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君の名前を呼ぶまで

#6

第6話 放課後の図書室

その日の放課後、私はなんとなく図書室へ向かった。
静かな場所に行けば、蒼真のことを落ち着いて考えられる気がしたから。

けれど、扉を開けた瞬間――
そこにいたのは、まさにその本人だった。

窓際の席で本を読んでいる蒼真。
夕陽が差し込んで、彼の横顔をやわらかく照らしていた。

気づかれないようにそっと入ろうとしたのに、
蒼真はページをめくる手を止め、顔を上げた。

「……結衣?」

「えっ、あ……うん。ちょっと本、借りに」

嘘ではないけれど、本当でもない。
胸がどきどきして、落ち着かない。

蒼真は少し迷ったように視線を泳がせ、
そしてぽつりと言った。

「……ここ、座る?」

隣の席を指さしていた。
その仕草が不器用で、胸がじんと温かくなる。

「いいの?」

「……別に」

その“別に”が、もう照れ隠しだって分かるようになってきた。

私は蒼真の隣に座った。
距離は近いのに、どこか安心する。

しばらく二人で黙って本を読む。
ページをめくる音だけが、静かな空間に落ちていく。

ふと、蒼真が小さな声で言った。

「……昨日のこと、考えてた」

「昨日?」

「……触れられるの、苦手って言ったやつ」

胸が少し痛む。
でも、蒼真は続けた。

「結衣が……無理に聞かなかったの、嬉しかった」

「そっか……よかった」

「……だから、少しだけ話す」

蒼真は本を閉じ、視線を落とした。

「俺、小さい頃……家でいろいろあって。
 人が近くに来ると、体が勝手に固まる」

その言葉は淡々としているのに、
どこか苦しさが滲んでいた。

私はそっと言った。

「教えてくれて、ありがとう」

蒼真は驚いたように目を上げた。

「……怖くないの?」

「ううん。むしろ……嬉しいよ。
 蒼真くんが、私に話してくれたことが」

蒼真は視線をそらし、耳が赤くなる。

「……結衣って、ほんと変わってる」

「またそれ言う」

「……でも、嫌じゃない」

その言葉に、胸がふわりと温かくなる。

図書室の静けさの中で、
二人の距離はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:05

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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