体育館の床に 、 ボールの弾む音が乾いたリズムを刻んでいた 。
「 見よ 、 この一撃 。 我が雷撃サーブ—— 」
「 長い 」
[漢字]白夢[/漢字][ふりがな]しらゆめ[/ふりがな] [漢字]優羽[/漢字][ふりがな]ゆう[/ふりがな]は 、 無感情にそう言いながらトスを上げた 。
[漢字]柳木[/漢字][ふりがな]やなぎ[/ふりがな] [漢字]天音[/漢字][ふりがな]あまね[/ふりがな]は一瞬だけむっとした顔をするが 、 すぐに表情を作り直す 。
長い髪を揺らし 、 高く跳ぶ 。
「 ——神の裁きだ! 」
打球は 、 鋭くコートの隅へ突き刺さった 。
「 ナイスキー 」
優羽の淡々とした声が飛ぶ 。
その一言だけで 、 天音の機嫌はあっさり戻る 。
「 当然だ 。 我にかかればこの程度—— 」
「 調子乗るな 。 次レシーブ来るぞ 」
「 ……うむ 」
少しだけ声が小さくなるのを 、 優羽は見逃さなかった 。
部員たちはそんな2人のやり取りを 、 半ば呆れながらも 、 どこか安心した顔で見ている 。
天音は 、 確かに変だ 。
自分を神と名乗るし 、 言動もいちいち大げさだ 。
けれど 、 誰よりも練習するし 、 誰よりも勝ちたがる 。
そして 、 誰よりも——チームを見ている 。
「 はい集合ー 」
優羽の一声で 、 全員が自然と集まる 。
「 今のローテ 、 後衛のカバー遅れてる 。 天音のスパイクに頼りすぎ 。 もっと分散しろ 」
淡々とした指摘に 、 部員たちは素直に頷く 。
天音は腕を組み 、 偉そうに頷いた 。
「 うむ 、 我の力に依存するのは当然だが—— 」
「 お前もだよ 」
「 ……我? 」
「 さっきの一本 、 決まったのは前衛が引きつけたからだ 。 1人でやってるつもりなら勘違い 」
一瞬 、 空気が止まる 。
けれど優羽は 、 いつも通りの顔で続ける 。
「 部長だろ 。 ちゃんと全体見ろ 、 神様 」
天音は黙り込む 。
少しだけ視線を落として 、 それから 、 ふっと笑った 。
「 ……ふ 、 当然だ 。 我はすべてを見通す存在 」
「 なら最初からやれ 」
「 厳しいな 、 我が右腕は 」
「 左でもいいけど 」
「 どちらでも良いわ! 」
思わず声を上げた天音に 、 周りがくすっと笑う 。
その空気を見て 、 優羽はほんのわずかに口元を緩めた 。
練習終わり 。
夕焼けの体育館で 、 ボールを片付けながら 、 天音がぽつりと呟く 。
「 優羽 」
「 ん? 」
「 ……その 、 だな 」
珍しく歯切れが悪い 。
優羽は動きを止めて 、 天音を見る 。
天音は目を逸らしながら言った 。
「 今日の一撃……見事だったであろう 」
「 自分で言うな 」
「 だが 、 お前のトスがなければ成り立たなかったのも事実だ 」
優羽は少しだけ目を細める 。
「 ……珍しく素直だな 」
「 我は常に真実を語る 」
「 はいはい 」
軽く受け流しながらも 、 優羽の声は少し柔らかい 。
「 でも 、 まあ 」
ボールをかごに入れながら 、 続ける 。
「 お前のスパイクは強いよ 。 だから合わせてる 」
天音は一瞬だけ 、 言葉を失った 。
それから 、 ふっと笑う 。
「 当然だ 。 我は神だからな 」
「 はい神様 」
「 だが—— 」
天音は 、 優羽の方をまっすぐ見た 。
「 お前がいるから 、 だ 」
静かな体育館に 、 その言葉だけが残る 。
優羽は一拍おいて 、 肩をすくめた 。
「 知ってる 」
短い返事 。
けれど 。 それだけで十分だった 。
夕焼けの中 、 2人は並んで体育館を出る 。
神を名乗る少女と 、 それを現実に引き戻す少女 。
どちらが上かなんて 、 きっとどうでもいい 。
ただ——その背中は 、 同じ方向を向いていた 。