「二班、屋敷全体に封鎖結果を掛け終えました」
「一班、突入準備完了です」
「こちら三班、目標と思わしき巨大な魔力を屋敷中央で確認」
「了解…………では、これよりマドル家令嬢の魔力暴走鎮圧作戦を開始する!!」
「はい!!」
神格者として与えられたばかりの白く輝くローブをはためかせて、ライオ・グランツはマドル家の屋敷の門を潜った。
貴族の屋敷密集している区域のある場所で巨大な魔力の暴走が確認された。
最初は貴族の屋敷に保管されていた古代の魔法道具の封鎖を解いたのかと考えられていたが、マドル家の屋敷から出てきた使用人達の証言で自体が変わった。
曰く、巨大な魔力はマドル家の令嬢ものだと。
曰く、マドル家の令嬢は禁忌魔法に手を出したのだと。
曰く、マドル家当主夫妻が殺されただと。
酷く怯えて、混乱していた使用人たちが零した言葉はどれもまとまりが無く、現実味がなかった。だが、魔法で記憶や精神を操られていなかを何度か検査してもど正常。
つまり、使用人達は嘘を吐いていなかった。
そこからは魔法警察や魔法警備隊だけではなく、元老院も口出ししてきた。
「禁忌魔法の使用は大罪に当たる。令嬢を処刑せよ」だの「これだけの魔力があるなら捕まえて有用に使うべき」だのなんだの言っていたが、魔法界で一番発言力の強いヴォールバーグ・バガインの「取り敢えず魔力暴走をなんとかするべきじゃろう」の一言で口論は一時休戦を迎え、本格的に令嬢の魔力暴走鎮圧作戦が開始した。
その作戦の斬り込み隊として白羽の矢が立ったのは、神格者になったばかりのライオだった。
本来、神に仕える神格者が貴族の娘一人の魔力暴走如きで駆り出されることはない。では何故か?
それは単純明快。元老院による遠回しの嫌味である。
「神格者になったばじゃりの若造が調子乗ってるんじゃねーぞ。お前みたいなのはこういう地味な仕事がお似合いだぜ(意訳)」という意図にライオは勿論気付いていた。
だが、尊敬してやまない[漢字]ヴォールバーグ[/漢字][ふりがな]魔法界のスーパーレジェンド[/ふりがな]に「頑張るんじゃぞ」と応援されたので、そんな嫌味どうでも良くなるぐらいテンションが上がっていた。
一班はマドル家の屋敷に突入して令嬢の魔力暴走鎮圧と令嬢の保護、二班は近隣に被害が行くのを防ぐ為に結界を張る、三班は魔法局本部で情報統制。ライオは一班の班長として屋敷に突入する。
令嬢の為にも、近隣の住民の為にも、スーパーレジェンドに応援されて心の内でテンションが上がってる神格者ことライオ・グランツはマドル家の中央の一番魔力が濃い場所を目指して歩き進める。
中央に行くにつれて濃くなる魔力にあてられて、数名の魔法警備隊員が魔力酔いを起こし始めた。
経験は浅いとは言え魔法警備隊達が酔うほどの魔力とは…………やはり、使用人達が証言した禁忌魔法が関連しているのかもしれない。
応援されて浮かれ気分だったライオは、改めて気を引き締める。
たとえどんな事があろうと、魔力暴走を抑えて令嬢を救い出さなければならいない。ヴォールバーグさんの応援に応えるために!!
神格者の風格を出し始めたライオに魔力酔いを起こしていた魔法警備隊員達も気を引き締める。
そして彼らはマドル家の屋敷の中央広間の扉に辿りついた。
1人が扉の取手を持って、後ろに控えて杖を構えた一班とライオにアイコンタクトを送る。
お互い頷き、その扉が開いて一番最初に目に飛び込んだのは赤だった。
床に、壁に、天井に、鮮やかな鮮血。
咽せ返る血の匂いが充満した部屋には、マドル家当主夫妻と数名の使用人が十字架にかけられていた。
十字架にかけられて人々は服は血に濡れ、目は虚だった。口は涎を垂らしていたり、痙攣したり、何かを呟いたり、喚いていたり。
正に地獄絵図と言って差し支えない光景だった。
警備隊の中には今まで見たことがない酷い光景に胃のものをぶち撒けていた。ライオ自身も喉元まで胃液が届いていた。でも、それを吐き出さなかったには意地か、矜持。
もしくは驚き。
十字架の後ろに処刑人を見下す王のように椅子に座った少女を見つけた。
この地獄の光景には似つかわしくない酷く綺麗で、美しい少女。
職人が丹精込めて作り上げたビスクドールのように整った顔立ち。
社交会でそれなりの数の美女を見てきたつもりだが、この少女以上に美しい顔の女は見た事がなかった。
さらに特徴的なのは黄金に輝く満月みたいな瞳。自分たちに気がついたのか、長いまつ毛に縁取られたその瞳を細めて、微笑む姿は春の訪れを告げる女神のようで、心臓を素手で掴まれたような錯覚に陥る。
一体どこの生娘だと、他の同僚に知られたら笑われるかもしれない感想だが、本当にそれくらい美しい少女だったのだ。
少女はどう思ったのか、女神の微笑みを浮かべたまま椅子から立ち上がった。
そのまま、チャプ、チャプ。と、血溜まりを素足で踏みつけ、人間が架けられた十字架をすり抜けた。
そしてライオ達の前に立った。
何をするのかと、全員が杖を構えても少女は一切動じずに微笑みを浮かべた。
「ごきげんよう。神格者様、魔法警備隊の皆様」
鈴を転がしたような声が響く。
この血塗れの広間を歩いてきたのに、血飛沫一つついていない純白のネグリジェの裾をつまんで恭しく少女は頭を下げた。
まさか挨拶をされると思っていたなった一班の一同は、少女の予想外の行動に固まった。
まさかの行動に思考が飛んだともいう。いや、この状況で挨拶する神経ってナニ…………?
石化した一班の中で一番最初に動いたのはライオだった。流石、光の神杖!オレ達に出来ないことを平然とやってのける!!
「ご機嫌よう、お嬢さん」
いーや、あんたも挨拶返すんかっ!!!魔法警備隊員たちツッコミは声に出されることこど無かったが、心の中では炸裂していた。
そんな事も気にせず。いや、気付いていたのかもしれない少女困ったように笑った。
「迎えも用意する事も出来ずに申し訳ございません。如何んせん取り込み中でして…………」
「別に構わない。ところで、この状況はどういうことだろう。是非ともこの、ライオ・グランツに説明をして欲しい」
「ええ分かりました」
思いの外、あっさり頷いた少女にライオも一班の全員も驚いたらしい。
目をくるりと大きくさせて、いかにもビックリ!という顔をした。
「要点だけを掻い摘んだ5分コースと、一から十まで全部話す1時間コース。どっちにいたしますか?」
「全部話す1時間コースで頼む」
「分かりました。では、ティーセットを用意しますね」
「はぁっ?」
では、ティーセットを用意しますね。
さっきの言葉が反芻するように呟いた。意味が分からなかった。
「長話と言ったらお茶会。お茶会と言ったらティーセットでしょう?」
杖と言ったら魔法でしょう。と、当たり前のことを言いましたが???という顔で、こてんと首を傾げた。
いや、連想ゲーム方式で考えたら分かる。
でも、血塗れの広間、十字架に架けられた人々、魔法警備隊と神格者に追い詰められてる美しい少女……。この状況でティーセットを用意する神経が分からない。
というか理解したらいけない気がする。理解したら自分の中の削れてはいけない何かが削れる気がする…………とは、魔法警備隊員A(匿名希望)の証言である。
「どうぞお掛けになって。紅茶に入れるのはお砂糖ですか、ミルクですか」
「紅茶の種類は?」
「アッサムです」
「ではミルクで頼む」
えっ、いつの間に机とティーセット用意されてるの?なんてライオさんは座って、紅茶頼んでるの???
ハテナいっぱいの魔法警備隊員達を置き去りに少女とライオの話は進む。
「では、全部話す1時間コース。話自体は無料で聞けますが、質問一つにつき100[漢字]L[/漢字][ふりがな]ロンド[/ふりがな]の料金が発生します」
「質問如きで料金が発生するのか……」
「冗談ですよ。では、本格的に話す前に、軽く自己紹介をしておきましょう。私はクローネ・マドル、」
少女が名乗ったのはマドル家の令嬢名前だった。
使用人が零した名前も「クローネお嬢様」………写真と魔力の揺らぎからして少女がマドル家の令嬢なのは間違い無かったが、本人が名乗ったことで確定した。
ライオと魔法警備隊員達は息を呑み、後に続く言葉を待った。
正確な時間として1秒。体感としてはその一瞬が1時間以上の気がして、少女の言葉を今か今かと待ち侘びる。
そして、1秒後。
「猫派か犬派かと利かれたらハシビロコウ派です」
自己紹介の続きだと知ってライオと魔法警備隊員達はずっこけた。
「一班、突入準備完了です」
「こちら三班、目標と思わしき巨大な魔力を屋敷中央で確認」
「了解…………では、これよりマドル家令嬢の魔力暴走鎮圧作戦を開始する!!」
「はい!!」
神格者として与えられたばかりの白く輝くローブをはためかせて、ライオ・グランツはマドル家の屋敷の門を潜った。
貴族の屋敷密集している区域のある場所で巨大な魔力の暴走が確認された。
最初は貴族の屋敷に保管されていた古代の魔法道具の封鎖を解いたのかと考えられていたが、マドル家の屋敷から出てきた使用人達の証言で自体が変わった。
曰く、巨大な魔力はマドル家の令嬢ものだと。
曰く、マドル家の令嬢は禁忌魔法に手を出したのだと。
曰く、マドル家当主夫妻が殺されただと。
酷く怯えて、混乱していた使用人たちが零した言葉はどれもまとまりが無く、現実味がなかった。だが、魔法で記憶や精神を操られていなかを何度か検査してもど正常。
つまり、使用人達は嘘を吐いていなかった。
そこからは魔法警察や魔法警備隊だけではなく、元老院も口出ししてきた。
「禁忌魔法の使用は大罪に当たる。令嬢を処刑せよ」だの「これだけの魔力があるなら捕まえて有用に使うべき」だのなんだの言っていたが、魔法界で一番発言力の強いヴォールバーグ・バガインの「取り敢えず魔力暴走をなんとかするべきじゃろう」の一言で口論は一時休戦を迎え、本格的に令嬢の魔力暴走鎮圧作戦が開始した。
その作戦の斬り込み隊として白羽の矢が立ったのは、神格者になったばかりのライオだった。
本来、神に仕える神格者が貴族の娘一人の魔力暴走如きで駆り出されることはない。では何故か?
それは単純明快。元老院による遠回しの嫌味である。
「神格者になったばじゃりの若造が調子乗ってるんじゃねーぞ。お前みたいなのはこういう地味な仕事がお似合いだぜ(意訳)」という意図にライオは勿論気付いていた。
だが、尊敬してやまない[漢字]ヴォールバーグ[/漢字][ふりがな]魔法界のスーパーレジェンド[/ふりがな]に「頑張るんじゃぞ」と応援されたので、そんな嫌味どうでも良くなるぐらいテンションが上がっていた。
一班はマドル家の屋敷に突入して令嬢の魔力暴走鎮圧と令嬢の保護、二班は近隣に被害が行くのを防ぐ為に結界を張る、三班は魔法局本部で情報統制。ライオは一班の班長として屋敷に突入する。
令嬢の為にも、近隣の住民の為にも、スーパーレジェンドに応援されて心の内でテンションが上がってる神格者ことライオ・グランツはマドル家の中央の一番魔力が濃い場所を目指して歩き進める。
中央に行くにつれて濃くなる魔力にあてられて、数名の魔法警備隊員が魔力酔いを起こし始めた。
経験は浅いとは言え魔法警備隊達が酔うほどの魔力とは…………やはり、使用人達が証言した禁忌魔法が関連しているのかもしれない。
応援されて浮かれ気分だったライオは、改めて気を引き締める。
たとえどんな事があろうと、魔力暴走を抑えて令嬢を救い出さなければならいない。ヴォールバーグさんの応援に応えるために!!
神格者の風格を出し始めたライオに魔力酔いを起こしていた魔法警備隊員達も気を引き締める。
そして彼らはマドル家の屋敷の中央広間の扉に辿りついた。
1人が扉の取手を持って、後ろに控えて杖を構えた一班とライオにアイコンタクトを送る。
お互い頷き、その扉が開いて一番最初に目に飛び込んだのは赤だった。
床に、壁に、天井に、鮮やかな鮮血。
咽せ返る血の匂いが充満した部屋には、マドル家当主夫妻と数名の使用人が十字架にかけられていた。
十字架にかけられて人々は服は血に濡れ、目は虚だった。口は涎を垂らしていたり、痙攣したり、何かを呟いたり、喚いていたり。
正に地獄絵図と言って差し支えない光景だった。
警備隊の中には今まで見たことがない酷い光景に胃のものをぶち撒けていた。ライオ自身も喉元まで胃液が届いていた。でも、それを吐き出さなかったには意地か、矜持。
もしくは驚き。
十字架の後ろに処刑人を見下す王のように椅子に座った少女を見つけた。
この地獄の光景には似つかわしくない酷く綺麗で、美しい少女。
職人が丹精込めて作り上げたビスクドールのように整った顔立ち。
社交会でそれなりの数の美女を見てきたつもりだが、この少女以上に美しい顔の女は見た事がなかった。
さらに特徴的なのは黄金に輝く満月みたいな瞳。自分たちに気がついたのか、長いまつ毛に縁取られたその瞳を細めて、微笑む姿は春の訪れを告げる女神のようで、心臓を素手で掴まれたような錯覚に陥る。
一体どこの生娘だと、他の同僚に知られたら笑われるかもしれない感想だが、本当にそれくらい美しい少女だったのだ。
少女はどう思ったのか、女神の微笑みを浮かべたまま椅子から立ち上がった。
そのまま、チャプ、チャプ。と、血溜まりを素足で踏みつけ、人間が架けられた十字架をすり抜けた。
そしてライオ達の前に立った。
何をするのかと、全員が杖を構えても少女は一切動じずに微笑みを浮かべた。
「ごきげんよう。神格者様、魔法警備隊の皆様」
鈴を転がしたような声が響く。
この血塗れの広間を歩いてきたのに、血飛沫一つついていない純白のネグリジェの裾をつまんで恭しく少女は頭を下げた。
まさか挨拶をされると思っていたなった一班の一同は、少女の予想外の行動に固まった。
まさかの行動に思考が飛んだともいう。いや、この状況で挨拶する神経ってナニ…………?
石化した一班の中で一番最初に動いたのはライオだった。流石、光の神杖!オレ達に出来ないことを平然とやってのける!!
「ご機嫌よう、お嬢さん」
いーや、あんたも挨拶返すんかっ!!!魔法警備隊員たちツッコミは声に出されることこど無かったが、心の中では炸裂していた。
そんな事も気にせず。いや、気付いていたのかもしれない少女困ったように笑った。
「迎えも用意する事も出来ずに申し訳ございません。如何んせん取り込み中でして…………」
「別に構わない。ところで、この状況はどういうことだろう。是非ともこの、ライオ・グランツに説明をして欲しい」
「ええ分かりました」
思いの外、あっさり頷いた少女にライオも一班の全員も驚いたらしい。
目をくるりと大きくさせて、いかにもビックリ!という顔をした。
「要点だけを掻い摘んだ5分コースと、一から十まで全部話す1時間コース。どっちにいたしますか?」
「全部話す1時間コースで頼む」
「分かりました。では、ティーセットを用意しますね」
「はぁっ?」
では、ティーセットを用意しますね。
さっきの言葉が反芻するように呟いた。意味が分からなかった。
「長話と言ったらお茶会。お茶会と言ったらティーセットでしょう?」
杖と言ったら魔法でしょう。と、当たり前のことを言いましたが???という顔で、こてんと首を傾げた。
いや、連想ゲーム方式で考えたら分かる。
でも、血塗れの広間、十字架に架けられた人々、魔法警備隊と神格者に追い詰められてる美しい少女……。この状況でティーセットを用意する神経が分からない。
というか理解したらいけない気がする。理解したら自分の中の削れてはいけない何かが削れる気がする…………とは、魔法警備隊員A(匿名希望)の証言である。
「どうぞお掛けになって。紅茶に入れるのはお砂糖ですか、ミルクですか」
「紅茶の種類は?」
「アッサムです」
「ではミルクで頼む」
えっ、いつの間に机とティーセット用意されてるの?なんてライオさんは座って、紅茶頼んでるの???
ハテナいっぱいの魔法警備隊員達を置き去りに少女とライオの話は進む。
「では、全部話す1時間コース。話自体は無料で聞けますが、質問一つにつき100[漢字]L[/漢字][ふりがな]ロンド[/ふりがな]の料金が発生します」
「質問如きで料金が発生するのか……」
「冗談ですよ。では、本格的に話す前に、軽く自己紹介をしておきましょう。私はクローネ・マドル、」
少女が名乗ったのはマドル家の令嬢名前だった。
使用人が零した名前も「クローネお嬢様」………写真と魔力の揺らぎからして少女がマドル家の令嬢なのは間違い無かったが、本人が名乗ったことで確定した。
ライオと魔法警備隊員達は息を呑み、後に続く言葉を待った。
正確な時間として1秒。体感としてはその一瞬が1時間以上の気がして、少女の言葉を今か今かと待ち侘びる。
そして、1秒後。
「猫派か犬派かと利かれたらハシビロコウ派です」
自己紹介の続きだと知ってライオと魔法警備隊員達はずっこけた。