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君の好きは、どの好き?

#30

30

「おい、遥!! どこ行ったんだよ!!」
海の家から飛び出してきた律は、必死に遥の名前を叫んでいた。
ほんの少し目を離しただけで、あの無防備な天然がどこかへ行ってしまう。胸のざわつきは限界に達していた。
砂浜の陰、海の家の壁際へと視線を向けた瞬間、律の心臓がドサリと床に落ちるような衝撃が走った。
夕日の中で、瀬尾が遥の顎を持ち上げ、今にも唇を重ねようとしているかのように、顔を近づけている。
「――お前、何してんだよぉぉぉおおおっ!!!!」
律の口から、理性を完全に失った咆哮が響き渡った。
砂を激しく蹴立てながら、律は猛獣のようなスピードでふたりの間に突っ込んでいく。
「っ、椎名くん!?」
瀬尾が驚いて振り向くより早く、律の拳が瀬尾の胸ぐらを乱暴に掴み取った。そのまま凄まじい力で、瀬尾を遥から引き剥がす。
「触るなって、言っただろ……っ!!」
律の目は血走り、全身が怒りで小刻みに震えていた。いつもは絶対に崩さないクールの仮面は、跡形もなく粉々に砕け散っている。
「律……? 怒ってる……?」
後ろで怯える遥の声を背に受けながら、律は瀬尾の胸ぐらを掴んだ手にさらに力を込めた。
「瀬尾。お前がどんだけモテようが、誰を口説こうが知ったこっちゃねぇ。だけど、遥にだけは、一歩でも近づくな。こいつを傷つける奴も、こいつを奪おうとする奴も……俺は絶対に許さねぇ」
息を荒げながら、地を這うような声で威嚇する律。瀬尾は一瞬、その気迫に圧倒されたように目を見開いたが、すぐにふっと口元を緩め、掴まれた手を優しく外した。
「……降参だよ。そこまで本気になられたら、割って入る隙もないな」
瀬尾は両手を軽く上げ、いつもの爽やかな笑顔に戻って見せた。
「でも、椎名くん。その気持ち、ちゃんと水瀬さんに伝えてあげなよ? じゃないと、本当に誰かに持っていかれちゃうよ」
そう言い残し、瀬尾は夕闇に消えていった。
静まり返った砂浜で、律は肩を上下させて息を整えていた。ゆっくりと振り返ると、遥が両手で自分の胸を抑え、赤くなった顔で律をじっと見つめていた。
「律……さっきの、どういう意味……?」
「……うるせぇ。お前がバカみたいに無防備だからだろ」
律は顔を真っ赤にしてふいっと目を逸らしたが、今度は自分から、遥の小さな手をぎゅっと力強く握りしめた。
「帰るぞ」
「……うん」

作者メッセージ

律...素直になれよ...

2026/05/31 18:37

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