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───彼女の名は、虹陽さくら。
桜じゃない、間違えるな。
おそらくこの物語で一番まともで、唯一の常識人ツッコミ枠。
そして──ヒロイン(仮)。
今日も彼女は、道場で竹刀を振っていた。
汗が床に落ち、夕陽が木の床を染める。
まさに健全の極み。剣道ガールである。
「はぁーい、注目ーっ! 今日は特別な先生に来てもらいましたー!」
顧問の先生の声が響く。
どうやら“達人”と呼ばれる人物が特別講師に来るらしい。
バタンッ!!
勢いよく開いたドアから現れたのは──
ツーサイドアップに、淡い藍色の髪と瞳。
白い肌に、ピンと立った狐の耳。
まるで春風のような笑顔を浮かべる、美しい女性だった。
「うふふ。こんにちは、皆さん。」
「こ、こんにちはっ……!」
一瞬で空気が変わる。
まるで場が華やぐようなオーラ。
さくらは思わず息を呑んだ。
「うふふ、どうしたの? 何か付いてるかしら?」
「い、いえっ……その……あまりにも美しくて……つい……!」
「ふふっ、ありがとう。そんな風に言われるの、嬉しいわ。」
その柔らかな笑みに、さくらは自然と肩の力が抜けた。
見ただけでわかる。──この人、悪い人じゃない。
「私の名前は虹野陽葵(にじの・ひまり)。ひまり姉さん、って呼んでちょうだい。」
「は、はーい!」
その日、稽古は熱気に包まれた。
ひまり姉さんの指導は厳しくも的確で、
一本一本の動作に心を込めるような教えだった。
「そう、それでいいわ。剣は力でなく、心で振るうの。」
「は、はいっ!」
どこか懐かしく、優しい時間が流れていく──。
────────────────────────────
稽古が終わり、生徒たちが帰っていく中、
さくらだけが荷物の整理で遅れていた。
静まり返った道場に、二人きり。
そこにひまり姉さんが静かに歩み寄る。
「うふふ。さくらちゃん、今日の稽古、とても良かったわよ。」
「そ、そんな……! ひまり先生のご指導が素晴らしかったんです!」
さくらが笑顔を向けると、ひまりもふわりと微笑んだ。
──だが、その次の瞬間。
「ねぇ、さくらちゃん。」
その声音が、わずかに低くなった。
「あなた、“マキア”って知ってるかしら?
それと……“五分”ちゃんのことも。」
「……!?」
空気が、一瞬で凍る。
さくらの瞳が細くなり、呼吸が鋭くなる。
この名前を知る人間──普通ではない。
そして、彼女の表情から漂う、ただならぬ“何か”。
「……あなた、まさか……“マキア”なの……?」
「あらぁ、やっぱり知ってたのね。
なら、話が早いわね。──教えてもらおうかしら。」
「えいッ!! 斬ッ!!」
躊躇なく木刀が閃く。
斬撃が走り、空気を裂く──が、
「おっと。」
ひまりの身体が、風のように揺れた。
木刀は空を切り、着物の裾がふわりと揺れる。
(避けた……!? 一歩も動かずに……!?)
ひまりは軽やかに立ち、指先で髪を払う。
次の瞬間、空気が変わった。
「──《青火ノ斬撃》。」
抜刀一閃。
青い炎が軌跡を描き、空を裂いた。
その斬撃は美しく、そして……圧倒的だった。
「なっ──!?」
爆ぜる音と共に、炎が弾ける。
さくらの身体が後方へ弾き飛ばされ、床に転がった。
「うわぁぁぁッ!!」
燃え広がる道場。青い炎が幻想的に踊る。
ひまりはその中心で、静かに剣を構えていた。
「私の“マキ”は、青き炎を生み、操る力──《蒼炎ノ狐》。
そしてこの刀、《青火ノ狐》とは最高の相性なの。」
「……っ……!」
「言っとくけど、お嬢ちゃんじゃ私には勝てないわ。」
さくらは苦しげに息を吐き、
燃える床を踏みしめながら立ち上がる。
「……そんなこと、やってみなきゃわからないでしょ!!」
木刀を構え、再び斬撃を放つ。
しかし──
「ふふっ、無駄よ。」
ひまりの周囲を、青い火が舞った。
その一閃は、まるで狐が夜空を走るように、幻想的だった。
そして炎が弾けるたびに、
二人の距離は縮まり──運命の歯車が、静かに噛み合い始めた。
さくらは咳き込みながらも立ち上がった。
焦げた道場の空気が肺を刺す。それでも──木刀を握る手を離さない。
「……っ、まだ終わってないわ!」
再び放たれる斬撃。空気を切り裂き、青炎の残光を弾き飛ばす。
「ふふ……そんな攻撃、私には通じないわよ?」
余裕の笑み。
ひまりの狐耳がゆらりと揺れ、青い炎が尾のように舞った。
その瞬間、さくらは隙を突いて横へ跳ぶ。
壁際に転がっていた水バケツを掴み取ると──
「ほい、ずぶ濡れタイムです!」
ジャバーン!!
おかん丸の頭上から、水と雑巾の雨あられが降り注ぐ。
「ふふっ……可愛いわね。でもね、さくらちゃん。現実は甘くないわよ」
ひまりが指を鳴らす。
青い炎が一気に広がり、天井を焦がした。
熱気が吹き抜け、さくらの髪が揺れる。
「くっ……!」
さくらはその中を、ひたすら避け続けていた。
軌跡を読むように、炎と炎の間を縫う。
「逃げてばかりじゃ意味ないわ!──トドメッ!」
「ぎゃああぁぁ!!!」
斬撃が直撃し、木片が爆ぜた。
煙が舞い上がり、視界がゆらぐ。
「ふふ……もう無理よ。言ったでしょ?あなたは私には敵わない。
そろそろ──気づきなさい?」
静寂。
焦げた空気の中で、ひまりの足音だけが響く。
だが──
さくらはスッと顔を上げた。
その瞳には、確信の光。
「気づくのはあなたの方よ、ひまり……“周りを見なさい!”」
「……何を──?」
ひまりが眉をひそめる。
ふと見渡せば、そこは青い炎に囲まれた円。まるで──自らが張った結界の中。
「私がただ逃げてたとでも?いいえ、違うわ。
私はわざと、あなたの青い炎を周囲に撒き散らさせたの」
「……っ!」
「あなたの炎で、視界をごちゃごちゃにするためにね」
「だけど、甘いわね……! その理屈じゃ、あなたの視界からも見えないでしょ?」
さくらが小さく笑う。
その笑みは挑発ではなく、確信に満ちていた。
「最初に投げたでしょ? 水バケツ。あなたの周囲、全部濡れてるわ。
雑巾、水しぶき──濡れた場所は簡単には燃え広がらない。
つまり、“そこだけ炎も煙も起きない”の」
「……ッ!」
「あなたの位置、バレバレってことよ!
“甘いのはそっちだわ、ひまり。まるでケーキのように!”」
「ぐっ……!」
さくらは木刀を握り直す。
体勢を低くし、地を蹴った。
「──いけぇぇぇ!!」
連続の斬撃が、空気を切り裂く。
青い炎が巻き上がり、風を伴ってひまりを襲う!
──ドンッ!!!
爆風が吹き荒れ、床板が弾け飛ぶ。
ひまりの姿が、炎と煙の中に飲まれていった。
「やった……なんとか、勝った……」
さくらは木刀を杖のように突き立て、肩で息をしていた。
周囲には燃え尽きた木片と、わずかに残る青い炎の名残。
──これで、終わった。
そう思った、その瞬間。
「いいえ、まだだわ……私がこの程度で倒れると思ったかしら?」
ぞくり、と背筋が凍る。
振り返ると、そこには無傷で立つひまりの姿。
周囲に漂っていた青い炎が、すべて彼女の身体へと吸い込まれていく。
「この炎は私の一部。操ることも、戻すことも簡単なのよ」
ひまりは涼しい顔で指先を弾く。炎が螺旋を描き、彼女の周囲に再び燃え広がった。
「あなたの作戦、悪くなかったけど──私の刃には、まだ届いてなかったみたいね」
「そ……そんな……!」
さくらの顔から血の気が引く。
──この人、今まで戦った誰よりも……強い。
「さぁ、終わりよ」
その一言と同時に、視界が閃光で塗りつぶされた。
青炎が咆哮のように爆ぜ、さくらの身体を包み込む。
「──っ……!!」
瞬間、激しい衝撃とともに、すべてが暗転した。
──────────────────────────────
まぶしい光。
柔らかな布の感触。
──そして、どこか聞き慣れた声。
「お姉ちゃん、こっち見て!寝顔、面白っ!」
「五分、起きたらどうするの〜!」
……なにこれ。
「……え? いや、ちょっと待って、現実? 夢? 記憶飛んでんの?」
混乱する頭を押さえながら、さくらは身を起こす。
視界には、いつもの天井。そして、五分の部屋。
(……なんで私、ここに?)
「起きた?」
不意に視界へぬっと割り込んできたのは──
「ひまりさん!?」
目の前には、さっき自分を燃やした本人。
しかも、笑顔で覗き込んでくる余裕っぷり。
「あ、え?」
さくらは思わず自分の身体を見下ろす。
火傷も、傷も、どこにもない。
むしろ、肌はつやつや。温泉上がりの美肌効果レベルだ。
「ふふ、驚いたかしら? あたしの炎、再生能力もあるのよ。
軽いケガなら治せるの」
(……いや、軽く燃やしてきた人が言うセリフじゃないよね!?)
(しかも“軽い”の基準、地球で採用されてないから!!)
心の中で全力ツッコミを入れるさくら。
すると今度は、五分がスキップでもしそうな勢いで駆け寄ってくる。
「さくら〜!おはよう!ひまりさんと戦ったらしいけど、大丈夫?」
「え、まぁ……一応?」
「さくら、この人ね、ひまりさんって言って、お姉ちゃんの友達なんだって。
それで今回の事件も、一緒に手伝ってくれるとか!」
「えぇえええっ!?」
驚きすぎて変な声が出るさくら。
「え、じゃあ仲間なの?」
「ええ、そうよ。紛らわしい言い方で勘違いさせちゃってごめんなさいね。
桃恵ちゃんの居場所が分からなくて、つい手荒になっちゃったの」
「そ、そっかぁ……」
肩の力が抜け、さくらはぐったりとため息をつく。
まったく、ややこしいにもほどがある。
──そして、どたばた劇の末に。
「よし、これで一件落着!」
五分が満面の笑みで親指を立てる。
「……綺麗に終わろうとしてるけど、中々ゴリ押しプレイだよ?!」
「たぶん、大丈夫!」
「“たぶん”て言った!!」
部屋にツッコミと笑い声が響く。
どんな戦いの後でも、結局このチームはいつもこうだ。
──こうして、またひとつ。
彼女らの“ふざけた思い出”が増えていくのだった。
完。
桜じゃない、間違えるな。
おそらくこの物語で一番まともで、唯一の常識人ツッコミ枠。
そして──ヒロイン(仮)。
今日も彼女は、道場で竹刀を振っていた。
汗が床に落ち、夕陽が木の床を染める。
まさに健全の極み。剣道ガールである。
「はぁーい、注目ーっ! 今日は特別な先生に来てもらいましたー!」
顧問の先生の声が響く。
どうやら“達人”と呼ばれる人物が特別講師に来るらしい。
バタンッ!!
勢いよく開いたドアから現れたのは──
ツーサイドアップに、淡い藍色の髪と瞳。
白い肌に、ピンと立った狐の耳。
まるで春風のような笑顔を浮かべる、美しい女性だった。
「うふふ。こんにちは、皆さん。」
「こ、こんにちはっ……!」
一瞬で空気が変わる。
まるで場が華やぐようなオーラ。
さくらは思わず息を呑んだ。
「うふふ、どうしたの? 何か付いてるかしら?」
「い、いえっ……その……あまりにも美しくて……つい……!」
「ふふっ、ありがとう。そんな風に言われるの、嬉しいわ。」
その柔らかな笑みに、さくらは自然と肩の力が抜けた。
見ただけでわかる。──この人、悪い人じゃない。
「私の名前は虹野陽葵(にじの・ひまり)。ひまり姉さん、って呼んでちょうだい。」
「は、はーい!」
その日、稽古は熱気に包まれた。
ひまり姉さんの指導は厳しくも的確で、
一本一本の動作に心を込めるような教えだった。
「そう、それでいいわ。剣は力でなく、心で振るうの。」
「は、はいっ!」
どこか懐かしく、優しい時間が流れていく──。
────────────────────────────
稽古が終わり、生徒たちが帰っていく中、
さくらだけが荷物の整理で遅れていた。
静まり返った道場に、二人きり。
そこにひまり姉さんが静かに歩み寄る。
「うふふ。さくらちゃん、今日の稽古、とても良かったわよ。」
「そ、そんな……! ひまり先生のご指導が素晴らしかったんです!」
さくらが笑顔を向けると、ひまりもふわりと微笑んだ。
──だが、その次の瞬間。
「ねぇ、さくらちゃん。」
その声音が、わずかに低くなった。
「あなた、“マキア”って知ってるかしら?
それと……“五分”ちゃんのことも。」
「……!?」
空気が、一瞬で凍る。
さくらの瞳が細くなり、呼吸が鋭くなる。
この名前を知る人間──普通ではない。
そして、彼女の表情から漂う、ただならぬ“何か”。
「……あなた、まさか……“マキア”なの……?」
「あらぁ、やっぱり知ってたのね。
なら、話が早いわね。──教えてもらおうかしら。」
「えいッ!! 斬ッ!!」
躊躇なく木刀が閃く。
斬撃が走り、空気を裂く──が、
「おっと。」
ひまりの身体が、風のように揺れた。
木刀は空を切り、着物の裾がふわりと揺れる。
(避けた……!? 一歩も動かずに……!?)
ひまりは軽やかに立ち、指先で髪を払う。
次の瞬間、空気が変わった。
「──《青火ノ斬撃》。」
抜刀一閃。
青い炎が軌跡を描き、空を裂いた。
その斬撃は美しく、そして……圧倒的だった。
「なっ──!?」
爆ぜる音と共に、炎が弾ける。
さくらの身体が後方へ弾き飛ばされ、床に転がった。
「うわぁぁぁッ!!」
燃え広がる道場。青い炎が幻想的に踊る。
ひまりはその中心で、静かに剣を構えていた。
「私の“マキ”は、青き炎を生み、操る力──《蒼炎ノ狐》。
そしてこの刀、《青火ノ狐》とは最高の相性なの。」
「……っ……!」
「言っとくけど、お嬢ちゃんじゃ私には勝てないわ。」
さくらは苦しげに息を吐き、
燃える床を踏みしめながら立ち上がる。
「……そんなこと、やってみなきゃわからないでしょ!!」
木刀を構え、再び斬撃を放つ。
しかし──
「ふふっ、無駄よ。」
ひまりの周囲を、青い火が舞った。
その一閃は、まるで狐が夜空を走るように、幻想的だった。
そして炎が弾けるたびに、
二人の距離は縮まり──運命の歯車が、静かに噛み合い始めた。
さくらは咳き込みながらも立ち上がった。
焦げた道場の空気が肺を刺す。それでも──木刀を握る手を離さない。
「……っ、まだ終わってないわ!」
再び放たれる斬撃。空気を切り裂き、青炎の残光を弾き飛ばす。
「ふふ……そんな攻撃、私には通じないわよ?」
余裕の笑み。
ひまりの狐耳がゆらりと揺れ、青い炎が尾のように舞った。
その瞬間、さくらは隙を突いて横へ跳ぶ。
壁際に転がっていた水バケツを掴み取ると──
「ほい、ずぶ濡れタイムです!」
ジャバーン!!
おかん丸の頭上から、水と雑巾の雨あられが降り注ぐ。
「ふふっ……可愛いわね。でもね、さくらちゃん。現実は甘くないわよ」
ひまりが指を鳴らす。
青い炎が一気に広がり、天井を焦がした。
熱気が吹き抜け、さくらの髪が揺れる。
「くっ……!」
さくらはその中を、ひたすら避け続けていた。
軌跡を読むように、炎と炎の間を縫う。
「逃げてばかりじゃ意味ないわ!──トドメッ!」
「ぎゃああぁぁ!!!」
斬撃が直撃し、木片が爆ぜた。
煙が舞い上がり、視界がゆらぐ。
「ふふ……もう無理よ。言ったでしょ?あなたは私には敵わない。
そろそろ──気づきなさい?」
静寂。
焦げた空気の中で、ひまりの足音だけが響く。
だが──
さくらはスッと顔を上げた。
その瞳には、確信の光。
「気づくのはあなたの方よ、ひまり……“周りを見なさい!”」
「……何を──?」
ひまりが眉をひそめる。
ふと見渡せば、そこは青い炎に囲まれた円。まるで──自らが張った結界の中。
「私がただ逃げてたとでも?いいえ、違うわ。
私はわざと、あなたの青い炎を周囲に撒き散らさせたの」
「……っ!」
「あなたの炎で、視界をごちゃごちゃにするためにね」
「だけど、甘いわね……! その理屈じゃ、あなたの視界からも見えないでしょ?」
さくらが小さく笑う。
その笑みは挑発ではなく、確信に満ちていた。
「最初に投げたでしょ? 水バケツ。あなたの周囲、全部濡れてるわ。
雑巾、水しぶき──濡れた場所は簡単には燃え広がらない。
つまり、“そこだけ炎も煙も起きない”の」
「……ッ!」
「あなたの位置、バレバレってことよ!
“甘いのはそっちだわ、ひまり。まるでケーキのように!”」
「ぐっ……!」
さくらは木刀を握り直す。
体勢を低くし、地を蹴った。
「──いけぇぇぇ!!」
連続の斬撃が、空気を切り裂く。
青い炎が巻き上がり、風を伴ってひまりを襲う!
──ドンッ!!!
爆風が吹き荒れ、床板が弾け飛ぶ。
ひまりの姿が、炎と煙の中に飲まれていった。
「やった……なんとか、勝った……」
さくらは木刀を杖のように突き立て、肩で息をしていた。
周囲には燃え尽きた木片と、わずかに残る青い炎の名残。
──これで、終わった。
そう思った、その瞬間。
「いいえ、まだだわ……私がこの程度で倒れると思ったかしら?」
ぞくり、と背筋が凍る。
振り返ると、そこには無傷で立つひまりの姿。
周囲に漂っていた青い炎が、すべて彼女の身体へと吸い込まれていく。
「この炎は私の一部。操ることも、戻すことも簡単なのよ」
ひまりは涼しい顔で指先を弾く。炎が螺旋を描き、彼女の周囲に再び燃え広がった。
「あなたの作戦、悪くなかったけど──私の刃には、まだ届いてなかったみたいね」
「そ……そんな……!」
さくらの顔から血の気が引く。
──この人、今まで戦った誰よりも……強い。
「さぁ、終わりよ」
その一言と同時に、視界が閃光で塗りつぶされた。
青炎が咆哮のように爆ぜ、さくらの身体を包み込む。
「──っ……!!」
瞬間、激しい衝撃とともに、すべてが暗転した。
──────────────────────────────
まぶしい光。
柔らかな布の感触。
──そして、どこか聞き慣れた声。
「お姉ちゃん、こっち見て!寝顔、面白っ!」
「五分、起きたらどうするの〜!」
……なにこれ。
「……え? いや、ちょっと待って、現実? 夢? 記憶飛んでんの?」
混乱する頭を押さえながら、さくらは身を起こす。
視界には、いつもの天井。そして、五分の部屋。
(……なんで私、ここに?)
「起きた?」
不意に視界へぬっと割り込んできたのは──
「ひまりさん!?」
目の前には、さっき自分を燃やした本人。
しかも、笑顔で覗き込んでくる余裕っぷり。
「あ、え?」
さくらは思わず自分の身体を見下ろす。
火傷も、傷も、どこにもない。
むしろ、肌はつやつや。温泉上がりの美肌効果レベルだ。
「ふふ、驚いたかしら? あたしの炎、再生能力もあるのよ。
軽いケガなら治せるの」
(……いや、軽く燃やしてきた人が言うセリフじゃないよね!?)
(しかも“軽い”の基準、地球で採用されてないから!!)
心の中で全力ツッコミを入れるさくら。
すると今度は、五分がスキップでもしそうな勢いで駆け寄ってくる。
「さくら〜!おはよう!ひまりさんと戦ったらしいけど、大丈夫?」
「え、まぁ……一応?」
「さくら、この人ね、ひまりさんって言って、お姉ちゃんの友達なんだって。
それで今回の事件も、一緒に手伝ってくれるとか!」
「えぇえええっ!?」
驚きすぎて変な声が出るさくら。
「え、じゃあ仲間なの?」
「ええ、そうよ。紛らわしい言い方で勘違いさせちゃってごめんなさいね。
桃恵ちゃんの居場所が分からなくて、つい手荒になっちゃったの」
「そ、そっかぁ……」
肩の力が抜け、さくらはぐったりとため息をつく。
まったく、ややこしいにもほどがある。
──そして、どたばた劇の末に。
「よし、これで一件落着!」
五分が満面の笑みで親指を立てる。
「……綺麗に終わろうとしてるけど、中々ゴリ押しプレイだよ?!」
「たぶん、大丈夫!」
「“たぶん”て言った!!」
部屋にツッコミと笑い声が響く。
どんな戦いの後でも、結局このチームはいつもこうだ。
──こうして、またひとつ。
彼女らの“ふざけた思い出”が増えていくのだった。
完。
- 1.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第一話「原点にして底辺」
- 2.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二話「ペットの田中さん」
- 3.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第三話「遂に始動!暑い原因はバナナかも?」
- 4.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第四話「干物とプリンと決意」
- 5.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第五話「果てしなき思い出はここから」
- 6.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第六話「ナルシストと自撮り棒は紙一重」
- 7.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第七話「誘惑のお姉さん」
- 8. 第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第八話「洞窟遭難 前編」
- 9.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第九話「洞窟遭難 後編」
- 10.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十話「主人公の定義」
- 11.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十一話「アニメみたいな設定?明かされた謎」
- 12.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十二話「ごめんねクリチー。 前編」
- 13.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十三話「ごめんねクリチー。 後編」
- 14.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十四話「再来!誘惑お姉さん!驚異的だからみんなで逃げたい」
- 15.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十五話「静かな夜の思い出」
- 16.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十六話「爆弾はロリロリのねのね、なのね!」
- 17.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十七話「“厄雷の翠”」
- 18.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十八話「タイトル回収♪」
- 19.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十九話「黄金の絆」
- 20.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二十話「暖かな時間」
- 21.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十一話「野菜畑の田中さん」
- 22.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十二話「あの恐ろしき角は冒険の予感?」
- 23.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十三話「実にくだらない」
- 24.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十四話「まな板と失われた尊厳」
- 25.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十五話「非情」
- 26.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十六話「パンツの替えが必要だ」
- 27.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十七話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 前編♡」
- 28.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十八話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 後編♡」
- 29.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十九話「龍による戦い」
- 30.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第三十話「Duo Nexus ―交差する絆―」
- 31.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十一話「ピンクの嵐は突然に」
- 32.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十二話「真美さんは喋りたい」
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- 36.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十六話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 後編」
- 37.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十七話「信じているよ、本当に」
- 38.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十八話「綺羅ちゃんとしてよろしくね」
- 39.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十九話「急なデートは今すぐにも」