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田中救出作戦からおよそ一時間後。
五分、さくら、クリチーの三人は、街のカフェでひと休みしていた。
ガラス越しに夏の陽射しが照りつける。だが、エアコンの効いた店内は外の灼熱が嘘のように涼しく、冷たい空気が心地よく頬を撫でる。
三人はそれぞれアイスティーやかき氷を手にし、今日の騒動を振り返っていた。
「……五分。あの作戦は、流石に異常すぎるわよ」
ジトリとした眼差しで睨むさくら。
「ほんっとうに! さくらちゃんの言う通り! 下品にも程がある!」
クリチーも負けじと声を荒げる。
「ちょ、ちょっと待って! 僕じゃないから! あれはクリチーが言い出したんだよね!?」
五分は慌てて両手を振る。
「……人生には、答えなくていい質問もある」
涼しい顔でアイスティーを啜った。
「完全に言い訳でしょ」
さくらが深いため息をつく。けれどその唇には、諦めきれないような苦笑が浮かんでいた。
「まあ……無茶は程々にしておきなさいよ」
「うん……」
五分はしゅんと肩を落とす。
束の間の会話は軽やかで、救出劇の疲れを忘れさせてくれるようだった。
やがて、店内のテレビが気象ニュースを映し出す。
女性アナウンサーの声が場を支配する。
《続いては全国の気温です。本日、五島地方では観測史上初となる四十八度を記録しました──》
「最近この島、なんだか少し暑いよね。バナナも腐るよ…」
氷を口に含んだまま、クリチーがのんきに言う。
「……今の速報聞いて、よくそんな感想が出るわね」
さくらは呆れ顔でツッコミを入れる。
五分も苦笑しながら頷いた。
「いやいや……これはもう“暑い”ってレベルじゃないよ」
───────────────────────────────────
その後、三人はそれぞれ予定のために別れた。
夕暮れの街を歩く五分は、額ににじむ汗をぬぐいながら小さく呟く。
「……ほんと干からびそう……動いてないのに、暑いよ」
口元が乾く。冗談半分に“暑さ対策委員会”でも作ろうかと考えたときだった。
視線の端に、不自然な気配が映る。
路地裏。
陰に隠れるように立つ、黒服の赤髪女たち二人。
五分はとっさに身を低くし、建物の影に隠れる。
全身の毛穴がざわめく。空気が重く、不穏だ。
(あれ……やばい匂いしかしない……。いやこれ、まさか薬飲まされて幼児化する棒メガネ名探偵コース!?いやだよあんなハードスケジュールの人生!)
息を殺して耳を澄ますと、低い声が響いた。
「……これで五島中への装置設置は完了した。後は本拠地のコア♡で制御すれば、暑さで人間どもは弱る」
「炎王様の計画は順調だな。まさかこんなにうまくいくとは……なぁ、姉貴」
(コア♡? 炎王? ……こいつらが、この異常な暑さの原因!?……ってかなんで♡つけんの!?怖さとキモさの二刀流やめろ!)
思わず一歩退いた瞬間──
──バキッ。
足元で小枝を踏みしめる音が、乾いた空気に響いた。
「誰だ!?」
黒服たちが一斉に振り返る。
逃げ出そうとした五分の前に、次の瞬間には二人の影が立ちふさがっていた。
「……おい、今の聞いてただろ」
「見られちゃあ困るんだけどなぁ、お嬢ちゃん」
「ひ、ひいっ……い、いえ!見てません!ただの……と、通りすがりの通報マニアですっ!」
言った瞬間、五分自身が顔を覆いたくなった。
この状況で“通報マニア”なんて、致命的に不利な趣味だ。
「通報マニア……? あぁそうか、それは…悪い趣味だねぇ?」
「ふふ、そりゃあもう、お宅らの悪事は全部──」
「「否定しねぇのかよ!!」」
刹那、空気が一変する。
黒服たちの瞳が冷たい殺意に染まった。
「……もういい。姉貴、こいつ殺るぞ」
「ちょ、ちょっと待って! 僕まだ通報してないし!それに……あの、保護観察中だから!!」
「言い訳は聞き飽きた。計画を知った以上、生かして帰すわけにはいかねぇ!」
拳が振り抜かれた。
鋼のような一撃が五分の腹に叩き込まれる。
「……っ!!」
息が詰まり、体が宙を舞う。背中を地面に打ちつけ、肺が焼けるように苦しい。
全身が痺れ、視界がかすむ。
(……だめ、体が動かない……)
その瞬間だった。
──バチッ。
体の奥から、何かが弾けた。
拳が熱を帯び、淡い赤い光がオーラのように揺らめき始める。
(……なに、これ……?)
立ち上がる五分の瞳が、不思議な光を宿す。
黒服たちが一瞬たじろいだ。
「な、なんだこいつ……さっきまでヘロヘロだったのに……」
五分は拳を握る。
心臓が熱く脈打ち、全身を駆け巡る力が「勝てる」と告げていた。
(……わかんない。でも、今なら……!)
「通報は──」
声が路地裏に響く。
「……拳で伝えるタイプだッ!!!」
ドガァァァァン!!!
全身の力を込めた渾身の一撃。
轟音と共に拳が炸裂し、黒服の一人が壁ごと吹き飛ばされた。コンクリートに亀裂が走り、砂塵が舞う。
残った一人は目を見開き、後ずさる。
「チッ……撤退だ! こいつ……ヤバすぎる!」
二人の影は、暗がりの奥へと逃げ去った。
──静寂。
五分の胸が大きく上下する。
熱い力はまだ体に残っているはずなのに、急速に体力が削られていく。
「はぁ……はぁ……」
視界がぐらりと揺れる。
そのまま膝をつき、崩れ落ちる寸前に小さく呟いた。
「……どうしよう……頭が……くら……ついて……」
バタリ。
夕闇の路地裏に、彼女の小さな体が倒れ込む。
─────────────────────────────────────
数十分後。
さくらの家。
ベッドの上で眠る五分の顔は、まるで眠れる美女のように穏やかで儚げだった。
布団を掛け直しながら、さくらはそっと呟く。
「……まったく。だから言ったのに……無茶はするなって……」
その横顔は、心配と……ほんの少しの安堵が入り混じっていた。
五分、さくら、クリチーの三人は、街のカフェでひと休みしていた。
ガラス越しに夏の陽射しが照りつける。だが、エアコンの効いた店内は外の灼熱が嘘のように涼しく、冷たい空気が心地よく頬を撫でる。
三人はそれぞれアイスティーやかき氷を手にし、今日の騒動を振り返っていた。
「……五分。あの作戦は、流石に異常すぎるわよ」
ジトリとした眼差しで睨むさくら。
「ほんっとうに! さくらちゃんの言う通り! 下品にも程がある!」
クリチーも負けじと声を荒げる。
「ちょ、ちょっと待って! 僕じゃないから! あれはクリチーが言い出したんだよね!?」
五分は慌てて両手を振る。
「……人生には、答えなくていい質問もある」
涼しい顔でアイスティーを啜った。
「完全に言い訳でしょ」
さくらが深いため息をつく。けれどその唇には、諦めきれないような苦笑が浮かんでいた。
「まあ……無茶は程々にしておきなさいよ」
「うん……」
五分はしゅんと肩を落とす。
束の間の会話は軽やかで、救出劇の疲れを忘れさせてくれるようだった。
やがて、店内のテレビが気象ニュースを映し出す。
女性アナウンサーの声が場を支配する。
《続いては全国の気温です。本日、五島地方では観測史上初となる四十八度を記録しました──》
「最近この島、なんだか少し暑いよね。バナナも腐るよ…」
氷を口に含んだまま、クリチーがのんきに言う。
「……今の速報聞いて、よくそんな感想が出るわね」
さくらは呆れ顔でツッコミを入れる。
五分も苦笑しながら頷いた。
「いやいや……これはもう“暑い”ってレベルじゃないよ」
───────────────────────────────────
その後、三人はそれぞれ予定のために別れた。
夕暮れの街を歩く五分は、額ににじむ汗をぬぐいながら小さく呟く。
「……ほんと干からびそう……動いてないのに、暑いよ」
口元が乾く。冗談半分に“暑さ対策委員会”でも作ろうかと考えたときだった。
視線の端に、不自然な気配が映る。
路地裏。
陰に隠れるように立つ、黒服の赤髪女たち二人。
五分はとっさに身を低くし、建物の影に隠れる。
全身の毛穴がざわめく。空気が重く、不穏だ。
(あれ……やばい匂いしかしない……。いやこれ、まさか薬飲まされて幼児化する棒メガネ名探偵コース!?いやだよあんなハードスケジュールの人生!)
息を殺して耳を澄ますと、低い声が響いた。
「……これで五島中への装置設置は完了した。後は本拠地のコア♡で制御すれば、暑さで人間どもは弱る」
「炎王様の計画は順調だな。まさかこんなにうまくいくとは……なぁ、姉貴」
(コア♡? 炎王? ……こいつらが、この異常な暑さの原因!?……ってかなんで♡つけんの!?怖さとキモさの二刀流やめろ!)
思わず一歩退いた瞬間──
──バキッ。
足元で小枝を踏みしめる音が、乾いた空気に響いた。
「誰だ!?」
黒服たちが一斉に振り返る。
逃げ出そうとした五分の前に、次の瞬間には二人の影が立ちふさがっていた。
「……おい、今の聞いてただろ」
「見られちゃあ困るんだけどなぁ、お嬢ちゃん」
「ひ、ひいっ……い、いえ!見てません!ただの……と、通りすがりの通報マニアですっ!」
言った瞬間、五分自身が顔を覆いたくなった。
この状況で“通報マニア”なんて、致命的に不利な趣味だ。
「通報マニア……? あぁそうか、それは…悪い趣味だねぇ?」
「ふふ、そりゃあもう、お宅らの悪事は全部──」
「「否定しねぇのかよ!!」」
刹那、空気が一変する。
黒服たちの瞳が冷たい殺意に染まった。
「……もういい。姉貴、こいつ殺るぞ」
「ちょ、ちょっと待って! 僕まだ通報してないし!それに……あの、保護観察中だから!!」
「言い訳は聞き飽きた。計画を知った以上、生かして帰すわけにはいかねぇ!」
拳が振り抜かれた。
鋼のような一撃が五分の腹に叩き込まれる。
「……っ!!」
息が詰まり、体が宙を舞う。背中を地面に打ちつけ、肺が焼けるように苦しい。
全身が痺れ、視界がかすむ。
(……だめ、体が動かない……)
その瞬間だった。
──バチッ。
体の奥から、何かが弾けた。
拳が熱を帯び、淡い赤い光がオーラのように揺らめき始める。
(……なに、これ……?)
立ち上がる五分の瞳が、不思議な光を宿す。
黒服たちが一瞬たじろいだ。
「な、なんだこいつ……さっきまでヘロヘロだったのに……」
五分は拳を握る。
心臓が熱く脈打ち、全身を駆け巡る力が「勝てる」と告げていた。
(……わかんない。でも、今なら……!)
「通報は──」
声が路地裏に響く。
「……拳で伝えるタイプだッ!!!」
ドガァァァァン!!!
全身の力を込めた渾身の一撃。
轟音と共に拳が炸裂し、黒服の一人が壁ごと吹き飛ばされた。コンクリートに亀裂が走り、砂塵が舞う。
残った一人は目を見開き、後ずさる。
「チッ……撤退だ! こいつ……ヤバすぎる!」
二人の影は、暗がりの奥へと逃げ去った。
──静寂。
五分の胸が大きく上下する。
熱い力はまだ体に残っているはずなのに、急速に体力が削られていく。
「はぁ……はぁ……」
視界がぐらりと揺れる。
そのまま膝をつき、崩れ落ちる寸前に小さく呟いた。
「……どうしよう……頭が……くら……ついて……」
バタリ。
夕闇の路地裏に、彼女の小さな体が倒れ込む。
─────────────────────────────────────
数十分後。
さくらの家。
ベッドの上で眠る五分の顔は、まるで眠れる美女のように穏やかで儚げだった。
布団を掛け直しながら、さくらはそっと呟く。
「……まったく。だから言ったのに……無茶はするなって……」
その横顔は、心配と……ほんの少しの安堵が入り混じっていた。
- 1.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第一話「原点にして底辺」
- 2.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二話「ペットの田中さん」
- 3.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第三話「遂に始動!暑い原因はバナナかも?」
- 4.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第四話「干物とプリンと決意」
- 5.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第五話「果てしなき思い出はここから」
- 6.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第六話「ナルシストと自撮り棒は紙一重」
- 7.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第七話「誘惑のお姉さん」
- 8. 第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第八話「洞窟遭難 前編」
- 9.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第九話「洞窟遭難 後編」
- 10.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十話「主人公の定義」
- 11.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十一話「アニメみたいな設定?明かされた謎」
- 12.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十二話「ごめんねクリチー。 前編」
- 13.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十三話「ごめんねクリチー。 後編」
- 14.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十四話「再来!誘惑お姉さん!驚異的だからみんなで逃げたい」
- 15.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十五話「静かな夜の思い出」
- 16.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十六話「爆弾はロリロリのねのね、なのね!」
- 17.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十七話「“厄雷の翠”」
- 18.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十八話「タイトル回収♪」
- 19.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十九話「黄金の絆」
- 20.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二十話「暖かな時間」
- 21.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十一話「野菜畑の田中さん」
- 22.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十二話「あの恐ろしき角は冒険の予感?」
- 23.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十三話「実にくだらない」
- 24.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十四話「まな板と失われた尊厳」
- 25.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十五話「非情」
- 26.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十六話「パンツの替えが必要だ」
- 27.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十七話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 前編♡」
- 28.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十八話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 後編♡」
- 29.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十九話「龍による戦い」
- 30.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第三十話「Duo Nexus ―交差する絆―」
- 31.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十一話「ピンクの嵐は突然に」
- 32.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十二話「真美さんは喋りたい」
- 33.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十三話「ひまりさんと(仮)ヒロイン」
- 34.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十四話「優しい会話」
- 35.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十五話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 前編」
- 36.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十六話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 後編」
- 37.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十七話「信じているよ、本当に」
- 38.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十八話「綺羅ちゃんとしてよろしくね」
- 39.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十九話「急なデートは今すぐにも」