閲覧前に必ずご確認ください
ご本人様とは一切の関係ございません 。
逆光のステージ 。
開演十分前 。
ステージ裏の廊下には 、 低く響く重低音と 、 客席から届く無数の歓声が混ざり合っていた 。
壁にもたれ 、 黒いイヤモニを指先でいじりながら 、 赫は短く息を吐いた 。
緊張しているわけではない 。
少なくとも 、 そういうことにしていた 。
今日のライブは 、 いつものライブとは違う 。
白と黒 、 二つに分かれて競い合ってきた自分たちが 、
初めて「 六人で一つの答えを見せる 」ためのステージだった 。
負けたくない 。
誰にも 。
だけど同時に 、 隣にいる仲間にも勝ってほしいと思ってしまう 。
そんな矛盾が 、 胸の奥でずっと音を立てていた 。
「 顔 、 こわくない? 」
不意に 、 すぐそばから声が落ちた 。
振り返ると 、 翠が紙コップを二つ持って立っていた 。
赫に一つをそっと渡す 。
「 別に 」
「 別に 、 で済む顔じゃないけど 」
「 …… 翠こそ 、 余裕そうに見せるのうまいよな 」
赫が受け取ったコップは 、 温かかった 。
翠は隣の壁に寄りかかり 、 舞台袖の明かりを見つめる 。
「 余裕じゃないよ 」
「 俺も 、 普通に怖い 」
その言葉はあまりにもあっさりしていて 、 赫は少しだけ目を見開いた 。
翠は前を向いたまま続ける 。
「 ここまで来たんだなって思うとさ 。 デビューしたばっかの頃なら 、 こんな場所に立つことなんて想像できなかったし 」
「 … それはそう 」
「 でも 、 想像できなかったからって 、 無理だとは思わなかっただろ? 」
翠は答えなかった 。
答えられなかった 、 というほうが近い 。
オーディションの頃から 、 翠は不思議だった 。
誰よりも軽い口調で 、 誰よりもまっすぐなことを言う 。
明るく見えて 、 実はずっと周りを見ている 。
そして 、 どんなに厳しい場面でも 、 絶対に仲間を置いていかない 。
「 赫 」
名前を呼ばれ 、 視線を上げる 。
翠は笑っていた 。
「 今日 、 勝とうな 」
「 …… [漢字]黒組[/漢字][ふりがな]俺達[/ふりがな]に? 」
「 違う 」
翠は首を横に振った 。
「 クロノヴァとして 」
一瞬だけ 、 廊下の音が遠くなった気がした 。
白と黒 。
対立 。
競争 。
それらは確かに自分たちを強くした 。
ぶつかるたびに悔しくなって 、 悔しいたびに練習して 、 誰かの背中を追いかけてきた 。
けれど 、 最後に立つステージには 、 敵なんていなかった 。
いるのは六人だけだ 。
「 …… 当たり前だろ 」
赫はコップを握り直し 、 少しだけ笑った 。
「 ここまで来たなら 、 全員まとめて連れて行くから 」
「 それでこそ赫 」
かなめが肩を軽くぶつけてくる 。
「 頼りにしてる 」
「 急に言うなよ 」
「 言えるときに言っとかないと 」
「 じゃあ俺からも言っとく 」
赫は立ち上がった 。
舞台袖の向こうから 、 スタッフの声が聞こえる 。
―― まもなく本番です 。
「 翠 。 今日 、 お前の声で会場をひっくり返せ 」
翠が一度だけ目を丸くし 、 それから 、 いつもより少し大きく笑った 。
「 任せて 」
本番 。
照明が落ちた 。
闇の中で 、 観客のペンライトだけが星のように揺れている 。
息を吸う 。
隣には翠がいる 。
少し離れた場所には 、 同じ舞台を目指して走ってきた仲間たちがいる 。
イントロが鳴った 。
その瞬間 、 赫はもう迷わなかった 、
翠の歌声が会場を切り裂くように響く 。
赫はその背中に負けない声を重ねた 。
白でも黒でもない 。
対立だけでは終わらない 。
ぶつかり合った時間も 、 悔しさも 、 支えられた瞬間も 、 すべてを歌に変えて 。
六人の声が一つになる 。
―― ここから 、 もっと先へ行く 。
大歓声の中 、 クロノヴァは前へ踏み出した 。
まるで 、 時間そのものを逆転させるみたいに 。
クリップボードにコピーしました
通報フォーム
この小説の著作権は ゆ ろ ね さ ん .ᐟ .ᐟさんに帰属します
この小説は、題材となった原作、人物、それに関わる団体等と一切関係ありません