そうだね」
「…お前随分平然と言うな」
「そりゃまあ、事実ですから」
 やれやれ、とでも言うかのようにため息混じりに言う。
「でも不思議だよな」
「どうして?」
「だって、みんな普通に生活してるんだぜ?」
「確かにそうだけど」
 と、エスメラルダが間を置いた。
「君は日本に生まれたんだよね?」
「そうだ」
「例えば、あのオオカミ男みたいな人」
 俺の斜め前方を歩く屈強な獣人のことだろう。
「あの人は戦死したんだ」
「せんし?」
「そう、戦争で命を落とした」
 戦争放棄の日本には考えられない響きだ。その戦争の文字が重くのしかかる。
「果物屋の前に立っている赤髪の女性がいるでしょ?」
 確かに、店主と談笑しているきれいな女性がいる。笑顔が眩しい素敵な人だな。
「あの人は自殺でココに来てる」
「あの人が?」
「そう」
「冗談はよせよ」
「ホントさ」
「………マジなのか?」
 エスメラルダは何も言わなかったし頷きもしなかった。
 楽しそうな表情からは、自殺の二文字が湧いてこない。
「みんなが普通に生活を送れたわけじゃないんだ。何かの悩みとか、責務とか、逃げ出したいようなことから逃げられずにいる人とか」
「…そうなのか」
「だから、君にとっての日常はあの人たちの憧れなんだよ。戦争、社会的圧力、世論、責任、人間関係。すべてが誰にとっても嫌なことだし、すぐにでも逃げ出したい。でもその先にあるのが必ずしも100パーセントの幸せじゃないんだ。それがどんな出口であろうとね」
「…俺にはどんな出口があったんだろうな……」
 道半ばで他人に断ち切られた俺の出口は。
「それはこれからわかることだろう?」
「…そうだな」
 そうだよな。
「そろそろ着くね」
 俺は無言で、この歩を進めた。誰にも閉ざされることのない道を、まっすぐに。

2025/09/29 17:59

ゐぬい
ID:≫ 18yayKY/7LFxA
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探偵推理異世界転生ギャグコメディ魔法

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