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著しいキャラ崩壊あります!注意!
⚠️未完
⚠️低解像度定期
彼は天才だ。今隣で楽しそうに最新医療の論文の話をしているnakamu がそうであると確信したのは、夏休みの課題であった研究発表の時であった。
それは夏休み明け、まだ休暇の未練や気だるさが抜けない教室でのこと。
月並みなスライド、月並みな研究対象、月並みな発表、月並みな感想。
きりやんは外でのジュウジュウとずっと何か揚げているようなセミの大合唱を横目に、クラスメイトたちの研究発表を真剣に聞き流していた。それでもこの市で1番偏差値の高い高校の生徒であるか、と心の奥底で小さくグチりながら。
きりやんはクラスでは有名な秀才だ。毎回定期的テストが返される時にはきりやんより点数が高かったかで競われ一喜一憂されるくらい。
だいたいは「やっぱお前には勝てね一わ」と上位圏外として点数談義から放られるのが関の山なのだが。
彼より点数が高い人はクラスでも何人かいたのだが、寡黙であったり不思議ちゃんであったり…で彼らの話題の対象からは外れ、 男子連中の内々で丁度いい「頭良いキャラ」の席に座らされていたのである。
そんなキャラに落ち着いて、無邪気にプレッシャーをかけられる事に多少ストレスを感じることはあれと、きりやんにとっては慣れたことで。
むしろ新しいクラスでもある程度の地位を確立できたのはありがたい事でもある。
クラスの調和に溶け込むように、 甘んじてその椅子に座り続けていた。
そんな日々を憂う事もなくなんとなくやり過ごして、定期テストをしばき、文化祭をやり過ごし、夏休みは図書館と家の往復で終わった。無論、きりやんにプルッシャーをかけるのは友達だけではないのだ。
この研究発表も同じ。小中学生もやるような自由研究をパワーポイントにまとめて、クラスの前で発表する、という至極ありがちなもの。
自分は出席番号が1桁台なので早々に出番が来た。
後々感想を書かされるので心に残った発表は内容をメモ しておかなければならない。
そんな物は1つたりとも無いのに。
感想用紙には自分のひとつ後の発表について書く事に決めた。特にどれで書いても同じだし。
あとは話題作りのためにあの連中の発表を適当に耳に入れておかないと... などと考えながらまた新しい人が登ってきた壇上に目を向ける。
その人は小柄な体躯で、細そうなウエストには大層余るのであろう、ベルトのしっぽがかなり長く垂れているのが見て取れた。
男子であるはずなのに名前がパッと出てこなかったのは、自分の所属している連中仲間ではないから...というか、クラスであまり他人と話している印象がない人であるからだろう。長い前髪で片目が隠してあるのが印象的だった。
その彼の簡単な挨拶ののちに、スクリーンにスライドのタイトルが表示される。
その瞬間、きりやんは驚いて息を呑んだ。
それは、あの連中の身内ふざけ全開のそれとは違う真っ自な地に黒いゴシック体で書かれた無愛想なもの。そこにはまごうことなくこんな文が書かれていた。
「CRISPR-Cas9による遺伝子編集技術についての研究と所見」
そのタイトルを見た途端に無性な居心地の悪さを感じ、きりやんは最前列にいながらチラチラと辺りを見回した。
まるで壇上でいきなり逆立ちでもされたような気分だ。
案の定他も考えは同じであるようで、このクラス全体に不安と軽い軽蔑を織り混ぜたような薄氷のごとき空気が張り詰めているのが肌で感じ取れ る。そしてその空気感に壇上の彼だけが気づいていないようであった。
そうだ、思い出した。彼はこのクラスでは数少ない自分より点数が良い相手、nakamuだ。
1度だけ席が近くなったことがある。と言っても右後ろ隣で班も違ったのでさしたる会話を交わしてはいないが。
その月はたまたま期末テストの返却があり、俺が連中に持て離されているのを横目に100点満点のテストの端をトントンと揃えていたっけ。
そんな考えが頭を走りぬけたのもつかの問、彼は前口上も程々に発表に移った。
声質こそ明瞭で聞き取りやすくはあるものの、まるで合成音声のように淡々とした口ぶりと高校生にしてはあまりに不自然で難解な内容のギャップがどうしようもなく人間離れしたものを感じさせる。
まるで異次元から空間を切り取って壇上に持ってきているようだ。
「この技術は脳の遺伝子回路の編集をも可能にし、これを応用すると──」
彼の発表が滔々と行われる中、クラスの節々では次々と離脱者が現れはじめた。
後ろの席の女子の陰口は大きくなるばかりで、左隣の連中の1人は「お前これ分かる?」と言わんばかりにきりやんに目線を向ける。
クラス全体に「どうすんだこれ」というムードが漂う、そんな中。
きりやんは1人、訳が分からないと切り捨てるでもなく、退屈が飽和するままに時計を見つめるでもなく。
まるで無垢なる子供のように、nakamuのその発表の虜になっていた。
それは他の生徒とは一線を画す内容の特異性に目を惹かれている、というだけでは決してない。
彼がしている発表…それには、どの文献にも載っていない、「彼独自の研究による新事実」が多分に含まれているように思えたのだ。
きりやんは親から医者になるよう勧められ、本人も将来は医療関係者になるんだろうなとぼんやり考えていた部分があった。それに伴って課題が終わったあとも図書館に足繁く通い、様々な医学資料を暇つぶしがてら読み漁っていたので、この点に関しては正直クラスメイトの誰よりも知見があると自負していた。
そんな中でも、CRISPR-Cas9による脳回路の編集について、アルツハイマー病の改善など実用技術としての研究についての論文や書籍はいくらかあるが。
彼が今この場で話しているような、意識や人格までを編集するような技術の具体的な構想にまでそれを発展させているような資料を、きりやんは今まで読んだことが無かったのだ。
それはあまりに背徳的な、哲学領域にまで及ぶ題材。
もしもこの技術により脳回路をいじくり回して、優れた人間、完璧な人間、はたまた人間を超えた存在を自由自在に作り出せるとしたら……
これ分かりやすく伝える気ないだろうと誰が見てもわかるような無骨なスライドを次々と変化させて、
しかしあくまで平坦に、
さも当然の事のようにスピーチを続ける彼は。
その倫理的な壁を雑草でも踏みつけるように容易く突破し、
一息で世界をなにか全く別のものに変えてしまえるような、
そんな無邪気さと恐ろしさを孕んでいて。
きりやんはそれに、どうしようもなく痺れてしまったのだ。
「……はいnakamuくん、そこまで」
「これどーすんだ」の空気がすっかり飽和して各々好きなことをやりだした位のタイミングで、彼の話に担任の強制終了が割りいった。うちの担任は生物担当なので、さすがにやべー領域に入ったなと悟ったのだろう。授業もnakamuによって10分は潰れているし。
その急ブレーキにも彼は、ではこれで終わります、と
全く名残惜しい様子を見せずにぺこっとお辞儀をひとつすると、てくてくと自分の席に戻っていった。
次の人が壇上に登る。ちょうど聞こうと思っていた連中メンツの1人であったが、きりやんは全く気に留めなかった。教室の空気があるべき湿度までゆるんで行く中で、彼だけが1人先ほどの異次元に取り残されていた。
***
「nakamu、良かったら一緒にお昼食べない?」
このワードを出すのに半月かかった。
きりやんは彼の机の前に立って弁当の風呂敷をぎゅっと持ち直す。目の前にちょこんと座っているのは片目隠れの細身の少年nakamuと、その姿を半分隠すコンビニのビニール袋。
秋風邪の記録的な大流行で連中の主要メンバーがほとんど休んでいるような時でないと、昼食メンバーを変えるだけでも息苦しいのだから生きにくいものだ。
9月も中ごろだというのに教室のエアコンは未だ切れそうにない。
廊下に出るたびにムワッと毛布でも被せられるような熱気が全身を襲うような残暑が続く中、きりやんはあの日からnakamuに囚われ続けていた。
nakamuの席がちょうど黒板への目線の通り道であるため、授業中に黒板を見ながらも暇なときは彼を観察するのがちょっとしたマイブームとなっていたりして。
彼はだいたいの授業でじっと下を向いているか、机に伏せていて、大体は授業が終わってまた次の授業が始まってもそうで。
あとはノートに落書きをしていたり、何やら手遊びをしていたり、うつらうつらとしていたり、授業を真面目に受けている感じは全くしない。先生に当てられやしないかと、なんの義理もないのによく肝を冷やしたものだ。
……というか本当になんで当てられないんだ?
それに、平均よりかなり低いであろう身長とダボダボの制服の上からも分かる痩せ体型、目がくりっと大きい童顔、といった要素が相まって「誰かの弟が迷いこんじゃいました」といったような、場不相応なほどの幼ささえ醸し出していた。
あの異次元的なクオリティの研究と、ランドセル卒業したてのような未熟さ。普通ならおそらく、同時に成立しない。
彼を見れば見る度にそのギャップが思い起こされ、気がついたら目が離せなくなっていたのだ。
そんな時にどこからともなく流行りだした秋風邪にきりやんnakamu共に感染していないのはなんという偶然。きりやんはクラスメイトにちょっと絡む、というにはあまりにも緊張した面持ちでその答えを待った。
……もっとも、それはほんの数秒であったが。
「…別にいいよ?」
ほんの1,2秒の間の末にnakamuの口から発せられたそれは半月分の覚悟を載せた割にはあまりに単純な了承の言葉。ある意味では緊張を悟られないようにする取り繕いが成功したとも言えるのかもしれないが。
OKをもらっておきながら拍子抜けしてしまったきりやんは、「え、いいの!?」と予定以上に大きな声を出してしまった。
自分でその声に驚いた後に軽く口を抑えて辺りを見渡すも、傍から見たら「ぼっち君に話しかけて構ってやっている優しい陽キャ優等生」である彼を気にかける者など誰もいない。
もう一度彼へ目線を向けると、先程と何ら変わりのないきょとんとした様子でこちらを見ている。
気を取り直すように手元で水筒を持ち直しながら、得体の知れないこの天才とどんな会話を交わそうかと思考を巡らしていると、「じゃ、ついてきて」というnakamuの声が背後から聞こえる。
びっくりして振り返ると、その時彼はもうすたたっと教室を出て行ってしまっていた。
てっきり教室で食べるものだとばかり思っていたが、こちらの勝手な思い込みであったらしい。
やはり天才、こちらの会話デッキはまるで役に立たないかもしれない…… そう腹をくくりつつ、彼を追って教室を飛び出した。
彼が腕から下げている昼食が入っているのであろうレジ袋が派手にガシャガシャ鳴る音を頼りにちょろちょろ走っていく彼を追いかけ、階段を登って降りて登った先は古びた第1校舎の最上階だった。
掃除がここまで行き届いていないのか、壁も床も薄汚れている。目の前には普段は閉鎖されている屋上へ続く扉があった。ムワッとした熱気が全身を包み込み、ひどく埃っぽいかわりに人気は全くない。
まさかここで弁当を広げるのか…?深呼吸するとカビ臭いすえた匂いが鼻をツンとつき、ここが少なくとも飲食を行う場所ではないことをひしひしと自覚させられて。冷食弁当のホコリトッピングなんてどんな味だろうなぁ、と今更引き返せないままに覚悟を決める。
と、nakamuがおもむろに屋上のドアノブをガチャガチャする音がした。
な、何やってんだコイツは……?ひしひし感じる不穏な気配から目を逸らしつつ、恐る恐る覗き込んでギョギョッとする。
彼はドアノブの前にちょこんとしゃがんで、鍵穴に何か鉄片を……正しくは伸ばしたクリップを入れている。丈余り気味のズボンの裾にゴミがつくのも気にしないままに、そのままクルクル、カチャカチャといじっている。
嗚呼、この行動が表す意味は1つ……ピッキングだ!!!
えぇ、嘘、えぇ……それが分かった瞬間、高校生活も軌道に乗って平々凡々とした作業と化してきた日々ではもうなかなか出ないようなガチのドン引き声がきりやんの口から漏れた。心の中が後悔と絶望でひんやりと満たされていく。
ついて行かなきゃ良かったかなぁ……と嘆息する声が心中から聞こえるのと、ドアノブからカチャリと軽快な音が鳴るのがほぼ同時だった。
***
⚠not腐
付き合ってません、そして今後も付き合いません
まずは一旦、この状況を整理しよう。
きりやんはそう深く息をつく。
ここは高校の屋上。
自分たちはちょうど他の校舎から死角になる影にいるので、奇異の目を全校から向けられた後に教師陣につまみ出される、というきりやんが恐れた最悪のシナリオには今のところ陥っていない。
ここはちょうど日陰であるし、時折秋らしい爽やかな風が吹き抜けるので少なくとも熱中症の心配はなさそうだ。だけれどさすがの残暑を和らげるにはそれらも不十分で、互いの頬や制服が汗でじっとりといやに湿っていた。
それでも2人がこの場から動かない理由。
もう一度、視線をそっと脇に振ってみる。
途端、目に飛び込んでくるnakamuの小さな頭。
気まぐれな冷風でなびく長い前髪が今のこの光景が現実であると知らしめているようでめまいがする。
彼はぬるいコンクリの床に脚を投げ出し、きりやんの肩に頭を載せて、さも気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
あの後、どうして屋上に足を踏み入れてしまったのかは今となってははっきり思い出せない。
ただゆだりそうな暑さから少しでも解放されたかったのかもしれないし、あまりに行動が突飛な彼がそのまま無邪気に飛び降り自殺でもしてしまいそうで直感的に危うく思ったのかもしれない。
そこは第2校舎に遮られちょうど大きな日陰ができていた。ふと空を見上げると、雲ひとつなく澄んだ空色がどこまでもどこまでも広がっていて。
そうぼんやりしている間にもnakamuはこちらなどお構いなしにその日陰の一角に腰を下ろしてレジ袋の中身をガサゴソし始めている。
慌ててその隣に座り、水筒をひねり残った麦茶を一気にあおった。やはり暑いし、無性に喉が乾くのだ。自分はこんなに暑がりだったか?チラリとnakamuの方を見やったが、彼はやはりこちらには目もくれず涼しい顔でコンビニの大きなメロンパンを開けようとし ていた。
その様子になんだか近寄り難いものを感じる。
「なんで屋上に呼んだのさ」
となんてことのない質問をすると、彼はただ
「なんか、面白いじゃん」
とだけを言ってのけた。
ひどくそっけなく、1 1=2じゃん、くらい当たり前のことを言う口調で。
常識離れした、何も理解できない感覚の持ち主……自分が今、今まで接してきた人たちとは全く毛色が違う人間と対峙している事をひしひしと感じる。不気味ですらある、明らかにおかしい、ヤバい人とおかれる人種であるはずなのに、それを前にして鼓動が高鳴る。頬が熱い。
状況と感情がぐるぐると混ざって、ふいにきりやんの中で超自然的な爆発が起こった。
聞きたいことが不思議にとめどなく溢れ出てきて、口が思考を追い抜いていく。
「…この間の発表、すごかったよ」
「そ?ありがと」
「うん、面白かった。すっごく」
「そっか」
「……それでさ、授業中いっつもなんで寝てんの?」
「ねむくなるの」
「いつも夜寝てんの?」
「まちまち」
「授業ってさ、聞かなくて大丈夫なの?」
「大丈夫」
「あっと、それでさ、
「ねぇ」
矢継ぎ早に続いたきりやんの思考と質問は、nakamuの問いかけによってぴたりと停止する。
「どっちなの」
「……え?どっちって、何が、」
しまった、質問責めが過ぎたか。失敗した。機嫌を損ねてしまったらしい。そりゃあそうだ自分だってああされたらめんどくさい。一体どうしてしまったんだ、クラスの頭良い枠!
未知の存在を前に、子供の頃に花瓶を割ってしまった時のような嫌な気持ちが胸を満たしていく。
正直に謝らなかったら怒られるし、謝っても怒られる。何を選んでも残るのはぐしゃぐしゃの後悔……
きりやんは必死に返答を考えた。
どこかで冷たく自嘲する自分がこっちを見ている。
ツクツクツクツク……と鳴くセミが思考に介在してくるような錯覚に陥る。
所在不明の手が胸の前で挙動不審になる。
あぁ、やはり俺は、nakamuとは、
「怒るんだったら早く言って、泣かないから」
その一言でハッと我に返る。ネガティブ思考の沼から上がって彼の方を見やると、天上に高く晴れ渡る空よりも深い空色が、ただじっとこちらを見つめていた。
「……? 別に怒らないよ、ただ話したかっただけで」
「……そ」
「どっち」の意味を聞き返すのも忘れ本心からそう返したら、一瞬、ほんの一瞬だけ彼の口元が小さく緩んだように見えた……のは、こちらの都合のいい幻想だろうか。
張り詰めた心が少しぬくもった事で、ふいに自分がまだ弁当をほどいていないことに気づく。
これはいけない、早く食べないと昼休みが終わってしまう。慌てて巾着をほどきながら、またnakamuに話しかけた。
「……それで、さ、質問責めにしちゃって嫌だった?ごめんねー、あの発表がほんと面白くて、ずっと話してみたいなーって思ってたんだよ……」
……返答がない。
やっぱり、怒っちゃった……?
心の中の感情の壺はまた不安で満たされていく。
でも、どんなに今日が最悪な昼休みでも、とりあえず弁当は食べなければ。
きりやんの肩にふいにズシリと重みが降りたのは、そんなことを考えていた時だった。
驚いてその方を見やる。そこには、さも初めからここを予約してましたよとでもというように、すっぽりと収まりよくnakamuの頭があって。
瞼を閉じて、肩に預けた全身がくたりと脱力している。
この短時間で眠ってしまったらしい。
彼の長いまつ毛が気まぐれな秋風でなびいた。
屋上で2人。まるでnakamuと世界に二人きりで取り残されてしまったかのような錯覚に陥る。
どうしたんだこんな急に、とか、男子高校生同士でこういうのどうなの、みたいなそういう思考を全てスッとばして、
眠り姫みたいだな、
と、ただ間抜けにそう思った。
いつまでもポエマーみたいな事を考えてもいられないもので、それから大急ぎで弁当を食べたものの、隣の彼は食べかけのメロンパン片手にただ快適そうにスヤスヤ寝ているだけだ。
そろそろ授業が始まる時間であるはずなのに、起きる気配はまるでない。胸が規則的に上下してなかったら死んでるんじゃないかと疑ってしまうほどに。
その寝顔は幼児のそれに似ていた。
まだ世間の常識も穢れも何も知らない、無垢なる幼児……
肩にのられているところが汗でじっとりと湿る。日の向きもだんだん変わって影も薄くなってきたのもあって、頬からも汗がこぼれ始める。
……それでも。
どこか遠くでチャイムが鳴る。授業というのはこうも簡単にサボれてしまうものなのかと、どこか他人事のようにそう思った。
⚠️低解像度定期
彼は天才だ。今隣で楽しそうに最新医療の論文の話をしているnakamu がそうであると確信したのは、夏休みの課題であった研究発表の時であった。
それは夏休み明け、まだ休暇の未練や気だるさが抜けない教室でのこと。
月並みなスライド、月並みな研究対象、月並みな発表、月並みな感想。
きりやんは外でのジュウジュウとずっと何か揚げているようなセミの大合唱を横目に、クラスメイトたちの研究発表を真剣に聞き流していた。それでもこの市で1番偏差値の高い高校の生徒であるか、と心の奥底で小さくグチりながら。
きりやんはクラスでは有名な秀才だ。毎回定期的テストが返される時にはきりやんより点数が高かったかで競われ一喜一憂されるくらい。
だいたいは「やっぱお前には勝てね一わ」と上位圏外として点数談義から放られるのが関の山なのだが。
彼より点数が高い人はクラスでも何人かいたのだが、寡黙であったり不思議ちゃんであったり…で彼らの話題の対象からは外れ、 男子連中の内々で丁度いい「頭良いキャラ」の席に座らされていたのである。
そんなキャラに落ち着いて、無邪気にプレッシャーをかけられる事に多少ストレスを感じることはあれと、きりやんにとっては慣れたことで。
むしろ新しいクラスでもある程度の地位を確立できたのはありがたい事でもある。
クラスの調和に溶け込むように、 甘んじてその椅子に座り続けていた。
そんな日々を憂う事もなくなんとなくやり過ごして、定期テストをしばき、文化祭をやり過ごし、夏休みは図書館と家の往復で終わった。無論、きりやんにプルッシャーをかけるのは友達だけではないのだ。
この研究発表も同じ。小中学生もやるような自由研究をパワーポイントにまとめて、クラスの前で発表する、という至極ありがちなもの。
自分は出席番号が1桁台なので早々に出番が来た。
後々感想を書かされるので心に残った発表は内容をメモ しておかなければならない。
そんな物は1つたりとも無いのに。
感想用紙には自分のひとつ後の発表について書く事に決めた。特にどれで書いても同じだし。
あとは話題作りのためにあの連中の発表を適当に耳に入れておかないと... などと考えながらまた新しい人が登ってきた壇上に目を向ける。
その人は小柄な体躯で、細そうなウエストには大層余るのであろう、ベルトのしっぽがかなり長く垂れているのが見て取れた。
男子であるはずなのに名前がパッと出てこなかったのは、自分の所属している連中仲間ではないから...というか、クラスであまり他人と話している印象がない人であるからだろう。長い前髪で片目が隠してあるのが印象的だった。
その彼の簡単な挨拶ののちに、スクリーンにスライドのタイトルが表示される。
その瞬間、きりやんは驚いて息を呑んだ。
それは、あの連中の身内ふざけ全開のそれとは違う真っ自な地に黒いゴシック体で書かれた無愛想なもの。そこにはまごうことなくこんな文が書かれていた。
「CRISPR-Cas9による遺伝子編集技術についての研究と所見」
そのタイトルを見た途端に無性な居心地の悪さを感じ、きりやんは最前列にいながらチラチラと辺りを見回した。
まるで壇上でいきなり逆立ちでもされたような気分だ。
案の定他も考えは同じであるようで、このクラス全体に不安と軽い軽蔑を織り混ぜたような薄氷のごとき空気が張り詰めているのが肌で感じ取れ る。そしてその空気感に壇上の彼だけが気づいていないようであった。
そうだ、思い出した。彼はこのクラスでは数少ない自分より点数が良い相手、nakamuだ。
1度だけ席が近くなったことがある。と言っても右後ろ隣で班も違ったのでさしたる会話を交わしてはいないが。
その月はたまたま期末テストの返却があり、俺が連中に持て離されているのを横目に100点満点のテストの端をトントンと揃えていたっけ。
そんな考えが頭を走りぬけたのもつかの問、彼は前口上も程々に発表に移った。
声質こそ明瞭で聞き取りやすくはあるものの、まるで合成音声のように淡々とした口ぶりと高校生にしてはあまりに不自然で難解な内容のギャップがどうしようもなく人間離れしたものを感じさせる。
まるで異次元から空間を切り取って壇上に持ってきているようだ。
「この技術は脳の遺伝子回路の編集をも可能にし、これを応用すると──」
彼の発表が滔々と行われる中、クラスの節々では次々と離脱者が現れはじめた。
後ろの席の女子の陰口は大きくなるばかりで、左隣の連中の1人は「お前これ分かる?」と言わんばかりにきりやんに目線を向ける。
クラス全体に「どうすんだこれ」というムードが漂う、そんな中。
きりやんは1人、訳が分からないと切り捨てるでもなく、退屈が飽和するままに時計を見つめるでもなく。
まるで無垢なる子供のように、nakamuのその発表の虜になっていた。
それは他の生徒とは一線を画す内容の特異性に目を惹かれている、というだけでは決してない。
彼がしている発表…それには、どの文献にも載っていない、「彼独自の研究による新事実」が多分に含まれているように思えたのだ。
きりやんは親から医者になるよう勧められ、本人も将来は医療関係者になるんだろうなとぼんやり考えていた部分があった。それに伴って課題が終わったあとも図書館に足繁く通い、様々な医学資料を暇つぶしがてら読み漁っていたので、この点に関しては正直クラスメイトの誰よりも知見があると自負していた。
そんな中でも、CRISPR-Cas9による脳回路の編集について、アルツハイマー病の改善など実用技術としての研究についての論文や書籍はいくらかあるが。
彼が今この場で話しているような、意識や人格までを編集するような技術の具体的な構想にまでそれを発展させているような資料を、きりやんは今まで読んだことが無かったのだ。
それはあまりに背徳的な、哲学領域にまで及ぶ題材。
もしもこの技術により脳回路をいじくり回して、優れた人間、完璧な人間、はたまた人間を超えた存在を自由自在に作り出せるとしたら……
これ分かりやすく伝える気ないだろうと誰が見てもわかるような無骨なスライドを次々と変化させて、
しかしあくまで平坦に、
さも当然の事のようにスピーチを続ける彼は。
その倫理的な壁を雑草でも踏みつけるように容易く突破し、
一息で世界をなにか全く別のものに変えてしまえるような、
そんな無邪気さと恐ろしさを孕んでいて。
きりやんはそれに、どうしようもなく痺れてしまったのだ。
「……はいnakamuくん、そこまで」
「これどーすんだ」の空気がすっかり飽和して各々好きなことをやりだした位のタイミングで、彼の話に担任の強制終了が割りいった。うちの担任は生物担当なので、さすがにやべー領域に入ったなと悟ったのだろう。授業もnakamuによって10分は潰れているし。
その急ブレーキにも彼は、ではこれで終わります、と
全く名残惜しい様子を見せずにぺこっとお辞儀をひとつすると、てくてくと自分の席に戻っていった。
次の人が壇上に登る。ちょうど聞こうと思っていた連中メンツの1人であったが、きりやんは全く気に留めなかった。教室の空気があるべき湿度までゆるんで行く中で、彼だけが1人先ほどの異次元に取り残されていた。
***
「nakamu、良かったら一緒にお昼食べない?」
このワードを出すのに半月かかった。
きりやんは彼の机の前に立って弁当の風呂敷をぎゅっと持ち直す。目の前にちょこんと座っているのは片目隠れの細身の少年nakamuと、その姿を半分隠すコンビニのビニール袋。
秋風邪の記録的な大流行で連中の主要メンバーがほとんど休んでいるような時でないと、昼食メンバーを変えるだけでも息苦しいのだから生きにくいものだ。
9月も中ごろだというのに教室のエアコンは未だ切れそうにない。
廊下に出るたびにムワッと毛布でも被せられるような熱気が全身を襲うような残暑が続く中、きりやんはあの日からnakamuに囚われ続けていた。
nakamuの席がちょうど黒板への目線の通り道であるため、授業中に黒板を見ながらも暇なときは彼を観察するのがちょっとしたマイブームとなっていたりして。
彼はだいたいの授業でじっと下を向いているか、机に伏せていて、大体は授業が終わってまた次の授業が始まってもそうで。
あとはノートに落書きをしていたり、何やら手遊びをしていたり、うつらうつらとしていたり、授業を真面目に受けている感じは全くしない。先生に当てられやしないかと、なんの義理もないのによく肝を冷やしたものだ。
……というか本当になんで当てられないんだ?
それに、平均よりかなり低いであろう身長とダボダボの制服の上からも分かる痩せ体型、目がくりっと大きい童顔、といった要素が相まって「誰かの弟が迷いこんじゃいました」といったような、場不相応なほどの幼ささえ醸し出していた。
あの異次元的なクオリティの研究と、ランドセル卒業したてのような未熟さ。普通ならおそらく、同時に成立しない。
彼を見れば見る度にそのギャップが思い起こされ、気がついたら目が離せなくなっていたのだ。
そんな時にどこからともなく流行りだした秋風邪にきりやんnakamu共に感染していないのはなんという偶然。きりやんはクラスメイトにちょっと絡む、というにはあまりにも緊張した面持ちでその答えを待った。
……もっとも、それはほんの数秒であったが。
「…別にいいよ?」
ほんの1,2秒の間の末にnakamuの口から発せられたそれは半月分の覚悟を載せた割にはあまりに単純な了承の言葉。ある意味では緊張を悟られないようにする取り繕いが成功したとも言えるのかもしれないが。
OKをもらっておきながら拍子抜けしてしまったきりやんは、「え、いいの!?」と予定以上に大きな声を出してしまった。
自分でその声に驚いた後に軽く口を抑えて辺りを見渡すも、傍から見たら「ぼっち君に話しかけて構ってやっている優しい陽キャ優等生」である彼を気にかける者など誰もいない。
もう一度彼へ目線を向けると、先程と何ら変わりのないきょとんとした様子でこちらを見ている。
気を取り直すように手元で水筒を持ち直しながら、得体の知れないこの天才とどんな会話を交わそうかと思考を巡らしていると、「じゃ、ついてきて」というnakamuの声が背後から聞こえる。
びっくりして振り返ると、その時彼はもうすたたっと教室を出て行ってしまっていた。
てっきり教室で食べるものだとばかり思っていたが、こちらの勝手な思い込みであったらしい。
やはり天才、こちらの会話デッキはまるで役に立たないかもしれない…… そう腹をくくりつつ、彼を追って教室を飛び出した。
彼が腕から下げている昼食が入っているのであろうレジ袋が派手にガシャガシャ鳴る音を頼りにちょろちょろ走っていく彼を追いかけ、階段を登って降りて登った先は古びた第1校舎の最上階だった。
掃除がここまで行き届いていないのか、壁も床も薄汚れている。目の前には普段は閉鎖されている屋上へ続く扉があった。ムワッとした熱気が全身を包み込み、ひどく埃っぽいかわりに人気は全くない。
まさかここで弁当を広げるのか…?深呼吸するとカビ臭いすえた匂いが鼻をツンとつき、ここが少なくとも飲食を行う場所ではないことをひしひしと自覚させられて。冷食弁当のホコリトッピングなんてどんな味だろうなぁ、と今更引き返せないままに覚悟を決める。
と、nakamuがおもむろに屋上のドアノブをガチャガチャする音がした。
な、何やってんだコイツは……?ひしひし感じる不穏な気配から目を逸らしつつ、恐る恐る覗き込んでギョギョッとする。
彼はドアノブの前にちょこんとしゃがんで、鍵穴に何か鉄片を……正しくは伸ばしたクリップを入れている。丈余り気味のズボンの裾にゴミがつくのも気にしないままに、そのままクルクル、カチャカチャといじっている。
嗚呼、この行動が表す意味は1つ……ピッキングだ!!!
えぇ、嘘、えぇ……それが分かった瞬間、高校生活も軌道に乗って平々凡々とした作業と化してきた日々ではもうなかなか出ないようなガチのドン引き声がきりやんの口から漏れた。心の中が後悔と絶望でひんやりと満たされていく。
ついて行かなきゃ良かったかなぁ……と嘆息する声が心中から聞こえるのと、ドアノブからカチャリと軽快な音が鳴るのがほぼ同時だった。
***
⚠not腐
付き合ってません、そして今後も付き合いません
まずは一旦、この状況を整理しよう。
きりやんはそう深く息をつく。
ここは高校の屋上。
自分たちはちょうど他の校舎から死角になる影にいるので、奇異の目を全校から向けられた後に教師陣につまみ出される、というきりやんが恐れた最悪のシナリオには今のところ陥っていない。
ここはちょうど日陰であるし、時折秋らしい爽やかな風が吹き抜けるので少なくとも熱中症の心配はなさそうだ。だけれどさすがの残暑を和らげるにはそれらも不十分で、互いの頬や制服が汗でじっとりといやに湿っていた。
それでも2人がこの場から動かない理由。
もう一度、視線をそっと脇に振ってみる。
途端、目に飛び込んでくるnakamuの小さな頭。
気まぐれな冷風でなびく長い前髪が今のこの光景が現実であると知らしめているようでめまいがする。
彼はぬるいコンクリの床に脚を投げ出し、きりやんの肩に頭を載せて、さも気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
あの後、どうして屋上に足を踏み入れてしまったのかは今となってははっきり思い出せない。
ただゆだりそうな暑さから少しでも解放されたかったのかもしれないし、あまりに行動が突飛な彼がそのまま無邪気に飛び降り自殺でもしてしまいそうで直感的に危うく思ったのかもしれない。
そこは第2校舎に遮られちょうど大きな日陰ができていた。ふと空を見上げると、雲ひとつなく澄んだ空色がどこまでもどこまでも広がっていて。
そうぼんやりしている間にもnakamuはこちらなどお構いなしにその日陰の一角に腰を下ろしてレジ袋の中身をガサゴソし始めている。
慌ててその隣に座り、水筒をひねり残った麦茶を一気にあおった。やはり暑いし、無性に喉が乾くのだ。自分はこんなに暑がりだったか?チラリとnakamuの方を見やったが、彼はやはりこちらには目もくれず涼しい顔でコンビニの大きなメロンパンを開けようとし ていた。
その様子になんだか近寄り難いものを感じる。
「なんで屋上に呼んだのさ」
となんてことのない質問をすると、彼はただ
「なんか、面白いじゃん」
とだけを言ってのけた。
ひどくそっけなく、1 1=2じゃん、くらい当たり前のことを言う口調で。
常識離れした、何も理解できない感覚の持ち主……自分が今、今まで接してきた人たちとは全く毛色が違う人間と対峙している事をひしひしと感じる。不気味ですらある、明らかにおかしい、ヤバい人とおかれる人種であるはずなのに、それを前にして鼓動が高鳴る。頬が熱い。
状況と感情がぐるぐると混ざって、ふいにきりやんの中で超自然的な爆発が起こった。
聞きたいことが不思議にとめどなく溢れ出てきて、口が思考を追い抜いていく。
「…この間の発表、すごかったよ」
「そ?ありがと」
「うん、面白かった。すっごく」
「そっか」
「……それでさ、授業中いっつもなんで寝てんの?」
「ねむくなるの」
「いつも夜寝てんの?」
「まちまち」
「授業ってさ、聞かなくて大丈夫なの?」
「大丈夫」
「あっと、それでさ、
「ねぇ」
矢継ぎ早に続いたきりやんの思考と質問は、nakamuの問いかけによってぴたりと停止する。
「どっちなの」
「……え?どっちって、何が、」
しまった、質問責めが過ぎたか。失敗した。機嫌を損ねてしまったらしい。そりゃあそうだ自分だってああされたらめんどくさい。一体どうしてしまったんだ、クラスの頭良い枠!
未知の存在を前に、子供の頃に花瓶を割ってしまった時のような嫌な気持ちが胸を満たしていく。
正直に謝らなかったら怒られるし、謝っても怒られる。何を選んでも残るのはぐしゃぐしゃの後悔……
きりやんは必死に返答を考えた。
どこかで冷たく自嘲する自分がこっちを見ている。
ツクツクツクツク……と鳴くセミが思考に介在してくるような錯覚に陥る。
所在不明の手が胸の前で挙動不審になる。
あぁ、やはり俺は、nakamuとは、
「怒るんだったら早く言って、泣かないから」
その一言でハッと我に返る。ネガティブ思考の沼から上がって彼の方を見やると、天上に高く晴れ渡る空よりも深い空色が、ただじっとこちらを見つめていた。
「……? 別に怒らないよ、ただ話したかっただけで」
「……そ」
「どっち」の意味を聞き返すのも忘れ本心からそう返したら、一瞬、ほんの一瞬だけ彼の口元が小さく緩んだように見えた……のは、こちらの都合のいい幻想だろうか。
張り詰めた心が少しぬくもった事で、ふいに自分がまだ弁当をほどいていないことに気づく。
これはいけない、早く食べないと昼休みが終わってしまう。慌てて巾着をほどきながら、またnakamuに話しかけた。
「……それで、さ、質問責めにしちゃって嫌だった?ごめんねー、あの発表がほんと面白くて、ずっと話してみたいなーって思ってたんだよ……」
……返答がない。
やっぱり、怒っちゃった……?
心の中の感情の壺はまた不安で満たされていく。
でも、どんなに今日が最悪な昼休みでも、とりあえず弁当は食べなければ。
きりやんの肩にふいにズシリと重みが降りたのは、そんなことを考えていた時だった。
驚いてその方を見やる。そこには、さも初めからここを予約してましたよとでもというように、すっぽりと収まりよくnakamuの頭があって。
瞼を閉じて、肩に預けた全身がくたりと脱力している。
この短時間で眠ってしまったらしい。
彼の長いまつ毛が気まぐれな秋風でなびいた。
屋上で2人。まるでnakamuと世界に二人きりで取り残されてしまったかのような錯覚に陥る。
どうしたんだこんな急に、とか、男子高校生同士でこういうのどうなの、みたいなそういう思考を全てスッとばして、
眠り姫みたいだな、
と、ただ間抜けにそう思った。
いつまでもポエマーみたいな事を考えてもいられないもので、それから大急ぎで弁当を食べたものの、隣の彼は食べかけのメロンパン片手にただ快適そうにスヤスヤ寝ているだけだ。
そろそろ授業が始まる時間であるはずなのに、起きる気配はまるでない。胸が規則的に上下してなかったら死んでるんじゃないかと疑ってしまうほどに。
その寝顔は幼児のそれに似ていた。
まだ世間の常識も穢れも何も知らない、無垢なる幼児……
肩にのられているところが汗でじっとりと湿る。日の向きもだんだん変わって影も薄くなってきたのもあって、頬からも汗がこぼれ始める。
……それでも。
どこか遠くでチャイムが鳴る。授業というのはこうも簡単にサボれてしまうものなのかと、どこか他人事のようにそう思った。