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君の名前を呼ぶまで

#43

第43話 帰りたくない

蒼真との初めてのデート。
公園で並んで座って、同じ景色を見て、同じ気持ちになって。
ただそれだけなのに、胸がずっとあたたかかった。

夕方になり、空が少しずつ薄い紫に変わっていく。

「そろそろ……帰る時間だな」

蒼真がぽつりと言った。

帰りたくない。
その言葉が喉まで出かかったけれど、飲み込んだ。

「うん……帰ろっか」

二人で立ち上がり、自然と手がつながる。
今日だけで、何度この手を握ったんだろう。

でも、握るたびに胸があたたかくなる。

公園を出て、駅へ向かう道。
夕暮れの風が少し冷たくて、蒼真の手の温度がよりはっきり伝わる。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷うように視線を落とし、
それから、ゆっくりと顔を上げた。

「今日……すごく楽しかった」

胸がぎゅっとなる。

「私も……すごく楽しかったよ」

蒼真は照れたように目をそらし、
でも、手だけは離さなかった。

駅前に着くと、自然と足が止まる。
ここで別れるのが、少しだけ寂しい。

蒼真も同じ気持ちなのか、
つないだ手を少しだけ強く握った。

「……結衣」

「うん」

蒼真は、ほんの少しだけ勇気を出したように言った。

「また……一緒に歩きたい」

胸が熱くなる。

「うん……私も歩きたいよ。蒼真くんと」

風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。
夕暮れの光が、二人の影を長く伸ばす。

蒼真は、ゆっくりと手を離した。
でも、すぐに言葉を重ねた。

「……帰りたくないって、思った」

その一言で、息が止まった。

胸がじんわりと熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

「私も……思ったよ」

蒼真は驚いたように目を見開き、
それから、ゆっくりと笑った。

「……そっか」

その笑顔が、今日一番優しかった。

「じゃあ……またデートしよう」

「うん……絶対しようね」

初めてのデートの終わりに、
二人は“また会いたい”という気持ちを確かめ合った。

帰りたくないと思ったのは、
きっと、同じ気持ちだったから。
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2026/03/14 17:58

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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