先生「じゃあ、席替え終わったなー」
先生の声で、教室がざわつく。
灯は、机の端をぎゅっと握っていた。
蒼とはなるな……
蒼とはなるな……
そう思ったのに。
——なった。
隣に、いる。
椅子を引く音。
近い気配。
灯「……」
顔を上げられない。
蒼は何も言わず、座ったまま前を見る。
少しして、小さく。
蒼「……窓側ええやん」
誰に向けたわけでもない、独り言。
灯の耳には、ちゃんと届いてしまう。
……先生の話、入ってこない……
それが、逆につらい。
先生「はいはーい、静かに」
先生が手を叩く。
先生「席替えしたら、隣の人と[斜体][太字]例のやつ[/太字][/斜体]”なー」
教室が一斉にざわっとする。
——隣の人との儀式。
灯の心臓が、嫌な音を立てる。
やだ……
隣を見る勇気が出ない。
蒼は、ようやくこちらを向いた。
蒼「……あー」
特に感情のない声。
蒼「よろしくお願いしまーす、でええんやろ」
軽い。
本当に、ただの作業。
灯「……よ、よろしく……お願いします……」
声が震える。
蒼「はい、で、最後」
蒼が、手を差し出す。
[大文字][斜体]握手。[/斜体][/大文字]
……今……?!……
分かってる。
クラス全員やってる。
普通のこと。
でも。
そっと、蒼の手に触れた瞬間。
——思ったより、小さい。
指が長くて、少し暖かい。
灯「……」
ほんの一瞬。
蒼はすぐに手を離す。
蒼「おっけ」
それだけ言って、もう前を向く。
何も残ってないみたいに。
灯だけが、そのまま固まっていた。
……なんで……
なんで、こんな……
蒼はもう、後ろの男子と話している。
いつも通り。
変わらない。
灯は、机の下でそっと手を握りしめた。
まだ、感触が残っている気がして。
……終わった……
窓の方を向いて、そっと呟いた。