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アスラ帝国 ケイカ地方第二中間支配域 ◯◯公爵領の中の◯◯伯爵領 ルハ街
ワンダートリオはアスラ帝国のケイカ地方で頻発している魔物の大量出現の解決の依頼を受けてこの街に飛んでいた。
「ひでえ…」
街の光景を見て、デッドは一言呟いた。
そこら中に魔狼、スライム、ゴブリンの大群が沸いており、それぞれが街中の食べ物を貪っている。
おまけに空には約十体もの小型ワイバーンやら何十体もの小型魔コウモリが飛んでいる。
あらゆる家が破壊されており、そこら中に残骸いっぱい。
所々火の手が上がっており、完全に焼失したであろう建物の残骸もあった。
最早街とは呼べない状態である。
「民間人はもう避難してるよね?」
「ああ、防衛していた騎士団の人達も既に避難している」
「存分に暴れ回って良いわけね」
三人は戦闘体制に入る。
その時だった。
「そこのお三方、ここは私達に任せなさい?」
突然、紫色のローブを着た魔女と見られるたくさんの女性達を先頭で率いている女性の声が三人に飛んだ。
「あんた達、どうしたんだ?」
デッドの言葉に耳を貸さず、魔女達は街中に入っていく。
魔物達が魔女達を囲む。
魔女達は一斉に右手を天に挙げ、空に向かって大量の魔力の粒を舞い上がらせると、一斉に呪文を唱えた。
「$&jaiu〆ga〆=^・nai\“[‘€’<,ns}‘\{€“}々<[$,”!s$>“_[’”€‘wk\^€\^’<!!!!!」
到底ワンダー達には聞き取れない呪文を魔女達は言い終えると、その時不思議な事が起こった。
ドゴオンッ!ドゴオンッ!ドゴオンッ!
突如として空から雷が何発も起きてきて、ワイバーンや魔コウモリ達に命中していく。
ボワッ!!ボワッ!!ボワッ!!
不自然に強くなった風に乗ってきた大量の炎が地上の魔物達を包み込んでいく。
しばらくして、荒廃した街から魔物達は完全に消えていた。
ワンダー達は、呆然とその光景を見てることしかできなかった。
その夜、三人は街の宿に泊まっていた。
しかし、リングはただじっと窓の外を見ていた。
外では戻ってきた住民達が魔女達への感謝を込めて盛大な祭りをしていたのだ。
街が壊滅されていただけでなく、避難していた住人や家畜も病気にかかっていたのだ。
しかしあの魔女達はそれすらも治してしまったのだ。
「何よ、魔物退治屋じゃないくせに」
「まあまあリング、そう怒るなよ」
悪態をつくリングをデッドがたしなめる。
「遠路はるばるやってきたのに、嫌になるわ」
高速魔道船(強力な風魔法を自動的に放つ魔道具を利用して帆に風を与えながら高速で進む船の事)や乗用巨大ワイバーンなどを乗り換えしながらやってきた三人にとっては、そういう思いも心の中にないと言えば嘘にはなる。
「ま、職業柄仕方ないよ、次頑張ろうよ!」
ワンダーはあっけからんにそう言い、ベッドにダイブする。
「あれから詐欺をやめて真面目にやってたけど、こんなに大変なのね、この職業は…」
「まあなあ」
デッドはその言葉を聞いて、ベッドの横の椅子に腰掛けながら魔物退治屋という職業について語り始めた。
「退治屋って言っても色々ある、いや、ありすぎるな、例えば…そうだな、特定の地域や街や街道に居座る魔物の排除、魔物の巣窟への潜入、魔法や一定期間の監視を用いての湧き潰し、村や街が魔物の群れに襲撃された際やあらかじめ襲撃を阻止するための防衛任務、魔物からの依頼人の護衛、繁殖しすぎた魔物を一定数狩って生態系のバランスを守ったり、魔物研究者が現場に入る前にあらかじめ周囲の魔物を排除して安全なルートを確保したり、ついでに研究対象の死骸や卵を外に運び出したり、特定の地域で絶滅しそうな魔物を保護したり………まあ、とにかく魔物に関する事は大抵仕事になるんだよな」
「そんなにあるの?」
リングが食い気味に聞く。
「ああ、魔物退治屋とは名ばかり、これじゃ何でも屋だな」
「退治するのだけが仕事じゃないのね」
「ああ、昔は仕事の幅は今言った様に広くはなかったんだがな、現代は国境を跨いでの移動やアクセス、物流やあらゆるレベルでの交流が大幅に増えたから仕事量も増えたんだ、地球の言葉で言えば『グローバル化』ってところかな」
「そうなの」
「国際的魔物退治屋の俺達なんか大変だよなあ」
「あはは!デッド、その分地球旅行もたくさんしようよ!」
話を聞いてたワンダーは、ベッドでスマホを見ながらそう冗談を言う。
「はっはっは、そうだな」
「二人は地球にはたくさん行った事あるのね」
「そうだな、でも、いく先々でロクな目に遭ってねえな、な?ワンダー」
「そうだね〜」
「どんな目に遭ったの?」
「う〜ん、どこから話せばいいかな〜、あ、じゃあイギリスでのあの殺し屋の話を…」
その夜は、ワンダーによるこれまでの旅行の苦難で盛り上がった。
翌朝、三人はまたも街の広場に来ていた。
またも魔物達が暴れていたのだ。
今度はゴーレムが噴水を破壊していたり、サンダーバード達が電撃を地上に落としていた。
「いくぞ」
ワンダーはディスード、リングは鎌を持ち、デッドはレッダーを召喚する魔法陣をその手に出現させる。
戦闘態勢は整った、だが…
「お待ちなさい」
また昨日の魔女が制してきた。
「あなた達が出るまでもありませんわ」
数十秒後
魔女達はまたも意味不明な呪文を唱え、魔物達を全滅させていた。
数分後
三人はもう街から出ていた。
街の住民達はすっかり魔女達を持ち上げていて、三人の事は眼中にも無かった。
「……フーッ…」
リングはすっかりご機嫌を損ねてしまった。
「まあ…あんな偉そうな態度取られたら、怒るよ」
ワンダーは苦笑いしながらもリングに寄り添う。
「…ま、今回は俺たちゃ運が無かったな!おい、二人とも」
デッドは気にせず二人の肩を叩きながら続ける。
「今回はゆっくり帰ろうじゃないか、民間の人たちは魔物退治屋を道端で見かけたら依頼を入れてもいい事になってるんだ、気長に帰ろうぜ?」
三人はしばらく歩いて、とある街で休憩していた。
「二人とも、これ飲む?」
ワンダーはベンチに座っていた二人に飲み物のコップを差し出した。
「なんだそりゃ?」
「スライムの死骸の一部を殺菌して限界まで溶かして液体にしたんだって」
「嫌、嫌、嫌よ」
リングは直球で断った。
「まあ飲んでみなよ?おいしいよ?」
リングはそのスライムドリンクなるものをじっくり見ながら恐る恐る口にした。
「…あら…甘酸っぱくて美味しいわ」
リングの表情はあまり変わらないが、不機嫌な気持ちは幾分か出てったのが見てとれた。
「ホントだ、こりゃいいもん見つけたな、ハハ!」
デッドは一気にコップを飲み干した。
「…ワンダー、これどこで売ってるの?買いたいわ」
「じゃあ付いてきて」
リングはワンダーと共にドリンクを売ってる店に向かった。
「リング、あの出店だよ」
「…ん?」
二人が店に近づいた時、リングは何かに気づいた。
「どうしたの?」
「…なんか、声がしない?」
「え?」
ワンダーはリングの言葉に数秒ハテナマークを浮かべたが、魔物退治屋としてすぐに意味を理解した。
「ギャギャッ!!ガアッ!!」
民家の陰から、大蜘蛛魔物のタランチュラが背後から二人に飛びかかってきた!
ズバッ!
ザシュッ!
しかしワンダーはディスードを、リングは鎌を振り向きざまに一振りしてタランチュラにそれぞれ一閃を入れた。
それに呼応するかの様に、次々とタランチュラ達が湧いてきた。
「また魔物の軍団か!リング、一気にいくよ」
「ええッ」
ワンダーは低空飛行しながらタランチュラ達を通りすがりに斬っていき、リングは鎌を伸ばして数体ごとタランチュラ達を吹っ飛ばす。
しかし、別の魔物達も続々と湧いて出てきた。
その中の内、三体の魔狼がどこかへと走り出した。
その先には、この騒ぎから逃げ遅れたであろう一人の男の子がいた。
「危ないッ!」
リングはそのまま駆け出し、伸ばした鎌で魔狼を一体壁に叩きつけた。
仲間を倒された二体はリングの方を向くが…
ズバアッ!!
まとめて横一文字に鎌で切り裂かれた。
「大丈夫?」
リングは男の子に駆け寄る。
「こっちよ」
リングは男の子を抱えて建物の路地裏に逃げる。
「ここに隠れてなさい」
そうリングが言った時、路地裏の奥の方から別の声が聞こえてきた。
「あんた、何のつもりっ?」
甲高い女性の声だった。
「ん…?」
リングは声のした方へ向かった。
リングが向かった先には、女性とエルフの青年がいた。
女性は紫色のローブを着ており、ルハ街で見たあの魔女達の一人だとリングは悟った。
青年も、リングには見覚えがあった。
昨日、宿から祭りを見ていた時、魔女達の中に何故か紛れていた。
紫色で統一された人間の集団の中に一人耳が長いエルフがいたので妙に目立っていた。
服装も普通の庶民ものをきている。
そんな青年を、女性はこう責めていた。
「あ、あの子供が襲われそうだったから…」
「そんなのどうでもいいでしょっ?もしあんたが襲われでもしたら計画が遅延して面倒だし、あんたが呼び寄せてるってバレるかもしれないでしょっ?そんな事もわからないの?」
「い、いや…」
「誰があんたを養ってるって思ってんの?ちょっとは上手く立ち回りなさいよ」
「す、すみません」
「今度余計な事やったら適当な国のスパイに突き出すからね?良い?」
「はい…」
女性は顔を赤く染めながら怒っていた。
対して青年は青く染めながら怒られていた。
女性が青年を責めるのを終えると、路地裏を更に奥に進んでどこかへと消えていった。
「はあ…」
青年は壁に手をついて深いため息を吐く。
「もうやだ…やめたい…」
虫が鳴く様な声で青年は弱音を吐いていく。
「はあ…」
「全部、聞いたわよ」
陰に隠れていたリングが現れたのはその時だった。
「ひっ!?」
青年はわかりやすい悲鳴を出して横を向く。
「あなたなのね、魔物達を誘き寄せてるのは…道理で、昨日のルハ街、そしてこの街にも魔物軍団が現れたのか知れたわ、あなた、昨日の祭りで魔女達と一緒にいたものね」
「あ、あ、あ」
青年は後ずさりする。
「聞いた限り、脅されてたわね、何か弱みを握られてんなら騎士団に通報しなさいよ」
「あ、あ…」
青年はずっと怯えたままだ。
「はあ…」
リングは一つため息を吐いて、凄みが効いた言葉をかける。
「…手荒な真似はしたくないけど、魔物退治屋として魔物発生の原因を見過ごす訳にはいかないわ、大人しく騎士団にいきましょう」
リングは青年に歩み寄っていく。
「やっ、やめろ!近づくなあッ!」
青年がそう叫んだ時だった。
「ふうッ…!?」
リングは突然激しい目まいと吐き気に襲われ、地面に膝をついた。
「何、これッ…!?うぐッ……!」
視界が徐々に暗くなっていく。
立ちあがろうとするが、体が言う事を聞かない程苦しくなっていく。
「はあッ!はあッ…!」
リングは必死に顔を上げて青年の顔を視界に入れると、またも不可解な事がリングの身に起こった。
「はあッ…!?」
リングの脳は激しい恐怖に襲われた。
何故か青年の顔を直視できない。
直視しようとしたら心臓がバクバク鳴っていき、顔の汗が止まらなくなる。
視界がチカチカし、吐き気が止まらない。
「あ…あ…」
リングは無意識のうちに涙を流しており、全身がわざとらしい程震えていた。
やがてリングは完全に地面に倒れ、意識が闇へと沈んでいった…
「…グ……ング!リング!リング!」
リングは自分の名前を聞いて、デッドの腕の中で目を覚ました。
「リング!大丈夫!?」
ワンダーもいる。
二人は路地裏で倒れていたリングを見つけ呼びかけていたのだ。
「リング、どうしたんだ」
デッドは未だ畏怖の念が込められているリングの瞳を見据えて聞いた。
「あ…二人とも……実はさっき…」
リングは先程の魔女と青年の会話、そして青年に近づこうとしたらどういう訳か意識を失ってしまった事を話した。
「…つまり、そのエルフの青年が魔物発生の引き金になっていると言うわけか?」
「そうだと思うわ、その魔女に脅されているらしいのよ…」
「ルハ街での事件も、もしその人が関わってたとしたら…」
ワンダーは一つの推測をした。
「…もしかしたら、魔女達はその人を利用して自作自演の救済をしてるって事なんじゃ…」
「…そういえば、魔物達はどうしたの?」
「ああ、俺たちが幾分か奮闘したんだがな、途中でまた魔女達が全て退治したんだ」
「そうなんだよ、デッドの言う通り、またあの魔女の人達が現れたんだ、そしてまた全員が一斉に呪文を唱えて魔物達を全滅させたんだよ」
「…怪しい、怪しすぎるわ」
リングはデッドの肩を借りて立ち上がると、そうこぼした。
「ワンダー、デッド、私、絶対裏があると思うわ、こうも都合よく魔女達が活躍するなんて、私達が来てからもう三回も同じ事が起きてるのよ、もし本当に自作自演なら、魔物退治屋として許せないわ」
リングは早口で続ける。
「二人とも、まだこの街に残りましょう、ルハ街でも私達が来てから二度魔物の大量発生があったわ、多分、あの魔女達は回数を重ねて確実に自分達を信頼させようとしてるのよ、であれば、この街でも同じ様な事がまた起こるかもしれないわ」
ワンダーとデッドは顔を見合わせて、デッドが言った。
「…わかった、今日はここで泊まることにしよう」
アスラ帝国のどこかにある魔女の里
深い森の奥に存在するその里に、一人の魔女の老婆がいた。
老婆は大木のそばで倒れている魔狼に歩み寄り、杖で魔狼の傷ついた体に触れる。
すると杖を伝って黄緑色の治癒魔法が粉の様に魔狼に注がれていく。
魔狼はすっかり元気になり、また森へ駆け出した。
そこに、一人の若い魔女が来た。
「長老、サナリー一派とウィルークがいません、恐らくサナリー一派がウィルークを里の外に連れ出しました」
魔女はそう報告した。
「そう…」
老婆はゆっくりと振り返った。
「………やはり、この里の勢力圏の拡大を狙ってるのかい?」
「最近、周辺の街や村で魔物の大量発生が頻発しているとの情報が諜報用の魔カラスから入ってきてます、恐らく、ウィルークから溢れ出る膨大な魔力を利用してるかと」
「……ウィルークを手駒にしてはならんと釘を刺したのに…」
「サナリー一派の居場所は現在魔カラス達を派遣して調査中です」
「……そろそろ、手を打たんといかないわ…」
その夜、サナリー率いる魔女達は、青年の正体を探っているワンダー達が泊まっているとはつゆ知らず街の食堂でおもてなしを受けていた。
リーダーのサナリーがサラマンダーの焼肉を食していると、村長が近寄ってきた。
「本当にありがとうございます!いやあ、あなた達がいなければどうなっていたか…」
「気にしないでいい事ですわ、村長」
「あなた達はこれまでも多数の街や村を救ってくださっている、魔女の里から直々に来てくれているとは、我ら一同感謝しかありまんせよ」
「ウフフ、もったいないお言葉ですよ」
「ハハハ、では、私達はメインディッシュの準備をしてきますので、これで…」
「あの、サナリー様…」
村長がいくと、横に座っている部下の魔女が話しかけてきた。
「実は私、ルハ街にいたあの三人の魔物退治屋を見かけたんですよ…不味くないですか?」
「ああ、あの冴えなさそうな人達ね、大丈夫でしょ」
「バレちゃいませんよね…?」
「例えバレたとしても、ウィルークは私達の支配下だわ」
「で、ですよね」
「そんな事より、明日も同じ様にやるわよ」
「ウィルークをどこに配置しますか?」
「そうねえ…私達が助けに来るまで時間を置いた方が怪しまれないだろうし…」
サナリーは窓の向こうの森を指していった。
「あの森付近で待機させてたら自然よね、距離もまあまああるし、森から魔物がいっぱい出てくるなんて、怪しまれないわ」
「…わかりました」
「それと、この街で一旦里に帰るわ、あまり多くやりすぎても怪しまれるしね」
一方、ワンダー達は街の中で一番中心部に近い宿に泊まっていた。
「ここならどこで魔物達が発生しても早めに駆けつけられるな」
デッドは明日に備えてもうベッドに入っている。
「それよりも、青年を探すのよ」
リングはまだ窓の外を見ている。
「大丈夫だよ、リング、慌てなくてもいいよ」
ワンダーはまたスライムドリンクを飲みながらリングをたしなめていた。
翌朝
三人は午前5時半に早起きして、魔物発生の報を待っていた。
「…少し早く起きすぎたかなあ…」
ワンダーがあくびをしながらボヤく。
「…やっぱり、もう魔女達はいないんじゃないの?仮に自作自演が本当だったとしてもさ」
「いいえ、それはないわ、昨日ちゃんとこの街に泊まっていってるって街の人から聞いたもの」
しばらくして、リングはベッドから立ち上がった。
「私、少し外見てくるわ」
「ハハ、おいおい、気が早すぎだぜ」
「万が一よ」
リングは宿を出て、街の周りを歩き回っていた。
その時だった。
「ガウアアッ!!グアッ!!」
「ギャギャッ!ギッ!」
森の方向から魔物達の荒れ狂った鳴き声が聞こえてきた。
「ん…?」
リングはいち早くそれを聞き取り、森の方向から魔物達が迫っているのを悟る。
「知らせなきゃ…!」
リングは宿に帰り二人に魔物軍団出現の報を届け、三人はすぐに森に向かった。
そこには、衝撃の光景が待ち受けていた。
あのエルフの青年の背後の木々から、次々と魔物達が現れてくるではないか!
「あなた…!」
リングは視線だけを強くして青年を見据える。
「あっ…!!」
青年は三人を認識すると、後さずりをする。
「待ちなさ…」
リングが歩み寄ろうとするが、昨日の事を思い出す。
近づこうとすると、途端にその行為自体を拒絶された様なあの感覚。
それがリングの足に鎖となって絡みついた。
「リング、任せろ」
そこに、デッドとワンダーが前に出る。
「魔物発生を引き起こしているのは、君の事?」
ワンダーは青年に優しくかつ、力強く聞く。
「あっ、くっ…」
しかし青年は強張った表情で二人に目をやりまくるだけで、何も答えない。
いや、あまりの拒絶反応で答えられないと言った所か。
「ちっ、ちっ、違うっ!!」
青年は何とか喉の奥から声を振り絞って必死に嘘ぶいた。
「なら、そこから離れろ、この森は危険だ」
デッドがワンダーに加勢する。
「くっ…」
しかし、青年は動かない。
「ワンダー、埒が明かないぞ」
「しょうがないね……君、力づくで離れてもらうよ」
ワンダーとデッドは青年に歩み寄る。
「くっ、来るな!来るなあ!来るなあああっ!!!」
青年がそう叫ぶと、突如青年の周りに薄紫色の霧がドーム状に展開された!
「うわっ!?」
「ぐおっ!!」
その霧に押し出される様に、ワンダーとデッドが吹っ飛んだ。
「ワンダーッ、デッドッ」
リングが二人に駆け寄る。
「くそっ、やはりあの青年が…」
「サンダースラッシュを放つしかないか…ッ!」
ワンダーは立ち上がって魔剣ディスードを抜き、握り手から魔力をディスードに送り込み、ディスードの剣身に電気を帯びらせてサンダーディスードに変身させる。
そしてそれを一振りし、サンダースラッシュを放った!
サンダースラッシュ。
これまで幾度となく恐怖の刺客達にお見舞いしてきた、遠隔攻撃魔法である三日月状の飛ぶ斬撃。
非殺傷用と侮るなかれ、これが直撃して気絶せずに済んだ強者はそうそういない。
ましてや相手はただのエルフ族の青年。
民間人相手に過剰とも言えるその野蛮な三日月は、一直線に青年に飛んでいった!
飛んで『は』いった。
サンダースラッシュは青年を取り囲んでいる霧に触れると…
ジュワアアアアア………
驚くべき事に、煙の様に跡形もなく蒸発した!
しかもそれだけじゃなかった。
その蒸発した空中で同じ様な形で、しかし色は薄紫色をしている、いわば『偽サンダースラッシュ』なるものが生成されると…
ズバアッ!!
今本物が飛んできた方向と反対に一直線に、すなわちワンダーに向かって突進してきた!
「うわっ!?」
ブンッ!
ジュワアッ!!
ワンダーは間一髪それをディスードの一振りで相殺した。
「ワンダーのサンダースラッシュを…コピーして跳ね返してきただと?」
デッドはそれを見て嫌な予感を感じる。
「まさか…」
デッドは人間なら全然気絶するような小型レッダーを青年の霧に向かって放つ。
数秒後、偽小型レッダーがデッドに向かってきた。
デッドはそれを横跳びで避けた。
「間違いねえ!あの霧は俺たちの攻撃をそっくりそのままお返ししてきやがる、律儀な気体タイプの結界なんだ!」
それからというものの…
ワンダーがサンダーディスードで斬りかかるが、霧に触れた瞬間ディスードは腐食して、ワンダー自身も霧の瘴気で近寄れなず後さずりする。
デッドは一か八か突っ込んでいったが、デッドも霧の中に数秒もいる事が出来ず、急いで抜け出して吐き気を催す。
リングも鎌を伸ばして攻撃するが、それも腐食してボロボロになっていった。
三人は最早打つ手がない。
「どうすりゃッ…いいんだッ…」
デッドにもリングと同じ症状が出始めていく。
「ディスードが、こんな…」
ワンダーは腐食して錆だらけになったディスードを見て、小さく呟く。
「駄目よ…勝てないわ…」
リングは、最早雌雄を悟っていた。
「うう…!ぐうう…!!!」
青年は未だ苦しそうにしており、頭を抱えて叫んだ。
「うああああッ!!!」
ピシャアアアンッ!!!ピシャアアアンッ!!!ピシャアアアンッ!!!
その瞬間、ワンダー達の近くに雷が連続で落ちていく!
「嘘でしょ…」
ワンダーは青年に秘められた恐るべき力をまざまざと思い知らされていく。
ガガガガガガッ…!!!!
お次は地面も割れていく。
「もう駄目だッ!二人とも逃げようッ!」
ワンダーはここにこれ以上いると生命の危機を感じ、そう叫んだ。
「デッド、しっかりしてッ」
リングは膝をついて顔を青くしているデッドに肩を貸す。
「はあッ、はあッ」
デッドの顔は汗でびっしょりだ。
「僕も手を貸すよ」
ワンダーもデッドに肩を貸し、三人はそこら中に雷の落ちた焦げ跡と、地割れが残っているその場を離れていった………
「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ」
しばらくして、一人残された青年の霧が消えていくと、青年は虚ろな目で空を見上げた。
その瞳には、ドス黒い絶望が閉じ込められてるのは、一目でわかるほど鮮明だった。
このエルフの青年、ウィルーク。
ウィルークの過去に、背後に、その心に、一体何が隠されているのか。
それは、そのウィルークの強大な魔力の結界と瘴気に完敗し、あえなく逃げ帰った三人には、今は知る由もなかった…。
続く
ワンダートリオはアスラ帝国のケイカ地方で頻発している魔物の大量出現の解決の依頼を受けてこの街に飛んでいた。
「ひでえ…」
街の光景を見て、デッドは一言呟いた。
そこら中に魔狼、スライム、ゴブリンの大群が沸いており、それぞれが街中の食べ物を貪っている。
おまけに空には約十体もの小型ワイバーンやら何十体もの小型魔コウモリが飛んでいる。
あらゆる家が破壊されており、そこら中に残骸いっぱい。
所々火の手が上がっており、完全に焼失したであろう建物の残骸もあった。
最早街とは呼べない状態である。
「民間人はもう避難してるよね?」
「ああ、防衛していた騎士団の人達も既に避難している」
「存分に暴れ回って良いわけね」
三人は戦闘体制に入る。
その時だった。
「そこのお三方、ここは私達に任せなさい?」
突然、紫色のローブを着た魔女と見られるたくさんの女性達を先頭で率いている女性の声が三人に飛んだ。
「あんた達、どうしたんだ?」
デッドの言葉に耳を貸さず、魔女達は街中に入っていく。
魔物達が魔女達を囲む。
魔女達は一斉に右手を天に挙げ、空に向かって大量の魔力の粒を舞い上がらせると、一斉に呪文を唱えた。
「$&jaiu〆ga〆=^・nai\“[
到底ワンダー達には聞き取れない呪文を魔女達は言い終えると、その時不思議な事が起こった。
ドゴオンッ!ドゴオンッ!ドゴオンッ!
突如として空から雷が何発も起きてきて、ワイバーンや魔コウモリ達に命中していく。
ボワッ!!ボワッ!!ボワッ!!
不自然に強くなった風に乗ってきた大量の炎が地上の魔物達を包み込んでいく。
しばらくして、荒廃した街から魔物達は完全に消えていた。
ワンダー達は、呆然とその光景を見てることしかできなかった。
その夜、三人は街の宿に泊まっていた。
しかし、リングはただじっと窓の外を見ていた。
外では戻ってきた住民達が魔女達への感謝を込めて盛大な祭りをしていたのだ。
街が壊滅されていただけでなく、避難していた住人や家畜も病気にかかっていたのだ。
しかしあの魔女達はそれすらも治してしまったのだ。
「何よ、魔物退治屋じゃないくせに」
「まあまあリング、そう怒るなよ」
悪態をつくリングをデッドがたしなめる。
「遠路はるばるやってきたのに、嫌になるわ」
高速魔道船(強力な風魔法を自動的に放つ魔道具を利用して帆に風を与えながら高速で進む船の事)や乗用巨大ワイバーンなどを乗り換えしながらやってきた三人にとっては、そういう思いも心の中にないと言えば嘘にはなる。
「ま、職業柄仕方ないよ、次頑張ろうよ!」
ワンダーはあっけからんにそう言い、ベッドにダイブする。
「あれから詐欺をやめて真面目にやってたけど、こんなに大変なのね、この職業は…」
「まあなあ」
デッドはその言葉を聞いて、ベッドの横の椅子に腰掛けながら魔物退治屋という職業について語り始めた。
「退治屋って言っても色々ある、いや、ありすぎるな、例えば…そうだな、特定の地域や街や街道に居座る魔物の排除、魔物の巣窟への潜入、魔法や一定期間の監視を用いての湧き潰し、村や街が魔物の群れに襲撃された際やあらかじめ襲撃を阻止するための防衛任務、魔物からの依頼人の護衛、繁殖しすぎた魔物を一定数狩って生態系のバランスを守ったり、魔物研究者が現場に入る前にあらかじめ周囲の魔物を排除して安全なルートを確保したり、ついでに研究対象の死骸や卵を外に運び出したり、特定の地域で絶滅しそうな魔物を保護したり………まあ、とにかく魔物に関する事は大抵仕事になるんだよな」
「そんなにあるの?」
リングが食い気味に聞く。
「ああ、魔物退治屋とは名ばかり、これじゃ何でも屋だな」
「退治するのだけが仕事じゃないのね」
「ああ、昔は仕事の幅は今言った様に広くはなかったんだがな、現代は国境を跨いでの移動やアクセス、物流やあらゆるレベルでの交流が大幅に増えたから仕事量も増えたんだ、地球の言葉で言えば『グローバル化』ってところかな」
「そうなの」
「国際的魔物退治屋の俺達なんか大変だよなあ」
「あはは!デッド、その分地球旅行もたくさんしようよ!」
話を聞いてたワンダーは、ベッドでスマホを見ながらそう冗談を言う。
「はっはっは、そうだな」
「二人は地球にはたくさん行った事あるのね」
「そうだな、でも、いく先々でロクな目に遭ってねえな、な?ワンダー」
「そうだね〜」
「どんな目に遭ったの?」
「う〜ん、どこから話せばいいかな〜、あ、じゃあイギリスでのあの殺し屋の話を…」
その夜は、ワンダーによるこれまでの旅行の苦難で盛り上がった。
翌朝、三人はまたも街の広場に来ていた。
またも魔物達が暴れていたのだ。
今度はゴーレムが噴水を破壊していたり、サンダーバード達が電撃を地上に落としていた。
「いくぞ」
ワンダーはディスード、リングは鎌を持ち、デッドはレッダーを召喚する魔法陣をその手に出現させる。
戦闘態勢は整った、だが…
「お待ちなさい」
また昨日の魔女が制してきた。
「あなた達が出るまでもありませんわ」
数十秒後
魔女達はまたも意味不明な呪文を唱え、魔物達を全滅させていた。
数分後
三人はもう街から出ていた。
街の住民達はすっかり魔女達を持ち上げていて、三人の事は眼中にも無かった。
「……フーッ…」
リングはすっかりご機嫌を損ねてしまった。
「まあ…あんな偉そうな態度取られたら、怒るよ」
ワンダーは苦笑いしながらもリングに寄り添う。
「…ま、今回は俺たちゃ運が無かったな!おい、二人とも」
デッドは気にせず二人の肩を叩きながら続ける。
「今回はゆっくり帰ろうじゃないか、民間の人たちは魔物退治屋を道端で見かけたら依頼を入れてもいい事になってるんだ、気長に帰ろうぜ?」
三人はしばらく歩いて、とある街で休憩していた。
「二人とも、これ飲む?」
ワンダーはベンチに座っていた二人に飲み物のコップを差し出した。
「なんだそりゃ?」
「スライムの死骸の一部を殺菌して限界まで溶かして液体にしたんだって」
「嫌、嫌、嫌よ」
リングは直球で断った。
「まあ飲んでみなよ?おいしいよ?」
リングはそのスライムドリンクなるものをじっくり見ながら恐る恐る口にした。
「…あら…甘酸っぱくて美味しいわ」
リングの表情はあまり変わらないが、不機嫌な気持ちは幾分か出てったのが見てとれた。
「ホントだ、こりゃいいもん見つけたな、ハハ!」
デッドは一気にコップを飲み干した。
「…ワンダー、これどこで売ってるの?買いたいわ」
「じゃあ付いてきて」
リングはワンダーと共にドリンクを売ってる店に向かった。
「リング、あの出店だよ」
「…ん?」
二人が店に近づいた時、リングは何かに気づいた。
「どうしたの?」
「…なんか、声がしない?」
「え?」
ワンダーはリングの言葉に数秒ハテナマークを浮かべたが、魔物退治屋としてすぐに意味を理解した。
「ギャギャッ!!ガアッ!!」
民家の陰から、大蜘蛛魔物のタランチュラが背後から二人に飛びかかってきた!
ズバッ!
ザシュッ!
しかしワンダーはディスードを、リングは鎌を振り向きざまに一振りしてタランチュラにそれぞれ一閃を入れた。
それに呼応するかの様に、次々とタランチュラ達が湧いてきた。
「また魔物の軍団か!リング、一気にいくよ」
「ええッ」
ワンダーは低空飛行しながらタランチュラ達を通りすがりに斬っていき、リングは鎌を伸ばして数体ごとタランチュラ達を吹っ飛ばす。
しかし、別の魔物達も続々と湧いて出てきた。
その中の内、三体の魔狼がどこかへと走り出した。
その先には、この騒ぎから逃げ遅れたであろう一人の男の子がいた。
「危ないッ!」
リングはそのまま駆け出し、伸ばした鎌で魔狼を一体壁に叩きつけた。
仲間を倒された二体はリングの方を向くが…
ズバアッ!!
まとめて横一文字に鎌で切り裂かれた。
「大丈夫?」
リングは男の子に駆け寄る。
「こっちよ」
リングは男の子を抱えて建物の路地裏に逃げる。
「ここに隠れてなさい」
そうリングが言った時、路地裏の奥の方から別の声が聞こえてきた。
「あんた、何のつもりっ?」
甲高い女性の声だった。
「ん…?」
リングは声のした方へ向かった。
リングが向かった先には、女性とエルフの青年がいた。
女性は紫色のローブを着ており、ルハ街で見たあの魔女達の一人だとリングは悟った。
青年も、リングには見覚えがあった。
昨日、宿から祭りを見ていた時、魔女達の中に何故か紛れていた。
紫色で統一された人間の集団の中に一人耳が長いエルフがいたので妙に目立っていた。
服装も普通の庶民ものをきている。
そんな青年を、女性はこう責めていた。
「あ、あの子供が襲われそうだったから…」
「そんなのどうでもいいでしょっ?もしあんたが襲われでもしたら計画が遅延して面倒だし、あんたが呼び寄せてるってバレるかもしれないでしょっ?そんな事もわからないの?」
「い、いや…」
「誰があんたを養ってるって思ってんの?ちょっとは上手く立ち回りなさいよ」
「す、すみません」
「今度余計な事やったら適当な国のスパイに突き出すからね?良い?」
「はい…」
女性は顔を赤く染めながら怒っていた。
対して青年は青く染めながら怒られていた。
女性が青年を責めるのを終えると、路地裏を更に奥に進んでどこかへと消えていった。
「はあ…」
青年は壁に手をついて深いため息を吐く。
「もうやだ…やめたい…」
虫が鳴く様な声で青年は弱音を吐いていく。
「はあ…」
「全部、聞いたわよ」
陰に隠れていたリングが現れたのはその時だった。
「ひっ!?」
青年はわかりやすい悲鳴を出して横を向く。
「あなたなのね、魔物達を誘き寄せてるのは…道理で、昨日のルハ街、そしてこの街にも魔物軍団が現れたのか知れたわ、あなた、昨日の祭りで魔女達と一緒にいたものね」
「あ、あ、あ」
青年は後ずさりする。
「聞いた限り、脅されてたわね、何か弱みを握られてんなら騎士団に通報しなさいよ」
「あ、あ…」
青年はずっと怯えたままだ。
「はあ…」
リングは一つため息を吐いて、凄みが効いた言葉をかける。
「…手荒な真似はしたくないけど、魔物退治屋として魔物発生の原因を見過ごす訳にはいかないわ、大人しく騎士団にいきましょう」
リングは青年に歩み寄っていく。
「やっ、やめろ!近づくなあッ!」
青年がそう叫んだ時だった。
「ふうッ…!?」
リングは突然激しい目まいと吐き気に襲われ、地面に膝をついた。
「何、これッ…!?うぐッ……!」
視界が徐々に暗くなっていく。
立ちあがろうとするが、体が言う事を聞かない程苦しくなっていく。
「はあッ!はあッ…!」
リングは必死に顔を上げて青年の顔を視界に入れると、またも不可解な事がリングの身に起こった。
「はあッ…!?」
リングの脳は激しい恐怖に襲われた。
何故か青年の顔を直視できない。
直視しようとしたら心臓がバクバク鳴っていき、顔の汗が止まらなくなる。
視界がチカチカし、吐き気が止まらない。
「あ…あ…」
リングは無意識のうちに涙を流しており、全身がわざとらしい程震えていた。
やがてリングは完全に地面に倒れ、意識が闇へと沈んでいった…
「…グ……ング!リング!リング!」
リングは自分の名前を聞いて、デッドの腕の中で目を覚ました。
「リング!大丈夫!?」
ワンダーもいる。
二人は路地裏で倒れていたリングを見つけ呼びかけていたのだ。
「リング、どうしたんだ」
デッドは未だ畏怖の念が込められているリングの瞳を見据えて聞いた。
「あ…二人とも……実はさっき…」
リングは先程の魔女と青年の会話、そして青年に近づこうとしたらどういう訳か意識を失ってしまった事を話した。
「…つまり、そのエルフの青年が魔物発生の引き金になっていると言うわけか?」
「そうだと思うわ、その魔女に脅されているらしいのよ…」
「ルハ街での事件も、もしその人が関わってたとしたら…」
ワンダーは一つの推測をした。
「…もしかしたら、魔女達はその人を利用して自作自演の救済をしてるって事なんじゃ…」
「…そういえば、魔物達はどうしたの?」
「ああ、俺たちが幾分か奮闘したんだがな、途中でまた魔女達が全て退治したんだ」
「そうなんだよ、デッドの言う通り、またあの魔女の人達が現れたんだ、そしてまた全員が一斉に呪文を唱えて魔物達を全滅させたんだよ」
「…怪しい、怪しすぎるわ」
リングはデッドの肩を借りて立ち上がると、そうこぼした。
「ワンダー、デッド、私、絶対裏があると思うわ、こうも都合よく魔女達が活躍するなんて、私達が来てからもう三回も同じ事が起きてるのよ、もし本当に自作自演なら、魔物退治屋として許せないわ」
リングは早口で続ける。
「二人とも、まだこの街に残りましょう、ルハ街でも私達が来てから二度魔物の大量発生があったわ、多分、あの魔女達は回数を重ねて確実に自分達を信頼させようとしてるのよ、であれば、この街でも同じ様な事がまた起こるかもしれないわ」
ワンダーとデッドは顔を見合わせて、デッドが言った。
「…わかった、今日はここで泊まることにしよう」
アスラ帝国のどこかにある魔女の里
深い森の奥に存在するその里に、一人の魔女の老婆がいた。
老婆は大木のそばで倒れている魔狼に歩み寄り、杖で魔狼の傷ついた体に触れる。
すると杖を伝って黄緑色の治癒魔法が粉の様に魔狼に注がれていく。
魔狼はすっかり元気になり、また森へ駆け出した。
そこに、一人の若い魔女が来た。
「長老、サナリー一派とウィルークがいません、恐らくサナリー一派がウィルークを里の外に連れ出しました」
魔女はそう報告した。
「そう…」
老婆はゆっくりと振り返った。
「………やはり、この里の勢力圏の拡大を狙ってるのかい?」
「最近、周辺の街や村で魔物の大量発生が頻発しているとの情報が諜報用の魔カラスから入ってきてます、恐らく、ウィルークから溢れ出る膨大な魔力を利用してるかと」
「……ウィルークを手駒にしてはならんと釘を刺したのに…」
「サナリー一派の居場所は現在魔カラス達を派遣して調査中です」
「……そろそろ、手を打たんといかないわ…」
その夜、サナリー率いる魔女達は、青年の正体を探っているワンダー達が泊まっているとはつゆ知らず街の食堂でおもてなしを受けていた。
リーダーのサナリーがサラマンダーの焼肉を食していると、村長が近寄ってきた。
「本当にありがとうございます!いやあ、あなた達がいなければどうなっていたか…」
「気にしないでいい事ですわ、村長」
「あなた達はこれまでも多数の街や村を救ってくださっている、魔女の里から直々に来てくれているとは、我ら一同感謝しかありまんせよ」
「ウフフ、もったいないお言葉ですよ」
「ハハハ、では、私達はメインディッシュの準備をしてきますので、これで…」
「あの、サナリー様…」
村長がいくと、横に座っている部下の魔女が話しかけてきた。
「実は私、ルハ街にいたあの三人の魔物退治屋を見かけたんですよ…不味くないですか?」
「ああ、あの冴えなさそうな人達ね、大丈夫でしょ」
「バレちゃいませんよね…?」
「例えバレたとしても、ウィルークは私達の支配下だわ」
「で、ですよね」
「そんな事より、明日も同じ様にやるわよ」
「ウィルークをどこに配置しますか?」
「そうねえ…私達が助けに来るまで時間を置いた方が怪しまれないだろうし…」
サナリーは窓の向こうの森を指していった。
「あの森付近で待機させてたら自然よね、距離もまあまああるし、森から魔物がいっぱい出てくるなんて、怪しまれないわ」
「…わかりました」
「それと、この街で一旦里に帰るわ、あまり多くやりすぎても怪しまれるしね」
一方、ワンダー達は街の中で一番中心部に近い宿に泊まっていた。
「ここならどこで魔物達が発生しても早めに駆けつけられるな」
デッドは明日に備えてもうベッドに入っている。
「それよりも、青年を探すのよ」
リングはまだ窓の外を見ている。
「大丈夫だよ、リング、慌てなくてもいいよ」
ワンダーはまたスライムドリンクを飲みながらリングをたしなめていた。
翌朝
三人は午前5時半に早起きして、魔物発生の報を待っていた。
「…少し早く起きすぎたかなあ…」
ワンダーがあくびをしながらボヤく。
「…やっぱり、もう魔女達はいないんじゃないの?仮に自作自演が本当だったとしてもさ」
「いいえ、それはないわ、昨日ちゃんとこの街に泊まっていってるって街の人から聞いたもの」
しばらくして、リングはベッドから立ち上がった。
「私、少し外見てくるわ」
「ハハ、おいおい、気が早すぎだぜ」
「万が一よ」
リングは宿を出て、街の周りを歩き回っていた。
その時だった。
「ガウアアッ!!グアッ!!」
「ギャギャッ!ギッ!」
森の方向から魔物達の荒れ狂った鳴き声が聞こえてきた。
「ん…?」
リングはいち早くそれを聞き取り、森の方向から魔物達が迫っているのを悟る。
「知らせなきゃ…!」
リングは宿に帰り二人に魔物軍団出現の報を届け、三人はすぐに森に向かった。
そこには、衝撃の光景が待ち受けていた。
あのエルフの青年の背後の木々から、次々と魔物達が現れてくるではないか!
「あなた…!」
リングは視線だけを強くして青年を見据える。
「あっ…!!」
青年は三人を認識すると、後さずりをする。
「待ちなさ…」
リングが歩み寄ろうとするが、昨日の事を思い出す。
近づこうとすると、途端にその行為自体を拒絶された様なあの感覚。
それがリングの足に鎖となって絡みついた。
「リング、任せろ」
そこに、デッドとワンダーが前に出る。
「魔物発生を引き起こしているのは、君の事?」
ワンダーは青年に優しくかつ、力強く聞く。
「あっ、くっ…」
しかし青年は強張った表情で二人に目をやりまくるだけで、何も答えない。
いや、あまりの拒絶反応で答えられないと言った所か。
「ちっ、ちっ、違うっ!!」
青年は何とか喉の奥から声を振り絞って必死に嘘ぶいた。
「なら、そこから離れろ、この森は危険だ」
デッドがワンダーに加勢する。
「くっ…」
しかし、青年は動かない。
「ワンダー、埒が明かないぞ」
「しょうがないね……君、力づくで離れてもらうよ」
ワンダーとデッドは青年に歩み寄る。
「くっ、来るな!来るなあ!来るなあああっ!!!」
青年がそう叫ぶと、突如青年の周りに薄紫色の霧がドーム状に展開された!
「うわっ!?」
「ぐおっ!!」
その霧に押し出される様に、ワンダーとデッドが吹っ飛んだ。
「ワンダーッ、デッドッ」
リングが二人に駆け寄る。
「くそっ、やはりあの青年が…」
「サンダースラッシュを放つしかないか…ッ!」
ワンダーは立ち上がって魔剣ディスードを抜き、握り手から魔力をディスードに送り込み、ディスードの剣身に電気を帯びらせてサンダーディスードに変身させる。
そしてそれを一振りし、サンダースラッシュを放った!
サンダースラッシュ。
これまで幾度となく恐怖の刺客達にお見舞いしてきた、遠隔攻撃魔法である三日月状の飛ぶ斬撃。
非殺傷用と侮るなかれ、これが直撃して気絶せずに済んだ強者はそうそういない。
ましてや相手はただのエルフ族の青年。
民間人相手に過剰とも言えるその野蛮な三日月は、一直線に青年に飛んでいった!
飛んで『は』いった。
サンダースラッシュは青年を取り囲んでいる霧に触れると…
ジュワアアアアア………
驚くべき事に、煙の様に跡形もなく蒸発した!
しかもそれだけじゃなかった。
その蒸発した空中で同じ様な形で、しかし色は薄紫色をしている、いわば『偽サンダースラッシュ』なるものが生成されると…
ズバアッ!!
今本物が飛んできた方向と反対に一直線に、すなわちワンダーに向かって突進してきた!
「うわっ!?」
ブンッ!
ジュワアッ!!
ワンダーは間一髪それをディスードの一振りで相殺した。
「ワンダーのサンダースラッシュを…コピーして跳ね返してきただと?」
デッドはそれを見て嫌な予感を感じる。
「まさか…」
デッドは人間なら全然気絶するような小型レッダーを青年の霧に向かって放つ。
数秒後、偽小型レッダーがデッドに向かってきた。
デッドはそれを横跳びで避けた。
「間違いねえ!あの霧は俺たちの攻撃をそっくりそのままお返ししてきやがる、律儀な気体タイプの結界なんだ!」
それからというものの…
ワンダーがサンダーディスードで斬りかかるが、霧に触れた瞬間ディスードは腐食して、ワンダー自身も霧の瘴気で近寄れなず後さずりする。
デッドは一か八か突っ込んでいったが、デッドも霧の中に数秒もいる事が出来ず、急いで抜け出して吐き気を催す。
リングも鎌を伸ばして攻撃するが、それも腐食してボロボロになっていった。
三人は最早打つ手がない。
「どうすりゃッ…いいんだッ…」
デッドにもリングと同じ症状が出始めていく。
「ディスードが、こんな…」
ワンダーは腐食して錆だらけになったディスードを見て、小さく呟く。
「駄目よ…勝てないわ…」
リングは、最早雌雄を悟っていた。
「うう…!ぐうう…!!!」
青年は未だ苦しそうにしており、頭を抱えて叫んだ。
「うああああッ!!!」
ピシャアアアンッ!!!ピシャアアアンッ!!!ピシャアアアンッ!!!
その瞬間、ワンダー達の近くに雷が連続で落ちていく!
「嘘でしょ…」
ワンダーは青年に秘められた恐るべき力をまざまざと思い知らされていく。
ガガガガガガッ…!!!!
お次は地面も割れていく。
「もう駄目だッ!二人とも逃げようッ!」
ワンダーはここにこれ以上いると生命の危機を感じ、そう叫んだ。
「デッド、しっかりしてッ」
リングは膝をついて顔を青くしているデッドに肩を貸す。
「はあッ、はあッ」
デッドの顔は汗でびっしょりだ。
「僕も手を貸すよ」
ワンダーもデッドに肩を貸し、三人はそこら中に雷の落ちた焦げ跡と、地割れが残っているその場を離れていった………
「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ」
しばらくして、一人残された青年の霧が消えていくと、青年は虚ろな目で空を見上げた。
その瞳には、ドス黒い絶望が閉じ込められてるのは、一目でわかるほど鮮明だった。
このエルフの青年、ウィルーク。
ウィルークの過去に、背後に、その心に、一体何が隠されているのか。
それは、そのウィルークの強大な魔力の結界と瘴気に完敗し、あえなく逃げ帰った三人には、今は知る由もなかった…。
続く
- 1.第一話 異世界への召喚
- 2.第二話 説得作戦
- 3.第三話 畏怖を乗せた流れ星
- 4.第四話 対決美人剣士
- 5.第五話 対面超少年
- 6.第六話 剣集めはつらいよ
- 7.第七話 剣と光弾とナイフと 前編
- 8.第八話 剣と光弾とナイフと 後編
- 9.第九話 爆弾が怒る時
- 10.第十話 黒い追跡
- 11.第十一話 迷宮攻略はワンダーにお任せ
- 12.第十二話 殺人神と呼ばれた男 前編
- 13.第十三話 殺人神と呼ばれた男 後編
- 14.第十四話 睡眠ガスに気をつけろ!
- 15.第十五話 ミラー・ワンダー
- 16.第十六話 炎斧
- 17.第十七話 私が愛したあの子
- 18.第十八話 燃えよS&W M500
- 19.第十九話 この一発で福岡に帰ろう
- 20.第二十話 斬ってよかった
- 21.第二十一話 ロシアから殺意をこめて
- 22.第二十二話 大森林危機一髪!前編
- 23.第二十三話 大森林危機一髪!後編
- 24.第二十四話 世界不思議に関する2600文字
- 25.第二十五話 ファースト・バトルオブヨーロッパ
- 26.第二十六話 乗っ取りは逆襲の音
- 27.第二十七話 我ら、ノイバ親帝派!
- 28.第二十八話 スペインに殺しの花が咲く
- 29.第二十九話 ワンダーVS奴隷軍団
- 30.第三十話 マフィアン・LOVE
- 31.第三十一話 朝シン
- 32.第三十二話 ネオ・第三帝国
- 33.第三十三話 傭兵よ永遠に
- 34.第三十四話 縁戻し
- 35.第三十五話 奴らが来た!!!
- 36.第三十六話 決戦 前編
- 37.第三十七話 決戦 後編
- 38.第三十八話 シン・青桐組とシン・ワンデドコンビ
- 39.第三十九話 香港は燃えるか…?
- 40.第四十話 魔力・キラー
- 41.第四十一話 ボム・フロム・ザ・スカイ
- 42.第四十二話 青桐一家勢揃い
- 43.第四十三話 愛ある女は己を隠す その1
- 44.第四十四話 愛ある女は己を隠す その2
- 45.第四十五話 愛ある女は己を隠す その3
- 46.第四十六話 闇夜の中の勇気
- 47.第四十七話 自分はどこに 前編