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偽史の少女の改竄常世物語

#2

第1話 名前

「あ…?」
わたしの記憶は殆どない。名前も思い出せない。年齢は?未成年のことしかわからない。性別は女子。
好きなもの、嫌いなもの、趣味に友達に家族に…
なにひとつ、思い出せない。
ただわかるのは、ここが来るべき場所じゃない、ここが家じゃないこと。
「…誰?」
目の前に立つ少女は、見たことがない。
でも、助けてもらわなきゃ。
「…あんた、相当苦労してそうね」
「わたし、帰りたいんです」
そう言うと、少女は微笑んだ。妖しげな深い紫の髪を揺らし、「じゃあ助けてあげる」と語った。
「わたし…」
自己紹介しようとしても、まず名前に詰まった。
「私はシラナガナデシコ」
「どんな字を書くんですか」
どうでも良かった。別に、シラナガナデシコの字なんて。ただ、この人に助けてもらわなきゃと本能的に思った。
彼女は着物の帯から髪と筆を取り出し、さっと文字を書いて渡した。『白永撫子』と達筆な字で書かれていた。古風な名前で、少し神秘的。彼女の髪色と着物は紫なのに、白がつく。着物に描かれている花は、白いナデシコだと気づいた時、少し納得がいった。
「あんたの名前を決める」
そう言って、彼女は暫く考えた。戸籍を作るつもりなんだろうか。突飛で奇天烈な名前じゃなければ、普通の名前ならべつになんでもいい。
「ヤヨイガシオリ」
「は?」
「ヤヨイガシオリ、これで行く」
ヤヨイガシオリ。なんて書くのか、見当がつかない。シオリ、は栞だろうか。ヤヨイガ、が苗字なんだろうか。絶対実在しない。
「なんて書くんですか?」
撫子はまた紙にさらりと字を書いた。筆が裏から滲んで見える。おおよそこんな字だろうか、とは思った。
『弥生賀 史織』
「素敵な名前でしょ?」
弥生賀。なんて突飛な苗字なんだろう。それでいて、史織の普通さ。古風な漢字で組み合わされていて、どこか歴史を感じる。その場でぱっと考えたには、少しだが納得できる。
「あんたは、ここで新しい『自分史』を織っていく。どう?」
「…あ、ありがとう」
弥生賀史織。全然慣れていない名前だが、わたしはこれから『弥生賀史織』として生きていく。
「撫子?何してるの?管理は?」
「…あ」
バレちゃった、という感じの顔で、撫子は後ろを振り向いた。黒髪ロングに白いワンピース。帯のようなものは赤く、日本神話に登場してきそうな人だ。
「…また連れてきたの?」
「違う。なんか来たんだ」
「…本当?」
疑っている感じだった。管理。こんな、わたしと同い年ぐらいの少女が、管理なんてするのだろうか。
「…わかったわ。私はイザナ」
また撫子がさらさらと筆を運び、また渡した。『伊舎那』と書かれた小さめの半紙は柔らかい。伊舎那、か。わたしよりも変わった名前。これでイザナって読むんだ。
「撫子と一緒に、この『不可侵界』を創って、管理しているの。ここは誰も来たらいけない場所で、来る人は忘れ去られるべき人、この世から消えた人、事情が有る人だけなの。貴方は何故来たのかわからないけど、ここで暮らしていったらどうかしら」
「ちょっとまってよ伊舎那様!足がお早いんですから…」
崖をのぼって来たのは、また同い年ぐらいだった。でも、童顔で少し幼く見える。
「…また来たんですか?あ、あたしはアベチハルといいます、伊舎那様に仕えている巫女です!よろしくお願いします!」
早口でビュビュッと喋ったあと、チハルはペコリとお辞儀をした。もういいのに、と思いながら、『阿部千晴』と書かれた半紙を撫子にもらった。
「伊舎那様、どうするんですか」
「決まっているわ、戸籍と家を与えるのよ」
「うえぇ、またあたしが色々やるんです?」
「そうよ、当たり前よ」
「…そうですか」
そう言った後、「じゃあ家を見に行こう」と撫子は崖を降りていった。

2025/11/09 13:03

むらさきざくら
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