「なんだか騒がしいな」
十字路の中心には芸術的な噴水が置いてあり、どうやらそこに人が集まっているようだ。
「ざわ…ざわ…」
「なんかあったみたいだね」
「ちょっと見に行くか」
十人ほどがみんなして噴水の彫刻をしかめっ面で睨んでいる。
「何があったんだ?」
俺はとりあえず近くの人に聞いてみた。
「ああ、なんか彫刻に貼り紙があってな」
「紙?」
…ダメだ読めん。まるで意味がわからんぞ!今まで見たこともない言語だ。
「救いはすぐそこにある、だね」
エスメラルダの声が聞こえた。
「救い?」
「僕もわかんないけどね」
「…まあ、きっと死んだショックでおかしくなったやつが貼ったんだろ」
他の人も周りに各々の考えを話したり、かと思えば何事もなかったかのように解散する人もいた。
「わからんものには興味ないね。行くか」
何かの伏線なのだろうか?だとしたら雑すぎるか?
「で、右だったよな?」
「そう、その先が目的地だよ」
俺は指示に従い、街の賑わいを聞きながら安息の地へと向かう。
「なあ、エスメラルダ」
「何?」
「やっぱこの人たちって死んでるんだよな」
「そうだね」
「…お前随分平然と言うな」
「そりゃまあ、事実ですから」
やれやれ、とでも言うかのようにため息混じりに言う。
「でも不思議だよな」
「どうして?」
「だって、みんな普通に生活してるんだぜ?」
「確かにそうだけど」
と、エスメラルダが間を置いた。
「君は日本に生まれたんだよね?」
「そうだ」
「例えば、あのオオカミ男みたいな人」
俺の斜め前方を歩く屈強な獣人のことだろう。
「あの人は戦死したんだ」
「せんし?」
「そう、戦争で命を落とした」
戦争放棄の日本には考えられない響きだ。その戦争の文字が重くのしかかる。
「果物屋の前に立っている赤髪の女性がいるでしょ?」
確かに、店主と談笑しているきれいな女性がいる。笑顔が眩しい素敵な人だな。
「あの人は自殺でココに来てる」
「あの人が?」
「そう」
「冗談はよせよ」
「ホントさ」
「………マジなのか?」
エスメラルダは何も言わなかったし頷きもしなかった。
楽しそうな表情からは、自殺の二文字が湧いてこない。
「みんなが普通に生活を送れたわけじゃないんだ。何かの悩みとか、責務とか、逃げ出したいようなことから逃げられずにいる人とか」
「…そうなのか」
「だから、君にとっての日常はあの人たちの憧れなんだよ。戦争、社会的圧力、世論、責任、人間関係。すべてが誰にとっても嫌なことだし、すぐにでも逃げ出したい。でもその先にあるのが必ずしも100パーセントの幸せじゃないんだ。それがどんな出口であろうとね」
「…俺にはどんな出口があったんだろうな……」
道半ばで他人に断ち切られた俺の出口は。
「それはこれからわかることだろう?」
「…そうだな」
そうだよな。
「そろそろ着くね」
俺は無言で、この歩を進めた。誰にも閉ざされることのない道を、まっすぐに。
十字路の中心には芸術的な噴水が置いてあり、どうやらそこに人が集まっているようだ。
「ざわ…ざわ…」
「なんかあったみたいだね」
「ちょっと見に行くか」
十人ほどがみんなして噴水の彫刻をしかめっ面で睨んでいる。
「何があったんだ?」
俺はとりあえず近くの人に聞いてみた。
「ああ、なんか彫刻に貼り紙があってな」
「紙?」
…ダメだ読めん。まるで意味がわからんぞ!今まで見たこともない言語だ。
「救いはすぐそこにある、だね」
エスメラルダの声が聞こえた。
「救い?」
「僕もわかんないけどね」
「…まあ、きっと死んだショックでおかしくなったやつが貼ったんだろ」
他の人も周りに各々の考えを話したり、かと思えば何事もなかったかのように解散する人もいた。
「わからんものには興味ないね。行くか」
何かの伏線なのだろうか?だとしたら雑すぎるか?
「で、右だったよな?」
「そう、その先が目的地だよ」
俺は指示に従い、街の賑わいを聞きながら安息の地へと向かう。
「なあ、エスメラルダ」
「何?」
「やっぱこの人たちって死んでるんだよな」
「そうだね」
「…お前随分平然と言うな」
「そりゃまあ、事実ですから」
やれやれ、とでも言うかのようにため息混じりに言う。
「でも不思議だよな」
「どうして?」
「だって、みんな普通に生活してるんだぜ?」
「確かにそうだけど」
と、エスメラルダが間を置いた。
「君は日本に生まれたんだよね?」
「そうだ」
「例えば、あのオオカミ男みたいな人」
俺の斜め前方を歩く屈強な獣人のことだろう。
「あの人は戦死したんだ」
「せんし?」
「そう、戦争で命を落とした」
戦争放棄の日本には考えられない響きだ。その戦争の文字が重くのしかかる。
「果物屋の前に立っている赤髪の女性がいるでしょ?」
確かに、店主と談笑しているきれいな女性がいる。笑顔が眩しい素敵な人だな。
「あの人は自殺でココに来てる」
「あの人が?」
「そう」
「冗談はよせよ」
「ホントさ」
「………マジなのか?」
エスメラルダは何も言わなかったし頷きもしなかった。
楽しそうな表情からは、自殺の二文字が湧いてこない。
「みんなが普通に生活を送れたわけじゃないんだ。何かの悩みとか、責務とか、逃げ出したいようなことから逃げられずにいる人とか」
「…そうなのか」
「だから、君にとっての日常はあの人たちの憧れなんだよ。戦争、社会的圧力、世論、責任、人間関係。すべてが誰にとっても嫌なことだし、すぐにでも逃げ出したい。でもその先にあるのが必ずしも100パーセントの幸せじゃないんだ。それがどんな出口であろうとね」
「…俺にはどんな出口があったんだろうな……」
道半ばで他人に断ち切られた俺の出口は。
「それはこれからわかることだろう?」
「…そうだな」
そうだよな。
「そろそろ着くね」
俺は無言で、この歩を進めた。誰にも閉ざされることのない道を、まっすぐに。
- 1.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 1
- 2.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 2
- 3.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 3
- 4.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 4
- 5.1話 ようこそ御都合主義者の天界へ 5
- 6.2話 とある女神の休憩時間 1
- 7.2話 とある女神の休憩時間 2
- 8.2話 とある女神の休憩時間 3
- 9.2話 とある女神の休憩時間 4
- 10.2話 とある女神の休憩時間 5
- 11.3話 死は混沌の至誠也 1
- 12.3話 死は混沌の至誠也 2
- 13.3話 死は混沌の至誠也 3
- 14.3話 死は混沌の至誠也 4
- 15.4話 見知らぬ、街道 1
- 16.4話 見知らぬ、街道 2
- 17.4話 見知らぬ、街道 3
- 18.5話 ゆく猫くる猫 1
- 19.5話 ゆく猫くる猫 2
- 20.5話 ゆく猫くる猫 3
- 21.5話 ゆく猫くる猫 4
- 22.5話 ゆく猫くる猫 5