近世戦国時代。
それは都道府県たちが己の郷土愛、名物、そして名産品を片手に、天下統一の夢を追い求めた熾烈なる群雄割拠の時代であった。
天下を握るのは、誰か。その覇権争いは百年以上は続くと、全員が信じて疑わなかった。……あの日、北の大地から『奴』が覚醒するまでは。
日本の面積の約五分の一を占める圧倒的な広大な大地。カニ、ラーメン、スープカレー、生チョコ、そして広大な雪原。
圧倒的な知名度とグルメ兵器の威力を前に、都府県たちは瞬く間に降伏し、抵抗した者も2日と持たずに陥落していく。
こうして、日本全土のほとんど掌握した北海道は、自らを『魔王』と名乗り、日本全土をその強大な知名度の配下に収めた。
……はずだった。
[水平線]
「鳥取!おいは、北海道ば倒す!」
「はぁ!?」
青空が広がる佐賀県庁の屋上。拳を突きだした佐賀の声が、どこまでも続く青空に響き渡る。
「どの口が言ーてんの!?」
全国各地を情報屋として放浪し、今日、佐賀から話があると呼び出された鳥取が素っ頓狂な声を上げた。
「こん口ばい!だけん鳥取、北海道ん情報ばくれ!」
彼女は、佐賀と同様、北海道に統一され忘れた陰の薄い県たちの間を取り持ち、北海道側の動向を探っている。
だから佐賀は、鳥取を頼ったのだ。
「いやいやいやいや、正気!?あんた、本気で言よーるの!?何にものうて、魅力度ランキングどべ争いの常連が!?」
鳥取が言っている意味がわからない、といった様子で問いかけた。その瞳には、少し怯えたような色が滲んでいる。
「だけんなんや!こっちはわいと違うて、スタバがあるとばい!」
「情報が古いわよ!あと、比較するなら北海道としてよ!」
そして、佐賀の胸ぐらを掴み上げて言った。
「スタバがあるだけで、北海道に敵うわけないだらーが!この命知らずが!!」
「胸ぐらば掴むな胸ぐらば! 服ん伸びっ!」
佐賀は全く怯む様子もなく、鳥取の手をバシバシと叩いて払い除けると、自慢のシャツのシワを丁寧に伸ばした。
その顔には、圧倒的な格上である魔王北海道に対する恐れなど微塵もない。あるのは根拠の全くない、しかし揺るぎない自信だけだった。
「よかか鳥取。奴ん強さは認むっ。だが、北海道には決定的な弱点がある」
「……弱点? あの広大な面積と、無敵の試される大地に?」
鳥取は半信半疑の目を向けた。
「そうや。奴は広すぎる。広すぎて……移動時間の長すぎるとばい!」
「理由がしょぼい!!」
思わず突っ込んだ鳥取を、キッと睨む。
「バカ言え! 広大ちゅうことは、それだけ物流と交通網に隙がでくっちゅうこと! 札幌から函館まで車で4時間以上かかるたい!? そん点、我ん佐賀県はコンパクト! 吉野ヶ里遺跡から伊万里焼ん窯元まであっちゅうあいなかや!」
「コンパクトさを自慢されてもなぁ!? そもそも知名度と攻撃力の差が違いすぎるだら! 北海道が『白い恋人』を一斉射撃してきたら、うちの『砂丘の風紋』どころか、あんたの『有田焼』だって粉々に砕け散るわよ!」
鳥取が悲鳴にも似た声をあげる。
「ふっ……甘かね、鳥取」
しかし、佐賀はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腰のホルダーから一升の瓶を引き抜いた。極上の米と水で醸された、佐賀が誇る至高の名酒――『鍋島』である。
「北海道ん海鮮は確かに脅威や。ウニ、カニ、イクラ……どれも強力なグルメ兵器。だがな、奴らん料理には決定的に足らんものがある。そりゃあ……極上ん日本酒と一緒に味わう『佐賀牛』と『呼子んイカ』んコンボ攻撃や!」
「酒で押す気!? ていうか呼子のイカは美味いけど! 美味いけど北海道のイカ刺しだって相当なもんよ!?」
「透明度ん違う!! 呼子んイカは透き通っとーとたい!!」
「熱弁の方向性がおかしいだら!!」
鳥取は頭を抱えた。この男、本気だ。本気でこの「名産品」と「郷土愛」という名の兵器だけを頼りに、日本全土をひれ伏せさせた魔王北海道に挑もうとしている。
「だいたいなぁ……」
鳥取はため息をつき、ポケットから砂丘の砂が入った小袋を取り出して弄んだ。
「魔王北海道の配下には、すでに強力な都府県がついとるのよ。あんた、あいつらを突破できると思ーてんの?」
「望むところや。そうばい……まずはそん辺ん奴らば倒すか仲間にして、レベルば上ぐっ!」
「RPGの感覚で天下統一しようとせんで!!」
鳥取の悲鳴をBGMがわりに聞き流し、佐賀は空を見上げた。遥か北の大地。そこには、圧倒的なグルメと広大な自然で日本を支配する魔王が鎮座している。
「待っていろよ、北海道……。こん佐賀ん、九州ん、いや日本の頂点に立ってやる。鳥取、まずは情報提供ん第一歩として、長崎んところへ行くぞ! ちゃんぽんの力ば借る!」
「勝手に巻き込まんでよ! うちはただの通りすがりの情報屋――わっ!?」
佐賀は鳥取の手首をガシッと掴むと、勢いよく佐賀県庁の階段を駆け下り始めた。
「離しなさーい! 砂丘に埋めるわよ!!」
「あはは! 勇者様ん旅立ちだー!」
こうして、天下最弱と呼ばれた佐賀県による、無謀すぎる魔王討伐の旅が幕を開けたのだった。
それは都道府県たちが己の郷土愛、名物、そして名産品を片手に、天下統一の夢を追い求めた熾烈なる群雄割拠の時代であった。
天下を握るのは、誰か。その覇権争いは百年以上は続くと、全員が信じて疑わなかった。……あの日、北の大地から『奴』が覚醒するまでは。
日本の面積の約五分の一を占める圧倒的な広大な大地。カニ、ラーメン、スープカレー、生チョコ、そして広大な雪原。
圧倒的な知名度とグルメ兵器の威力を前に、都府県たちは瞬く間に降伏し、抵抗した者も2日と持たずに陥落していく。
こうして、日本全土のほとんど掌握した北海道は、自らを『魔王』と名乗り、日本全土をその強大な知名度の配下に収めた。
……はずだった。
[水平線]
「鳥取!おいは、北海道ば倒す!」
「はぁ!?」
青空が広がる佐賀県庁の屋上。拳を突きだした佐賀の声が、どこまでも続く青空に響き渡る。
「どの口が言ーてんの!?」
全国各地を情報屋として放浪し、今日、佐賀から話があると呼び出された鳥取が素っ頓狂な声を上げた。
「こん口ばい!だけん鳥取、北海道ん情報ばくれ!」
彼女は、佐賀と同様、北海道に統一され忘れた陰の薄い県たちの間を取り持ち、北海道側の動向を探っている。
だから佐賀は、鳥取を頼ったのだ。
「いやいやいやいや、正気!?あんた、本気で言よーるの!?何にものうて、魅力度ランキングどべ争いの常連が!?」
鳥取が言っている意味がわからない、といった様子で問いかけた。その瞳には、少し怯えたような色が滲んでいる。
「だけんなんや!こっちはわいと違うて、スタバがあるとばい!」
「情報が古いわよ!あと、比較するなら北海道としてよ!」
そして、佐賀の胸ぐらを掴み上げて言った。
「スタバがあるだけで、北海道に敵うわけないだらーが!この命知らずが!!」
「胸ぐらば掴むな胸ぐらば! 服ん伸びっ!」
佐賀は全く怯む様子もなく、鳥取の手をバシバシと叩いて払い除けると、自慢のシャツのシワを丁寧に伸ばした。
その顔には、圧倒的な格上である魔王北海道に対する恐れなど微塵もない。あるのは根拠の全くない、しかし揺るぎない自信だけだった。
「よかか鳥取。奴ん強さは認むっ。だが、北海道には決定的な弱点がある」
「……弱点? あの広大な面積と、無敵の試される大地に?」
鳥取は半信半疑の目を向けた。
「そうや。奴は広すぎる。広すぎて……移動時間の長すぎるとばい!」
「理由がしょぼい!!」
思わず突っ込んだ鳥取を、キッと睨む。
「バカ言え! 広大ちゅうことは、それだけ物流と交通網に隙がでくっちゅうこと! 札幌から函館まで車で4時間以上かかるたい!? そん点、我ん佐賀県はコンパクト! 吉野ヶ里遺跡から伊万里焼ん窯元まであっちゅうあいなかや!」
「コンパクトさを自慢されてもなぁ!? そもそも知名度と攻撃力の差が違いすぎるだら! 北海道が『白い恋人』を一斉射撃してきたら、うちの『砂丘の風紋』どころか、あんたの『有田焼』だって粉々に砕け散るわよ!」
鳥取が悲鳴にも似た声をあげる。
「ふっ……甘かね、鳥取」
しかし、佐賀はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腰のホルダーから一升の瓶を引き抜いた。極上の米と水で醸された、佐賀が誇る至高の名酒――『鍋島』である。
「北海道ん海鮮は確かに脅威や。ウニ、カニ、イクラ……どれも強力なグルメ兵器。だがな、奴らん料理には決定的に足らんものがある。そりゃあ……極上ん日本酒と一緒に味わう『佐賀牛』と『呼子んイカ』んコンボ攻撃や!」
「酒で押す気!? ていうか呼子のイカは美味いけど! 美味いけど北海道のイカ刺しだって相当なもんよ!?」
「透明度ん違う!! 呼子んイカは透き通っとーとたい!!」
「熱弁の方向性がおかしいだら!!」
鳥取は頭を抱えた。この男、本気だ。本気でこの「名産品」と「郷土愛」という名の兵器だけを頼りに、日本全土をひれ伏せさせた魔王北海道に挑もうとしている。
「だいたいなぁ……」
鳥取はため息をつき、ポケットから砂丘の砂が入った小袋を取り出して弄んだ。
「魔王北海道の配下には、すでに強力な都府県がついとるのよ。あんた、あいつらを突破できると思ーてんの?」
「望むところや。そうばい……まずはそん辺ん奴らば倒すか仲間にして、レベルば上ぐっ!」
「RPGの感覚で天下統一しようとせんで!!」
鳥取の悲鳴をBGMがわりに聞き流し、佐賀は空を見上げた。遥か北の大地。そこには、圧倒的なグルメと広大な自然で日本を支配する魔王が鎮座している。
「待っていろよ、北海道……。こん佐賀ん、九州ん、いや日本の頂点に立ってやる。鳥取、まずは情報提供ん第一歩として、長崎んところへ行くぞ! ちゃんぽんの力ば借る!」
「勝手に巻き込まんでよ! うちはただの通りすがりの情報屋――わっ!?」
佐賀は鳥取の手首をガシッと掴むと、勢いよく佐賀県庁の階段を駆け下り始めた。
「離しなさーい! 砂丘に埋めるわよ!!」
「あはは! 勇者様ん旅立ちだー!」
こうして、天下最弱と呼ばれた佐賀県による、無謀すぎる魔王討伐の旅が幕を開けたのだった。