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君の好きは、どの好き?

#7

踏切の前で「家族みたいなものだから、恥ずかしくないよ」と言われたあの日から、律はろくに眠れない夜を過ごしていた。
(家族、かよ。……俺はもう、そんな風に見れなくなってんのに)
そんな自分の葛藤など1ミリも知らないであろう超天然な遥と、翌朝、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
「おはよー、律!」
翌朝、まだ生徒もまばらな2年B組の教室に、遥の底抜けに明るい声が響き渡った。
自分の席に座ってスマホを眺めていた律は、その声にビクリと肩を揺らす。
「……おう」
努めて冷静に、いつものぶっきらぼうな声を返す。しかし遥は、そんな律の不自然な様子には全く気づく様子もなく、自分のカバンを机に置くやいなや、律の席へとトトトッと駆け寄ってきた。
「はい、これ! 昨日の、お礼!」
差し出されたのは、可愛らしくラッピングされた小さな袋。中には、少し不揃いな形をしたクッキーが入っていた。
「……なんだこれ」
「クッキーだよ! 昨日の夜、律に100円拾ってもらったのが嬉しくて、お母さんと一緒に焼いたの。律、甘いもの好きでしょ?」
「別にお前のために拾ったんじゃねぇし、甘いものもそんなに好きじゃ――」
言いかけて、律は言葉を詰めさした。
クッキーの袋には、手書きの小さなメッセージカードが添えられていたのだ。そこには丸っこい字で『りつ、いつもありがとう! だいすき!』と書かれていた。
「っ……!」
ドクン、と心臓が跳ね上がる。律の顔が一気に沸騰したように熱くなった。
「おい、遥……っ! お前、この『だいすき』ってカード、何なんだよ!?」
「え? 日頃の感謝の気持ちだよ? 律、いっつも私の面倒見てくれるから」
遥は小首を傾げ、小動物のようなピュアな瞳で律を見つめている。
そこに異性としての照れや、特別な含みは一切ない。本当に、ただ「いつもありがとう」と同じ意味で「大好き」と言っているのだ。
「お前なぁ……! 男にそんなカード、簡単に渡すな! 勘違いされたらどうすんだよ!」
「え〜? 律は律だし、勘違いなんてしないでしょ?」
(するわバカ!! 現にしてるだろ!!)
律は心の中で叫びながら、顔を真っ赤にしてクッキーの袋を制服のポケットに押し込んだ。
「……とにかく、これは没収だ。もう誰にもこんなの渡すなよ」
「うん、律の分しか作ってないから大丈夫だよ?」
遥の無自覚なカウンターパンチが、再び律の胸にクリーンヒットした。律は机に突っ伏し、「早く授業始まれよ……」と心の中で神に祈るしかなかった。

2026/05/30 13:55

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