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「……なになに、一体……!」
朝の光の下、五分は息を切らしながら駆けていた。
スマホに届いた“助けて”という一文だけの緊急メッセージ。差出人は──さくら。
襲われてはいないか、最悪の事態になっていないか。嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
「はぁっ……さくら! 大丈夫なの!?」
全力で走り抜け、ようやく辿り着いたその場所。
そこにあった光景は──
「……平和やん」
泣きじゃくる小さな女の子と、その子を抱きとめ慰めるさくらの姿だった。
胸を撫で下ろした瞬間、少女が五分に飛びつき、涙声で叫ぶ。
「お願いっ! 田中さんを助けて!!」
「……誰?」
呆気に取られる五分に、さくらが困った顔で説明を始める。
「この子はりんちゃん。この子のペットが木に登って降りられなくなったらしいの」
「なるほど、ペットね。犬とか猫かな……」
五分は木を見上げる。枝の先に確かに何かが見える。
犬か? 猫か? いや、もしかして猿か? 想像が膨らむ。だが──
「わたしのペットの、田中さんが降りられないの!!」
「……田中さん!?」
そこで五分は現実に殴り飛ばされる。
枝に必死にしがみつき、震えながらこちらを見下ろしているのは──
スーツ姿の、おばさん(五十代後半・推定サラリーマン)だった。
「犬でも猫でもなく……あばあちゃん!? いや、なんでぇ!?」
「田中さんは、私の大切なペットなの!」
「ええっ!? いやいや人間だよ!? ここおっさんペット可なの?!」
「五分、あんたひどいわ。田中さんはペットよ。心ないこと言わないで」
「さくらまで何言い出してんの!? もしかしてホワイトスネイクの幻覚とか…」
ぐらりと世界が歪む。
だが、泣いている少女を前にして、現実逃避している場合ではない。
「……わ、わかったよ。助ければいいんでしょ。田中さんを」
こうして──田中さん救出作戦が幕を開けた。
───────────────────────────────────
第一の作戦。網で引き寄せる。
「いける……かな? よしっ!」
が、勢い余って網は木の上の蜂の巣を直撃。
「……わーお」
ぶおおおおおん!!!
怒り狂った蜂の群れが、一直線に田中さんへ襲いかかる。
「あ、」
「“あ”じゃないわよ! どうすんのよこれ!!」
「……ヌヌウッ! こうなったら木を蹴って注意を引こう!」
さくらとりんちゃんを安全な場所に下がらせ、五分は渾身の力で木を蹴飛ばした。
ドンッ。
ヒューバキッ──ボトッ。
落ちてきたのは、別の蜂の巣。
「……………あ」
「アホが!! 増やしてどうすんのよ!?」
蜂の数、二倍。
怒りも二倍。
田中さんのピンチも二倍!
「な……なんでこうなるの……!?」
絶望に沈むその時、背後から声が響いた。
「諦めるのはまだ早い! 私に策がある!」
「クリチー!」
現れたのは七瀬 翠。あだ名、クリチー。
小柄で水色のレインコート姿、笑顔の似合う癒し系女子。
小学生の頃、クリームチーズを三十分で腐らせた謎の才能から、この渾名が定着している。
「……って、策があるの!? この状況で!?」
クリチーは真剣な顔で頷いた。
「うむ。五分が──裸になって全身に蜂蜜を塗る!」
「……は?」
「ちょっと待て頭おかしいでしょ!? 癒し系通り越して常軌逸してるわ!」
さくらのツッコミが飛ぶ中、五分は静かに手を上げた。
「……やります。僕、脱ぎます!」
「……ま、まってあんたクソでも女よ…// こ、こんな公共の場で脱ぐなんて正気の沙汰じゃないわ!」
「……ふふん、大丈夫だ…“全年齢対象”だから、いやでもモザイクか補正が付くよ」
「なぁーーっ…」
その場が凍りつく。
公共の場で躊躇なく服を脱ぎ、コンビニで買った蜂蜜を全身に塗りたくる五分。
りんは震える声で呟いた。
「すごい……! 人生に生き恥を晒してでも仲間を救おうとする根性……」
「あぁ、彼は……社会に落ちた人物よ。だからこそ何も恐れないのだ」
クリチーとりんちゃんは涙を流しながら、五分に向かって敬礼を送った。
「根性でも美徳でもないからね!? ただ社会的に終わってるだけだから!!」
それでも五分は、勇気と愛を振り絞り、下着姿のまま蜂の群れに飛び込む。
蜂たちは本能に従い、一斉に彼女へ襲いかかった。
瞬間、五分は満面の笑みで敬礼していた。
(クリチー、さくら、りんちゃん……これが僕の精一杯です。どうか、この勇気が……誰かのために……!)
「彼女の勇気に……敬礼!」
クリチーとりんちゃんが、涙で視界を滲ませながら最後を見届ける。
「……何を見せられてんのよ、私たち」
呆然と呟くさくら。
───────────────────────────────────
その後──りんちゃんと田中さんは無事に再会し、嬉しそうに帰っていった。
その微笑ましい光景の背景で。
「ぎゃあああああ!!!」
下着姿で蜂から逃げ惑う五分の姿があった。
「これが……泣きっ面に蜂ってやつね!」
「いや違うでしょそれ!!」
──その後、五分は一つ尊厳を失くした。
朝の光の下、五分は息を切らしながら駆けていた。
スマホに届いた“助けて”という一文だけの緊急メッセージ。差出人は──さくら。
襲われてはいないか、最悪の事態になっていないか。嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
「はぁっ……さくら! 大丈夫なの!?」
全力で走り抜け、ようやく辿り着いたその場所。
そこにあった光景は──
「……平和やん」
泣きじゃくる小さな女の子と、その子を抱きとめ慰めるさくらの姿だった。
胸を撫で下ろした瞬間、少女が五分に飛びつき、涙声で叫ぶ。
「お願いっ! 田中さんを助けて!!」
「……誰?」
呆気に取られる五分に、さくらが困った顔で説明を始める。
「この子はりんちゃん。この子のペットが木に登って降りられなくなったらしいの」
「なるほど、ペットね。犬とか猫かな……」
五分は木を見上げる。枝の先に確かに何かが見える。
犬か? 猫か? いや、もしかして猿か? 想像が膨らむ。だが──
「わたしのペットの、田中さんが降りられないの!!」
「……田中さん!?」
そこで五分は現実に殴り飛ばされる。
枝に必死にしがみつき、震えながらこちらを見下ろしているのは──
スーツ姿の、おばさん(五十代後半・推定サラリーマン)だった。
「犬でも猫でもなく……あばあちゃん!? いや、なんでぇ!?」
「田中さんは、私の大切なペットなの!」
「ええっ!? いやいや人間だよ!? ここおっさんペット可なの?!」
「五分、あんたひどいわ。田中さんはペットよ。心ないこと言わないで」
「さくらまで何言い出してんの!? もしかしてホワイトスネイクの幻覚とか…」
ぐらりと世界が歪む。
だが、泣いている少女を前にして、現実逃避している場合ではない。
「……わ、わかったよ。助ければいいんでしょ。田中さんを」
こうして──田中さん救出作戦が幕を開けた。
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第一の作戦。網で引き寄せる。
「いける……かな? よしっ!」
が、勢い余って網は木の上の蜂の巣を直撃。
「……わーお」
ぶおおおおおん!!!
怒り狂った蜂の群れが、一直線に田中さんへ襲いかかる。
「あ、」
「“あ”じゃないわよ! どうすんのよこれ!!」
「……ヌヌウッ! こうなったら木を蹴って注意を引こう!」
さくらとりんちゃんを安全な場所に下がらせ、五分は渾身の力で木を蹴飛ばした。
ドンッ。
ヒューバキッ──ボトッ。
落ちてきたのは、別の蜂の巣。
「……………あ」
「アホが!! 増やしてどうすんのよ!?」
蜂の数、二倍。
怒りも二倍。
田中さんのピンチも二倍!
「な……なんでこうなるの……!?」
絶望に沈むその時、背後から声が響いた。
「諦めるのはまだ早い! 私に策がある!」
「クリチー!」
現れたのは七瀬 翠。あだ名、クリチー。
小柄で水色のレインコート姿、笑顔の似合う癒し系女子。
小学生の頃、クリームチーズを三十分で腐らせた謎の才能から、この渾名が定着している。
「……って、策があるの!? この状況で!?」
クリチーは真剣な顔で頷いた。
「うむ。五分が──裸になって全身に蜂蜜を塗る!」
「……は?」
「ちょっと待て頭おかしいでしょ!? 癒し系通り越して常軌逸してるわ!」
さくらのツッコミが飛ぶ中、五分は静かに手を上げた。
「……やります。僕、脱ぎます!」
「……ま、まってあんたクソでも女よ…// こ、こんな公共の場で脱ぐなんて正気の沙汰じゃないわ!」
「……ふふん、大丈夫だ…“全年齢対象”だから、いやでもモザイクか補正が付くよ」
「なぁーーっ…」
その場が凍りつく。
公共の場で躊躇なく服を脱ぎ、コンビニで買った蜂蜜を全身に塗りたくる五分。
りんは震える声で呟いた。
「すごい……! 人生に生き恥を晒してでも仲間を救おうとする根性……」
「あぁ、彼は……社会に落ちた人物よ。だからこそ何も恐れないのだ」
クリチーとりんちゃんは涙を流しながら、五分に向かって敬礼を送った。
「根性でも美徳でもないからね!? ただ社会的に終わってるだけだから!!」
それでも五分は、勇気と愛を振り絞り、下着姿のまま蜂の群れに飛び込む。
蜂たちは本能に従い、一斉に彼女へ襲いかかった。
瞬間、五分は満面の笑みで敬礼していた。
(クリチー、さくら、りんちゃん……これが僕の精一杯です。どうか、この勇気が……誰かのために……!)
「彼女の勇気に……敬礼!」
クリチーとりんちゃんが、涙で視界を滲ませながら最後を見届ける。
「……何を見せられてんのよ、私たち」
呆然と呟くさくら。
───────────────────────────────────
その後──りんちゃんと田中さんは無事に再会し、嬉しそうに帰っていった。
その微笑ましい光景の背景で。
「ぎゃあああああ!!!」
下着姿で蜂から逃げ惑う五分の姿があった。
「これが……泣きっ面に蜂ってやつね!」
「いや違うでしょそれ!!」
──その後、五分は一つ尊厳を失くした。
- 1.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第一話「原点にして底辺」
- 2.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二話「ペットの田中さん」
- 3.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第三話「遂に始動!暑い原因はバナナかも?」
- 4.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第四話「干物とプリンと決意」
- 5.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第五話「果てしなき思い出はここから」
- 6.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第六話「ナルシストと自撮り棒は紙一重」
- 7.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第七話「誘惑のお姉さん」
- 8. 第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第八話「洞窟遭難 前編」
- 9.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第九話「洞窟遭難 後編」
- 10.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十話「主人公の定義」
- 11.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十一話「アニメみたいな設定?明かされた謎」
- 12.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十二話「ごめんねクリチー。 前編」
- 13.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十三話「ごめんねクリチー。 後編」
- 14.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十四話「再来!誘惑お姉さん!驚異的だからみんなで逃げたい」
- 15.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十五話「静かな夜の思い出」
- 16.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十六話「爆弾はロリロリのねのね、なのね!」
- 17.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十七話「“厄雷の翠”」
- 18.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十八話「タイトル回収♪」
- 19.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第十九話「黄金の絆」
- 20.第一章「火災保険は入っとけ!みんな大ピンチ!?編」 第二十話「暖かな時間」
- 21.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十一話「野菜畑の田中さん」
- 22.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十二話「あの恐ろしき角は冒険の予感?」
- 23.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十三話「実にくだらない」
- 24.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十四話「まな板と失われた尊厳」
- 25.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十五話「非情」
- 26.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十六話「パンツの替えが必要だ」
- 27.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十七話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 前編♡」
- 28.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十八話「龍華を賭けてババ抜き対決〜°・*:.。.☆ うふーん♡ 後編♡」
- 29.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第二十九話「龍による戦い」
- 30.第二章「伝説の龍は娘に怒ってます!編」 第三十話「Duo Nexus ―交差する絆―」
- 31.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十一話「ピンクの嵐は突然に」
- 32.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十二話「真美さんは喋りたい」
- 33.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十三話「ひまりさんと(仮)ヒロイン」
- 34.第三章「糸はマキマキ、永遠にマキ込むは真気 編」第三十四話「優しい会話」
- 35.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十五話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 前編」
- 36.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十六話「モブは引き立て役じゃないよ、モブは裏の勇士さ 後編」
- 37.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十七話「信じているよ、本当に」
- 38.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十八話「綺羅ちゃんとしてよろしくね」
- 39.第三章「糸はマキマキ、無限に絡むは真気 編」第三十九話「急なデートは今すぐにも」