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微グロ、鬱
校門の前では、記念に写真を撮ろうとする新入生とその保護者で長蛇の列ができていた。桜はひらひらと舞って、私たち新入生のためのレッドカーペットならぬピンクカーペットが敷かれていた。私とお母さんも列の中盤に並んでいた。
中学までのセーラー服とは違う、首元のワイシャツのボタンとよりきつく首を締め付けるリボン。ウエストのあたりはきゅっと細くなっていて、なんだかくすぐったい。中学のときよりほんの数センチ短くなった膝丈のスカートは、春風に揺らされてふわふわと膝をくすぐる。
「ここ受けた同級生、何人ぐらいいるの?」
黒っぽいスーツに白と桃色の花のコサージュをつけたお母さんは、私が中3の秋に離婚してから頬がふっくらしたように見える。
「んー20人くらいかな。受かったのはその中でも12人って聞いたよ」
私が今日入学するのは、自分で言うのもなんだが偏差値72の、いわゆる賢い学校だ。同じ中学で一緒に受験したが落ちてしまった子は少なくはない。
「へえ、[漢字]杏花[/漢字][ふりがな]きょうか[/ふりがな]の友達とかいるの?」
「喋ったことある子はいるけど、友達はいないなー」
「大丈夫なのそれー」
話している間にいつの間にか列は進んでいて、私たちも二歩前につめた。
「大丈夫だよ。私人見知りしないし、仲良くなれそうな雰囲気の子見つけて話しかける」
「そうー?去年同じクラスだった子とかいないの?」
腕時計をなにやらいじりながらお母さんは言う。
「いるよ、1人。学級委員やってた、田所菖太」
「へぇ、イケメン?」
「好みではないけど、整った顔してるよ」
やっと私たちの番になって、入学式と大きく書かれた看板の横に立とうと一歩踏み出す。前をパッと見ると、噂をすればなんとやら、門をくぐろうとする田所くんと目が合った。
うわ、気まずい。今の会話、どこから聞いてたかな。イケメン?のところからだったら最悪すぎる。
目があったままなんとなく逸せずにいると、彼はにこりと微笑んで踵を返した。
なるほど、これはモテる。
三年で同じクラスになる前から、彼の存在は知っていた。田所くんと同じ小学校だったクラスメイトが、何人かの女の子からモテていたと聞いていたからだ。実際、二年のときに田所くんのクラスの前を通りかかった時、彼の女友達に囲まれているのを見たことがある。彼女たちが田所くんに恋愛感情を抱いていたかはわからないが、女の子の扱いが上手いんだろうな、とは思っていた。
「ねえ、ママも一緒に写りたいんだけど、誰かにお願いできないかな」
人見知りなお母さんは私にそう頼む。
「あ、それなら」
もう一歩踏み出して門から顔を出した。
「田所くん」
彼の端正な顔は、声に出さずとも、表情に驚きが浮かんでいた。
「シャッター、押してもらってもいいかな」
田所くんときちんと会話をするのは、初めてじゃないのかな。三年のときは、ぶつかってごめん、とか、みんなの輪に混ざって、とかだった気がする。
「もちろん」
引き返してくれた彼に、カメラアプリを開いた私のスマホを手渡す。スマホと比べた絶対的な彼の手の大きさに少し意識させられた。
「いきますよ、3.2.1、にっこり」
なんだか間抜けな田所くんの合図は、彼の少し癖のある伸びる声に、ある意味マッチしていた気がする。
私とお母さんで田所くんにお礼を言って、私たちは別れた。
「今のが噂の田所くん?確かに整ってるわー」
なぜかお母さんは田所くんの顔立ちに感心している。
その後、自分のクラスと出席番号を確認して、教室に入った。田所くんを含め同じ中学から来ている人は誰もいなかったけれど、ラッキーなことに私の周りは女の子が多かったので、式が終わったらすぐに話しかけてみた。
「ねえねえ、その筆箱、すごくかわいいね。そのシリーズは見たことあるけど、それは初めて見た」
隣の橘[漢字]清花[/漢字][ふりがな]さやか[/ふりがな]ちゃんは、胸の辺りまで伸ばした髪を耳の少し上で一つに束ねていて、正直特別美人というわけではないけれど、大きな目が特徴的な、活発そうな雰囲気の子だった。
彼女は私の声に反応して、ぬいぐるみのような筆箱をそっと撫でる。最近、SNSの筆箱紹介でよく見るシリーズのタグがついている。
「そう!ハシビロコウだよ、これ」
それと同じシリーズの他の動物を見た記憶を辿る。他の動物は、ライオンとかしまうまとかうさぎとか、可愛らしい顔がデザインされていた気がする。橘さんのそれは、可愛らしいとは程遠い、キリリとした瞳で、くすんだねずみ色の羽を纏っていた。
「へえ、ハシビロコウなんてあるんだ。知らなかった」
「インスタで見てさ、ずっと欲しかったんだよねー。ライオンとかはよく売ってるけど、これ全然見つからなくて公式サイトで買った」
そりゃJKに人気のありそうなものをお店も置くだろうよ、そこまでしてハシビロコウが良かったのか。
でも、こういう一癖ある子、大好きだ。
「ねえ、橘清花ちゃんだよね。インスタ、繋がらない?」
そういうと彼女はぱぁっと目を輝かせて、スマホをサッと取り出した。
「うん!藍沢杏花ちゃんだよね。繋がろ繋がろー」
「まって清花ちゃん、学校、スマホ禁止だよ」
ハッとした清花ちゃんは、先生にバレないようにこっそりリュックにしまった。バレないかヒヤヒヤしていた私は、彼女が無事に禁止されているそれをしまうのを見届けた後、ほっとして、2人で顔を見合わせて笑った。
その日は、お互いのアカウントのIDを書いた付箋を交換して、高校生初日が終わった。
帰宅してからスマホを見ると、清花ちゃんと思われるアカウントからフォローリクエストが来ていた。すぐさま承認と、フォローバックの申請をすると、その直後に清花ちゃんからメッセージが来た。
『清花です!私人見知りだから、話しかけてもらえて本当に嬉しかった♡また明日からもよろしくね‼︎』
私もそれに返事を書いた。
『いきなり話しかけたのにビビられなくて安心した笑 こちらこそ、一年よろしくね(^^)v』
私の返事にハートが押されて、会話は終わる。
アプリを閉じようとした直前に、IDにShotaと入ったアカウントからフォローリクエストが来ていた。
田所くんかな
そう思ったけれど、そのアカウントからのフォローリクエストは、なんとなく放置してみた。
中学までのセーラー服とは違う、首元のワイシャツのボタンとよりきつく首を締め付けるリボン。ウエストのあたりはきゅっと細くなっていて、なんだかくすぐったい。中学のときよりほんの数センチ短くなった膝丈のスカートは、春風に揺らされてふわふわと膝をくすぐる。
「ここ受けた同級生、何人ぐらいいるの?」
黒っぽいスーツに白と桃色の花のコサージュをつけたお母さんは、私が中3の秋に離婚してから頬がふっくらしたように見える。
「んー20人くらいかな。受かったのはその中でも12人って聞いたよ」
私が今日入学するのは、自分で言うのもなんだが偏差値72の、いわゆる賢い学校だ。同じ中学で一緒に受験したが落ちてしまった子は少なくはない。
「へえ、[漢字]杏花[/漢字][ふりがな]きょうか[/ふりがな]の友達とかいるの?」
「喋ったことある子はいるけど、友達はいないなー」
「大丈夫なのそれー」
話している間にいつの間にか列は進んでいて、私たちも二歩前につめた。
「大丈夫だよ。私人見知りしないし、仲良くなれそうな雰囲気の子見つけて話しかける」
「そうー?去年同じクラスだった子とかいないの?」
腕時計をなにやらいじりながらお母さんは言う。
「いるよ、1人。学級委員やってた、田所菖太」
「へぇ、イケメン?」
「好みではないけど、整った顔してるよ」
やっと私たちの番になって、入学式と大きく書かれた看板の横に立とうと一歩踏み出す。前をパッと見ると、噂をすればなんとやら、門をくぐろうとする田所くんと目が合った。
うわ、気まずい。今の会話、どこから聞いてたかな。イケメン?のところからだったら最悪すぎる。
目があったままなんとなく逸せずにいると、彼はにこりと微笑んで踵を返した。
なるほど、これはモテる。
三年で同じクラスになる前から、彼の存在は知っていた。田所くんと同じ小学校だったクラスメイトが、何人かの女の子からモテていたと聞いていたからだ。実際、二年のときに田所くんのクラスの前を通りかかった時、彼の女友達に囲まれているのを見たことがある。彼女たちが田所くんに恋愛感情を抱いていたかはわからないが、女の子の扱いが上手いんだろうな、とは思っていた。
「ねえ、ママも一緒に写りたいんだけど、誰かにお願いできないかな」
人見知りなお母さんは私にそう頼む。
「あ、それなら」
もう一歩踏み出して門から顔を出した。
「田所くん」
彼の端正な顔は、声に出さずとも、表情に驚きが浮かんでいた。
「シャッター、押してもらってもいいかな」
田所くんときちんと会話をするのは、初めてじゃないのかな。三年のときは、ぶつかってごめん、とか、みんなの輪に混ざって、とかだった気がする。
「もちろん」
引き返してくれた彼に、カメラアプリを開いた私のスマホを手渡す。スマホと比べた絶対的な彼の手の大きさに少し意識させられた。
「いきますよ、3.2.1、にっこり」
なんだか間抜けな田所くんの合図は、彼の少し癖のある伸びる声に、ある意味マッチしていた気がする。
私とお母さんで田所くんにお礼を言って、私たちは別れた。
「今のが噂の田所くん?確かに整ってるわー」
なぜかお母さんは田所くんの顔立ちに感心している。
その後、自分のクラスと出席番号を確認して、教室に入った。田所くんを含め同じ中学から来ている人は誰もいなかったけれど、ラッキーなことに私の周りは女の子が多かったので、式が終わったらすぐに話しかけてみた。
「ねえねえ、その筆箱、すごくかわいいね。そのシリーズは見たことあるけど、それは初めて見た」
隣の橘[漢字]清花[/漢字][ふりがな]さやか[/ふりがな]ちゃんは、胸の辺りまで伸ばした髪を耳の少し上で一つに束ねていて、正直特別美人というわけではないけれど、大きな目が特徴的な、活発そうな雰囲気の子だった。
彼女は私の声に反応して、ぬいぐるみのような筆箱をそっと撫でる。最近、SNSの筆箱紹介でよく見るシリーズのタグがついている。
「そう!ハシビロコウだよ、これ」
それと同じシリーズの他の動物を見た記憶を辿る。他の動物は、ライオンとかしまうまとかうさぎとか、可愛らしい顔がデザインされていた気がする。橘さんのそれは、可愛らしいとは程遠い、キリリとした瞳で、くすんだねずみ色の羽を纏っていた。
「へえ、ハシビロコウなんてあるんだ。知らなかった」
「インスタで見てさ、ずっと欲しかったんだよねー。ライオンとかはよく売ってるけど、これ全然見つからなくて公式サイトで買った」
そりゃJKに人気のありそうなものをお店も置くだろうよ、そこまでしてハシビロコウが良かったのか。
でも、こういう一癖ある子、大好きだ。
「ねえ、橘清花ちゃんだよね。インスタ、繋がらない?」
そういうと彼女はぱぁっと目を輝かせて、スマホをサッと取り出した。
「うん!藍沢杏花ちゃんだよね。繋がろ繋がろー」
「まって清花ちゃん、学校、スマホ禁止だよ」
ハッとした清花ちゃんは、先生にバレないようにこっそりリュックにしまった。バレないかヒヤヒヤしていた私は、彼女が無事に禁止されているそれをしまうのを見届けた後、ほっとして、2人で顔を見合わせて笑った。
その日は、お互いのアカウントのIDを書いた付箋を交換して、高校生初日が終わった。
帰宅してからスマホを見ると、清花ちゃんと思われるアカウントからフォローリクエストが来ていた。すぐさま承認と、フォローバックの申請をすると、その直後に清花ちゃんからメッセージが来た。
『清花です!私人見知りだから、話しかけてもらえて本当に嬉しかった♡また明日からもよろしくね‼︎』
私もそれに返事を書いた。
『いきなり話しかけたのにビビられなくて安心した笑 こちらこそ、一年よろしくね(^^)v』
私の返事にハートが押されて、会話は終わる。
アプリを閉じようとした直前に、IDにShotaと入ったアカウントからフォローリクエストが来ていた。
田所くんかな
そう思ったけれど、そのアカウントからのフォローリクエストは、なんとなく放置してみた。