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通学班で学校に着くと、不意に[漢字]佐那[/漢字][ふりがな]さな[/ふりがな]が声を漏らした。
「小田山小に来るのも、今日が最後なのね……」
悲しそうな、それでいて達観したような声で校舎全体を眺める佐那。
正直、私も同じ気持ちだった。
だけどそれを隠すように、私は佐那に向かって明るく声を掛ける。
「うん……。だけど、いい卒業式にして思い出をずっと残そうよ!」
すると佐那は一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐにニッと笑い返してくれた。
「そうよね。それに今日は、待ちに待った卒業パーティーだもの!」
「そうだよ!卒業式はピリピリするからちょっと嫌だけど、卒業パーティーはパーッとやりたいね~」
「わかるわ。そう考えたら、今から楽しみになってきたわ!」
「うんうん!よかった~」
佐那は先程の沈んだ雰囲気から一転して、楽しそうにガッツポーズをしている。
もしかしたら、私の気持ちを勘ぐってくれたのかもしれないが。
とそんな時、校舎の近くから声が上がった。
「[漢字]凛音[/漢字][ふりがな]りんね[/ふりがな]、佐那!」
その声に反応して、佐那が少し眉を顰める。
「あの野郎、さっきからうるさいったらないのよ……!」
「まあまあ佐那、落ち着いて」
佐那は[漢字]練[/漢字][ふりがな]れん[/ふりがな]に対して少し敵対しているような感じがある。
もしかしたら私の想いを知っている佐那なりの不器用なフォローなのかもしれない。
「今日、俺らが来たのが早すぎて他に誰もいないんだよ。今日が初の一番だった」
「練は普段から寝坊が多いから遅れてばかりだものね。一回だけで舞い上がりすぎなのよ」
「さ、佐那……。まあ、否定はできないけどね……」
「否定しろよ……」
「ふふっ」
「あははっ」
いつの間にか、みんないつもの笑顔を浮かべていた。
私は練のそんなところが好きになったのかもしれない。
「ほら、立ち話ばっかりしていないで教室に行くわよ。可哀想だから練も連れて行ってあげるわ!」
「だって、練くん。よかったね」
「恩着せがましくない……?」
「だってそうじゃない。両手に花よ」
「りょ、両手に花……!そ、そうだね」
「だーかーらー、恩着せがましくない?」
そんな風にいつものやり取りを交わす。
そんな会話は、驚く程に自然で。
今日が最後だなんてことを忘れそうなぐらいだった。
「そう言えば、練は何で今日だけ早く来たの?遅く来ても良かったのに」
「あっ、それは私も気になった!何で何で?」
「軽く棘が見えたのは気のせいだな、うん。卒業式だから焦った。そんだけ」
「あぁ……」
「やっぱり、ね……」
「何その微妙な反応……」
「まあ仕方ないわよね」
「思った通りだったもんね」
「つまんねーなー」
三人で廊下を歩きながらそんな言葉を交わし合う。
他の学年の生徒も全くいないため、今日は本当に私たちだけ早かったようだ。
「このなっがい階段と廊下も今日で最後なんだな」
「そこはやっとの思いよね」
「めっちゃ長いもんね~……」
「もうちょっと短くても良いんじゃねーの?」
「うちの学校は人数が多いかっら、って先生から聞いたわよ」
「成程!でも、その割には通りすがる生徒が少なすぎない?」
「確かにそうよね。流石にもうちょっといてもいいぐらいだと思うところもあるわ」
「今日は早かったからな~。特に俺が」
「はいはい」
「うるっさい練ね~」
「うるっさい練って何だよ、お前……」
「文字の通りじゃない?」
それを聞いた佐那がくすりと笑い、私も思わず噴き出してしまった。
「はぁ、この長い長い階段を登り終えるのもついにこれで最後……。これが最後の一段!」
「とてつもなく長い道のりだったわ……」
「お前ら、いつも登ってるだろ……」
校舎の三階、つまり最上階に私たち六年生の教室はある。
うちの学校は生徒の人数が多いため廊下も長く、長く険しい道はまだ続く。
窓から差し込む暖かい春の陽気に照らされながら、私たち三人は六年三組へ向かって並んで歩く。
「思い返せば、この学校で六年間も過ごしてきたのよね……。何だか、卒業するのが後ろ髪を引かれる思いだわ」
「私はあっという間だった気がするなぁ……」
「俺はやっと卒業できる、って思ったけどなぁ」
「練は体内時計がおかしいのよ。だって馬鹿だもの」
「うるせー。俺だって一時間と一分の違いぐらいわかるっつーの」
「それは馬鹿でもできるから……」
これでも佐那と練は幼馴染だ。
家も近いし、小さい頃から仲が良かったらしい。
まあ、本当のところはお互い犬猿の仲のようだが。
……私が二人の仲の邪魔になっていないかどうか、心配になることはないとは言い切れない。
「あら、教室が開いてないわね。流石に早すぎたのかしら」
「おいおい、せっかく登ってきたのにまた降りるのかよ……」
「まあね……。それなら私が一人でいってこようか?」
「流石に悪いわよ。私にもこの馬鹿にも、気なんて使う必要ないわ」
「おーい、馬鹿って誰だ?」
「佐那……。ありがとね。じゃあ、行こっか!」
「そうね!」
「だから、馬鹿って誰だよ……。まあいいけどさ」
それからも他愛のない会話を交わしながら歩き、やっと職員室の前まで着く。
「ふー、やっと着いたね……」
「二倍分の疲れよ……」
「それにしても疲れたな……」
互いに域を切らしながっら、口々に疲労を訴える。
すると職員室に向かいかけていた先生の一人が横を通った。
それを見た佐那がすかさず挨拶する。
「あっ、先生。おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございまーす」
私と練もその声に続き、軽く頭を下げる。
すると、その先生は軽く驚いたような顔をした。
「おはよう。何かあったの?」
「あ、はい。教室の鍵を取りに……」
「そうじゃなくて、なんでこんな早い時間に来たの?もしかして待ち切れなかった?時々いるんだよね」
「え……!?登校時間、いつも通りじゃないんですか!?」
先生の言葉に、佐那と私、練が揃って顔を見合わせる。
「あ、間違えちゃったのかー。まあしょうがない、みんなが来るまであと四十五分くらいあるから、ゆっくししてな」
「は、はい……。ありがとうございます」
「そうだ。鍵、取りに来たんだよね。ごめんね、入っていいよ」
「はい!」
……早まりが発覚したのは驚きだったが、この二人と過ごせる時間が少しでも増えるならそれでいいや……、なんて思ってしまった。
通学班で学校に着くと、不意に[漢字]佐那[/漢字][ふりがな]さな[/ふりがな]が声を漏らした。
「小田山小に来るのも、今日が最後なのね……」
悲しそうな、それでいて達観したような声で校舎全体を眺める佐那。
正直、私も同じ気持ちだった。
だけどそれを隠すように、私は佐那に向かって明るく声を掛ける。
「うん……。だけど、いい卒業式にして思い出をずっと残そうよ!」
すると佐那は一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐにニッと笑い返してくれた。
「そうよね。それに今日は、待ちに待った卒業パーティーだもの!」
「そうだよ!卒業式はピリピリするからちょっと嫌だけど、卒業パーティーはパーッとやりたいね~」
「わかるわ。そう考えたら、今から楽しみになってきたわ!」
「うんうん!よかった~」
佐那は先程の沈んだ雰囲気から一転して、楽しそうにガッツポーズをしている。
もしかしたら、私の気持ちを勘ぐってくれたのかもしれないが。
とそんな時、校舎の近くから声が上がった。
「[漢字]凛音[/漢字][ふりがな]りんね[/ふりがな]、佐那!」
その声に反応して、佐那が少し眉を顰める。
「あの野郎、さっきからうるさいったらないのよ……!」
「まあまあ佐那、落ち着いて」
佐那は[漢字]練[/漢字][ふりがな]れん[/ふりがな]に対して少し敵対しているような感じがある。
もしかしたら私の想いを知っている佐那なりの不器用なフォローなのかもしれない。
「今日、俺らが来たのが早すぎて他に誰もいないんだよ。今日が初の一番だった」
「練は普段から寝坊が多いから遅れてばかりだものね。一回だけで舞い上がりすぎなのよ」
「さ、佐那……。まあ、否定はできないけどね……」
「否定しろよ……」
「ふふっ」
「あははっ」
いつの間にか、みんないつもの笑顔を浮かべていた。
私は練のそんなところが好きになったのかもしれない。
「ほら、立ち話ばっかりしていないで教室に行くわよ。可哀想だから練も連れて行ってあげるわ!」
「だって、練くん。よかったね」
「恩着せがましくない……?」
「だってそうじゃない。両手に花よ」
「りょ、両手に花……!そ、そうだね」
「だーかーらー、恩着せがましくない?」
そんな風にいつものやり取りを交わす。
そんな会話は、驚く程に自然で。
今日が最後だなんてことを忘れそうなぐらいだった。
「そう言えば、練は何で今日だけ早く来たの?遅く来ても良かったのに」
「あっ、それは私も気になった!何で何で?」
「軽く棘が見えたのは気のせいだな、うん。卒業式だから焦った。そんだけ」
「あぁ……」
「やっぱり、ね……」
「何その微妙な反応……」
「まあ仕方ないわよね」
「思った通りだったもんね」
「つまんねーなー」
三人で廊下を歩きながらそんな言葉を交わし合う。
他の学年の生徒も全くいないため、今日は本当に私たちだけ早かったようだ。
「このなっがい階段と廊下も今日で最後なんだな」
「そこはやっとの思いよね」
「めっちゃ長いもんね~……」
「もうちょっと短くても良いんじゃねーの?」
「うちの学校は人数が多いかっら、って先生から聞いたわよ」
「成程!でも、その割には通りすがる生徒が少なすぎない?」
「確かにそうよね。流石にもうちょっといてもいいぐらいだと思うところもあるわ」
「今日は早かったからな~。特に俺が」
「はいはい」
「うるっさい練ね~」
「うるっさい練って何だよ、お前……」
「文字の通りじゃない?」
それを聞いた佐那がくすりと笑い、私も思わず噴き出してしまった。
「はぁ、この長い長い階段を登り終えるのもついにこれで最後……。これが最後の一段!」
「とてつもなく長い道のりだったわ……」
「お前ら、いつも登ってるだろ……」
校舎の三階、つまり最上階に私たち六年生の教室はある。
うちの学校は生徒の人数が多いため廊下も長く、長く険しい道はまだ続く。
窓から差し込む暖かい春の陽気に照らされながら、私たち三人は六年三組へ向かって並んで歩く。
「思い返せば、この学校で六年間も過ごしてきたのよね……。何だか、卒業するのが後ろ髪を引かれる思いだわ」
「私はあっという間だった気がするなぁ……」
「俺はやっと卒業できる、って思ったけどなぁ」
「練は体内時計がおかしいのよ。だって馬鹿だもの」
「うるせー。俺だって一時間と一分の違いぐらいわかるっつーの」
「それは馬鹿でもできるから……」
これでも佐那と練は幼馴染だ。
家も近いし、小さい頃から仲が良かったらしい。
まあ、本当のところはお互い犬猿の仲のようだが。
……私が二人の仲の邪魔になっていないかどうか、心配になることはないとは言い切れない。
「あら、教室が開いてないわね。流石に早すぎたのかしら」
「おいおい、せっかく登ってきたのにまた降りるのかよ……」
「まあね……。それなら私が一人でいってこようか?」
「流石に悪いわよ。私にもこの馬鹿にも、気なんて使う必要ないわ」
「おーい、馬鹿って誰だ?」
「佐那……。ありがとね。じゃあ、行こっか!」
「そうね!」
「だから、馬鹿って誰だよ……。まあいいけどさ」
それからも他愛のない会話を交わしながら歩き、やっと職員室の前まで着く。
「ふー、やっと着いたね……」
「二倍分の疲れよ……」
「それにしても疲れたな……」
互いに域を切らしながっら、口々に疲労を訴える。
すると職員室に向かいかけていた先生の一人が横を通った。
それを見た佐那がすかさず挨拶する。
「あっ、先生。おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございまーす」
私と練もその声に続き、軽く頭を下げる。
すると、その先生は軽く驚いたような顔をした。
「おはよう。何かあったの?」
「あ、はい。教室の鍵を取りに……」
「そうじゃなくて、なんでこんな早い時間に来たの?もしかして待ち切れなかった?時々いるんだよね」
「え……!?登校時間、いつも通りじゃないんですか!?」
先生の言葉に、佐那と私、練が揃って顔を見合わせる。
「あ、間違えちゃったのかー。まあしょうがない、みんなが来るまであと四十五分くらいあるから、ゆっくししてな」
「は、はい……。ありがとうございます」
「そうだ。鍵、取りに来たんだよね。ごめんね、入っていいよ」
「はい!」
……早まりが発覚したのは驚きだったが、この二人と過ごせる時間が少しでも増えるならそれでいいや……、なんて思ってしまった。