たった百年の妖怪
#1
妖怪少女
「スクランブル……やっぱり卵はだし巻きにして食べたいな。好みの問題だろうけど。」
渋谷の喧騒を聴きながら、そう呟く人影が交差点を横断していた。
「……今は関係ないか、卵。」
その人影は、誰かが聞いてくれているわけでもないのに、取り留めのないことを独りでぶつぶつと呟いていた。
「一番安いやつでいいんで、何か奢ってくれません?」
と、居酒屋のカウンターに座る知らない人に絡んでみたり、
「今の時代、私のコーデってどうなんですか?」
と、シャツにズボンにループタイという自分の格好を見せ、アパレルショップの店員に話しかけてみたりもしていた。
しかし、その人のどんな言動にも、応じる『人間』は存在しなかった。
[水平線]
「よぉ、[漢字]九十九[/漢字][ふりがな]つくも[/ふりがな]。元気じゃったか?」
都心からかなり離れた、住宅によって自然が支配されつつある場所。ついにその人──九十九に声をかける者が現れた。声の主は住宅の塀の上に寝転ぶ三毛猫──いや、尻尾の二本はえている猫又だった。
九十九は[漢字]暫[/漢字][ふりがな]しば[/ふりがな]し足元の草花を見つめた後、
「病気になんてならないからね、そりゃあ元気だったよ。[小文字]……健康だったんだし。[/小文字]」
と、目を伏せたまま言った。
「本当かの?」
[漢字]俯[/漢字][ふりがな]うつむ[/ふりがな]いたまま目を合わせない九十九に、猫又は続ける。
「[漢字]元人間[/漢字][ふりがな]おまえさん[/ふりがな]にとっては[漢字]辛[/漢字][ふりがな]つら[/ふりがな]いんじゃないかい、人間に無視され続けるのは?実際[漢字]妖怪[/漢字][ふりがな]わし[/ふりがな]と会うのも数年ぶりじゃろう?」
猫又が訊いてから[漢字]暫[/漢字][ふりがな]しばら[/ふりがな]くして、
「そうだね。霊感がかなり強い人になら見えるみたいだったから、まだ気持ちマシだったよ。首都圏にはかなり長く居座ってたけど、妖怪が少なくて幽霊ばっかりだったし、すぐ成仏しちゃうから気を紛らわす程度しか話せないし、話せても私の価値観だと噛み合わないし…」
込み上げてくるものを[漢字]堪[/漢字][ふりがな]こら[/ふりがな]え、九十九はバッと顔を上げた。
「正直に言うと寂しかったよ、又さん。」
一瞬だけ[漢字]群青[/漢字][ふりがな]あお[/ふりがな]く光った九十九の瞳は、既に[漢字]若草[/漢字][ふりがな]いつもの[/ふりがな]色に戻っていた。
渋谷の喧騒を聴きながら、そう呟く人影が交差点を横断していた。
「……今は関係ないか、卵。」
その人影は、誰かが聞いてくれているわけでもないのに、取り留めのないことを独りでぶつぶつと呟いていた。
「一番安いやつでいいんで、何か奢ってくれません?」
と、居酒屋のカウンターに座る知らない人に絡んでみたり、
「今の時代、私のコーデってどうなんですか?」
と、シャツにズボンにループタイという自分の格好を見せ、アパレルショップの店員に話しかけてみたりもしていた。
しかし、その人のどんな言動にも、応じる『人間』は存在しなかった。
[水平線]
「よぉ、[漢字]九十九[/漢字][ふりがな]つくも[/ふりがな]。元気じゃったか?」
都心からかなり離れた、住宅によって自然が支配されつつある場所。ついにその人──九十九に声をかける者が現れた。声の主は住宅の塀の上に寝転ぶ三毛猫──いや、尻尾の二本はえている猫又だった。
九十九は[漢字]暫[/漢字][ふりがな]しば[/ふりがな]し足元の草花を見つめた後、
「病気になんてならないからね、そりゃあ元気だったよ。[小文字]……健康だったんだし。[/小文字]」
と、目を伏せたまま言った。
「本当かの?」
[漢字]俯[/漢字][ふりがな]うつむ[/ふりがな]いたまま目を合わせない九十九に、猫又は続ける。
「[漢字]元人間[/漢字][ふりがな]おまえさん[/ふりがな]にとっては[漢字]辛[/漢字][ふりがな]つら[/ふりがな]いんじゃないかい、人間に無視され続けるのは?実際[漢字]妖怪[/漢字][ふりがな]わし[/ふりがな]と会うのも数年ぶりじゃろう?」
猫又が訊いてから[漢字]暫[/漢字][ふりがな]しばら[/ふりがな]くして、
「そうだね。霊感がかなり強い人になら見えるみたいだったから、まだ気持ちマシだったよ。首都圏にはかなり長く居座ってたけど、妖怪が少なくて幽霊ばっかりだったし、すぐ成仏しちゃうから気を紛らわす程度しか話せないし、話せても私の価値観だと噛み合わないし…」
込み上げてくるものを[漢字]堪[/漢字][ふりがな]こら[/ふりがな]え、九十九はバッと顔を上げた。
「正直に言うと寂しかったよ、又さん。」
一瞬だけ[漢字]群青[/漢字][ふりがな]あお[/ふりがな]く光った九十九の瞳は、既に[漢字]若草[/漢字][ふりがな]いつもの[/ふりがな]色に戻っていた。