転移

「そこの若い者、ちょいと止まっておくれ」
大きな病院の敷地内にいる老人が、病院の前の歩道に向かって叫んだ。
元から人通りのかなり少ない歩道だったため、Aに声を掛けたことで間違いない。
Aは不思議に思いながらも病院の敷地内に入り、老人の方に歩みを進めた。

「どうしましたか?」
「名前は何というんだい?」
「Aですけど…」

名前を聞いた老人は嬉しそうに笑った。

「何という偶然か。私もAだ」
「奇遇ですね」

Aは反応に困りながらも、言葉を絞り出して言葉を返した。

「ふふふ、君はぴったりだ」
「はい?」
「私は今病気を患っていてな、入院しているんだ」
「そうなんですね」
「…不治の病なんだ」

突然の告白にAは困惑した。

「治療法は本当にないんですか…?」

治療法がないから"不治の病"なのだと、理解していながら聞いてしまったAは後悔した。

「…1つだけあるんだ」
「じゃあ、どうして不治の病と?」
「私が申し訳なくなってしまうんだ」
「どのような治療法なんですか?」
「転移させるんだよ、他の人の身体に移植するしか治療法はない」

老人は小さく俯いた。

「しないんですか、転移」
「私だってしたいがね」
「じゃあしましょう」
「…?」
「僕が病院に掛け合って来るので、ちょっと待っててください」

Aが病院の自動ドアに歩いて行く背中を、老人はただ見つめていた。

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    2025/03/28 11:25
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    2025/03/28 00:14
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