いつもの喧嘩 、 いつもの好き
「 なんかいつも眠そうだし 」
そう言ったりうらの声は 、 半分あきれたみたいで 、 半分はただのじゃれ合いだった 。
放課後の静かな部屋 。
窓の外はもう暗く 、 机の上のスマホだけがやけに明るい 。
その光の中で 、 ほとけは相変わらずのんびりと画面を見つめたまま 、 ほとんど悪びれもせずに言う 。
「 だって 、 眠いもん 」
「 そういうとこだよ 」
「 え 、 酷 」
「 ひどくない 。 いつもそうだし 」
言いながら 、 りうらはため息をついた 。
けれど 、 その声には本気の怒りなんてほとんどない 。
むしろ 、 何度も繰り返してきたやり取りに 、 少しだけ安心しているみたいでもあった 。
「 なんかいつもつまんなそうだし 」
「 なんかいつもヤバそうだし 」
「 なんかいつもスマホいじってるし 」
畳みかけるように言うと 、 ほとけはようやく顔を上げた 。
その表情は 、 やっぱりどこかふわふわしていて余裕があって 、 でも少しだけずるい 。
「 そんなことないよ? 」
「 ある 」
「 ないって 」
「 ある 。 絶対ある 」
「 りうちゃん 、 観察力高すぎない?笑 」
「 観察してるんじゃなくて 、 見えてるだけ 」
その言葉に 、 ほとけは一瞬きょとんとして 、 それからくすりと笑った 。
その笑い方が 、 りうらにはいちばん悔しい 。
怒ってるはずなのに 、 空気だけがどんどんやわらかくなっていく 。
「 ホントはテンション高いのに 」
「 りうらといると超低いし 」
言い終わったあと 、 りうらは自分でも少しむずがゆくなって視線をそらした 。
ほとけは 、 そんな様子を見逃さない 。
「 え 、 それはさすがに違くない? 」
「 違わないから 」
「 違うって 」
「 ほんとになんなの 、 ほとけっち 。 嫌い 、 大嫌い 。 どうでもいい! 」
最後は 、 わざとらしいくらい強く言った 。
でも 、 ほとけはそれを真正面から受ける代わりに 、 少しだけ目を細める 。
「 だったらぼくも言うけど 」
声の調子が変わる 。
ふざけているみたいで 、 でもちゃんと応戦してくる 。
その感じが天才組らしい 。
「 ちっちゃい事ですぐ怒るし 」
「 言い返したらすぐ泣くし 」
「 ごめんって言っても許してくれないし 」
「 泣いてないし 」
「 今ちょっと泣きそうだったでしょ 」
「 泣いてないって!! 」
「 その割すぐくっついてくるし 」
「 あぁなんて罪深い人なんだ 」
「 畜生!!もう知らないもん!! 」
どちらが悪いとも言えない 。
でも 、 どちらも相手のことをよく知っている 。
その知りすぎている感じが 、 喧嘩みたいで 、 仲良しみたいで 、 どちらとも言えなかった 。
「 ……で? 」
ほとけが、ふっと声を落とす 。
さっきまでの勢いが嘘みたいに 、 少しだけ静かになる 。
「 で、何 」
「 ほんとに知らないの? 」
「 ……知らない 」
「 嘘つき 」
その一言だけで 、 りうらの胸は妙にざわついた 。
ほとけはもう笑っていない 。
それなのに 、 なぜか優しい顔をしている 。
夕方の部屋に落ちた沈黙は 、 さっきまでの喧嘩とは違っていた 。
言い合いの熱はまだ残っているのに 、 どこか甘くて 、 逃げ場がない 。
りうらは 、 さっきより少しだけ小さな声で言った 。
「 ……ほんとは、知ってるくせに 」
ほとけは何も答えない 。
ただ 、 机の上に置いたままだった手を 、 ほんの少しだけりうらのほうへ寄せた 。
その仕草だけで 、 もう十分だった 。
いつもふざけて 、 いつもぶつかって 、 いつもすれ違う 。
でも最後には 、 ちゃんと隣に戻ってくる 。
それが 、 天才組のいつもの形だった 。
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