卒業式
冷たい風が、肌に突き刺さる。風に煽られて折れたビニール傘がアスファルトの道路に横たわる。
「もう、、、いいや。」
今私が、この荒れ狂う川に飛び込んじゃえば、苦しいことは全て終わるはず。足を川の欄干にかけたそのとき。声が聞こえた。焦ったような、でもまっすぐな声。
「なにしてるのっ!?」
濡れた黒髪を揺らして、女性がこっちに走ってくる。あれは確か、、、ちゆりお姉ちゃんの友達の、、、咲希ちゃん?
あの後暖かい家の中で私に毛布をかけながら言ってくれた咲希ちゃんの言葉が、今でも心に残っている。
「あなたが生きていて、よかった」
ーーーーーーーーーーーーーー
運動場は、笑顔と涙にあふれている。顔をくしゃくしゃにしながら笑ってる人。ぼろぼろと涙を流して鼻を赤くしている人。
だけど、よく見ると笑ってる人の目には涙が溜まっているし、泣いている人の顔には笑顔が浮かんでいる。人の感情って、一色じゃないんだね。きっと、絵の具みたいに綺麗な色じゃなくて、たくさんの色が混ざり合って濁っていて、だけどその分深みが出る。
「卒業しても絶対に会おうねー!」
「三年間ありがとうーー!」
やっぱり卒業式はみんな、仲のいい友達と集まってる。いいな、わたしもあんなふうになれたら、、、。
なんて、無理だ。だってわたしには友達なんていない、できたこともない。誰も私に興味なんかないんだもん。
日陰に移動しようとして思わず人にぶつかる。
「ちょっと邪魔〜」
「消えてよ」
暗い声で毒づかれて、無意識に体がこわばる。でも、こんなのわたしが悪いんだからなんともない。
「ご、、、ごめん、なさい」
蚊の鳴くような声で謝ったけど、当然聞こえてないみたい。
ちゆりなら、こんなときも人に囲まれて明るく笑ってるんだろうな。どうして私じゃなくてちゆりが、、、。
ううん、考えたくない。
とにかく、どうやって生きたらいいのかさえわからないわたしに友達なんて、、、。
「生き方がわからない人は友達を作れないの?そんなわけないでしょ」
「へ?」
だ、だれ?それにこの子、今、、、。
「私が考えていることが、わかるの?」
「さぁ?どうだろ?」
「っていうか、あなたはだれ?」
うちの中学校は人数が少ない。だから人とほとんど交流しないわたしでも、同じ学年の人なら顔と名前が一致するはず。だけどこの子は、、、。
ここの学校の生徒じゃないみたい。だって制服も違うんだから。
「そんなこと気にしない気にしない!わ、私はここの生徒だよ。それよりさ、こっちにおいでよ」
そう言って彼女は私の手を引く。彼女の手はひんやり冷たかった。だけどなんでかな、ふわっと温かい空気に包まれた気がした。この感覚、どこかで、、、。
彼女に連れ出された日向は、人が集まってるせいで酸素が少なくて息が苦しい。でも不思議と、一人で日陰にいるときよりも心地いい。
「でしょ?やっぱり、お日さまの光は気持ちいいからね!」
「ねえ、やっぱりあなた、、、」
「あっ!?見てUFO!!」
「えぇ、、、」
いくらなんでも誤魔化し方下手すぎでしょ。彼女と話してるとまるで、、、まるで、ちゆりと話してるみたい。あの頃に戻ったみたいで嬉しいな。
その瞬間、全身に電流が走ったみたいにハッとした。そう、、だ、忘れてた。わたしなんかが幸せを感じちゃいけないんだ。ちゆりの笑顔を奪ったわたしなんかが、、、。
「だいじょうぶ?咲希ちゃん」
気がつくと、過呼吸になってたみたい。あの時のことを思い出すとつい、全身が苦しくなる。
それにしても、とふと思う。
わたしなんかが苦しそうにしてるだけで心配してくれるなんて優しいな。久しぶりに人の暖かさに触れたみたいで心がポカポカ温まる。まるで、ちゆりみたいな子。
「ねぇ、もう気づいてると思うから言うけど、私、幽霊なんだ。簡単に言うとおばけ。」
「はい?」
気づいてなかったんだが?え、幽霊?今わたし、幽霊と話してるの?
でもなんか、納得かも。だって。
「それでね、私、人の心が読めるんだ。ただし、苦しんでる人の声だけなんだけどね」
「やっぱりあなたは、、、ちゆり?」
絶対そうだ。だって、こんな温かい人、他にいるわけが、、、。
ふと、ちゆりとの思い出が蘇る。
『咲希、なんか悩んでる?相談乗るよ、話してみて!』
『や、ごめん、、、。ちょっと今は、言いたくない』
わたしがそういうと、ちゆりはふわっと笑った。それだけでなんだか、ホッとした。
『そっかそっか〜。じゃあまた、話したくなったらいつでも言ってね!』
『うん。ありがとう、ちゆり』
ちゆりの背中には、爽やかな水色の春の空が広がっていた。
「「人は誰かに、“君が生きていてよかった”って存在を大事に思ってもらえないと、それを伝えてもらえないと生きていけないんだからね」」
「ちゆり、、、ごめんなさい!」
「へ」
やっぱりこの子はちゆりだ。ちゆりの幽霊なんだ。きっと、私に恨みを言うために現れた。だったらわたしにできるのはひたすら謝るだけ。
「なんで、私がちゆりだと思うの?」
「だって今の言葉は、、、あのとき、ちゆりが言ってくれた言葉、、、」
そう、あの後ちゆりは、悩んでいてトラックの接近に気づかなかったわたしを庇って、死んだ。
わたしがちゆりの人生を奪った。
「それにさ、ちゆり。あなたは、、、人の心が読めるもん」
「はは、ばれちゃったか〜」
「あのとき、、、!ごめんなさい、ごめんなさい、、、、、!!」
「ううん。きっとちゆりは、怒ってなんかいないよ」
怒ってないわけがないのに、、、。
「実はね、私、ちゆりじゃないんだ。正確には、ちゆりの妹」
「ぇ?」
「黙っててごめんね〜!でもね、これだけは、、、。」
最後に聞こえたちゆりの、ううん、ちゆりの妹の声はエコーがかかったようにくぐもって聞こえた。
「あのとき、私に生きてって言ってくれたこと、忘れてないよ。あなたが生きていて、」
「「よかった」」
気づけば、目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。こぼれ落ちて、運動場の地面に落ちて溶けていく。
、、、思い出した。どこかで聞き覚えがある言葉。
わたしがあのとき、ちゆりの妹にかけた言葉だ。人に偉そうに言っておきながら忘れるなんて、わたしは無責任だなぁ。
ちゆりの妹が、ちゆりが、あなたが生きていてよかった、って言ってくれた。それだけでわたしは、許されたような気がした。
ううん。そもそもちゆりは、私を恨んでなんかいなかったのかも。じゃあもう、、、自分を縛り付けなくてもいいのかな。「わたしなんか」なんていう言葉で。
どうやって生きたらいいのかわからない?だったらさ。
生きていればいいんだ。後悔も罪悪感も、希望も、全部抱えたまま、それでも。
天国でちゆりに会えたときに、胸を張って謝れるように。
「もう、、、いいや。」
今私が、この荒れ狂う川に飛び込んじゃえば、苦しいことは全て終わるはず。足を川の欄干にかけたそのとき。声が聞こえた。焦ったような、でもまっすぐな声。
「なにしてるのっ!?」
濡れた黒髪を揺らして、女性がこっちに走ってくる。あれは確か、、、ちゆりお姉ちゃんの友達の、、、咲希ちゃん?
あの後暖かい家の中で私に毛布をかけながら言ってくれた咲希ちゃんの言葉が、今でも心に残っている。
「あなたが生きていて、よかった」
ーーーーーーーーーーーーーー
運動場は、笑顔と涙にあふれている。顔をくしゃくしゃにしながら笑ってる人。ぼろぼろと涙を流して鼻を赤くしている人。
だけど、よく見ると笑ってる人の目には涙が溜まっているし、泣いている人の顔には笑顔が浮かんでいる。人の感情って、一色じゃないんだね。きっと、絵の具みたいに綺麗な色じゃなくて、たくさんの色が混ざり合って濁っていて、だけどその分深みが出る。
「卒業しても絶対に会おうねー!」
「三年間ありがとうーー!」
やっぱり卒業式はみんな、仲のいい友達と集まってる。いいな、わたしもあんなふうになれたら、、、。
なんて、無理だ。だってわたしには友達なんていない、できたこともない。誰も私に興味なんかないんだもん。
日陰に移動しようとして思わず人にぶつかる。
「ちょっと邪魔〜」
「消えてよ」
暗い声で毒づかれて、無意識に体がこわばる。でも、こんなのわたしが悪いんだからなんともない。
「ご、、、ごめん、なさい」
蚊の鳴くような声で謝ったけど、当然聞こえてないみたい。
ちゆりなら、こんなときも人に囲まれて明るく笑ってるんだろうな。どうして私じゃなくてちゆりが、、、。
ううん、考えたくない。
とにかく、どうやって生きたらいいのかさえわからないわたしに友達なんて、、、。
「生き方がわからない人は友達を作れないの?そんなわけないでしょ」
「へ?」
だ、だれ?それにこの子、今、、、。
「私が考えていることが、わかるの?」
「さぁ?どうだろ?」
「っていうか、あなたはだれ?」
うちの中学校は人数が少ない。だから人とほとんど交流しないわたしでも、同じ学年の人なら顔と名前が一致するはず。だけどこの子は、、、。
ここの学校の生徒じゃないみたい。だって制服も違うんだから。
「そんなこと気にしない気にしない!わ、私はここの生徒だよ。それよりさ、こっちにおいでよ」
そう言って彼女は私の手を引く。彼女の手はひんやり冷たかった。だけどなんでかな、ふわっと温かい空気に包まれた気がした。この感覚、どこかで、、、。
彼女に連れ出された日向は、人が集まってるせいで酸素が少なくて息が苦しい。でも不思議と、一人で日陰にいるときよりも心地いい。
「でしょ?やっぱり、お日さまの光は気持ちいいからね!」
「ねえ、やっぱりあなた、、、」
「あっ!?見てUFO!!」
「えぇ、、、」
いくらなんでも誤魔化し方下手すぎでしょ。彼女と話してるとまるで、、、まるで、ちゆりと話してるみたい。あの頃に戻ったみたいで嬉しいな。
その瞬間、全身に電流が走ったみたいにハッとした。そう、、だ、忘れてた。わたしなんかが幸せを感じちゃいけないんだ。ちゆりの笑顔を奪ったわたしなんかが、、、。
「だいじょうぶ?咲希ちゃん」
気がつくと、過呼吸になってたみたい。あの時のことを思い出すとつい、全身が苦しくなる。
それにしても、とふと思う。
わたしなんかが苦しそうにしてるだけで心配してくれるなんて優しいな。久しぶりに人の暖かさに触れたみたいで心がポカポカ温まる。まるで、ちゆりみたいな子。
「ねぇ、もう気づいてると思うから言うけど、私、幽霊なんだ。簡単に言うとおばけ。」
「はい?」
気づいてなかったんだが?え、幽霊?今わたし、幽霊と話してるの?
でもなんか、納得かも。だって。
「それでね、私、人の心が読めるんだ。ただし、苦しんでる人の声だけなんだけどね」
「やっぱりあなたは、、、ちゆり?」
絶対そうだ。だって、こんな温かい人、他にいるわけが、、、。
ふと、ちゆりとの思い出が蘇る。
『咲希、なんか悩んでる?相談乗るよ、話してみて!』
『や、ごめん、、、。ちょっと今は、言いたくない』
わたしがそういうと、ちゆりはふわっと笑った。それだけでなんだか、ホッとした。
『そっかそっか〜。じゃあまた、話したくなったらいつでも言ってね!』
『うん。ありがとう、ちゆり』
ちゆりの背中には、爽やかな水色の春の空が広がっていた。
「「人は誰かに、“君が生きていてよかった”って存在を大事に思ってもらえないと、それを伝えてもらえないと生きていけないんだからね」」
「ちゆり、、、ごめんなさい!」
「へ」
やっぱりこの子はちゆりだ。ちゆりの幽霊なんだ。きっと、私に恨みを言うために現れた。だったらわたしにできるのはひたすら謝るだけ。
「なんで、私がちゆりだと思うの?」
「だって今の言葉は、、、あのとき、ちゆりが言ってくれた言葉、、、」
そう、あの後ちゆりは、悩んでいてトラックの接近に気づかなかったわたしを庇って、死んだ。
わたしがちゆりの人生を奪った。
「それにさ、ちゆり。あなたは、、、人の心が読めるもん」
「はは、ばれちゃったか〜」
「あのとき、、、!ごめんなさい、ごめんなさい、、、、、!!」
「ううん。きっとちゆりは、怒ってなんかいないよ」
怒ってないわけがないのに、、、。
「実はね、私、ちゆりじゃないんだ。正確には、ちゆりの妹」
「ぇ?」
「黙っててごめんね〜!でもね、これだけは、、、。」
最後に聞こえたちゆりの、ううん、ちゆりの妹の声はエコーがかかったようにくぐもって聞こえた。
「あのとき、私に生きてって言ってくれたこと、忘れてないよ。あなたが生きていて、」
「「よかった」」
気づけば、目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。こぼれ落ちて、運動場の地面に落ちて溶けていく。
、、、思い出した。どこかで聞き覚えがある言葉。
わたしがあのとき、ちゆりの妹にかけた言葉だ。人に偉そうに言っておきながら忘れるなんて、わたしは無責任だなぁ。
ちゆりの妹が、ちゆりが、あなたが生きていてよかった、って言ってくれた。それだけでわたしは、許されたような気がした。
ううん。そもそもちゆりは、私を恨んでなんかいなかったのかも。じゃあもう、、、自分を縛り付けなくてもいいのかな。「わたしなんか」なんていう言葉で。
どうやって生きたらいいのかわからない?だったらさ。
生きていればいいんだ。後悔も罪悪感も、希望も、全部抱えたまま、それでも。
天国でちゆりに会えたときに、胸を張って謝れるように。
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