7月に入り、期末テストの足音が近づく頃。結衣たちの嫌がらせは、さらに陰湿さを極めていた。
頭から炭酸飲料をかけられたあの日から、遥は律にバレないよう、毎日必死に制服を洗い、髪の匂いを消して登校していた。しかし、張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくないほど、遥の精神はすり減っていた。
そんなある日の放課後、吹奏楽部の全体合奏の直前のことだった。
「あ、楽譜を教室に忘れちゃった。すぐ取ってくるね!」
遥はパートの先輩にそう告げると、自分の席にフルートのケースを置いたまま、大急ぎで教室へと走った。
それが、結衣たちの罠だとも知らずに。
遥が教室から楽譜を回収し、息を切らせて音楽室へと戻ってきた時、部屋の空気が凍りついていることに気づいた。
部員たちが、一様に青ざめた顔で部屋の隅を見つめている。
「……え? みんな、どうしたの?」
遥が自分の席へと歩みを進めると、床に無残に転がっている「何か」が目に入った。
それは、銀色に輝いていたはずの、遥のフルートだった。
ケースは無理やりこじ開けられ、本体の管は無残に折れ曲がり、繊細なキィ(ボタン)はバラバラに破壊されて床に散らばっていた。
「あ……あ、ああ……」
遥の口から、言葉にならない悲鳴が漏れた。
「ひどい……誰がこんなこと……」
部員たちが囁き合う中、音楽室の窓の外から、クスクスと品性のない笑い声が聞こえた。廊下を通り過ぎていく、結衣とそのグループの後ろ姿だった。
遥はガタガタと震える手で、床に散らばったフルートの破片を拾い集めた。
小学校の時から、両親にお願いして、やっと買ってもらった大切な相棒。毎日毎日、指から血がにじむまで一緒に練習してきた、遥の人生そのものだった。
「ごめんね……ごめんね……っ、私が、置いていっちゃったから……」
涙がボロボロと溢れ、壊れた銀色の管にポタポタと落ちていく。これまでどんな暴力を振るわれても「私はドジだから」と笑ってきた遥だったが、大切な宝物を壊された絶望に、ついにその場で泣き崩れてしまった。
頭から炭酸飲料をかけられたあの日から、遥は律にバレないよう、毎日必死に制服を洗い、髪の匂いを消して登校していた。しかし、張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくないほど、遥の精神はすり減っていた。
そんなある日の放課後、吹奏楽部の全体合奏の直前のことだった。
「あ、楽譜を教室に忘れちゃった。すぐ取ってくるね!」
遥はパートの先輩にそう告げると、自分の席にフルートのケースを置いたまま、大急ぎで教室へと走った。
それが、結衣たちの罠だとも知らずに。
遥が教室から楽譜を回収し、息を切らせて音楽室へと戻ってきた時、部屋の空気が凍りついていることに気づいた。
部員たちが、一様に青ざめた顔で部屋の隅を見つめている。
「……え? みんな、どうしたの?」
遥が自分の席へと歩みを進めると、床に無残に転がっている「何か」が目に入った。
それは、銀色に輝いていたはずの、遥のフルートだった。
ケースは無理やりこじ開けられ、本体の管は無残に折れ曲がり、繊細なキィ(ボタン)はバラバラに破壊されて床に散らばっていた。
「あ……あ、ああ……」
遥の口から、言葉にならない悲鳴が漏れた。
「ひどい……誰がこんなこと……」
部員たちが囁き合う中、音楽室の窓の外から、クスクスと品性のない笑い声が聞こえた。廊下を通り過ぎていく、結衣とそのグループの後ろ姿だった。
遥はガタガタと震える手で、床に散らばったフルートの破片を拾い集めた。
小学校の時から、両親にお願いして、やっと買ってもらった大切な相棒。毎日毎日、指から血がにじむまで一緒に練習してきた、遥の人生そのものだった。
「ごめんね……ごめんね……っ、私が、置いていっちゃったから……」
涙がボロボロと溢れ、壊れた銀色の管にポタポタと落ちていく。これまでどんな暴力を振るわれても「私はドジだから」と笑ってきた遥だったが、大切な宝物を壊された絶望に、ついにその場で泣き崩れてしまった。