そのままでいいんだよって、夜空が囁いた
部活終わり、暗い夜道を一人で歩く。
蛙の鳴き声さえも寂しさを引き立てているみたい。
思わずため息がひとつ溢れる。
別に、ものすごく悪いことが起こったってわけじゃない。嫌なことが何重にも積み重なって、ずっしり重いだけで。
今日向けられたこわばった視線。みんなが楽しそうな中一人愛想笑いを貼り付けている感覚。
友達だった人たちに「調子乗ってるよね」って言われた今日の足の震えがよみがえってくる。
はあ、ともう一つため息を吐く。
つらい、苦しい、泣いてしまいたい。だけど、泣けない。
父さんが死んでから、私は泣けなくなった。目の奥が熱くなっても涙を押し込めていたら、いつのまにか。
感情だけが不完全燃焼でもやもや溜まって飽和しそう。また今日も、張り付けた笑顔に涙がかき消されるんだ。
こんな大嫌いな自分、[漢字]笑顔[/漢字][ふりがな]うそ[/ふりがな]で固めて塗り替える。本当の私で生きるなんて、できるわけないよね。
昔に、戻りたいなぁ。
[漢字]美術部[/漢字][ふりがな]あの頃[/ふりがな]は何もかもがキラキラ輝いていて毎日が楽しかった。みんなと見た夕日は鮮やかなまま色褪せないし、あの時聴いた曲はいつまでも優しい。思い出補正、ってやつかもしれないけど。
帰り道の何気ない日常で、親友の恋愛相談を聞いていたのがずっと昔のことみたい。
俯いて歩く今の私の目に映るのは、淀んでゴツゴツした灰色のアスファルトの地面だけ。
ふと、いつも美術部で流れていた曲が頭を流れる。柔らかい伴奏にあたたかいボーカル。
心で凝り固まった氷がほんの少しだけ溶ける。
『下を向いて俯いてしまうような日は、星を見上げて』
ああ、一番大好きだった歌詞。でも同時に、今のダメな私には聞いていて少しだけ息苦しいな。
歌詞につられて天を仰ぐと。
真っ暗で淀んでると思った夜空には、煌々と星が三つ瞬いていた。静かに、でも強く輝いている。
心が震えた。気づけば私は、ほとんど衝動的にスマホを取り出して写真を撮っていた。
静かな夜の世界に、シャッター音が鳴り響いた。
「きれい、、、」
息が少しだけ、しやすくなった。首がほんのり痛むけど、なんていうか心地よい痛みだ。
さっきまで私を苦しめていた人間関係も、進路も。
全部、全部どうでもいい。この星空以外は。
吸い込まれるように星空の写真を撮っていると、声がした。
「星空、撮ってるの?」
「ぇ、、、?」
え、私?人違いじゃなくて?知らない人だよね?
「は、はい」
「そうなんだ、綺麗だよね。多分あれ、夏の大三角だよ」
柔らかい声で女性が言った。彼女が指差す方向を辿ると、たしかに三角形が見えた。
彼女の足元ではふわふわの真っ白な犬が私に体を擦り寄せている、暖かな感触。
「急に話しかけてごめんね。今時、星空を見て写真撮ったりする高校生がいるんだって思って、、、」
「な、なるほど?」
優しそうな彼女の雰囲気に安心する。今日は初めて素直な気持ちで話せたみたいに心がふっと軽くなる。
全然知らない人なのに、ううん、だからこそいつもは言わないような愚痴が漏れた。
「、、、、実は今、部活でうまくいってなくて、、、自分、ダメだなって落ち込んでるんです」
「、、そっかぁ。昔のわたしと少しだけ似てるね」
少し間をおいて彼女は話し出す。
「君の置かれてる状況はよくわからないんだけどね。君はきっと素敵な人だよ。だって、星空を見上げて感動するような綺麗な心の持ち主なんだから。よく頑張ってるよ、この厳しい世の中でさ」
「っ、、、」
別に、何かすごく特別なことを言われたわけじゃない。なのに、心の奥の繊細な部分を優しく撫でられたみたい。落ち込んでるからこそ、何気ない優しい言葉が心に響く。
「だから、君はそのままでいてね」
目から熱くて透明な水が溢れてきた。頬を伝って流れて、地面に小さな小さな染みができる。
こんな私でも、このままでいて、いいの?偽らなくても、いいの?
「ありがとう、ございます、、、、!」
「やっぱ優しいね、君は。自分だけは、自分の味方でいてあげて」
「はい、、、!」
ーーーーーーーーーーーー
いつもなら眩しすぎる朝日が、今日は私のことを心地よく照らしてくれる。
「おはよう、[漢字]紫花[/漢字][ふりがな]すみれ[/ふりがな]。よく眠れた?」
「おはよう、母さん。うん、ぐっすり寝れたよ」
「そういえば紫花、学校はどう?」
今の私には一番痛い質問。多分今までの私だったら、作った笑顔で楽しいよ!とでも答えて心配されないように自分を偽っていた。
楽しいよと誤魔化しかけて、飲み込んだ。
昨日までの私から、少しは変われてるかな。そのままの私で。
「あーー、、実は今、ちょっと人間関係がうまくいってなくて。正直、、、ちょっと苦しい」
言え、た。
、、、初めて知ったな、本心を言うだけで手が震えるなんて。
どんな反応をされるかが、こんなにも怖いなんて。
母さんは少し目を見開いて、フォークをお皿にそっと置いた。
「そう、だったの、、、。ごめんね、気づいてあげられなくて。お母さんにできることはなんでも言って」
母さん、、、。よかった、受け入れてくれた。ほっとして一気に力が抜ける。
変われたんだ、私は。そのままの私でいていいって、私が本心からそう思えるようになった、かも。
昨日偶然出会った女性にもらった言葉がなかったら、私はずっとあのままだった。
弱いところも自分だって認めてあげて、痛くてもかわさずに向き合う。すごく、すごく難しいことだけど、きっととっても大切なこと。
できるかはわからないけど、一歩ずつでもいいからさ。
「うん、ありがとう、お母さん」
蛙の鳴き声さえも寂しさを引き立てているみたい。
思わずため息がひとつ溢れる。
別に、ものすごく悪いことが起こったってわけじゃない。嫌なことが何重にも積み重なって、ずっしり重いだけで。
今日向けられたこわばった視線。みんなが楽しそうな中一人愛想笑いを貼り付けている感覚。
友達だった人たちに「調子乗ってるよね」って言われた今日の足の震えがよみがえってくる。
はあ、ともう一つため息を吐く。
つらい、苦しい、泣いてしまいたい。だけど、泣けない。
父さんが死んでから、私は泣けなくなった。目の奥が熱くなっても涙を押し込めていたら、いつのまにか。
感情だけが不完全燃焼でもやもや溜まって飽和しそう。また今日も、張り付けた笑顔に涙がかき消されるんだ。
こんな大嫌いな自分、[漢字]笑顔[/漢字][ふりがな]うそ[/ふりがな]で固めて塗り替える。本当の私で生きるなんて、できるわけないよね。
昔に、戻りたいなぁ。
[漢字]美術部[/漢字][ふりがな]あの頃[/ふりがな]は何もかもがキラキラ輝いていて毎日が楽しかった。みんなと見た夕日は鮮やかなまま色褪せないし、あの時聴いた曲はいつまでも優しい。思い出補正、ってやつかもしれないけど。
帰り道の何気ない日常で、親友の恋愛相談を聞いていたのがずっと昔のことみたい。
俯いて歩く今の私の目に映るのは、淀んでゴツゴツした灰色のアスファルトの地面だけ。
ふと、いつも美術部で流れていた曲が頭を流れる。柔らかい伴奏にあたたかいボーカル。
心で凝り固まった氷がほんの少しだけ溶ける。
『下を向いて俯いてしまうような日は、星を見上げて』
ああ、一番大好きだった歌詞。でも同時に、今のダメな私には聞いていて少しだけ息苦しいな。
歌詞につられて天を仰ぐと。
真っ暗で淀んでると思った夜空には、煌々と星が三つ瞬いていた。静かに、でも強く輝いている。
心が震えた。気づけば私は、ほとんど衝動的にスマホを取り出して写真を撮っていた。
静かな夜の世界に、シャッター音が鳴り響いた。
「きれい、、、」
息が少しだけ、しやすくなった。首がほんのり痛むけど、なんていうか心地よい痛みだ。
さっきまで私を苦しめていた人間関係も、進路も。
全部、全部どうでもいい。この星空以外は。
吸い込まれるように星空の写真を撮っていると、声がした。
「星空、撮ってるの?」
「ぇ、、、?」
え、私?人違いじゃなくて?知らない人だよね?
「は、はい」
「そうなんだ、綺麗だよね。多分あれ、夏の大三角だよ」
柔らかい声で女性が言った。彼女が指差す方向を辿ると、たしかに三角形が見えた。
彼女の足元ではふわふわの真っ白な犬が私に体を擦り寄せている、暖かな感触。
「急に話しかけてごめんね。今時、星空を見て写真撮ったりする高校生がいるんだって思って、、、」
「な、なるほど?」
優しそうな彼女の雰囲気に安心する。今日は初めて素直な気持ちで話せたみたいに心がふっと軽くなる。
全然知らない人なのに、ううん、だからこそいつもは言わないような愚痴が漏れた。
「、、、、実は今、部活でうまくいってなくて、、、自分、ダメだなって落ち込んでるんです」
「、、そっかぁ。昔のわたしと少しだけ似てるね」
少し間をおいて彼女は話し出す。
「君の置かれてる状況はよくわからないんだけどね。君はきっと素敵な人だよ。だって、星空を見上げて感動するような綺麗な心の持ち主なんだから。よく頑張ってるよ、この厳しい世の中でさ」
「っ、、、」
別に、何かすごく特別なことを言われたわけじゃない。なのに、心の奥の繊細な部分を優しく撫でられたみたい。落ち込んでるからこそ、何気ない優しい言葉が心に響く。
「だから、君はそのままでいてね」
目から熱くて透明な水が溢れてきた。頬を伝って流れて、地面に小さな小さな染みができる。
こんな私でも、このままでいて、いいの?偽らなくても、いいの?
「ありがとう、ございます、、、、!」
「やっぱ優しいね、君は。自分だけは、自分の味方でいてあげて」
「はい、、、!」
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いつもなら眩しすぎる朝日が、今日は私のことを心地よく照らしてくれる。
「おはよう、[漢字]紫花[/漢字][ふりがな]すみれ[/ふりがな]。よく眠れた?」
「おはよう、母さん。うん、ぐっすり寝れたよ」
「そういえば紫花、学校はどう?」
今の私には一番痛い質問。多分今までの私だったら、作った笑顔で楽しいよ!とでも答えて心配されないように自分を偽っていた。
楽しいよと誤魔化しかけて、飲み込んだ。
昨日までの私から、少しは変われてるかな。そのままの私で。
「あーー、、実は今、ちょっと人間関係がうまくいってなくて。正直、、、ちょっと苦しい」
言え、た。
、、、初めて知ったな、本心を言うだけで手が震えるなんて。
どんな反応をされるかが、こんなにも怖いなんて。
母さんは少し目を見開いて、フォークをお皿にそっと置いた。
「そう、だったの、、、。ごめんね、気づいてあげられなくて。お母さんにできることはなんでも言って」
母さん、、、。よかった、受け入れてくれた。ほっとして一気に力が抜ける。
変われたんだ、私は。そのままの私でいていいって、私が本心からそう思えるようになった、かも。
昨日偶然出会った女性にもらった言葉がなかったら、私はずっとあのままだった。
弱いところも自分だって認めてあげて、痛くてもかわさずに向き合う。すごく、すごく難しいことだけど、きっととっても大切なこと。
できるかはわからないけど、一歩ずつでもいいからさ。
「うん、ありがとう、お母さん」
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