俺は生まれた時から、闇の中で生きるにふさわしい人間だった。
否、闇の中でしか生きれなかったんだ。
「お前は、何を望む?」
部屋の壁中に飛び散った赤黒い血が、夜を照らす美しい月によって影を帯びている。
こんなに明るいのに、俺の心はどうしようもなく暗く冷たい。
「お前が目的を達成したことで、お前の願いは叶えられる。さあ、言え。何を望む?」
うるさい、うるさいうるさい。もう俺には望むものなんて無い。
俺の手で、全部壊したんだ。
ああ、でも。
「家族に、会いたい…。」
俺には、俺という存在が1ミリも分からない。
俺は小さい時から周りの子供と自分は明確に、かつ曖昧に何かが違うことを知っていた。
他の子供がやっている子供じみたことに一切興味が湧かなかった。
俺は、子供の割に大人すぎた。行動も、頭の良さも、言動も。
だから、あんなことになってしまったんだ。
俺が何も分かっていないような可愛げのある子どもだったなら、
5歳で家族を殺すようなことにもならなかったのに。
あれは、凍えるような寒い冬の日ー
俺はいつしか子供の輪の中から孤立するようになっていた。
まあ無理もない。彼らと俺では何もかもが違う。
することも行くところもなく、道端で小石を蹴りながらぶらぶら歩いていた。
コロコロ、コロコロ、ガッ、コロコロコロ…。
強く蹴りすぎて小石は暗い通りの中へ消えて行ってしまった。
「どこだ?ここ…。」例え論理的な子供でも、やっぱり無邪気な好奇心というものには勝てない。
俺は小石を追いかけて通りに入って行った。
通りの角を幾つか曲がると、何やら声が聞こえてきた。
込み入った話では申し訳ないので、あまり聞こえないよう努めたがどうしても気になってしまった。
『…そうか。やはり先方の作戦までは聞けなかったか。いや、いい。仕事に戻れ。』
(電話か…?作戦…何のことだ?)
「了解。では、後始末は頼みました。はい、全力を尽くします。」
(ヤバッ。こっちに来る…。)
俺は咄嗟にそこら辺の換気扇の裏に隠れた。ヤツが通り過ぎるのを待つ。
「…行った。何だったんだ?一体…。」そう思って、ヤツが居たところに行くと、
「…………っっっ、はっ、、!!!」これだけのリアクションで済めたのは、子供の中で俺だけだろう。
俺の目の前には、紛れもない死体があった。まだ死んで間もないだろう、血がドクドクトと流れ出している。
俺は、生まれて初めての光景に息をすることも言葉を発することもできなかった。
ただ、絶望があった。逃げ出そうにも、足が竦んで動かない。
よく人は、車に轢かれそうになったとき恐怖で動けない、という言葉を耳にしたことがあった。
それを今、実感している。恐怖以上の、得体の知れない何かを。
「おい。」
ビクッと肩が震え上がる。振り返ると、そこにはさっきの男がいた。この死体を作った、張本人だ。
『どうした?[漢字]須藤[/漢字][ふりがな]すどう[/ふりがな]。』電話はまだ繋がっている様だ。
「あー。死体を見て震えてるガキがいて。」
『ふーん。どうすんの?お前は。』
「どうしたいか聞いてみます。」
『フッ。お前らしいわ。早く終わらせろよ~。』そして電話を終えた。
一呼吸置いてこちらに向き直した男は、きちっとしたスーツに革手袋を身に付けている。見たところ、暴力団か、ヤクザ
か…?
「…詮索しているな。俺の見置きを当てているってところか。」
「……」
「この俺を睨むか。初対面の奴に急に探りを入れるところも、お前、ただの餓鬼じゃねえな。」
「……す。」
「あ?聞こえねえな。」
「警察に通報します!あれ、貴方がやったんでしょう!?こんなの、黙って見過ごすと、思いますか。」
怖い。こんなことするヤツ、普通な訳がないのに。なんで俺は、裏目に出るような真似した。
死ぬかもしれない。子供だからって、見逃すわけがない。正体がバレたからには、何をしてでも隠し通す。そういうヤツだ
ろ、こいつ等は。
「…お前のその威勢は、どの気持ちから来る訳だ?」
「……正義のためだ。」俺は真面目に、一層眉間のしわを深くして言った。
「ハハハッ!!正義か!震えて膝が笑ってる奴が、偉そうに正義を語るか!」
そう言いながら、男はゆっくり近付いてくる。
もう、ダメか。ダメなのか?
恐怖と一寸の希望が俺の中で戦っている。
危機的状況の中で頭に浮かぶものは、悔しくも走馬灯に似たものだった。
「ねえ、ふーくん。お母さんはね、ふーくんに何があっても守ってほしいものがあるの。」
「それなあに?」
「なんだろうねえ。それは、これからふーくん自身で見つけて行くんだよ?」
「うーん。よくわかんない!」
「ふふ。そうだねえ、例えば、…夢はおっきく!正義とか?」
「おかーさん、なにいってるのお。」
「ほんと、お母さん何言ってるんだよね。でも、守りたいものは作っておいた方がいいのよ。」
「う~ん。じゃあ、ぼくは家族と正義を守るよ!」
「…ふーくん、、大好きーーー!!もうほんと、可愛いんだから~」
「おかーさん、苦しいよお。」
(そうだ、俺は、母さんと約束したんだ。守りたいものを守るって。)
俺が死んだら、俺の正義は崩れる。俺が死んだだけで終わらないかもしれない。腹いせに、家族が殺されるかも。
そう思うと、不思議と恐怖は薄くなっていった。
「…俺を、仲間に入れてください。」
「…あ?」男は動きを止めて言った。
「俺は、正義と家族を守ります。俺のことはどうでもいい。生き延びるためでもない。
ただ、守りたいものがあるだけ。」
俺は、真っ直ぐ男を見て言った。
男は、最初は俺をじっと見つめていたが、やがて動き出し、
「面白え。」と言った。
「お前、名前は。」
「…怖生人。新庄 怖生人。」
「怖生人。この先逃げんじゃねえぞ。その覚悟があんなら、付いて来い。」
俺は、これから自分が踏み入る世界を想像しながら、男の背中を追った。
今思うとこれが、俺の人生が後悔で染まるきっかけだったのかもしれない。
否、闇の中でしか生きれなかったんだ。
「お前は、何を望む?」
部屋の壁中に飛び散った赤黒い血が、夜を照らす美しい月によって影を帯びている。
こんなに明るいのに、俺の心はどうしようもなく暗く冷たい。
「お前が目的を達成したことで、お前の願いは叶えられる。さあ、言え。何を望む?」
うるさい、うるさいうるさい。もう俺には望むものなんて無い。
俺の手で、全部壊したんだ。
ああ、でも。
「家族に、会いたい…。」
俺には、俺という存在が1ミリも分からない。
俺は小さい時から周りの子供と自分は明確に、かつ曖昧に何かが違うことを知っていた。
他の子供がやっている子供じみたことに一切興味が湧かなかった。
俺は、子供の割に大人すぎた。行動も、頭の良さも、言動も。
だから、あんなことになってしまったんだ。
俺が何も分かっていないような可愛げのある子どもだったなら、
5歳で家族を殺すようなことにもならなかったのに。
あれは、凍えるような寒い冬の日ー
俺はいつしか子供の輪の中から孤立するようになっていた。
まあ無理もない。彼らと俺では何もかもが違う。
することも行くところもなく、道端で小石を蹴りながらぶらぶら歩いていた。
コロコロ、コロコロ、ガッ、コロコロコロ…。
強く蹴りすぎて小石は暗い通りの中へ消えて行ってしまった。
「どこだ?ここ…。」例え論理的な子供でも、やっぱり無邪気な好奇心というものには勝てない。
俺は小石を追いかけて通りに入って行った。
通りの角を幾つか曲がると、何やら声が聞こえてきた。
込み入った話では申し訳ないので、あまり聞こえないよう努めたがどうしても気になってしまった。
『…そうか。やはり先方の作戦までは聞けなかったか。いや、いい。仕事に戻れ。』
(電話か…?作戦…何のことだ?)
「了解。では、後始末は頼みました。はい、全力を尽くします。」
(ヤバッ。こっちに来る…。)
俺は咄嗟にそこら辺の換気扇の裏に隠れた。ヤツが通り過ぎるのを待つ。
「…行った。何だったんだ?一体…。」そう思って、ヤツが居たところに行くと、
「…………っっっ、はっ、、!!!」これだけのリアクションで済めたのは、子供の中で俺だけだろう。
俺の目の前には、紛れもない死体があった。まだ死んで間もないだろう、血がドクドクトと流れ出している。
俺は、生まれて初めての光景に息をすることも言葉を発することもできなかった。
ただ、絶望があった。逃げ出そうにも、足が竦んで動かない。
よく人は、車に轢かれそうになったとき恐怖で動けない、という言葉を耳にしたことがあった。
それを今、実感している。恐怖以上の、得体の知れない何かを。
「おい。」
ビクッと肩が震え上がる。振り返ると、そこにはさっきの男がいた。この死体を作った、張本人だ。
『どうした?[漢字]須藤[/漢字][ふりがな]すどう[/ふりがな]。』電話はまだ繋がっている様だ。
「あー。死体を見て震えてるガキがいて。」
『ふーん。どうすんの?お前は。』
「どうしたいか聞いてみます。」
『フッ。お前らしいわ。早く終わらせろよ~。』そして電話を終えた。
一呼吸置いてこちらに向き直した男は、きちっとしたスーツに革手袋を身に付けている。見たところ、暴力団か、ヤクザ
か…?
「…詮索しているな。俺の見置きを当てているってところか。」
「……」
「この俺を睨むか。初対面の奴に急に探りを入れるところも、お前、ただの餓鬼じゃねえな。」
「……す。」
「あ?聞こえねえな。」
「警察に通報します!あれ、貴方がやったんでしょう!?こんなの、黙って見過ごすと、思いますか。」
怖い。こんなことするヤツ、普通な訳がないのに。なんで俺は、裏目に出るような真似した。
死ぬかもしれない。子供だからって、見逃すわけがない。正体がバレたからには、何をしてでも隠し通す。そういうヤツだ
ろ、こいつ等は。
「…お前のその威勢は、どの気持ちから来る訳だ?」
「……正義のためだ。」俺は真面目に、一層眉間のしわを深くして言った。
「ハハハッ!!正義か!震えて膝が笑ってる奴が、偉そうに正義を語るか!」
そう言いながら、男はゆっくり近付いてくる。
もう、ダメか。ダメなのか?
恐怖と一寸の希望が俺の中で戦っている。
危機的状況の中で頭に浮かぶものは、悔しくも走馬灯に似たものだった。
「ねえ、ふーくん。お母さんはね、ふーくんに何があっても守ってほしいものがあるの。」
「それなあに?」
「なんだろうねえ。それは、これからふーくん自身で見つけて行くんだよ?」
「うーん。よくわかんない!」
「ふふ。そうだねえ、例えば、…夢はおっきく!正義とか?」
「おかーさん、なにいってるのお。」
「ほんと、お母さん何言ってるんだよね。でも、守りたいものは作っておいた方がいいのよ。」
「う~ん。じゃあ、ぼくは家族と正義を守るよ!」
「…ふーくん、、大好きーーー!!もうほんと、可愛いんだから~」
「おかーさん、苦しいよお。」
(そうだ、俺は、母さんと約束したんだ。守りたいものを守るって。)
俺が死んだら、俺の正義は崩れる。俺が死んだだけで終わらないかもしれない。腹いせに、家族が殺されるかも。
そう思うと、不思議と恐怖は薄くなっていった。
「…俺を、仲間に入れてください。」
「…あ?」男は動きを止めて言った。
「俺は、正義と家族を守ります。俺のことはどうでもいい。生き延びるためでもない。
ただ、守りたいものがあるだけ。」
俺は、真っ直ぐ男を見て言った。
男は、最初は俺をじっと見つめていたが、やがて動き出し、
「面白え。」と言った。
「お前、名前は。」
「…怖生人。新庄 怖生人。」
「怖生人。この先逃げんじゃねえぞ。その覚悟があんなら、付いて来い。」
俺は、これから自分が踏み入る世界を想像しながら、男の背中を追った。
今思うとこれが、俺の人生が後悔で染まるきっかけだったのかもしれない。