春の風が少し肌寒く感じる午後、私はいつものように、君と並んで歩いていた。まだ青々とした桜の花が、軽く風に揺れている。君の隣にいるのが、当たり前すぎて、何とも言えない安心感に包まれていたけれど、それと同時にどこか胸がざわつく。
「今日は風強いね。」
君がふと、空を見上げながら言ったその言葉に、私はうなずきながらも、心の中では別のことを考えていた。君とこうして一緒に歩くことが、これからもずっと続くと思っていたけれど、最近、違和感を感じるようになってきた。
「うん、少し寒いね。」
私はそう答えながら、君の顔を見ることができなかった。何だか、君の目をじっと見つめるのが怖くなってきている自分に気づいていた。でも、それをどうしていいのか分からなかった。
ふと、君が歩きながらポケットに手を突っ込んだとき、軽く肩が触れた。ほんの一瞬だったけれど、まるで時間が止まったかのように、その瞬間だけは何も感じられなかった。私はただ、胸の奥が高鳴っているのに気づいた。
君があまりにも自然にその後も歩き続けているから、私は意識的に自分のペースを取り戻すように足を速めた。その瞬間、君の笑い声が響く。
「お、急に早くなったな。」
「え、あ、そんなことないよ。」
私は、ぎこちなく笑ってみせるけれど、心の中ではその一瞬がずっと引っかかっていた。君との距離感が、少しだけ変わった気がして。
私たちの関係は、何も変わらず、ずっとこのままでいられると思っていた。だけど、最近、ふとした瞬間に、君がただの幼馴染以上の存在になりつつあることに気づくたび、胸が苦しくなった。これが恋だと気づくのは、まだ先のことだろうけれど、きっともう戻れない場所に足を踏み入れてしまったんだろうな、と不安が広がる。
「ねえ、今度一緒に映画でも観に行こうか。」
君の提案に、私はまた少しだけ心が落ち着く。この関係が壊れないように、ただの幼馴染として、何も変わらずにいられればいいと思う。でも、その「変わらない」ことが、逆に怖いような気がした。
「うん、行こう。」
私はその言葉を、何とか笑顔で返すことができた。でも、その笑顔の裏に隠した気持ちは、君にはきっと気づかれないだろう。
今はまだ、何も言わずに隣を歩くことが一番心地よくて、君との距離が縮まることを、心のどこかで恐れていた。