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君の名前を呼ぶまで

#2

第2話 同じ傘の下で

翌朝、空はまだ薄い灰色をしていた。
雨は止んでいたけれど、地面には昨日の涙のように水たまりが残っている。

教室に入ると、蒼真はいつもの席で本を読んでいた。
けれど、私が入った瞬間――
ほんの一瞬だけ、彼の指がページの上で止まった。

気のせいかもしれない。
でも、胸が少しだけ熱くなる。

席に着くと、友達が心配そうに声をかけてきた。

「結衣、大丈夫? 昨日、急にいなくなったから」

「うん、大丈夫。ちょっと雨に濡れただけ」

笑ってみせたけれど、心の奥はまだざわついていた。
昨日のことを思い出すたび、胸がきゅっと締めつけられる。

――帰るの、待ってた。

あの言葉が、何度も頭の中で反響する。

放課後。
空はまた暗くなり始め、ぽつり、ぽつりと雨が落ちてきた。

「……また降ってきた」

傘を持っていない私は、校舎の出口で立ち止まる。
どうしようか迷っていると、横から静かに影が差した。

「……貸す」

蒼真が、昨日と同じように傘を差し出していた。
無表情なのに、どこかぎこちない。

「え、でも……蒼真くんは?」

「俺は走ればいい」

「濡れちゃうよ」

「昨日も濡れた」

その言い方が妙に可笑しくて、思わず笑ってしまった。
すると蒼真は、少しだけ目をそらす。

「……笑うとこじゃない」

「ごめん。でも、ありがとう」

傘を受け取ろうとした瞬間、蒼真が小さく首を振った。

「……一緒に入ればいい」

心臓が跳ねた。
昨日よりも近い距離。
雨の匂いと、蒼真の静かな呼吸が混ざり合う。

「……いいの?」

「別に」

そう言いながら、耳がほんのり赤い。

二人でひとつの傘に入って歩く帰り道。
雨音が、やけに優しく聞こえた。

結衣の胸の奥で、何かが静かに動き始めていた。
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2026/03/14 17:02

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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