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変態収容所は今日も異常あり

#3

変態収容所は今日も見境なし

「うあぁぁーーーッ!!」
 雷句の絶叫が食堂に響く。
 そして、僕の鼓膜を振るわせ、絶望させる。
「雷句さんが、雷句さんがっ」
 僕の足は震えていた。目の前の変態を恐れて。
 目はメメを捉えていたが、雷句がその近くにいるので、よく見えた。雷句の腕は、肉が破け、血が噴き出し、骨が突き出ていた。
「私は、見て欲しいだけなんだ」
 メメはまたも語り出した。
「今、腕を捻じ壊したのがその証拠だ。私は、やろうと思えば君の首を捻じ切ることだってできたんだ。頭を掴んで床に押し付けるだけで、できたんだ。私を見るために首を180度回転して、自動的にね」
 恐ろしいことを、淡々と語った。
 だが、メメの言う通りだった。殺すことが目的ではない。それは真実だ。
「だったら、なぜ『僕たち』を襲った!」
 露出狂というのは相手をしてもらう必要はない。誰かれ構わず見てもらうために脱げばいい。
 僕たちにこだわる必要はないはずだ。
 それとも、やっぱり女性に見てもらった方が嬉しいのか? 解放感があるのか? 
 ……なんで僕が変態の気持ちを考えなきゃいけないんだろう。
「……誤解があるようですね。私はあなたが女性的だから脱いでいるわけではないのです」
「なに?」
「私は、私を作品だと思っています。芸術作品だと。だから、できるだけ多くの人に見てもらいたい、評価してもらいたい、そう考えております。ですので、新しい方が収容された場合、翌日には必ず鑑賞してもらうため、自ら現れているのです」
「……つまり、僕がこんな見た目じゃなくても、お前は襲いに来たということか?」
「はい。襲いに来たという言い方は不本意ですが」
 不本意になってるんじゃねえよ。
 ここ以外でやったら即逮捕な案件だぞ。
 だが、それなら、
「それなら、僕たちがひととおりお前を見たら、帰ってくれるのか?」
「もちろんです。露出狂だって、家には帰ります。ああ、けれど、先程彼が言ったように、『舐められます』。私はここで、今まで多くの人に見せてきましたが、何もできずに見せつけられただけのものは、その後、いろんな変態行為をされていました。あなたは特に危険性が高いです」
 こいつ、そういう自覚あってやっていたのか。
 つまりこいつは最初の関門。こいつを倒すことが安寧の始まりなのだ。越えなければ、この関門を、入門するのだ、この鬼門を。
「待て! 成海くん、君は戦えない! 早まってはいけない! 俺がなんとかする!」
「でも、なんとかするって言ったって、雷句さんはもう----」
「俺の変態性を忘れたか?」
 雷句の変態性。 
 過剰自己愛。ナルシスト。
 能力とは、変態性から生み出されるもの。
 色欲の望みを実現するために生まれるもの。
「俺の変態性、能力、それは、『全てを俺にする』能力。名を『ライカー・マイミー』という」





 未舞雷句。
 彼は『後天的変態』だった。
 彼はこの世界の全てを愛していた。
 しかし、世界は彼を愛していなかった。
 彼の家族は死んだ。
 父親は、逆恨みで殺害された。
 母親は、病気で全ての記憶を失った状態で死んだ。
 弟は、津波に飲み込まれて死んだ。
 妹は、大型トラックにバラバラにされて死んだ。
 それでも彼は世界を愛した。
 なぜなら、彼は己を愛していたからだ。
 彼は家族を愛した。そんな家族が彼を愛した。愛されている自分を生んだ世界が醜いわけがない。愛していた。愛されていた。
 彼は世界を愛した。
 なにより自分を愛した。
 そんな雷句に発現したのが『ライカー・マイミー』という能力。
 『全てを俺にする』。
 己を愛し、世界を愛した彼に相応しい能力だ。
 非生物を己の肉体に変質させる。条件は対象に接触していること。制限は物体を変質させる際、元の体積より大きいものには変えられないこと。
 何度でも言おう、彼は全てを愛した。
 たとえ、全てが彼を愛さなくとも。
 それこそが、勝手極まりない『変態』なのだから。
 




「皿をできるだけ多く! 俺に投げろお!」
 僕は言う通りに、テーブルに乗っていた皿を全て彼へと投げた。
 彼は破壊されていない方の腕でキャッチする。
 何をするつもりか。
「『皿を俺の眼球にする』」
 驚くべきことに、全ての皿がまるで粘土のようにグネグネと動き、やがて球体の形をとり、眼球となった。
 白目と黒目がしっかりある完全な眼球だった。
「この眼球は俺だ。つまり----」
 雷句は眼球をばら撒く。
 眼球は床を転がり、やがて停止する。
 しかし、『フラッシュ・アイ』の強制力により、全ての眼球の黒目が、メメの方へ向いた。
目玉はしっかりとメメを見つめる。
「この目玉は俺のもの、目玉が見るものは全て俺のもの」
「それがどうしたと言うのです? ……まさか⁉︎」
 雷句は、メメに『背を向けた』。
 それはありえないことだった。だってそれは、『フラッシュ・アイ』の能力に反するのだから。
「まさか、あなたは『見ている』のか? 作り出した目玉で、だから、あなたから強制力が失われたと⁉︎」
「そうだ。賭けだったがな。お前の能力の解釈がどういうものなのか、お前にすら知り尽くせてなかったようだなあ!」
「う、嘘だ。これが『見ている』だと⁉︎ そんなわけ! いや、アリかもしれません。一人の人間に、ありとあらゆる方向から同時に見られるなんて、そうそうありませんから。なんか、そう考えるとゾクゾク----」
「してんじゃねえ!」
 雷句は殴りかかる。
 また受け流され、制圧されるが、しかし今度は腕が捻じ曲がることもなく、首が捻じ切れることもなかった。
「いまだ、成海くん!」
「はい!」
 クラウチングスタートで走り出し、両の足を曲げてから伸ばしてジャンプする、メメに向かって跳び蹴る。
 これが、ドロップキックだ。
「グハァッ」
 メメが後ろに吹っ飛ぶ。
 それと同時に、『フラッシュ・アイ』の強制力が消失し、目が自由に動かせるようになった。
 見たいものが見れて、見たくないものを見ないことが出来るのが、こんなにも嬉しいことだなんて。
 僕は雷句に駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「……うん、腕は大変なことになってるけどね」
 大量出血だ。複雑骨折だ。
 早く、いち早く治療しなくては。
「どこに行けば、どこに行けば治してくれますか⁉︎」
「……移動は必要ない。すぐにでも……収容所の医療班が来る、……だから、少し話を聞いてくれ」
「聞きます! なんでも聞きます!」
「そんなに心配そうな顔をしなくてもいい……人はそう簡単には死なない……」
 雷句はそう言って、呼吸を整え、話を始めた。
「俺は多分。少しの間、戦えなくなる。そうなると君を守れない。君は、『ある人』のところへ行け」
「『ある人』?」
「その人は、とてもとても強い影響力を持っている。さっきまで話していた『派閥』のことだ。その人は今、懲罰房にいる。会いに行くんだ。その人に----」
「その人って、誰なんですか⁉︎」
「その人の名は----」
 雷句が名前を言いかけたところで、
「私を、もっと私を見るんだあ」
 僕の後ろで、おどろおどろしい声がする。
 執念は感じるが悪意ではない別の感情のこもった声。
 百名山メメ。起き上がるか。
「目に穴が開くほど見るんだ、深淵よりも深い穴を、開けるんだ」
 メメが近づいてくる。
「もう一度だ、もう一度『フラッシュ・アイ』を----」
「いいや、君はもう終わりさ」
「なに、を?」
 メメは一歩足を進めた。
 その足元に、『眼球』が転がっていた。
 僕は見ていた。雷句が、ばら撒かずに残していた眼球を、やつの足元に転がすところを。
 メメは眼球を踏んでしまう。 
 眼球は潰れて破裂する。
「『解除』」
 能力の解除。
 破裂した眼球は、当然、『割れた皿』に戻る。
「ぎゃああぁ----ッ」
 皿の破片が、メメの足に深々と刺さり込む。
 悲痛な叫びが食堂に響く。メメは痛さで床を転がりまわった。
 そのとき、医療班らしき職員たちが続々と現れた。
 タイミングが良すぎる。もしかしたら、こうなるまで待っていたのだろうか? 実験の記録を録るために、だとしたら、この収容所は本当に最悪だ。
 しかし、治してくれるならなんでもいい。
 医療班がこちらに向かって来た。
 アンカーに雷句を乗せる。
「成海くん。行くんだ、一人で、あの人のところへ」
 雷句は医療班に回収されながら、言い残す。
「利栗鼠仇夢(りりすあだむ)のところへ」
 

2024/10/22 16:04

高天原蛭子
ID:≫ 9bQR8RB7CmGwA
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