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君の名前を呼ぶまで

#11

第11話 蒼真の家の前で

雨が上がった翌日。
空は晴れているのに、胸の奥はどこかざわついていた。

――昨日、蒼真が言いかけた言葉。

雨音にかき消されて聞こえなかったけれど、
あの瞬間の蒼真の表情が、ずっと頭から離れない。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日はどこか落ち着かない様子で本をめくっている。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真は顔を上げた。
その瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。

「……おはよう」

返事はいつも通りなのに、どこかぎこちない。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、ちょっと寄り道してもいい?」

昨日と同じ言葉。
でも、声のトーンが少し違う。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか決意のようなものが混ざっていた。

歩きながら、蒼真はほとんど話さなかった。
沈黙が続くたび、胸がざわつく。

「蒼真くん、どこ行くの?」

「……ちょっと、見せたいものがある」

見せたいもの。
その言葉が胸に引っかかる。

しばらく歩いて、住宅街に入った。
夕陽が差し込んで、家々の影が長く伸びる。

そして――蒼真は一軒の家の前で立ち止まった。

「……ここ」

「ここって……蒼真くんの家?」

蒼真は小さくうなずいた。

「……うん」

家は静かで、どこか冷たい雰囲気をまとっていた。
窓は閉ざされ、カーテンは重く垂れ下がっている。

胸がざわつく。

「どうして……ここに?」

蒼真はしばらく黙っていた。
風が吹いて、彼の前髪が揺れる。

そして、ぽつり。

「……俺が、人に触れられなくなった理由」

息が止まった。

「ここで……いろいろあった」

その言葉は淡々としているのに、
どこか深い傷が滲んでいた。

「結衣には……知ってほしかった」

胸がぎゅっと締めつけられる。

「蒼真くん……」

「でも、全部話すのは……まだ無理」

蒼真はゆっくりと私の方を向いた。

「……だから、今日はここまで」

その瞳は、どこか寂しげで、どこか救いを求めているようだった。

私はそっと言った。

「うん。蒼真くんのペースでいいよ」

蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、小さくうなずいた。

「……ありがとう」

その声は、今までで一番弱くて、
でも一番本音に近かった。

夕陽の中で、二人の距離はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:14

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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