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「……知らない天井……」
五分がぼんやりと目を覚ますと、視界に入ったのは見慣れない白い天井だった。重たいまぶたをこすりながらゆっくりと体を起こすと──ベッドの横で、さくらがリンゴを剥いていた。
「え?……ここ、天国……?」
「……誰が死人じゃッ!!」
安定のツッコミに五分は思わず肩をすくめる。目の前にいたのは、どこかホッとしたような笑顔を浮かべる、予想外の人物──さくらだった。
「五分……起きたんだね」
「うん……なんか夢見てた気がする……って、え、あれ。さ、さくら!?」
さくらはくるっとリンゴを回しながら、ナイフで皮を滑らかに剥いていく。
「はい、リンゴ。剥けたよ」
「さ、さくらーっ!!」
五分は思わず泣きぐずりながらさくらに飛びついた。あの時、あの場所で倒れたさくら。しかし混乱よりも疑問よりも、まず嬉しさと喜びが勝っていた。生きていてくれた──それだけで、胸の奥が熱くなる。
――閑話休題。
「えーとつまり、あの時ちょっとカスった、だけだったの?」
「うん、そうなの。血は出てたけど急所は外れてるし、そこまで大したこと無いらしい」
さくらはリンゴを頬張りながら笑い、病院のベッドで落ち着いた時間を過ごす。
「五分ごめんね、なんか大袈裟になっちゃって」
「べ、別にいいよ、それより元気なさくらが見れて嬉しい」
五分は身体を起こそうとしたが、腰に鈍い痛みが走る。
「イテテ……」
「無理しないでよね」
「そういえば、クリチーは?」
「クリチーはね、あれから姿を見てないの。でも、私たちをここまで運んでくれたのは彼女らしいよ」
「え、三人を!?」
「うん」
「一体どういう構造してんの!?」
「いや、あそこまでいくともう“人”じゃないよ、あれ」
五分がぞっとしたその瞬間──
「あとね、炎王・デグ・アカネ・テルコはそこのベッドで寝てるわよ、いまトイレだけど」
「いや、宿敵と同じ部屋とか怖いって!?」
五分が炎王のベッドを覗くと、「楓 紅炎」と丁寧に書かれたネームプレートが掛かっていた。
(楓……紅炎……なんかいい名前だな)
病室には一瞬だけ静けさが流れた。
「……あ、さ、さくら」
「うんー?」
「あの時は、助けてくれてありがとう……本当に」
五分が緊張して言うと、さくらは少し照れた笑みを浮かべた。
「ふふ、どういたしまして……」
カーテンから優しい風が入り、お互い少しモジモジと視線をそらす。ほんのり暖かな空気が流れる。
「ほんと、終わっても続いたね、この気持ちも景色も」
さくらの呟きに、五分の胸はじんわり温かくなる。
「そうだね」
笑顔を返すと、さくらも笑顔で返してくれた。
五分はふと手を取ってみる。握り返してくれた手は柔らかく、心地よかった。頬を染め、見つめ合いながら、時間が止まったような暖かな世界に浸る──。
その時、トイレ帰りの紅炎がニッコニコで現れた。
「お二人さんアツアツだね!」
『上手いこと言ったつもりか!?』
二人は驚き、手を離す。顔を真っ赤にしながらモジモジしていると、さくらが話題を変えるように尋ねた。
「か、楓はなんで炎王として、デグ達と一緒にいたの?」
紅炎はベッドにポフンと座り、真剣な顔で語りだす。
「実はね、私……bananaが好きなの」
「……は?」
「冷たくて新鮮なbananaを五島で広めたくて。スマホで広告見たら、“炎の能力者歓迎!王の椅子に座り炎王になるだけでOK!高収入!”って出てきたの」
「……」
「それで炎コアとか吸収して、バイト料もらえるって話で。お金貯めてbanana事業を起こそうと!」
『いや、それ悪のリクルートやん!!』
五分とさくらが反射でツッコミ。
「ごめんなさいぃ!でもあの時はbananaのことしか見えてなかったんだもん!」
「あーあ、オチまでふざけるとは物語としてダメだろォッ!!!」
こうして、あの騒動から数日が過ぎ、五分一行に久しぶりの平和が訪れた。
命をかけて戦ったあの日も、必死で笑ったことも、恐怖や不安もあった。しかし最後に残ったのは確かな「絆」だった。
五分はさくらの手を握り、額にそっと触れる。さくらも頬を寄せ、笑顔を浮かべる。二人だけの、優しい時間だった。
「ふふ、五分……やっと落ち着いたね」
「うん、さくらがいるから大丈夫」
ベッドの上でちょっとイチャイチャしながら、幸福を噛み締める二人。
その時、紅炎が片手にbananaを持ってニヤリ。
「じゃ、二人のラブラブタイムに便乗して、冷たいbananaでもどう?」
「「うわあああああっ!」」
二人は思わず吹き出して、さくらが紅炎に突っ込みを入れる。
笑い声とともに、優しい日常が病室に広がった。あの戦いの痛みも絶望も、すべてが小さな笑いと幸せに包まれ、世界は少しずつ穏やかになったのだった。
- 1.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第一話「原点にして底辺」
- 2.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二話「ペットの田中さん」
- 3.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第三話「遂に始動!暑い原因はバナナかも?」
- 4.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第四話「干物とプリンと決意」
- 5.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第五話「果てしなき思い出はここから」
- 6.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第六話「ナルシストと自撮り棒は紙一重」
- 7.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第七話「誘惑のお姉さん」
- 8. 第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第八話「洞窟遭難 前編」
- 9.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第九話「洞窟遭難 後編」
- 10.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十話「主人公の定義」
- 11.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十一話「アニメみたいな設定?明かされた謎」
- 12.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十二話「ごめんねクリチー。 前編」
- 13.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十三話「ごめんねクリチー。 後編」
- 14.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十四話「再来!誘惑お姉さん!驚異的だからみんなで逃げたい」
- 15.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十五話「静かな夜の思い出」
- 16.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十六話「爆弾はロリロリのねのね、なのね!」
- 17.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十七話「“厄雷の翠”」
- 18.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十八話「タイトル回収♪」
- 19.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十九話「黄金の絆」
- 20.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二十話「暖かな時間」
- 21.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十一話「野菜畑の田中さん」
- 22.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十二話「あの恐ろしき角は冒険の予感?」
- 23.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十三話「実にくだらない」
- 24.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十四話「まな板と失われた尊厳」
- 25.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十五話「非情」
- 26.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十六話「パンツの替えが必要だ」
- 27.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十七話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 前編♡」
- 28.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十八話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 後編♡」
- 29.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十九話「龍による戦い」
- 30.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第三十話「Duo Nexus ―交差する絆―」
- 31.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十一話「ピンクの嵐は突然に」
- 32.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十二話「真美さんは喋りたい」
- 33.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十三話「ひまりさんと(仮)ヒロイン」
- 34.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十四話「優しい会話」
- 35.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十五話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 前編」
- 36.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十六話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 後編」
- 37.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十七話「信じているよ、本当に」
- 38.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十八話「綺羅ちゃんとしてよろしくね」
- 39.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十九話「急なデートは今すぐにも」