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 「 人間失格同盟 」

#2

同盟名

翌朝 、 二人は時計塔の屋上にいた 。 
 
ここは学園でもっとも風が強く 、 もっとも景色がよく 、 そしてもっとも落ち着かない場所だった 。

下を見れば中庭 、 遠くを見れば雲の切れ目 、 そして真ん中に、 なぜか置かれている丸いテーブル 。

紅茶でも飲めと言わんばかりの配置だが 、 もちろんそんな優雅さはない 。

「 で 、 同盟名どうするよ 」

黒髪の男の子が 、 テーブルに頬杖をついて言った 。

「 え 、 今決めるの 」

「 昨日 、 保健室の人が言ってたろ。名前は大事だって 」

「 たしかに 」

「 で 、 どうする 」

白い紙を前にして 、 二人はしばらく黙った 。

名前 。

それは、失くしたものの中でも 、 とくに手触りのあるものだった 。

自分が自分であるために必要なのに 、 思い出そうとするとするりと逃げる 。

「 ……“記憶回収同盟” 」

「 ダサい 」

「 即答やめろ 」

「 “失われし者たちの集い” 」

「 長い 」

「 “ぼくらはまだ人間になれる” 」

「 恥ずかしい 」

「 うるさいな 」

しばらく言い合ったあと 、 二人は同時にため息をついた 。

「 じゃあ、いっそ…… 」

黒髪の男の子が 、 紙の端を指でつつく 。

「 人間失格同盟 」

「 ……それ 、 最悪じゃない? 」

「 でも覚えやすい 」

「 自分で最悪って言ったよね今 」

「 言った 」

「 なんでちょっと誇らしげなの 」

けれど 、 言葉にした瞬間 、 妙にしっくりきてしまった 。

失格 。

その響きは確かに冷たい 。

でも 、 二人で言えば 、 少しだけ滑稽で 、 少しだけ救いがあった 。

「 ……まあ 、 ありかも 」

「 だろ 」

「 じゃあ 、 決まり 」

そのときだった 。

パラ 、 と紙の上に影が落ちる 。

見上げると 、 頭上を一羽の奇妙な鳥が飛んでいた 。

いや 、 鳥というより 、 紙でできた鳥だった 。

羽ばたくたびに 、 体の端が文字みたいにほどけている 。

「 なにあれ 」

「 お知らせ鳥 」

「 そんな雑な名前? 」

「 この学園 、 だいたいそう 」

紙鳥は二人の前に降りると 、 くちばしの代わりに封筒を落とした 。

封筒には 、 たった一文 。

――今日から“記憶の欠片”収集を開始せよ 。

「 ……何それ 」

「 わからない 」

「 またかよ 」

「 でも 、 たぶん行く場所がある 」

黒髪の男の子は 、 封筒の裏をひっくり返した 。 

そこには地図が雑に描かれている 。

学園の奥 、 閉ざされた温室 、 立入禁止の文字 。

その下に 、 薄い鉛筆書きでこうあった 。

“忘れ物は、花の中にある”

「 花の中? 」

「 意味わかんない 」

「 でも行くしかない 」

二人は立ち上がった 。

時計塔の鐘が 、 遠くでひとつ鳴る 。

空の色が少しだけ変わった気がした 。

まるで学園そのものが、二人の決意を聞いていたみたいに 。

温室へ向かう途中 、 廊下の壁に貼られた鏡が 、 ふいに二人を映した 。

その中の自分たちは 、 少しだけ違って見えた 。

まだ何も思い出していない 。

けれど 、 昨日よりも少しだけ 、 ひとりではなかった 。

「 ねえ 」

「 ん? 」

「 お前 、 名前あると思う? 」

「 ……知らない 。 でも 、 呼ばれた気はする 」

「 俺も 」

黒髪の男の子は 、 少しだけ歩く速度をゆるめた 。

「 じゃあさ 」

「 ん 」

「 思い出せるまで 、 仮の名前つける? 」

「 仮? 」

「 そう 。 すぐ忘れてもいいやつ 」

「 ……いいかも 」

「 俺は 、 そうだな 。 黒いからクロでいい 」

「 雑! 」

「 じゃあそっちは? 」

白い紙を持っていたほうの男の子は 、 少し考えてから答えた 。

「 ……シロ 、 でいいんじゃない 」

「 雑じゃん 」

「 お前が言うな 」

そう言って 、 二人は初めて少し笑った 。

笑ったあとで、なぜか胸の奥があたたかくなる 。

その感覚が 、 すごく久しぶりな気がした 。

温室の扉は 、 固く閉ざされていた 。

つる草が鍵穴まで巻きつき 、 ガラスの内側には 、 見たことのない白い花が咲いている 。

クロがドアノブに手をかける 。

「 開くかな 」

「 開かなかったら 、 殴る 」

「 物騒 」

「 失格同盟だからな 」

「 今のでちょっと納得したの悔しい 」

ぎい 、 と古い扉が開く 。

中から流れてきたのは 、 土と花の匂いだった 。

それに混じって 、 かすかに甘い 、 懐かしい匂いがする 。

シロは足を止めた 。

「 ……この匂い 」

「 思い出した? 」

「 いや 、 でも…… 」

胸の奥が 、 ずきりと鳴った 。

何か大事なものが 、 すぐそこにある気がする 。

届きそうで 、 届かない 。

その感覚に 、 なぜか涙が出そうになる 。

温室の奥で 、 白い花が一斉に揺れた 。

そして、その中央に――

ひとつだけ 、 黒い花が咲いていた 。

「 ……あれ 」

クロが息をのむ 。

花の中心に 、 小さな札がぶら下がっていた 。

[中央寄せ] “最初の欠片”[/中央寄せ]

ふたりは顔を見合わせる 。

この学園で 、 何かが始まろうとしている 。

そしてそれは 、 きっとただの記憶集めじゃない 。

人間失格同盟は 、 名前を決めたばかりだ 。

けれど 、 もう戻れないほど深く 、 物語は動き出していた 。

作者メッセージ

クレしんの シロ 好き 。

2026/07/28 21:30

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