閲覧前に必ずご確認ください
誤った・不適切な表現等がございます、世界観としてお楽しみください。
病院のベッドの上。 歯を磨いていた五分は、ふと目に飛び込んできたテレビのニュースに絶句した。
あまりの衝撃に、指から力が抜ける。 ポトリ、と落ちた歯ブラシ。 真っ白な歯磨き粉が布団を汚したが、そんなことを気にする余裕はなかった。
目の前の光景が、夢であるならどれほどいいか。 鼓膜が破れたかのようにキーンと耳鳴りが響き、同時に――“あの子”の声が聞こえた気がした。
『今日午後六時頃、都内にて龍華さんの遺体が発見されました。集団による性暴行を受けた末、死亡したとのことです。犯行現場には――』
「……は?」
音が消えた。 気づけば、五分は手元のリモコンを叩きつけていた。 画面が砕け、沈黙するテレビ。 ひどい耳鳴りと頭痛の中、もうどこにもいない彼女の声が、頭の中で何度も木霊する。
(はぁ、はぁ……っ、嘘だ、嘘だ嘘だ……! なんで、どうして……っ!?)
ぽたぽたと、シーツに汗と涙が滴り、小さな水たまりを作る。 その光景が、ニュースから連想される凄惨な現場と重なり、吐き気がするほど不快だった。
───────────────────────────────────
気づけば、朝になっていた。 昨夜の出来事を思い出すたびに、全身が強張り、息が詰まる。
五分は、ただ唖然としていた。 ここ最近の奇妙な出来事。そして「集団」というキーワード。 犯人は“エタナ・ギヴォズ”ではないか――そう結論づけようとしていた。 そうでもしなければ心が壊れてしまう。なにか「理由」がなければ、到底受け入れられる現実ではなかった。
――バタン!!
勢いよくドアが開く。 そこに立っていたのは、息を切らしたさくらだった。 五分の姿を見た途端、彼女はしがみつくように抱きつき、泣き叫んだ。
「ご、五分……! こんなのって、あんまりだよ……っ! あんまりだよぉ……!!」
「さ、さくら……僕……っ。う、うあ、あああああああん!!」
突然すぎる別れ。耐え難い現実。 もし、本当に運命に補正をかけられるなら、今すぐこの瞬間にかけてほしい。 五分の願いは、しかしどこにも届かない。 持て余したこの能力が、あまりに皮肉で、自分をさらに苦しめた。
数時間後。二人はぼんやりと窓の外を眺めていた。 もう何も感じない。悲しむことさえ、疲れ果ててしまった。 言葉はなく、ただ静寂だけが二人を包む。それが今の彼らにとってのベストだった。
「……クリチー、今頃何してるんだろうね」
「…………」
さくらが立ち上がり、重い足取りで荷物をまとめる。
「ごめんね……もう、帰るね」
五分が力なく頷くと、彼女は去っていった。 再び訪れる静寂。耳を澄ませば、止まない雑音と耳鳴り。 思い出せば出すほど、龍華との記憶が鋭い痛みとなって胸を刺す。 泣いて笑って、共に歩んできた旅の物語。 視界が滲み、またベッドに雫が落ちた。
――その静寂を切り裂くように、明るい声が届く。
「ねぇねぇ……おーい、ねぇねぇってば」
「……え?」
顔を上げると、そこには見知らぬ女性が立っていた。 白髪を綺麗に整えた、お洒落で大人びた女性。少しだけギャルっぽい、独特の雰囲気を漂わせている。
「なんで泣いてるの? よかったら、話聞こうか?」
服装を見る限り、患者でも関係者でもない。 あまりに図々しい態度に、五分は戸惑いを隠せなかった。
「……質問を返すようですけど、誰……ですか? なんでここに?」
「あー、ごめんごめん! 私、綺羅ちゃんっていうの。なんだか泣き声が聞こえた気がしてさ、ついつい来ちゃった」
「……綺羅ちゃん。僕は……五分です」
「そっか、じゃあ五分っちだね!」
既視感のある笑みと声。一瞬だけ誰かと見間違えそうになるが、身長も雰囲気も別人だ。
「んで、なんで泣いてたの? ……あー、聞いちゃダメな感じ?」
「……ううん。もしよければ、聞いてほしいな」
「おっけー、お任せあれ!」
五分は、胸に閉じ込めていた重く苦しい想いを、必死に吐き出した。 綺羅はそれを躊躇うことなく、すべて受け止めてくれた。 なぜだろう。初めて会ったばかりなのに、どこか他人には思えなかった。 誰でもいいから聞いてほしかった自分の感情を、すべて彼女に託した。
「……ごめん。こんなこと、いきなり話しちゃって」
「いいよいいよ~。私から聞きに来たんだし。それに、辛いこと思い出させちゃって、こっちこそごめんね」
「……うん。本当に、突然現れるからびっくりしたよ。でも……話せてよかった。ありがとう」
「えへへ。ねえ、私たち友達にならない? 五分っちとは相性がいい気がするんだよね。なんだか、ここに来たのも“運命”を感じちゃうよ」
「……もちろん。綺羅ちゃん、よろしくね」
他愛のない雑談を交わすうちに、冷え切っていた心がほんの少しだけ温まった。
「ねぇねぇ、五分っち!」
「どうしたの?」
「明日、“デート”しない?」
「……えっ?」
突然の誘い。 五分の物語は、ここからまた、予想もしない歪んだ方向へと動き出そうとしていた。
あまりの衝撃に、指から力が抜ける。 ポトリ、と落ちた歯ブラシ。 真っ白な歯磨き粉が布団を汚したが、そんなことを気にする余裕はなかった。
目の前の光景が、夢であるならどれほどいいか。 鼓膜が破れたかのようにキーンと耳鳴りが響き、同時に――“あの子”の声が聞こえた気がした。
『今日午後六時頃、都内にて龍華さんの遺体が発見されました。集団による性暴行を受けた末、死亡したとのことです。犯行現場には――』
「……は?」
音が消えた。 気づけば、五分は手元のリモコンを叩きつけていた。 画面が砕け、沈黙するテレビ。 ひどい耳鳴りと頭痛の中、もうどこにもいない彼女の声が、頭の中で何度も木霊する。
(はぁ、はぁ……っ、嘘だ、嘘だ嘘だ……! なんで、どうして……っ!?)
ぽたぽたと、シーツに汗と涙が滴り、小さな水たまりを作る。 その光景が、ニュースから連想される凄惨な現場と重なり、吐き気がするほど不快だった。
───────────────────────────────────
気づけば、朝になっていた。 昨夜の出来事を思い出すたびに、全身が強張り、息が詰まる。
五分は、ただ唖然としていた。 ここ最近の奇妙な出来事。そして「集団」というキーワード。 犯人は“エタナ・ギヴォズ”ではないか――そう結論づけようとしていた。 そうでもしなければ心が壊れてしまう。なにか「理由」がなければ、到底受け入れられる現実ではなかった。
――バタン!!
勢いよくドアが開く。 そこに立っていたのは、息を切らしたさくらだった。 五分の姿を見た途端、彼女はしがみつくように抱きつき、泣き叫んだ。
「ご、五分……! こんなのって、あんまりだよ……っ! あんまりだよぉ……!!」
「さ、さくら……僕……っ。う、うあ、あああああああん!!」
突然すぎる別れ。耐え難い現実。 もし、本当に運命に補正をかけられるなら、今すぐこの瞬間にかけてほしい。 五分の願いは、しかしどこにも届かない。 持て余したこの能力が、あまりに皮肉で、自分をさらに苦しめた。
数時間後。二人はぼんやりと窓の外を眺めていた。 もう何も感じない。悲しむことさえ、疲れ果ててしまった。 言葉はなく、ただ静寂だけが二人を包む。それが今の彼らにとってのベストだった。
「……クリチー、今頃何してるんだろうね」
「…………」
さくらが立ち上がり、重い足取りで荷物をまとめる。
「ごめんね……もう、帰るね」
五分が力なく頷くと、彼女は去っていった。 再び訪れる静寂。耳を澄ませば、止まない雑音と耳鳴り。 思い出せば出すほど、龍華との記憶が鋭い痛みとなって胸を刺す。 泣いて笑って、共に歩んできた旅の物語。 視界が滲み、またベッドに雫が落ちた。
――その静寂を切り裂くように、明るい声が届く。
「ねぇねぇ……おーい、ねぇねぇってば」
「……え?」
顔を上げると、そこには見知らぬ女性が立っていた。 白髪を綺麗に整えた、お洒落で大人びた女性。少しだけギャルっぽい、独特の雰囲気を漂わせている。
「なんで泣いてるの? よかったら、話聞こうか?」
服装を見る限り、患者でも関係者でもない。 あまりに図々しい態度に、五分は戸惑いを隠せなかった。
「……質問を返すようですけど、誰……ですか? なんでここに?」
「あー、ごめんごめん! 私、綺羅ちゃんっていうの。なんだか泣き声が聞こえた気がしてさ、ついつい来ちゃった」
「……綺羅ちゃん。僕は……五分です」
「そっか、じゃあ五分っちだね!」
既視感のある笑みと声。一瞬だけ誰かと見間違えそうになるが、身長も雰囲気も別人だ。
「んで、なんで泣いてたの? ……あー、聞いちゃダメな感じ?」
「……ううん。もしよければ、聞いてほしいな」
「おっけー、お任せあれ!」
五分は、胸に閉じ込めていた重く苦しい想いを、必死に吐き出した。 綺羅はそれを躊躇うことなく、すべて受け止めてくれた。 なぜだろう。初めて会ったばかりなのに、どこか他人には思えなかった。 誰でもいいから聞いてほしかった自分の感情を、すべて彼女に託した。
「……ごめん。こんなこと、いきなり話しちゃって」
「いいよいいよ~。私から聞きに来たんだし。それに、辛いこと思い出させちゃって、こっちこそごめんね」
「……うん。本当に、突然現れるからびっくりしたよ。でも……話せてよかった。ありがとう」
「えへへ。ねえ、私たち友達にならない? 五分っちとは相性がいい気がするんだよね。なんだか、ここに来たのも“運命”を感じちゃうよ」
「……もちろん。綺羅ちゃん、よろしくね」
他愛のない雑談を交わすうちに、冷え切っていた心がほんの少しだけ温まった。
「ねぇねぇ、五分っち!」
「どうしたの?」
「明日、“デート”しない?」
「……えっ?」
突然の誘い。 五分の物語は、ここからまた、予想もしない歪んだ方向へと動き出そうとしていた。
- 1.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第一話「原点にして底辺」
- 2.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二話「ペットの田中さん」
- 3.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第三話「遂に始動!暑い原因はバナナかも?」
- 4.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第四話「干物とプリンと決意」
- 5.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第五話「果てしなき思い出はここから」
- 6.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第六話「ナルシストと自撮り棒は紙一重」
- 7.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第七話「誘惑のお姉さん」
- 8. 第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第八話「洞窟遭難 前編」
- 9.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第九話「洞窟遭難 後編」
- 10.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十話「主人公の定義」
- 11.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十一話「アニメみたいな設定?明かされた謎」
- 12.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十二話「ごめんねクリチー。 前編」
- 13.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十三話「ごめんねクリチー。 後編」
- 14.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十四話「再来!誘惑お姉さん!驚異的だからみんなで逃げたい」
- 15.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十五話「静かな夜の思い出」
- 16.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十六話「爆弾はロリロリのねのね、なのね!」
- 17.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十七話「“厄雷の翠”」
- 18.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十八話「タイトル回収♪」
- 19.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十九話「黄金の絆」
- 20.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二十話「暖かな時間」
- 21.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十一話「野菜畑の田中さん」
- 22.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十二話「あの恐ろしき角は冒険の予感?」
- 23.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十三話「実にくだらない」
- 24.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十四話「まな板と失われた尊厳」
- 25.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十五話「非情」
- 26.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十六話「パンツの替えが必要だ」
- 27.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十七話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 前編♡」
- 28.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十八話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 後編♡」
- 29.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十九話「龍による戦い」
- 30.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第三十話「Duo Nexus ―交差する絆―」
- 31.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十一話「ピンクの嵐は突然に」
- 32.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十二話「真美さんは喋りたい」
- 33.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十三話「ひまりさんと(仮)ヒロイン」
- 34.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十四話「優しい会話」
- 35.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十五話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 前編」
- 36.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十六話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 後編」
- 37.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十七話「信じているよ、本当に」
- 38.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十八話「綺羅ちゃんとしてよろしくね」
- 39.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十九話「急なデートは今すぐにも」