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紡ぐ木、青いソラ

#1

第1話「飲み会」

 時は200X年。

 初めて歌って踊れる少女型ロボット、いわゆる「アイドル型ロボ」が世に登場した。
 ボーカロイドや、ステージ上で輝くAIアイドルたちは、世界中で熱狂的なファンを生み出した。

 ライブチケットは発売開始1分で完売。
 その次のライブは抽選にしたのだが、Webページサーバーがダウンし、予約すらもできない状況に陥ったこともあった。
 ネットや学校、会社ではその「アイドル型ロボ」で持ち切り。
 スタジアムライブが決まった時はもう歓喜の嵐。
 チケットに当たらなかった人も、スタジアムの近くで聞きたいと、周辺に押し寄せる始末。
 絶大な人気を誇った。

 だが、彼女たちは歌やダンス、パフォーマンスによって人々を魅了する存在だったが、同時に「ステージで輝くこと」がその存在価値の中心であり、日常生活に寄り添う役割はほとんどなかった。

「アイドルは、家庭に存在してはならない。」

 例えば、画面で見ているアイドルが、この家にもいる。
 そうなったら、画面を見なくても家にいるアイドルを見れば済む話だ。
 だから、開発者は「アイドル」という”観賞用”で終わらせた。


 そこから数十年がたち、201X年。
 批判が多かったこともあり、流石に開発者も慌て始めた。
 ただ歌うだけでなく、人間の生活に寄り添い、支えることができる。家事や会話、心の支えとして存在する少女型ロボ。
「[漢字]紡木ソラ[/漢字][ふりがな]つむぎそら[/ふりがな]」は、そんな想いから生まれた“メンタルヘルスカウンセリング0号機”だった。

 できるだけ軽量化を図り、AIは「アイドル型ロボ」とは比べ物にならない程のスペックを持つものにする。
 服は、転んだりしたら損傷が激しくないように、肌が見えない程度で着せ、しっかり人間を感知できるセンサーを頭上に取り付ける。
 物を持つことも多々あることを考え、人間より少しだけ強く握力が出るように、前(アイドル型ロボ)よりも強いモーターを取り付ける。
 ほかにも改良を重ねた。

 名前の由来もまた、その使命を象徴している。
 「紡ぐ木」のように、人々の生活を静かに支え、心をつなぐ存在として生まれたソラ。
 まだ試作段階で歩行や会話には制約があったが、試験運用の結果、一定の自立動作や簡単な意思表示が可能となった。


 そこからまた改良を重ね、時は今の202X年になる。
 まだ歩きもままならなかった紡木ソラは、今やどこの家庭でも見かけるロボットになったのである。


 そこまで絶大な人気を誇った「少女ロボット」だが、ある一人はこの現状をまったく気にも留めようとしなかった。

 その人の名前は、[漢字]小山悠人[/漢字][ふりがな]こやまゆうと[/ふりがな]。大学3年生。
 家にはソラがいるらしいのだが、悠人が家を出てから買ったらしく、そのことをまったく気にしなかったのだ。
 家に帰った時、数回は話したのだが、本当にあいさつ程度で、何も感じなかった。
 そんな悠人なのだが、今は大学生になって使い始めたパソコンで、中古品を扱うネット通販サイトを見ている。

 その検索エンジンにはこう書かれていた。


「紡木ソラ」


◇ ◇ ◇


「えぇ!?」

 飲み屋に、何とも言えない空気が流れ込んだ。

「紡木ソラを…まだ買ってない!?」
「え!?そんなわけなくない!?」
「だって、みんなの家にいるよね?絶対…」
「本当にどうかしてるぞ!」

 みんなが口をそろえて言う。
 そんなのはお構いなしに、ビールを片手に悠人が語り出す。

「いやー、なんというか、一人で大丈夫って言うか…」
「ロボットなんて買っても、『たかがロボットでしょ?』って思っちゃうんですよねー…」

 そんな言葉に「いやいやいやいや」と突っ込みを入れ、合コン相手が語り出した。

「それがね、『ロボット』なんだけど、本当に人間みたいに話すの!」
「家事も大体全部やってくれて、暇があれば歌ってくれたりするんだ!その歌が本当に綺麗なんだよ~…」

 悠人は相槌を打ちながら、ビールを口の中に放り込む。
 その瞬間、酔った勢いで背中を強く叩かれた。


「いやまじで、紡木ソラ買ったほうがいい!マジで!」

「いやー、本当に大丈夫なんだよねぇ…」
「じゃあ、1週間までに買ってなかったら、俺の家に強制連行して、1週間泊まってもらって、ソラの良いところをみっちり説明してやる!」
「え、それ本気…?」
「あったりめぇよ!!!!」


 悠人の背中を強く叩き、腕を首にぐるりと巻き付け、締め付けるように言う。
 この酔ってるバカな金髪野郎こそ、悠人の親友。[漢字]比嘉亮[/漢字][ふりがな]ひがりょう[/ふりがな]。
 高校生からの付き合いで、悠人とはずっと仲が良い。
 前からも、紡木ソラを買ったほうが良いと言ってきたが、今日は合コンということもあり、人来は目立つような言い方で悠人に言った。


「あぁあぁわかったわかった!買うから!」
「おっそうか!?やったぜ!」

 悠人は亮の手を振りほどき、ビールをいっきした。
「はぁ」とため息をつき、いつものごとく、この気まずい瞬間をやり過ごした。


「んじゃ、俺ら二次会行くからー!悠人バイバーイ!!」


 今日の合コンは、というか、いつもの合コンは、悠人は人数合わせで誘われる。
 対してモテるわけでもないし、勉強もそこそこ。
 趣味もなく、彼女なんているわけがない。

 結局、悠人は何も得るものがないまま帰路についた。


◇ ◇ ◇


 そして今に至る。
「めんどくさいなぁ」と思いながらも、中古品を扱うネット通販を閲覧していた。

 一覧に並ぶ“女の子ロボ”の写真。やはりどれも高い。
 新品と比べたらだいぶ安いが、それでも大学生には痛い。

 その中で奇妙なものを見つけた。

「おっこれいいじゃん」


『紡木ソラ 欠陥品 ※しっかり説明欄を読んでください』


「あっやべ、全然よくなかった…」

「欠陥品」と書かれている文字を見て、流石に良い製品だと思うわけがない。
 でも、悠人は恐る恐るその説明欄を開いた。


「…普通に売られている『紡木ソラ』とは、多分別の商品です…?」
「ここまでマスターの指示を聞かない紡木ソラは、初めて見ました…」

 ただそれだけだった。
 説明欄を見たら、ただ単にこの「紡木ソラ(欠陥品)」の悪口を書いてるようにしか見えなかった。
 このソラを買ったマスターが良くなかったのか、それともなにかソラがやらかしたのか…
 最終的にこのソラがあまり良くない状態なのはわかった。

 ほかの商品でもこのようなことが書かれているのか調べてみたところ、ここまで悪口オンリーな説明はこの「紡木ソラ」だけだった。


「ま、いっか!こいつが一番安いし、こいつ買いますか!」


 悠人は何も考えずに、その説明欄の下にある「購入」というボタンを押した。

作者メッセージ

楽しんでくれると嬉しいです。

2025/12/03 02:35

根来澄
ID:≫ apygC/stdY3jw
コメント

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暴力表現恋愛少女ロボ

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