[水平線] 変態収容所は、刑務所や監獄のようだが収容所である。けっこう自由度が高い。
食事はいつ食べてもいいし、所内は立ち入り禁止エリア以外は自由に移動できる。欲しい物は、申請して許可された場合、手に入る。大抵許可される。
絶海の孤島であるため自然が多く、運動もしやすく、器具が豊富なので健康的な生活が送れる。
『変態』であればこの環境が何もしなくても手に入るのだ。
しかし、二度と出ることはできない。
僕は『変態』じゃない。
僕と雷句は、食堂で朝食を食べていた。
昨日、僕がこの収容所に訪れたのは夜だった。ので、部屋の移動も許されず、寝る時は耳を塞いで寝ることになった。
本当に喘いでいたのだろうか。
「成海くん。忠告しておくが、部屋は変えない方がいい」
「話しかけないでくださいよ。この変態」
「い、いやこれからは自重するよ。成海くんがいない時にするから」
僕はわざと冷たい態度をとった。
正直なところ、もうそこまで嫌がっていないが、反応が楽しいのだ。ちょっとした反撃というやつだ。
「成海くん」
雷句の声が重々しいものになる。
真面目モードというやつだ。
「君は、自分が『変態』じゃないと言ったね」
僕は、またかと思った。
「はい。僕は『変態』じゃありません」
「つまり、『能力』もないのかい?」
「……」
僕は黙る。
それに答えることは、できない。
「いいかい。この収容所で『能力』がないということはとても危険なんだ。特に、君は危険なんだよ。本当に」
「----どういうことですか?」
「君は、とても可愛いんだ」
僕は雷句を睨みつける。
昨日でそれが僕の地雷であることは理解しているはずだ。
「落ち着いて聞いてくれ。これは非常に問題なんだ。この収容所ではね」
「……」
「この収容所には『変態』しかいない。職員を除けばね。『変態』は強い変態性を持っているが、それに加え強力な色欲が溜まっている。女性の『変態』は全体的に見ても少ない。つまり、ここでは『変態』に相手がいないんだ」
「……」
僕は雷句の説明を黙って聞いた。
「そんなところに、女性的な容姿をした少年が来てみろ、あいつらは君で『発散』しようと狙い始める。もうすでに君が男であることは周知だろうが、それでも襲ってくる可能性は高い」
雷句さんはそこで話すのをやめ、ジェスチャーで耳を澄ませと伝えてくる。
耳を澄ますと、身の毛もよだつような言葉が聞こえてくる。
「あれが男だって、信じられない」「けど、それでもいいかも」「むしろありだよ」「なんならお得」「彼の大事なところを洗いたい」「ふっ、オトコの娘か、グッド!」「俺はそのけがある」「あの滑らかな指の関節、ずっと見ていたい」
マジで気持ち悪いなここ。
澄まさなきゃよかったよ、耳。
「能力がない、もしくは能力があることを認めたくない君では、襲われたときに対処できない」
「……襲われるって言っても、ここは----」
僕は天井を見上げる。
天井には、等間隔で監視カメラが設置されていた。
この収容所には自由がない。トイレや風呂にまで設置されている。
「けど、自由がない代わりに、危険なときは助けてくれるでしょう?」
「……危険なとき、確かに助けてくれるだろう。しかし、『変態同士』の衝突は関与して来ないんだ」
「はあ⁉︎ なんでですか?」
「この収容所は隔離のため、そして研究のために創設された。つまり、実験場でもあるんだ。人道的に争わせることはできないが、個人の喧嘩は喜んで記録する」
なんてところだ。
収容所とは名ばかりに、地下闘技場みたいだ。
つまり、誰も助けてはくれないということ。
……僕は、『そのとき』が来たら、どうするのだろう。『変態』を認めるのだろうか。いや、僕は『変態』じゃ、ない。
「誰も助けてくれない、それは違うぞ。俺が助ける」
「!」
「君が襲われたら、俺が助ける。俺が戦う」
「……なんで、なんで雷句さんは、僕のためにそんなにしてくれるんですか?」
昨日もそうだった。
僕を安心させようとしてくれた。
初めて会った、知り合ったばかりの僕に優しくしてくれた。
「言っただろ。そういう性分なんだ。そして、俺はそんな俺が大好きだ」
雷句は僕をまっすぐ見つめる。
その目には、強い意志が映っていた。
「けど、雷句さんがどんな能力をもっているかは知りませんが、戦って勝てるものなんですか、勝ち続けられるものなんですか」
「無理だ。いくらこの俺だからといって、手強い『変態』たちを倒し続けることは無理だ」
手強い変態ってなんだ?
どんな日本語だ。それは。
「だから、襲おうと思わないような『後ろ盾』を手に入れる」
「後ろ盾、ですか?」
「この収容所には、いくつか派閥がある、チームがある。中には強力な『変態』が集まるチームもある」
「その派閥に入って、守ってもらうということですか? けど、その人たちだって、僕で『発散』したいと思うんじゃないですか?」
「その通りだ。だが、例外が存在する」
例外?
色欲に惑わされない例外。
いったいどんなものなのだろうか。
「その例外とは----」
「楽しそうにしているとこ悪いんですけどお」
雷句の背後から、這い出るようにして現れる。
その男。
「『私』を『見ろ』」
そんなこと言わずとも、お前みたいな異常者は見てしまうに決まっているだろ。
何を言っているんだこいつは。
僕は、雷句に目配せしようとするが、
「……あれ? ……あれ?」
雷句を、『見れない』。
首を動かすことはできる。体が硬直しているわけではない。ただ、眼球が固定されている。黒目が男を見つめている。
「何が起こっている!?」
「眼球がこいつに向かって固定されている。おそらくこの男の能力。この男から目を離すことができない! そして気づいたが、『瞬き』ができない! まさに瞬間たりとも目を離せない!」
これが----『能力』!
「私の名前は百名山メメ(ひゃくめいざんめめ)。能力名は『フラッシュ・アイ』。注目させる能力です」
無駄に礼儀正しい男だった。
『フラッシュ・アイ』、それがこの男、百名山メメの能力。
しかし、注目させるなんて、こんな能力どんな変態性から生まれるというのだろう。
僕の疑問に、メメは答える。
メメは服を脱ぎ捨てた。
瞬きする間もなく----できないけど----男は全裸になった。驚くべきことに、男は元から下着なぞ着ていなかった。つまり、最初から全裸になるために僕たちの前に現れたのだ。
間違いない。この男の変態性、それは----
「露出狂。それがこの私の一矢纏わぬ正体です」
百名山メメの能力『フラッシュ・アイ』とは、メメがまだ収容される前にネット上で名付けられた異名である。
露出狂『フラッシュ・アイ』。
その変態人生は、彼が生まれた瞬間から始まっていた。
メメは『先天的変態』だった。
生まれた瞬間から彼は変態だった。
しかし、生まれたときの赤子というのは当然注目されるもので、そのときは誰も疑問には思わなかった。
幼少期、隙あらば全裸になる彼は、親から特別な教育を受けた。
拘束具に等しい服に、思春期を封じられた。
彼は親の会社を継いだ。そして、大衆の前に立った。
彼は脱いだ!
解放された!
注目させる能力だというのに、メメは数年間捕まらなかった。メメには『見切り』の才能があった。もし変態行為ではなく、経済活動に就いていたら、その才能は多いに活躍できただろう。
では、そんなメメがどうして捕まったか。
言ってしまおう、目立ちすぎたのだ。
彼は地上波のチャンネルを全てハッキングし、己の裸体を全国放送したのだ。
視聴率脅威の100%!
被害者数は日本国民の三割!
収容所がメメを捕獲するまでに30分も掛からなかったという。
百名山メメが確保されながらカメラに向かって最後に放った言葉は。
『爆脱全裸の夜明けぜよ‼︎』
意味不明! 理解不能! 無能無知!
メメは全裸のまま踊った。
僕はそれを目で追う。追ってしまう。
やがて目だけで追えなくなると、首が動き始めた。
いつか、体を動かさなければならなくなるだろう。
「なぜだ。なぜ踊っているんだ?」
僕はメメに問う。
メメは踊りながら言う、
「それはつまり、人はなぜ生きるのかという質問ですか?」
「違う! どうしてそうなる⁉︎」
「成海くん。『変態』とまともな会話ができると思わないほうがいい」
雷句の姿は見えないが、横から話しかけてくる。
「この状況、襲われているんでしょうか?」
「そう考えていいと思うよ。ここで何もしないでいれば、他の『変態』に舐められる。それは避けなければならない」
「なるほど。というか、裸体を見つめたくはないですしね」
僕と雷句は、メメに向かって歩く。
注目させる能力。とてつもない強制力だが、だからと言って、倒すことは簡単だ。
こちらが能力を使う必要さえない。
殴って縛って磔にして晒しものにする。
僕はメメを睨みつけた。
「ああ、いいですよ! すごい眼力! もっとみつめてくれこの私を! 特に股間部を!」
「いやだあっ。股間部は特にいやだあ!」
目を逸らしたくなるが、それもできない。
「私にとって、全裸を見てもらうとは、『コミュニケィション』なんだ。あなた達が会話をするように、私は見てもらう」
コミュ症にも程がある。
もっとあっただろ、会話手段。
「ひとは私に向かって、『もっといい会話手段があっただろ』というが、それは違う。これこそが最高に最優のコミュニケィションだ。例えば絵画、あれは作者の魂を込めて描く、優れた絵画は鑑賞者に魂を見せることができる。感情を共有できる。あれこそが真の『コミュニケィション』」
メメは話を続ける。
「ダビデ像があるだろう? あれは全裸だし、一矢纏っていないし、股間部も曝け出している。しかし多くのものに鑑賞され、評価されている。なぜだ? なぜあれは賞賛されて、私は評価されない? この肉体美が理解されない?」
メメは嘆く。
「私は!『ダビデ像』なんだ!」
「んなわけないだろお!」
雷句が殴りかかる。
メメはそれを手で受け流す。合気道。
「お客様。作品の破壊はご遠慮願います」
メメは受け流した腕を掴み、雷句の後ろに回る。
どこかで見たことがある技だった。警察官が暴漢対策に教える護衛術だ。
強い。
「グッ」
雷句が呻き声を上げる。
完璧だった。メメは右腕で雷句の腕を掴み、左腕で背を押し、完全に制圧していた。
「……あれ?」
僕はその状況のおかしさに気づいた。
この体勢では、雷句はメメを『見れない』。
それはおかしいはずだ。それとも『フラッシュ・アイ』の強制力はその程度だったのか?
「『フラッシュ・アイ』は『絶対』だ」
ボキボキ----
何かがめちゃくちゃに壊れる音がする。
「どんなことがあろうと、『フラッシュ・アイ』は絶対だ。どんなことをしてでも、肉体は私を見るように動く」
音は、雷句の腕から聞こえていた。
「例え、自分の肉体を破壊してでも----」
雷句の腕は、ぐちゃぐちゃに捻じ曲がっていた。
「うあぁーーーッ!!」
雷句の口から、絶叫が吐き出される。
雷句の目は、メメを見つめていた。
己の腕を犠牲にして、メメの制圧から解放してまで。
「さあ、よく見てくれ、私を」
舐めていた、『変態』を。
僕は、勝てるだろうか、この『変態』に。
食事はいつ食べてもいいし、所内は立ち入り禁止エリア以外は自由に移動できる。欲しい物は、申請して許可された場合、手に入る。大抵許可される。
絶海の孤島であるため自然が多く、運動もしやすく、器具が豊富なので健康的な生活が送れる。
『変態』であればこの環境が何もしなくても手に入るのだ。
しかし、二度と出ることはできない。
僕は『変態』じゃない。
僕と雷句は、食堂で朝食を食べていた。
昨日、僕がこの収容所に訪れたのは夜だった。ので、部屋の移動も許されず、寝る時は耳を塞いで寝ることになった。
本当に喘いでいたのだろうか。
「成海くん。忠告しておくが、部屋は変えない方がいい」
「話しかけないでくださいよ。この変態」
「い、いやこれからは自重するよ。成海くんがいない時にするから」
僕はわざと冷たい態度をとった。
正直なところ、もうそこまで嫌がっていないが、反応が楽しいのだ。ちょっとした反撃というやつだ。
「成海くん」
雷句の声が重々しいものになる。
真面目モードというやつだ。
「君は、自分が『変態』じゃないと言ったね」
僕は、またかと思った。
「はい。僕は『変態』じゃありません」
「つまり、『能力』もないのかい?」
「……」
僕は黙る。
それに答えることは、できない。
「いいかい。この収容所で『能力』がないということはとても危険なんだ。特に、君は危険なんだよ。本当に」
「----どういうことですか?」
「君は、とても可愛いんだ」
僕は雷句を睨みつける。
昨日でそれが僕の地雷であることは理解しているはずだ。
「落ち着いて聞いてくれ。これは非常に問題なんだ。この収容所ではね」
「……」
「この収容所には『変態』しかいない。職員を除けばね。『変態』は強い変態性を持っているが、それに加え強力な色欲が溜まっている。女性の『変態』は全体的に見ても少ない。つまり、ここでは『変態』に相手がいないんだ」
「……」
僕は雷句の説明を黙って聞いた。
「そんなところに、女性的な容姿をした少年が来てみろ、あいつらは君で『発散』しようと狙い始める。もうすでに君が男であることは周知だろうが、それでも襲ってくる可能性は高い」
雷句さんはそこで話すのをやめ、ジェスチャーで耳を澄ませと伝えてくる。
耳を澄ますと、身の毛もよだつような言葉が聞こえてくる。
「あれが男だって、信じられない」「けど、それでもいいかも」「むしろありだよ」「なんならお得」「彼の大事なところを洗いたい」「ふっ、オトコの娘か、グッド!」「俺はそのけがある」「あの滑らかな指の関節、ずっと見ていたい」
マジで気持ち悪いなここ。
澄まさなきゃよかったよ、耳。
「能力がない、もしくは能力があることを認めたくない君では、襲われたときに対処できない」
「……襲われるって言っても、ここは----」
僕は天井を見上げる。
天井には、等間隔で監視カメラが設置されていた。
この収容所には自由がない。トイレや風呂にまで設置されている。
「けど、自由がない代わりに、危険なときは助けてくれるでしょう?」
「……危険なとき、確かに助けてくれるだろう。しかし、『変態同士』の衝突は関与して来ないんだ」
「はあ⁉︎ なんでですか?」
「この収容所は隔離のため、そして研究のために創設された。つまり、実験場でもあるんだ。人道的に争わせることはできないが、個人の喧嘩は喜んで記録する」
なんてところだ。
収容所とは名ばかりに、地下闘技場みたいだ。
つまり、誰も助けてはくれないということ。
……僕は、『そのとき』が来たら、どうするのだろう。『変態』を認めるのだろうか。いや、僕は『変態』じゃ、ない。
「誰も助けてくれない、それは違うぞ。俺が助ける」
「!」
「君が襲われたら、俺が助ける。俺が戦う」
「……なんで、なんで雷句さんは、僕のためにそんなにしてくれるんですか?」
昨日もそうだった。
僕を安心させようとしてくれた。
初めて会った、知り合ったばかりの僕に優しくしてくれた。
「言っただろ。そういう性分なんだ。そして、俺はそんな俺が大好きだ」
雷句は僕をまっすぐ見つめる。
その目には、強い意志が映っていた。
「けど、雷句さんがどんな能力をもっているかは知りませんが、戦って勝てるものなんですか、勝ち続けられるものなんですか」
「無理だ。いくらこの俺だからといって、手強い『変態』たちを倒し続けることは無理だ」
手強い変態ってなんだ?
どんな日本語だ。それは。
「だから、襲おうと思わないような『後ろ盾』を手に入れる」
「後ろ盾、ですか?」
「この収容所には、いくつか派閥がある、チームがある。中には強力な『変態』が集まるチームもある」
「その派閥に入って、守ってもらうということですか? けど、その人たちだって、僕で『発散』したいと思うんじゃないですか?」
「その通りだ。だが、例外が存在する」
例外?
色欲に惑わされない例外。
いったいどんなものなのだろうか。
「その例外とは----」
「楽しそうにしているとこ悪いんですけどお」
雷句の背後から、這い出るようにして現れる。
その男。
「『私』を『見ろ』」
そんなこと言わずとも、お前みたいな異常者は見てしまうに決まっているだろ。
何を言っているんだこいつは。
僕は、雷句に目配せしようとするが、
「……あれ? ……あれ?」
雷句を、『見れない』。
首を動かすことはできる。体が硬直しているわけではない。ただ、眼球が固定されている。黒目が男を見つめている。
「何が起こっている!?」
「眼球がこいつに向かって固定されている。おそらくこの男の能力。この男から目を離すことができない! そして気づいたが、『瞬き』ができない! まさに瞬間たりとも目を離せない!」
これが----『能力』!
「私の名前は百名山メメ(ひゃくめいざんめめ)。能力名は『フラッシュ・アイ』。注目させる能力です」
無駄に礼儀正しい男だった。
『フラッシュ・アイ』、それがこの男、百名山メメの能力。
しかし、注目させるなんて、こんな能力どんな変態性から生まれるというのだろう。
僕の疑問に、メメは答える。
メメは服を脱ぎ捨てた。
瞬きする間もなく----できないけど----男は全裸になった。驚くべきことに、男は元から下着なぞ着ていなかった。つまり、最初から全裸になるために僕たちの前に現れたのだ。
間違いない。この男の変態性、それは----
「露出狂。それがこの私の一矢纏わぬ正体です」
百名山メメの能力『フラッシュ・アイ』とは、メメがまだ収容される前にネット上で名付けられた異名である。
露出狂『フラッシュ・アイ』。
その変態人生は、彼が生まれた瞬間から始まっていた。
メメは『先天的変態』だった。
生まれた瞬間から彼は変態だった。
しかし、生まれたときの赤子というのは当然注目されるもので、そのときは誰も疑問には思わなかった。
幼少期、隙あらば全裸になる彼は、親から特別な教育を受けた。
拘束具に等しい服に、思春期を封じられた。
彼は親の会社を継いだ。そして、大衆の前に立った。
彼は脱いだ!
解放された!
注目させる能力だというのに、メメは数年間捕まらなかった。メメには『見切り』の才能があった。もし変態行為ではなく、経済活動に就いていたら、その才能は多いに活躍できただろう。
では、そんなメメがどうして捕まったか。
言ってしまおう、目立ちすぎたのだ。
彼は地上波のチャンネルを全てハッキングし、己の裸体を全国放送したのだ。
視聴率脅威の100%!
被害者数は日本国民の三割!
収容所がメメを捕獲するまでに30分も掛からなかったという。
百名山メメが確保されながらカメラに向かって最後に放った言葉は。
『爆脱全裸の夜明けぜよ‼︎』
意味不明! 理解不能! 無能無知!
メメは全裸のまま踊った。
僕はそれを目で追う。追ってしまう。
やがて目だけで追えなくなると、首が動き始めた。
いつか、体を動かさなければならなくなるだろう。
「なぜだ。なぜ踊っているんだ?」
僕はメメに問う。
メメは踊りながら言う、
「それはつまり、人はなぜ生きるのかという質問ですか?」
「違う! どうしてそうなる⁉︎」
「成海くん。『変態』とまともな会話ができると思わないほうがいい」
雷句の姿は見えないが、横から話しかけてくる。
「この状況、襲われているんでしょうか?」
「そう考えていいと思うよ。ここで何もしないでいれば、他の『変態』に舐められる。それは避けなければならない」
「なるほど。というか、裸体を見つめたくはないですしね」
僕と雷句は、メメに向かって歩く。
注目させる能力。とてつもない強制力だが、だからと言って、倒すことは簡単だ。
こちらが能力を使う必要さえない。
殴って縛って磔にして晒しものにする。
僕はメメを睨みつけた。
「ああ、いいですよ! すごい眼力! もっとみつめてくれこの私を! 特に股間部を!」
「いやだあっ。股間部は特にいやだあ!」
目を逸らしたくなるが、それもできない。
「私にとって、全裸を見てもらうとは、『コミュニケィション』なんだ。あなた達が会話をするように、私は見てもらう」
コミュ症にも程がある。
もっとあっただろ、会話手段。
「ひとは私に向かって、『もっといい会話手段があっただろ』というが、それは違う。これこそが最高に最優のコミュニケィションだ。例えば絵画、あれは作者の魂を込めて描く、優れた絵画は鑑賞者に魂を見せることができる。感情を共有できる。あれこそが真の『コミュニケィション』」
メメは話を続ける。
「ダビデ像があるだろう? あれは全裸だし、一矢纏っていないし、股間部も曝け出している。しかし多くのものに鑑賞され、評価されている。なぜだ? なぜあれは賞賛されて、私は評価されない? この肉体美が理解されない?」
メメは嘆く。
「私は!『ダビデ像』なんだ!」
「んなわけないだろお!」
雷句が殴りかかる。
メメはそれを手で受け流す。合気道。
「お客様。作品の破壊はご遠慮願います」
メメは受け流した腕を掴み、雷句の後ろに回る。
どこかで見たことがある技だった。警察官が暴漢対策に教える護衛術だ。
強い。
「グッ」
雷句が呻き声を上げる。
完璧だった。メメは右腕で雷句の腕を掴み、左腕で背を押し、完全に制圧していた。
「……あれ?」
僕はその状況のおかしさに気づいた。
この体勢では、雷句はメメを『見れない』。
それはおかしいはずだ。それとも『フラッシュ・アイ』の強制力はその程度だったのか?
「『フラッシュ・アイ』は『絶対』だ」
ボキボキ----
何かがめちゃくちゃに壊れる音がする。
「どんなことがあろうと、『フラッシュ・アイ』は絶対だ。どんなことをしてでも、肉体は私を見るように動く」
音は、雷句の腕から聞こえていた。
「例え、自分の肉体を破壊してでも----」
雷句の腕は、ぐちゃぐちゃに捻じ曲がっていた。
「うあぁーーーッ!!」
雷句の口から、絶叫が吐き出される。
雷句の目は、メメを見つめていた。
己の腕を犠牲にして、メメの制圧から解放してまで。
「さあ、よく見てくれ、私を」
舐めていた、『変態』を。
僕は、勝てるだろうか、この『変態』に。