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君の好きは、どの好き?

#4

高校2年生の5月。ゴールデンウィークが明けてからというもの、授業のスピードは一気に上がっていた。
「……以上の公式を、次の小テストの範囲とする。しっかり復習しておくように」
数学の教師が黒板を叩く音が、午後の眠たい教室に響く。
放課後を告げるチャイムが鳴った瞬間、律は大きく一つため息をつき、シャープペンシルを筆箱に片付けた。部活の着替えをしようと立ち上がったその時、前の席から「うう〜……」という、地を這うようなうめき声が聞こえてきた。
案の定、遥が机に突っ伏している。長い髪が机の上に広がり、完全に魂が抜けたような顔をしていた。
「おい、遥。生霊が出てんぞ」
「あ、律……。数学の神様がね、私をおいて遠くへ行っちゃったの……」
「お前が勝手に置いていかれたんだろ。何が分からなかったんだよ」
律が呆れて遥の机の上を覗き込むと、そこにあったノートを見て絶句した。
黒板の文字を写した形跡はある。しかし、数式の合間に、なぜか新種のゆるキャラのような、奇妙にデフォルメされた猫のイラストが大量に描き込まれていた。
「……お前、授業中に何考えてたらこうなるんだ?」
「えっとね、関数のグラフがだんだん猫のヒゲに見えてきちゃって……。気付いたら、ノートが猫の集会所になってたの」
大真面目な顔で答える遥に、律はこめかみを押さえた。こいつの天然は、今に始まったことではない。だが、流石にこのままでは次のテストで赤点は確実だ。
「はぁ……。貸せ」
「えっ?」
「俺のノート貸してやるから、それ写して復習しろ。赤点取って補習になったら、一緒に帰れなくなるだろ。……あ、いや、別に一緒に帰りたいわけじゃなくて、お前の親に『律くん、遥の勉強見てあげてね』って言われるのが面倒なだけだからな!」
一気にまくしたて、律は自分の綺麗なノートを遥の机にバサッと置いた。
「わあ!律のノート、字がとっても綺麗!ありがとう!」
遥は嬉しそうにノートを受け取り、胸に抱きしめた。
その瞬間、律の心臓がドクンと跳ねる。ノートを抱きしめられているだけなのに、まるで自分自身が抱きしめられたかのような錯覚に陥ったのだ。
「っ、早く写せよな!俺、部活行くから!」
律は顔がカッと熱くなるのを隠すように、乱暴に教室のドアを開けて飛び出した。
残された遥は、律のノートをパラパラとめくりながら、「あ、ここにも猫がいる……?」と、律が昔描いた落書きを見つけて、一人でのんきに微笑んでいた。

2026/05/30 13:53

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