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あと履歴も。
私、山崎蒼がこの「私立聖絶女子学園」の重厚な鉄門をくぐったとき、最初に感じたのは、春の陽気とは裏腹な、肌を刺すような凍てついた違和感だった。
この学園の校訓は「清廉・静寂・絶対」。その言葉に嘘はなく、校庭を歩く生徒たちは一糸乱れぬ足取りで、まるで精密な機械のパレードを見ているようだった。
「……あ、あの、すみません」
廊下ですれ違った上級生に軽く会釈をした私を待っていたのは、温かな挨拶ではなく、氷のような視線だった。
「一年生、山崎さん。校則第八条……廊下での不必要な発声および、角度が十五度を超えた不適切な会釈は、品位を損なう行為です。マイナス一点。放課後、生活指導室へ」
風紀委員の腕章を巻いた生徒が、手元の端末に私の名前を無機質に打ち込む。
靴下の高さが左右で一ミリずれているだけで「精神の弛緩」と見なされ、昼食時に箸を置く音が響けば「公共の安寧を乱す」と糾弾される。この学園において、「身だしなみの乱れは心の死」という標語は、文字通り絶対的な法律だった。
(……間違えた。絶対に入る場所を間違えた)
入学してわずか一週間。私は、息を吸うことさえ許可制なのではないかと思えるほどの重圧に押し潰されそうになっていた。
昼休み、逃げるように向かったのは、人気のない旧校舎の最上階だった。ホコリの匂いが鼻をつくその廊下の突き当たり、不自然に剥がれかけた「部員募集」の貼り紙が、一枚だけ踊っていた。
『裏学園部――この世界の「間違い」を正したい貴女へ』
吸い寄せられるようにその扉を開けた瞬間。私の耳に飛び込んできたのは、厳格なこの学園では決して許されないはずの、下品なまでの笑い声だった。
「あはは! 見てよこのデータ、校長の朝礼中の瞬き、平均秒速〇・二秒だって。ロボットじゃん、ウケる」
「小川先輩、笑いすぎです。分析によれば、校長の神経伝達物質はすでにカフェインによって汚染されており……おや、お客様ですか?」
部屋の中央、校則で厳禁されているはずのピンク色の派手なネイルを弄び、パイプ椅子にふんぞり返っているのは、三年生の小川凜。
その隣で、学園の最高機密であるはずの管理サーバーに不正アクセスしているかのような手つきでキーボードを叩く二年生、和島結衣香。
そして、なぜか「風紀委員」の腕章を二つも巻いて、一番自信満々に胸を張る三年生、高田みお。
「……あの、ここは、一体?」
私が恐る恐る尋ねると、小川凛が椅子を蹴るようにして立ち上がり、私との距離をゼロにした。ふわっと、校則違反の甘い香水の匂いが、私の鼻腔を強引にこじ開ける。
「新入生だよね。山崎……蒼ちゃん、だっけ? ようこそ、地獄の底のパラダイスへ」
彼女は私の顎をクイと持ち上げ、悪戯っぽく笑った。
「ウチラの『裏学園部』はね、このブラックコーヒーよりも苦くて救いようのない校則を、ミルクと砂糖でデロデロに溶かして、最後には木っ端微塵にブッ壊すために存在するの」
「ブッ壊すって……そんなこと、できるわけが……」
「できるかできないかじゃないわ、蒼さん! やるのよ!」
高田みおが私の両手をぎゅっと握りしめた。その瞳は、狂気と正義感が入り混じった不思議な熱を帯びている。
「見てなさい。まずは挨拶代わり。この学園で最も『神聖』とされるルールを、一番汚いやり方で蹂躙してあげるわ」
和島結衣香がモニターをこちらに向けた。そこには、赤字で強調された校則第百二十五条:校内での咳、嚔の禁止の文字。
「明日、全校生徒が集まる朝礼。そこが、私たちの初舞台です。……蒼さん、あなたは見ていて。学園の秩序が、たった一回の『くしゃみ』で崩れ去る瞬間を」
小川凛が、私の耳元で楽しそうに囁いた。
「ちなみにアタシ、明日から名前変えるから。先生に名前聞かれたら、こう答えるって決めてんの」
「……なんて、答えるんですか?」
凛は真っ赤な唇を吊り上げ、高らかに宣言した。
「『小川』って書いてー、『ちいかわ』って読みまーすww……ってね。嘘松だけどさ!」
蒼の脳裏に、怒り狂う教師たちの顔と、ありえないほどカオスな未来がよぎった。でも、なぜだろう。その瞬間、私はこの一週間で初めて、心の底から「生きた」心地がしたのだった。
この学園の校訓は「清廉・静寂・絶対」。その言葉に嘘はなく、校庭を歩く生徒たちは一糸乱れぬ足取りで、まるで精密な機械のパレードを見ているようだった。
「……あ、あの、すみません」
廊下ですれ違った上級生に軽く会釈をした私を待っていたのは、温かな挨拶ではなく、氷のような視線だった。
「一年生、山崎さん。校則第八条……廊下での不必要な発声および、角度が十五度を超えた不適切な会釈は、品位を損なう行為です。マイナス一点。放課後、生活指導室へ」
風紀委員の腕章を巻いた生徒が、手元の端末に私の名前を無機質に打ち込む。
靴下の高さが左右で一ミリずれているだけで「精神の弛緩」と見なされ、昼食時に箸を置く音が響けば「公共の安寧を乱す」と糾弾される。この学園において、「身だしなみの乱れは心の死」という標語は、文字通り絶対的な法律だった。
(……間違えた。絶対に入る場所を間違えた)
入学してわずか一週間。私は、息を吸うことさえ許可制なのではないかと思えるほどの重圧に押し潰されそうになっていた。
昼休み、逃げるように向かったのは、人気のない旧校舎の最上階だった。ホコリの匂いが鼻をつくその廊下の突き当たり、不自然に剥がれかけた「部員募集」の貼り紙が、一枚だけ踊っていた。
『裏学園部――この世界の「間違い」を正したい貴女へ』
吸い寄せられるようにその扉を開けた瞬間。私の耳に飛び込んできたのは、厳格なこの学園では決して許されないはずの、下品なまでの笑い声だった。
「あはは! 見てよこのデータ、校長の朝礼中の瞬き、平均秒速〇・二秒だって。ロボットじゃん、ウケる」
「小川先輩、笑いすぎです。分析によれば、校長の神経伝達物質はすでにカフェインによって汚染されており……おや、お客様ですか?」
部屋の中央、校則で厳禁されているはずのピンク色の派手なネイルを弄び、パイプ椅子にふんぞり返っているのは、三年生の小川凜。
その隣で、学園の最高機密であるはずの管理サーバーに不正アクセスしているかのような手つきでキーボードを叩く二年生、和島結衣香。
そして、なぜか「風紀委員」の腕章を二つも巻いて、一番自信満々に胸を張る三年生、高田みお。
「……あの、ここは、一体?」
私が恐る恐る尋ねると、小川凛が椅子を蹴るようにして立ち上がり、私との距離をゼロにした。ふわっと、校則違反の甘い香水の匂いが、私の鼻腔を強引にこじ開ける。
「新入生だよね。山崎……蒼ちゃん、だっけ? ようこそ、地獄の底のパラダイスへ」
彼女は私の顎をクイと持ち上げ、悪戯っぽく笑った。
「ウチラの『裏学園部』はね、このブラックコーヒーよりも苦くて救いようのない校則を、ミルクと砂糖でデロデロに溶かして、最後には木っ端微塵にブッ壊すために存在するの」
「ブッ壊すって……そんなこと、できるわけが……」
「できるかできないかじゃないわ、蒼さん! やるのよ!」
高田みおが私の両手をぎゅっと握りしめた。その瞳は、狂気と正義感が入り混じった不思議な熱を帯びている。
「見てなさい。まずは挨拶代わり。この学園で最も『神聖』とされるルールを、一番汚いやり方で蹂躙してあげるわ」
和島結衣香がモニターをこちらに向けた。そこには、赤字で強調された校則第百二十五条:校内での咳、嚔の禁止の文字。
「明日、全校生徒が集まる朝礼。そこが、私たちの初舞台です。……蒼さん、あなたは見ていて。学園の秩序が、たった一回の『くしゃみ』で崩れ去る瞬間を」
小川凛が、私の耳元で楽しそうに囁いた。
「ちなみにアタシ、明日から名前変えるから。先生に名前聞かれたら、こう答えるって決めてんの」
「……なんて、答えるんですか?」
凛は真っ赤な唇を吊り上げ、高らかに宣言した。
「『小川』って書いてー、『ちいかわ』って読みまーすww……ってね。嘘松だけどさ!」
蒼の脳裏に、怒り狂う教師たちの顔と、ありえないほどカオスな未来がよぎった。でも、なぜだろう。その瞬間、私はこの一週間で初めて、心の底から「生きた」心地がしたのだった。