激しいサッカー部の練習を終え、律が汗を拭きながら部室を出た時には、すでに空は綺麗な茜色に染まっていた。
グラウンドの片隅にある自動販売機へと向かう。火照った体に冷たい炭酸が欲しかった。
小銭を入れてボタンを押そうとしたその時、自販機の横に、見覚えのある制服の後ろ姿を見つけた。遥だ。
彼女は自販機の隙間や、地面をじっと見つめながら、困ったように眉を下げていた。
「遥?お前、まだ残ってたのかよ。ノート写すのに何時間かかってんだ」
「あ、律!部活お疲れ様!」
律の声に気づいた遥は、パッと顔を輝かせた。その無邪気な笑顔を見るだけで、部活の疲れが吹き飛ぶような気がして、律は少しだけ胸が苦しくなる。しかし、それを悟られないよう、すぐにいつもの不機嫌そうな声を装った。
「で、何してんだよ。地上のアリの観察か?」
「違うよ〜。あのね、喉が渇いたからジュース買おうとしたら、100円玉がコロコロって転がって、自販機の下に入っちゃったの。手を伸ばしても届かなくて……」
見れば、遥の白いソックスと膝が、地面についたせいで少し黒く汚れている。
「……お前なぁ、スカート汚れるだろ。どけ、俺がやる」
「えっ、でも律の制服も汚れちゃうよ?」
「うるさい、いいから」
律はカバンを地面に放り投げると、迷わず自販機の前に膝をついた。長い腕を狭い隙間に潜り込ませ、手探りで奥を探る。
遥はすぐ後ろから、律の背中を覗き込むようにしてじっと見守っていた。彼女の甘いシャンプーの香りが、夕方の風に乗って律の鼻腔をくすぐる。距離が近すぎる。
「(クソ、集中できねぇ……っ)」
心臓のバクバクという音が遥に聞こえてしまうのではないかと焦りながら、律は指先に硬貨の感触を捉えた。
「……あったぞ」
腕を引き抜き、少し黒くなった100円玉を差し出す。
「わあ、すごい!さすが律!ありがとう!」
遥は律の手から100円玉を受け取ると、そのまま、自分の冷たくなった両手で律の手をきゅっと握りしめた。
「手、汚れちゃったね。ごめんね?」
「っ!?!?!?」
律の全身に電気が走った。超天然な遥に悪気は一切ない。ただ純粋に、申し訳なさと感謝の気持ちで手を握っただけなのだ。
だが、律にとっては致命傷だった。耳まで真っ赤になった律は、慌てて遥の手を振り払った。
「、触るなバカ!手が汚れるだろ!」
「あ、怒っちゃった……?ごめんね……」
シュンと眉を下げる遥を見て、律は自己嫌悪に陥る。別に嫌で振り払ったわけじゃない。むしろ、その逆なのに。
「……怒ってねーよ。ほら、手洗ってくる。お前、そこで待ってろ。暗いから一緒に帰ってやる」
「うん!待ってる!」
またすぐに満面の笑みに戻る遥を見て、律は小さくため息をつきながら水道へと走った。冷たい水で手を洗いながら、自分の顔が信じられないくらい熱くなっているのを、律は自覚せざるを得なかった。
グラウンドの片隅にある自動販売機へと向かう。火照った体に冷たい炭酸が欲しかった。
小銭を入れてボタンを押そうとしたその時、自販機の横に、見覚えのある制服の後ろ姿を見つけた。遥だ。
彼女は自販機の隙間や、地面をじっと見つめながら、困ったように眉を下げていた。
「遥?お前、まだ残ってたのかよ。ノート写すのに何時間かかってんだ」
「あ、律!部活お疲れ様!」
律の声に気づいた遥は、パッと顔を輝かせた。その無邪気な笑顔を見るだけで、部活の疲れが吹き飛ぶような気がして、律は少しだけ胸が苦しくなる。しかし、それを悟られないよう、すぐにいつもの不機嫌そうな声を装った。
「で、何してんだよ。地上のアリの観察か?」
「違うよ〜。あのね、喉が渇いたからジュース買おうとしたら、100円玉がコロコロって転がって、自販機の下に入っちゃったの。手を伸ばしても届かなくて……」
見れば、遥の白いソックスと膝が、地面についたせいで少し黒く汚れている。
「……お前なぁ、スカート汚れるだろ。どけ、俺がやる」
「えっ、でも律の制服も汚れちゃうよ?」
「うるさい、いいから」
律はカバンを地面に放り投げると、迷わず自販機の前に膝をついた。長い腕を狭い隙間に潜り込ませ、手探りで奥を探る。
遥はすぐ後ろから、律の背中を覗き込むようにしてじっと見守っていた。彼女の甘いシャンプーの香りが、夕方の風に乗って律の鼻腔をくすぐる。距離が近すぎる。
「(クソ、集中できねぇ……っ)」
心臓のバクバクという音が遥に聞こえてしまうのではないかと焦りながら、律は指先に硬貨の感触を捉えた。
「……あったぞ」
腕を引き抜き、少し黒くなった100円玉を差し出す。
「わあ、すごい!さすが律!ありがとう!」
遥は律の手から100円玉を受け取ると、そのまま、自分の冷たくなった両手で律の手をきゅっと握りしめた。
「手、汚れちゃったね。ごめんね?」
「っ!?!?!?」
律の全身に電気が走った。超天然な遥に悪気は一切ない。ただ純粋に、申し訳なさと感謝の気持ちで手を握っただけなのだ。
だが、律にとっては致命傷だった。耳まで真っ赤になった律は、慌てて遥の手を振り払った。
「、触るなバカ!手が汚れるだろ!」
「あ、怒っちゃった……?ごめんね……」
シュンと眉を下げる遥を見て、律は自己嫌悪に陥る。別に嫌で振り払ったわけじゃない。むしろ、その逆なのに。
「……怒ってねーよ。ほら、手洗ってくる。お前、そこで待ってろ。暗いから一緒に帰ってやる」
「うん!待ってる!」
またすぐに満面の笑みに戻る遥を見て、律は小さくため息をつきながら水道へと走った。冷たい水で手を洗いながら、自分の顔が信じられないくらい熱くなっているのを、律は自覚せざるを得なかった。