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君の名前を呼ぶまで

#12

第12話 言えないこと、言いたいこと

蒼真の家の前で別れた翌日。
胸の奥に残ったざわつきは、まだ消えていなかった。

――ここで、いろいろあった。

蒼真がそう言ったときの表情。
淡々としているのに、どこか痛みを隠しているような瞳。

その姿が、何度も頭の中でよみがえる。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
けれど、今日は本を開いたまま、ページをめくっていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

返事はいつも通りなのに、どこか疲れているように見えた。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「昨日……ごめん」

「え、なんで?」

「……結衣を、変な気持ちにさせたかもしれないから」

胸がきゅっとなる。

「変じゃないよ。むしろ……話してくれて嬉しかった」

蒼真は少しだけ目を伏せ、
そして、かすかに息を吐いた。

「……結衣は、優しすぎる」

「またそれ言う」

「……ほんとに、そう思う」

その声は弱くて、でもどこか安心しているようだった。

放課後。
私は自然と校舎裏へ向かった。
理由なんていらない。
そこに行けば、蒼真に会える気がしたから。

そして――やっぱり、彼はいた。

「……来ると思った」

「蒼真くんも」

「……なんとなく」

その“なんとなく”が、もう嘘じゃないことくらい分かっている。

沈黙が落ちる。
でも、昨日よりも今日の沈黙のほうが、ずっと優しい。

「蒼真くん」

「……なに」

「昨日のこと……無理に話さなくていいからね」

蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、ゆっくりと視線をそらした。

「……結衣って、ほんとに変わってる」

「またそれ?」

「……でも、結衣にだけは……嫌われたくない」

その一言で、息が止まった。

「嫌うわけないよ」

「……ほんとに?」

「ほんと」

蒼真はしばらく黙っていた。
風が吹いて、二人の間をすり抜けていく。

そして、ぽつり。

「……結衣には、言いたいことがある」

胸が跳ねた。

「でも……まだ言えない」

その言葉は、告白のようで、告白じゃない。
でも、確かに“何か”がそこにあった。

私はそっと言った。

「言えるときでいいよ。蒼真くんのペースで」

蒼真はゆっくりと顔を上げ、
そして、小さくうなずいた。

「……ありがとう」

その声は、昨日よりも今日のほうが、ずっと近かった。
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2026/03/14 17:15

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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