「 あいつのとなり . 」
#1
最悪の席替え
教室の窓から 、 春の風がカーテンをゆらゆらと揺らしていた 。
黒板の隅には 、 担任の先生がチョークで「 席替え 」と書き終えたばかりの文字が白く光っている 。
「 では 、 くじを引いていきます 。 順番に前に来なさい 」
机を動かす音がざわめく中 、 [漢字]八木[/漢字][ふりがな]やぎ[/ふりがな] [漢字]猶呂夢[/漢字][ふりがな]ゆろね[/ふりがな]は静かに息を吐いた 。
腰まで伸びた黒いポニーテールが 、 ほんの少し揺れる 。
( ……誰の隣になるかなんて 、 どうでもいい 。 ……でも 、 男子の隣だけは勘弁してほしい )
マスクの奥で小さく舌打ちをすると 、 無表情のまま自分のくじを握りしめた 。
番号は「 17 」 。
前の席の男子が「 おー 、 俺3番! 」と声を上げて喜ぶのを横目に 、 八木はゆっくりと席を移動した 。
廊下側の列 、 一列目の席 。
歩くたびに 、 床のきしむ音が小さく響く 。
クラスメイトたちの笑い声 、 くじの結果に一喜一憂する声 、 机を引く音が 、 すべて遠く聞こえた 。
( ……17番 、 17番…… )
心の中で数字を唱えながら 、 八木は自分の席を探した 。
そして 、 17番の机の前に立った瞬間 、 彼女の黒いジト目が微かに細くなった 。
「 ……うわ 」
そこには 、 すでに座っている男子の姿があった 。
ツヤツヤした黒い短髪 。
低身長なのに足が長く見えるバランス 。
普通に整った顔立ちに 、 今は面倒くさそうな目を細めている 。
[漢字]妹生[/漢字][ふりがな]せお[/ふりがな] [漢字]稑人[/漢字][ふりがな]りくと[/ふりがな] 。
バレーボール部のムードメーカー 。
男子からはやたらと頭を撫でられる 、 女子にはやたらと態度がキツい 、 クズで生意気な奴 。
( ……最悪 。 なんでこの人の隣…… )
八木は心の内で何度も「 最悪 」と呟きながら 、 静かに机を引いた 。
ガタン 、 と音を立てて机を配置するが 、 彼女の机は妹生の机から明らかに「 これ以上離れる? 」という距離だった 。
机の端と端の間に 、 わずかな隙間 。
教科書一冊分ほどの 、 目に見えない壁 。
( ……これでいい 。 ……これ以上 、 近づかないで )
八木はカバンを机の横に置き 、 椅子に座った 。
背筋を伸ばし 、 姿勢を正す 。
まるで「 私は 、 あなたとは関わりません 」という意思表示のように 。
妹生もまた 、 机を少しだけ自分の側へ引いた 。
椅子の足が 、 床をこずる音が小さく響く 。
まるで 、 自分も近づきたくないという態度を 、 静かに主張しているようだった 。
奴は椅子に深く腰をかけ 、 足を組んだ 。
長い足が 、 机の下で少しだけ八木の側へと伸びているのに 、 自分では気づいていない様子 。
( ……足 、 長いな 。 ……でも 、 こっちに来ないで )
八木は足をそっと引き 、 自分の机の下に収めた 。
ポニーテールが 、 ほんの少し揺れる 。
妹生は腕を組み 、 窓の外を眺め始めた 。
この場の退屈さを隠していない 。
( この人 、 めっちゃだるそう 。 ……でも 、 こっちも話したくないし )
八木は教科書を取り出し 、 机の上に置いた 。
表紙の角を 、 机の端にぴったりと合わせる 。
整然とした動作に 、 彼女の秩序を好む性格が表れていた 。
妹生は 、 その様子を横目で見た 。
だが 、 何も言わない 。
ただペンを一本取り出し 、 机の上で転がし始めた 。
カランカランと小さな音が響く 。
八木は眉を少しだけ動かしたが 、 何もしなかった 。
( ……うるさい 。 ……でも 、 なんかしたら 、 関わりになっちゃうし )
八木は静かに息を吐き 、 視線を黒板に向けた 。
黒板の「 席替え 」という文字が 、 まだ白く光っている 。
クラスメイトたちのざわめきが 、 徐々に落ち着いていく 。
新しい席で友達と話し始める声 、 隣になった相手に挨拶をする声 。
だが 、 17番の席だけ 、 静かなままだった 。
八木はマスクの奥で 、 小さく息を吐いた 。
( ……この人の隣で過ごすのか…… )
妹生もまた 、 小さく息を吐いた 。
二人の机の間には 、 まだ少しだけ 、 目に見えない距離が残っていた 。
教科書一冊分ほどの 、 心の壁 。
担任の先生が「 では 、 授業を始めます 」と声をかける 。
八木はノートを開き 、 妹生はペンを回し始めた 。
二人の間に 、 言葉は生まれなかった 。
黒板の隅には 、 担任の先生がチョークで「 席替え 」と書き終えたばかりの文字が白く光っている 。
「 では 、 くじを引いていきます 。 順番に前に来なさい 」
机を動かす音がざわめく中 、 [漢字]八木[/漢字][ふりがな]やぎ[/ふりがな] [漢字]猶呂夢[/漢字][ふりがな]ゆろね[/ふりがな]は静かに息を吐いた 。
腰まで伸びた黒いポニーテールが 、 ほんの少し揺れる 。
( ……誰の隣になるかなんて 、 どうでもいい 。 ……でも 、 男子の隣だけは勘弁してほしい )
マスクの奥で小さく舌打ちをすると 、 無表情のまま自分のくじを握りしめた 。
番号は「 17 」 。
前の席の男子が「 おー 、 俺3番! 」と声を上げて喜ぶのを横目に 、 八木はゆっくりと席を移動した 。
廊下側の列 、 一列目の席 。
歩くたびに 、 床のきしむ音が小さく響く 。
クラスメイトたちの笑い声 、 くじの結果に一喜一憂する声 、 机を引く音が 、 すべて遠く聞こえた 。
( ……17番 、 17番…… )
心の中で数字を唱えながら 、 八木は自分の席を探した 。
そして 、 17番の机の前に立った瞬間 、 彼女の黒いジト目が微かに細くなった 。
「 ……うわ 」
そこには 、 すでに座っている男子の姿があった 。
ツヤツヤした黒い短髪 。
低身長なのに足が長く見えるバランス 。
普通に整った顔立ちに 、 今は面倒くさそうな目を細めている 。
[漢字]妹生[/漢字][ふりがな]せお[/ふりがな] [漢字]稑人[/漢字][ふりがな]りくと[/ふりがな] 。
バレーボール部のムードメーカー 。
男子からはやたらと頭を撫でられる 、 女子にはやたらと態度がキツい 、 クズで生意気な奴 。
( ……最悪 。 なんでこの人の隣…… )
八木は心の内で何度も「 最悪 」と呟きながら 、 静かに机を引いた 。
ガタン 、 と音を立てて机を配置するが 、 彼女の机は妹生の机から明らかに「 これ以上離れる? 」という距離だった 。
机の端と端の間に 、 わずかな隙間 。
教科書一冊分ほどの 、 目に見えない壁 。
( ……これでいい 。 ……これ以上 、 近づかないで )
八木はカバンを机の横に置き 、 椅子に座った 。
背筋を伸ばし 、 姿勢を正す 。
まるで「 私は 、 あなたとは関わりません 」という意思表示のように 。
妹生もまた 、 机を少しだけ自分の側へ引いた 。
椅子の足が 、 床をこずる音が小さく響く 。
まるで 、 自分も近づきたくないという態度を 、 静かに主張しているようだった 。
奴は椅子に深く腰をかけ 、 足を組んだ 。
長い足が 、 机の下で少しだけ八木の側へと伸びているのに 、 自分では気づいていない様子 。
( ……足 、 長いな 。 ……でも 、 こっちに来ないで )
八木は足をそっと引き 、 自分の机の下に収めた 。
ポニーテールが 、 ほんの少し揺れる 。
妹生は腕を組み 、 窓の外を眺め始めた 。
この場の退屈さを隠していない 。
( この人 、 めっちゃだるそう 。 ……でも 、 こっちも話したくないし )
八木は教科書を取り出し 、 机の上に置いた 。
表紙の角を 、 机の端にぴったりと合わせる 。
整然とした動作に 、 彼女の秩序を好む性格が表れていた 。
妹生は 、 その様子を横目で見た 。
だが 、 何も言わない 。
ただペンを一本取り出し 、 机の上で転がし始めた 。
カランカランと小さな音が響く 。
八木は眉を少しだけ動かしたが 、 何もしなかった 。
( ……うるさい 。 ……でも 、 なんかしたら 、 関わりになっちゃうし )
八木は静かに息を吐き 、 視線を黒板に向けた 。
黒板の「 席替え 」という文字が 、 まだ白く光っている 。
クラスメイトたちのざわめきが 、 徐々に落ち着いていく 。
新しい席で友達と話し始める声 、 隣になった相手に挨拶をする声 。
だが 、 17番の席だけ 、 静かなままだった 。
八木はマスクの奥で 、 小さく息を吐いた 。
( ……この人の隣で過ごすのか…… )
妹生もまた 、 小さく息を吐いた 。
二人の机の間には 、 まだ少しだけ 、 目に見えない距離が残っていた 。
教科書一冊分ほどの 、 心の壁 。
担任の先生が「 では 、 授業を始めます 」と声をかける 。
八木はノートを開き 、 妹生はペンを回し始めた 。
二人の間に 、 言葉は生まれなかった 。