ささみ
今も残っている、優しく頭を撫でてくれる柔らかい手のひらの感触が。
「笑実の笑顔は世界一よ」
あたたかいお母さんの声が。
ーーーーーーーーーーーーーーー
お母さんが夜空で瞬く星になってから5年が過ぎた。
落ち込んで引きこもることも、泣き暮れて過ごすなんてこともない。今だって部活の友達とのカラオケ帰りで、普通に笑えていて。
だけど、私の笑顔ってこんなだっけ。私はもう、お腹の底から笑う感覚を忘れてしまった。
それから、泣くことも。
いつだって瞳は乾いていて、目の奥が熱くなるなんてもう、どんなだったっけ。
お母さんが死んでから重くなったように感じる玄関の扉を私は静かに開いた。
扉が開いた音でお父さんがゆっくりと振り向く。
「笑実、おかえり」
「、、、ただいま、お父さん」
電気もついていない部屋は、整頓されているはずなのにどこか雑然として見える。
「笑実、お前髪がだいぶ伸びてきたなぁ。目も前髪に隠れてるじゃないか、切らないのか?」
「んー、また今度」
お母さんが私の髪を綺麗だって言ってくれたから、たったそれだけの理由だけど、私はここ数年美容院に行っていない。
それに、前髪が乾いた私の目を隠してくれそうだから。
自分の部屋に戻った私は、パチっと電気を消した。部屋が暗闇に包まれる。
思わず常夜灯をつけた。
やさしい赤色のカーテンを開くと、夜空には星が瞬いていた。ひときわ強く瞬いているのはきっと、夏の大三角。
お母さんが死んだ日も、こんな星空だったな。
気づけば私の瞼はしっかり開いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
あれは確か、小学3年の夏の日。
校庭のジャングルジムから転げ落ちて泣いていた私に一人の男の子が駆け寄ってくれた。
「だいじょうぶ?」
「うわあああん、痛いよぉ」
あの頃の私は泣いてばっかりで、笑ってばっかりだったな。
「はい、ラムネあげるから。泣きやんで」
差し出されたラムネを受け取ろうと顔を上げたとき、初めてその男の子の姿を見たんだ。
夏空を背負って微笑んでいる、同い年くらいの男の子。
その子の何よりも、瞳が綺麗だった。まるで、ラムネ瓶の中のビー玉を閉じ込めたみたい。
「わぁ、、、!きみ、目がすっごくきれい!前髪で隠れてるのもったいないよ!」
「、、、そうかな?ありがとう。きみも、笑ってるのかわいい」
「えへへ、お母さんにもよく言われる!!」
もらったラムネの袋を勢いよく開けてラムネを口に放り込む。
シュワっと炭酸が口の中で弾けた。
「ねぇ、きみ名前なんていうの?」
「僕?僕の名前はーーー、」
彼が名乗りかけたその時。担任の先生が慌てて私の方へ走ってきて、言ったんだ。
「笑実ちゃん、貴方のお母さんが病院に運ばれて、、、。急いで病院に行こう」
結局、その子の名前は聞けなかった。
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「笑実の笑顔は世界一よ」
あたたかいお母さんの声が。
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お母さんが夜空で瞬く星になってから5年が過ぎた。
落ち込んで引きこもることも、泣き暮れて過ごすなんてこともない。今だって部活の友達とのカラオケ帰りで、普通に笑えていて。
だけど、私の笑顔ってこんなだっけ。私はもう、お腹の底から笑う感覚を忘れてしまった。
それから、泣くことも。
いつだって瞳は乾いていて、目の奥が熱くなるなんてもう、どんなだったっけ。
お母さんが死んでから重くなったように感じる玄関の扉を私は静かに開いた。
扉が開いた音でお父さんがゆっくりと振り向く。
「笑実、おかえり」
「、、、ただいま、お父さん」
電気もついていない部屋は、整頓されているはずなのにどこか雑然として見える。
「笑実、お前髪がだいぶ伸びてきたなぁ。目も前髪に隠れてるじゃないか、切らないのか?」
「んー、また今度」
お母さんが私の髪を綺麗だって言ってくれたから、たったそれだけの理由だけど、私はここ数年美容院に行っていない。
それに、前髪が乾いた私の目を隠してくれそうだから。
自分の部屋に戻った私は、パチっと電気を消した。部屋が暗闇に包まれる。
思わず常夜灯をつけた。
やさしい赤色のカーテンを開くと、夜空には星が瞬いていた。ひときわ強く瞬いているのはきっと、夏の大三角。
お母さんが死んだ日も、こんな星空だったな。
気づけば私の瞼はしっかり開いていた。
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あれは確か、小学3年の夏の日。
校庭のジャングルジムから転げ落ちて泣いていた私に一人の男の子が駆け寄ってくれた。
「だいじょうぶ?」
「うわあああん、痛いよぉ」
あの頃の私は泣いてばっかりで、笑ってばっかりだったな。
「はい、ラムネあげるから。泣きやんで」
差し出されたラムネを受け取ろうと顔を上げたとき、初めてその男の子の姿を見たんだ。
夏空を背負って微笑んでいる、同い年くらいの男の子。
その子の何よりも、瞳が綺麗だった。まるで、ラムネ瓶の中のビー玉を閉じ込めたみたい。
「わぁ、、、!きみ、目がすっごくきれい!前髪で隠れてるのもったいないよ!」
「、、、そうかな?ありがとう。きみも、笑ってるのかわいい」
「えへへ、お母さんにもよく言われる!!」
もらったラムネの袋を勢いよく開けてラムネを口に放り込む。
シュワっと炭酸が口の中で弾けた。
「ねぇ、きみ名前なんていうの?」
「僕?僕の名前はーーー、」
彼が名乗りかけたその時。担任の先生が慌てて私の方へ走ってきて、言ったんだ。
「笑実ちゃん、貴方のお母さんが病院に運ばれて、、、。急いで病院に行こう」
結局、その子の名前は聞けなかった。
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