というわけで、俺と拓弥でやることにした。部長は拓弥に
「今のうちに言い訳でも考えておくんだな。」
と言われ、少しでもバツを軽くしたいがゆえに絶賛考え中だ。
「よし、やるか。縦横八マスだから、王はお互いにズレてれば問題ない。基本的には陸側に置くから。」
「俺はこういうゲームはやったことないんでな。お手柔らかに頼むぜ」
「まずはチュートリアル感覚でやってくれ。」
先攻と後攻は原始的にじゃんけんで決めるらしく、俺は勝ったので先攻からスタートする。ファミレスで大人のメニューを見る子供のような目で物欲しそうに見ていた和義が、突然
「さあ、始まりました。第一回『陸と沼』、実況アンド解説は私、早見和義がお送りいたします。画面の前の皆様、ぜひ図を描いてみてお聞きください」
なんか始まったぞ。ていうか誰に話しかけてんだお前は。
「先攻は伊月穂です。さあ、慎重なる一手目。まずは右サイドにある陸ヘンチマンを一歩前進させます」
カツンという乾いた音が、運動部と吹奏楽部の不協和音の中に響く。
「さて、後攻高野拓弥、ここはどんな勝負を見せてくれるのでしょうか。おっと、王を沼に移動させました」
どうやら拓弥は守りの姿勢でいくらしい。戦法についてじっくりと吟味する諸葛亮孔明のような薄笑いを浮かべで盤を睨んでいる。
「先攻、伊月。ここは大胆にも攻めていきます。沼ヘンチを前進させ陸ヘンチへと変えました。続けて高野、王を後退させ沼の端へと行きます。これはどういうことでしょうかね。そして伊月、我構わずと沼ヘンチだった駒を進めていきます。高野も陸ヘンチを沼側へと寄せました」
部室内にはなんとも言えない緊張が走っている。
勝負の行き先を知るのはまさに神のみぞ知るとは言ったものだが、これは見え透いた勝負なんじゃないか?どちらかと言えば俺が初手で踏み込みすぎた気はする。街灯に吸い寄せられる蛾のように相手の罠に気づかず、のこのこと敵地に足を踏み入れているのではないか?
「伊月さんの手が少し止まりました。しかしここは迷わず陸ヘンチを突っ込ませます。そして高野、王を角へと運びました」
このあと何手か進んだが、勝負時に俺は自身のアホさに驚きを隠せなくなる。
「さあ現在の版、四つの駒が高野サイドの沼地に集中しています。皆さん八✕八のマス目を描いてみてください。手前を伊月、奥を高野とすると、右上に溜まっている感じでしょうか。左から縦割りに漢数字、上から横割りに数字を当てはめると、2一に高野王、2三と1四に高野ヘンチ、4三と4五に伊月ヘンチがいるという状態です。伊月王は仁王の如く動かず、余裕の素振りを見せています。現在伊月の番となっています」
理解するのになかなかに大変な文章だな。というかまったく余裕ではない。俺が下手くそなだけだ。
「さあ、ヘンチを右斜め前へと前進させ、王手がかかりました。ストレート王手です。特に見応えもない、ごくごく平凡な王手です」
殴られたいのかあいつは。このゲームが終わったらこのボードで頭をかち割ってやる。
「まあ、単純に俺のヘンチが動くよな。」
そう言うと、高野ヘンチを使って俺の駒を亡き者にしてしまった。こういう手のゲームは向いてないかもな。
「取られた駒は再利用ができないから。これで二対三になったな。」
クソッ。ここからは考えなきゃダメだな。
俺はその後も脳みそと手を連動させながらゲームを進めていった。取ることも無ければ取られることもない。圧されたり押し返したりでニュートンの振り子状態がしばらく続いた。
「今のうちに言い訳でも考えておくんだな。」
と言われ、少しでもバツを軽くしたいがゆえに絶賛考え中だ。
「よし、やるか。縦横八マスだから、王はお互いにズレてれば問題ない。基本的には陸側に置くから。」
「俺はこういうゲームはやったことないんでな。お手柔らかに頼むぜ」
「まずはチュートリアル感覚でやってくれ。」
先攻と後攻は原始的にじゃんけんで決めるらしく、俺は勝ったので先攻からスタートする。ファミレスで大人のメニューを見る子供のような目で物欲しそうに見ていた和義が、突然
「さあ、始まりました。第一回『陸と沼』、実況アンド解説は私、早見和義がお送りいたします。画面の前の皆様、ぜひ図を描いてみてお聞きください」
なんか始まったぞ。ていうか誰に話しかけてんだお前は。
「先攻は伊月穂です。さあ、慎重なる一手目。まずは右サイドにある陸ヘンチマンを一歩前進させます」
カツンという乾いた音が、運動部と吹奏楽部の不協和音の中に響く。
「さて、後攻高野拓弥、ここはどんな勝負を見せてくれるのでしょうか。おっと、王を沼に移動させました」
どうやら拓弥は守りの姿勢でいくらしい。戦法についてじっくりと吟味する諸葛亮孔明のような薄笑いを浮かべで盤を睨んでいる。
「先攻、伊月。ここは大胆にも攻めていきます。沼ヘンチを前進させ陸ヘンチへと変えました。続けて高野、王を後退させ沼の端へと行きます。これはどういうことでしょうかね。そして伊月、我構わずと沼ヘンチだった駒を進めていきます。高野も陸ヘンチを沼側へと寄せました」
部室内にはなんとも言えない緊張が走っている。
勝負の行き先を知るのはまさに神のみぞ知るとは言ったものだが、これは見え透いた勝負なんじゃないか?どちらかと言えば俺が初手で踏み込みすぎた気はする。街灯に吸い寄せられる蛾のように相手の罠に気づかず、のこのこと敵地に足を踏み入れているのではないか?
「伊月さんの手が少し止まりました。しかしここは迷わず陸ヘンチを突っ込ませます。そして高野、王を角へと運びました」
このあと何手か進んだが、勝負時に俺は自身のアホさに驚きを隠せなくなる。
「さあ現在の版、四つの駒が高野サイドの沼地に集中しています。皆さん八✕八のマス目を描いてみてください。手前を伊月、奥を高野とすると、右上に溜まっている感じでしょうか。左から縦割りに漢数字、上から横割りに数字を当てはめると、2一に高野王、2三と1四に高野ヘンチ、4三と4五に伊月ヘンチがいるという状態です。伊月王は仁王の如く動かず、余裕の素振りを見せています。現在伊月の番となっています」
理解するのになかなかに大変な文章だな。というかまったく余裕ではない。俺が下手くそなだけだ。
「さあ、ヘンチを右斜め前へと前進させ、王手がかかりました。ストレート王手です。特に見応えもない、ごくごく平凡な王手です」
殴られたいのかあいつは。このゲームが終わったらこのボードで頭をかち割ってやる。
「まあ、単純に俺のヘンチが動くよな。」
そう言うと、高野ヘンチを使って俺の駒を亡き者にしてしまった。こういう手のゲームは向いてないかもな。
「取られた駒は再利用ができないから。これで二対三になったな。」
クソッ。ここからは考えなきゃダメだな。
俺はその後も脳みそと手を連動させながらゲームを進めていった。取ることも無ければ取られることもない。圧されたり押し返したりでニュートンの振り子状態がしばらく続いた。