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夏のおもいで

蝉が鳴いていた。
季節外れも甚だしい。


……五月蠅い。五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い、





「うるさい!!」


自分の声で、はっと我に返る。


青い空、白い雲。
そこには、まるで夏のような爽やかな景色が広がっていた。
いつのまにか蝉の声はやんでいて、現実だったのか夢だったのかすらもわからない。


そんな日が、幾日も、続いていた。






[斜体]今週は晴れの日が続き、日中は25℃を超えるところも出てきそうです――[/斜体]


プツリ、と音を立てるような勢いであっけなくテレビは消えて、代わりに静寂だけが部屋を満たしている。



「夏なんて、嫌いだ。」

その呟きも、誰にも聞かれることなく静寂に吸い込まれていく。




「花火大会、絶対行こうね」

「うん、約束!」

耳に残るのは、あの夏のざわめきだけ。


「あれ、葵は」

ふと思い出すのは、あの夏の日に見た景色。








なぜあの日、あの夏に囚われているのか、私にもわからない。
でも、あの暑い暑い夏のことを忘れる日は、この先来ないのかもしれない。






――夏なんて、嫌いだ。あの日を思い出しちゃうから。









「ね、凜華」


いつのまにかついていた学校に、呼びかけてきた親友に。
それでも思い出してしまったあの日のことを振り切れなくて。


「一緒に花火大会、いかない?」


……だから、夏は嫌いなんだ。










「あら、可愛いじゃない」


1年ぶりに着た浴衣。青く揺れる髪飾り。
あの日見ることができなかった彼女も、同じ格好をしていたのだろうか。






「え、凜華も青なの?おそろじゃん!」
一瞬、蝉の声が遠のいて、そう笑う声が聞こえた気がして。




あ、夏ってこんなだったっけ。
心の中で漏らした声も、誰にも届かず消えてゆく。






去年の夏に置いてきた影を、今やっと踏みに帰れるのかもしれない。
あの時過ごしていた季節に、今やっと追いつけるのかもしれない。







「おーい、凜華」

呼ばれたほうを振り向けば、桃色の浴衣を着た親友が立っていて。
その姿が、なぜか彼女に――葵に重なって見えて。



「どう?この浴衣、お気に入りなの」

そう笑う親友は、とてもとても、綺麗だった。









大きな音を立てて、夜空に花が開く。









夏なんて、嫌いだ。
あの日のことを、思い出しちゃうから。
でも、あの日の続きが、今日だとするのなら。






「花火大会、楽しかったっしょ?」

なぜか得意げにしている親友と花火を見て。
それが、私に許された“コンティニュー”なら。









生ぬるい夜風に、火照った心が凪いで、凪いで――。








夏だって、悪くない。
この暑さが、光が、それを証明している。

作者メッセージ

――きらめく光に、あの夏の夢を見た。

2026/02/26 19:39

紫丁香花
ID:≫ 1.0K4/fUmPkQk
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