Wi-Fiの海で迷子になる。
放課後の教室は 、 西日に照らされてオレンジ色の粉塵が静かに舞っていた 。
ハルトは机の上でスマホを握りしめ 、 親指で何度も画面を下にスワイプした 。
更新マークがくるくると回り 、 また同じ画面が表示される 。
「 ……また 、 増えてない 」
投稿したばかりの 、 飼い犬の動画 。
再生回数は三回 。 そのうちの一回は自分だ 。
クラスの誰かが「 昨日の動画 、 面白かったよ 」と言ってくれるのを期待していたけれど
、 現実は静まり返った通知欄がそこにあるだけだった 。
( 僕の日常は 、 誰にも届いていないのかな )
そんなことを考えていると 、 不意に視界の端で影が揺れた 。
「 ハルトくんも 、 それやってるの? 」
隣の席のミナが 、 タブレットを抱えて立っていた 。
彼女の画面には 、 色鮮やかな加工が施された写真が並んでいる 。
彼女はクラスでも一目置かれる存在で 、 いつも「 映える 」写真を撮ることに余念がない 。
「 ……別に 。 ただの暇つぶしだよ 」
「 嘘。さっきからずっと 、 通知が来るのを待ってた顔してた 」
ミナは悪びれもせずそう言うと 、 ハルトの隣の席に腰を下ろした 。
彼女の瞳には 、 どこか大人びた 、 それでいて少し疲れたような色が混じっている 。
「 ねえ、ハルトくん 。 たまにさ 、 自分が誰に見られているのか分からなくなることない? 」
ミナはタブレットの電源を切り 、 黒い画面に映る自分の顔をじっと見つめた 。
「 画面の中の私は 、 みんなが『 可愛い 』って言ってくれる私だけど 、 今の私は 、
ただの宿題を忘れた小学生でしかない 。 どっちが本当の私なのか 、 たまに分からなくなるの 」
ハルトは言葉に詰まった 。
彼女が言ったことは 、 まさに自分が抱えていた「 正体不明のモヤモヤ 」そのものだったからだ 。
SNSで「 いいね 」をもらうたびに 、 自分という存在が少しずつ認められているような気がする 。
でも 、 その数字が減ったり 、 反応がなかったりすると 、
まるで自分という人間そのものが否定されたような気分になる 。
「 ……帰ろうか 」
ハルトはスマホをポケットに突っ込んだ 。
二人は無言で校舎を歩き 、 誰も使っていない古い理科室の裏へ向かった 。
そこは 、 校舎の影になっていて 、 なぜかスマホのアンテナが一本も立たない場所だった 。
「 ここ 、圏外なんだよ 」
ミナが笑った 。
その笑顔は 、 SNSで見るどのフィルターをかけた写真よりも 、 ずっと自然で 、 ずっと可愛かった 。
「 圏外か 。 ……なんか 、 ちょっとだけホッとするね 」
ハルトは初めて 、 スマホの画面を見ずにミナの顔を見た 。
風が吹き抜け 、 木々の葉が揺れる音が聞こえる 。
Wi-Fiの電波も 、 通知の音も 、 誰かの評価も届かない場所 。
そこには 、 ただ二人の子供がいるだけだった 。
「 ねえ 、 ハルトくん 」
ミナが空を見上げた 。
「 もし 、 世界からインターネットが消えたら 、 私たちはどうなるんだろうね 」
「 どうなるかな 。 ……たぶん 、 今よりずっと不便で 、 今よりずっと退屈だと思う 」
ハルトは少し考えてから 、 付け加えた 。
「 でも 、 今よりずっと 、 自分の声が聞こえる気がする 」
ミナは少しだけ驚いた顔をして 、 それからふわりと微笑んだ 。
「 それ 、 いいね 。 今日は動画の編集 、 やめてみる 。 代わりに 、 あそこの公園で猫を探さない? 」
ミナの提案に 、 ハルトは小さく頷いた 。
ポケットの中のスマホが 、 まるで遠い世界の遺物のように感じられた 。
二人は並んで歩き出した 。
夕暮れの空は 、 どんなフィルターよりも鮮やかなオレンジ色に染まっていた 。
それは 、 誰の「 いいね 」も必要としない 、 二人だけの特別な時間だった 。
ハルトは机の上でスマホを握りしめ 、 親指で何度も画面を下にスワイプした 。
更新マークがくるくると回り 、 また同じ画面が表示される 。
「 ……また 、 増えてない 」
投稿したばかりの 、 飼い犬の動画 。
再生回数は三回 。 そのうちの一回は自分だ 。
クラスの誰かが「 昨日の動画 、 面白かったよ 」と言ってくれるのを期待していたけれど
、 現実は静まり返った通知欄がそこにあるだけだった 。
( 僕の日常は 、 誰にも届いていないのかな )
そんなことを考えていると 、 不意に視界の端で影が揺れた 。
「 ハルトくんも 、 それやってるの? 」
隣の席のミナが 、 タブレットを抱えて立っていた 。
彼女の画面には 、 色鮮やかな加工が施された写真が並んでいる 。
彼女はクラスでも一目置かれる存在で 、 いつも「 映える 」写真を撮ることに余念がない 。
「 ……別に 。 ただの暇つぶしだよ 」
「 嘘。さっきからずっと 、 通知が来るのを待ってた顔してた 」
ミナは悪びれもせずそう言うと 、 ハルトの隣の席に腰を下ろした 。
彼女の瞳には 、 どこか大人びた 、 それでいて少し疲れたような色が混じっている 。
「 ねえ、ハルトくん 。 たまにさ 、 自分が誰に見られているのか分からなくなることない? 」
ミナはタブレットの電源を切り 、 黒い画面に映る自分の顔をじっと見つめた 。
「 画面の中の私は 、 みんなが『 可愛い 』って言ってくれる私だけど 、 今の私は 、
ただの宿題を忘れた小学生でしかない 。 どっちが本当の私なのか 、 たまに分からなくなるの 」
ハルトは言葉に詰まった 。
彼女が言ったことは 、 まさに自分が抱えていた「 正体不明のモヤモヤ 」そのものだったからだ 。
SNSで「 いいね 」をもらうたびに 、 自分という存在が少しずつ認められているような気がする 。
でも 、 その数字が減ったり 、 反応がなかったりすると 、
まるで自分という人間そのものが否定されたような気分になる 。
「 ……帰ろうか 」
ハルトはスマホをポケットに突っ込んだ 。
二人は無言で校舎を歩き 、 誰も使っていない古い理科室の裏へ向かった 。
そこは 、 校舎の影になっていて 、 なぜかスマホのアンテナが一本も立たない場所だった 。
「 ここ 、圏外なんだよ 」
ミナが笑った 。
その笑顔は 、 SNSで見るどのフィルターをかけた写真よりも 、 ずっと自然で 、 ずっと可愛かった 。
「 圏外か 。 ……なんか 、 ちょっとだけホッとするね 」
ハルトは初めて 、 スマホの画面を見ずにミナの顔を見た 。
風が吹き抜け 、 木々の葉が揺れる音が聞こえる 。
Wi-Fiの電波も 、 通知の音も 、 誰かの評価も届かない場所 。
そこには 、 ただ二人の子供がいるだけだった 。
「 ねえ 、 ハルトくん 」
ミナが空を見上げた 。
「 もし 、 世界からインターネットが消えたら 、 私たちはどうなるんだろうね 」
「 どうなるかな 。 ……たぶん 、 今よりずっと不便で 、 今よりずっと退屈だと思う 」
ハルトは少し考えてから 、 付け加えた 。
「 でも 、 今よりずっと 、 自分の声が聞こえる気がする 」
ミナは少しだけ驚いた顔をして 、 それからふわりと微笑んだ 。
「 それ 、 いいね 。 今日は動画の編集 、 やめてみる 。 代わりに 、 あそこの公園で猫を探さない? 」
ミナの提案に 、 ハルトは小さく頷いた 。
ポケットの中のスマホが 、 まるで遠い世界の遺物のように感じられた 。
二人は並んで歩き出した 。
夕暮れの空は 、 どんなフィルターよりも鮮やかなオレンジ色に染まっていた 。
それは 、 誰の「 いいね 」も必要としない 、 二人だけの特別な時間だった 。
クリップボードにコピーしました