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少し、血描写あり。
ノベルエラー
#1
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「──」
声が出なかった。
目の前にある赤い水たまりに息を呑む。
「……かぁ、さん?……」
赤い液体は自身の母からどくどくと溢れ出ていることに、更に絶望感を抱く。
「っ、母さん!!」
──叫ぶことしかできない己に、泣いた。
『……月……日、交通事故により綾部雪さん45歳が亡くなりました──』
ニュースキャスターが淡々と告げる、もう何度聞いたかわからない事実に再び俯き泣く。
「……夏希…………元気、出せって……な……ぁ?」
震えた声で必死に励ましてくる父親もまた、涙を流した痕跡がある。今も、泣きそうな顔で、夏希に話しかける。
「……父さ……、ぁ、……っ」
静かな部屋に響く、泣き声。
……自分はこんなに泣き虫だったっけ。夏希は、ふとそう思ってしまった。でも、直ぐにどうでも良くなり、また泣く。
父は既に自分の部屋に入っていった。夏希より落ち着いてるように見えるが、そうは言ってもショックは大きかったのだと思う。
(……俺のせいだ……俺が……コンビニに行くって言わなければ。買い物ついでに乗せてってあげようか、っていう母さんの申し出を断ってたら)
もしもを考えてもどうしようもない。わかってた。
けれど想像せずにはいられなかった。
──過去は変わらない──
《過去を、変えたい?》
……どこからか、声が聞こえた。
「……ぇ?」
顔を上げると、赤い表紙の本が、ふよふよと浮いていた。
「っ!?な、本が浮いて……?」
夏希は、一瞬涙を引っ込めて後ろへ下がった。
《──綾部夏希くん。君のお母さんは亡くなりました。……あなたは、過去を変えたいですか?》
本は、こちらへ近づいてきた。顔がないのに、本からは妙な迫力を感じる。
「……か、えたい、よ……」
本が何者かもわからないのに、口をついて出ていたのはそんな言葉だった。
《そっか、じゃあ、過去へ行く?》
更に本から返ってきた返事はそんな言葉だった。
「……は??」
……すでに、涙は完全に止まってしまった。もう、驚きの連発で泣くどころじゃないから。
「……説明しろ」
……夏希は、本に説明を求めた。
「つまり、お前は神の使いで、特殊能力を持っていて、過去にタイムスリップが可能……?」
説明を聞いたが、とんでもない内容ばかりの説明だった。余計に頭がこんがらがった気がする。
《そーそー、君、なんか困ってるみたいだったから、話しかけてみたんだよー》
本はどこまでも軽く言う。その様子に呆れが込み上げてきた。
「俺は……母さんが死んで悲しみに暮れていたんだぞ。それなのになんだなんか『困ってるみたいだったから〜』って……軽すぎるだろ」
《ん?別にいいでしょ。人の話し方にいちゃもんつけないでくれる?》
夏希はしばらく顔がない本と睨み合った。……だがため息をついて、言う。
「……本当にタイムスリップできるんだよな?なら、俺を、過去に連れて行け」
こんな現実離れした話を信じるのはどうかしているかもしれない。けれど、今は母をとり戻りたい……という思いが勝ってしまった。随分と感情任せで行動していると、夏希は心の中でどこか冷静に思っていた。
《……信じるんだ?君はこんな馬鹿げた話信じない主義かと思ってたよ》
「母さんが死んでなかったら信じなかったかもしれないな。……でも、もしチャンスがあるなら足掻きてぇんだよ……」
《……そ。じゃあ、過去、行こっか。大丈夫、過去に行ってる間は現実世界の時、止まるから》
ピカっと光が当たりを飲み込む。
目を開けると、先ほどいた部屋に、いた。
「……おい。本当にここ、過去かよ?」
《うん。過去》
その証拠というように、《リビング行ってみ?》と促す本。
「リビング?……」
スタスタとリビングへ向かう夏希。
「あ、夏希。今から買い物行ってくるわね。留守番よろしく」
そう言ってきたのは、よく知っている人。──夏希の母だった。
「……母さん……」
……本当に過去なんだ……夏希は、改めてそう思った。
「……母さん。買い物行くのやめれば?」
いい説得方法が思いつかず、単刀直入にそう言った夏希。
「え?でも、今日特売日だから……誰になんと言われようと私は行くわよ〜!」
特売日は母が大好きな日だ。説得しても無駄なのかもしれない。
(まぁ……事故の起きる時間とズレてるし大丈夫……だよな?)
一瞬、そう考えたが……心配になり夏希は「やっぱ俺もついてっていい?」と口走っていた。
「買った買ったー!嬉しい……節約できた……ふふ」
夏希の母は、すごく嬉しそうにそう言う。
(無事に買い物できたな。……あとは家に、帰るだけ)
──夏希は気を抜いていた。もうきっと未来は変わったんだ、と。
けれど──
ドンっ!!!
車の、夏希の母が座る運転席に、車が突っ込んできた。
「……え?」
……危機一髪で夏希は怪我をしなかった。しかし……
どくどくと流れる血は、母から出ている。
ゾクっとした。
「……おい、本!!なんで……未来が瓦ねぇんだ!!過去まで来たのに!!なんで!!」
──気づくと叫んでいた。
《それは、君が選択を間違えたからだ》
叫び声に反応して、本が姿を現した。
軽い調子ではなく、ただ淡々と、事実を告げた。
「なんだよ……選択を間違えたってなんだよ!!……俺は!!……2回も母さんを死なせてしまったのかよ!!」
《……なんとしてでも自分の母を取り戻したいなら、またチャンスを授けるけど。でも、失敗したら──また、母を死なせることになるよ》
その言葉に、ぞくっとした。
「……俺は……どうすればよかったんだよ」
後悔することしかできない。
結局、足掻いても足掻いても、未来は変わらなかった。
過去は、変わらなかった。
気づくと、父と別れたあの部屋にいた。
周りを見る。母は、いない。
その代わり、近くのテーブルに置いてあったのは、『食べろよ』とボールペンで書いてある紙と、夏希の大好物のシャケチャーハンだった。
「……父さん」
夏希は、そのチャーハンを食べた。
母の味とは、少し違った。
「……本」
本を呼ぶ。なぜだかわからないけど、本と出会ったのは夢の中ではない──そう確信していた。
《何、夏希》
案の定、本は現れた。
「俺は。母さん失った。けど、まだ失ってないものもある……母の味は、もう食べれないけど……この、父さんの作ったチャーハンもじゅうぶん美味い」
だから、と夏希は続ける。
「俺、今を大切にしたいよ……」
ボロボロと涙をこぼしながら言う。
《……そっか。じゃ、僕はもう、君の前に姿を表さないことにするね?》
「……本。……ありがとう」
《……ん……その愛情、大切にしなよ》
夏希は、泣いた。ずっと泣いた。
「……美味い……」
その涙には、嬉し涙も、混ざっていたのかもしれない。
声が出なかった。
目の前にある赤い水たまりに息を呑む。
「……かぁ、さん?……」
赤い液体は自身の母からどくどくと溢れ出ていることに、更に絶望感を抱く。
「っ、母さん!!」
──叫ぶことしかできない己に、泣いた。
『……月……日、交通事故により綾部雪さん45歳が亡くなりました──』
ニュースキャスターが淡々と告げる、もう何度聞いたかわからない事実に再び俯き泣く。
「……夏希…………元気、出せって……な……ぁ?」
震えた声で必死に励ましてくる父親もまた、涙を流した痕跡がある。今も、泣きそうな顔で、夏希に話しかける。
「……父さ……、ぁ、……っ」
静かな部屋に響く、泣き声。
……自分はこんなに泣き虫だったっけ。夏希は、ふとそう思ってしまった。でも、直ぐにどうでも良くなり、また泣く。
父は既に自分の部屋に入っていった。夏希より落ち着いてるように見えるが、そうは言ってもショックは大きかったのだと思う。
(……俺のせいだ……俺が……コンビニに行くって言わなければ。買い物ついでに乗せてってあげようか、っていう母さんの申し出を断ってたら)
もしもを考えてもどうしようもない。わかってた。
けれど想像せずにはいられなかった。
──過去は変わらない──
《過去を、変えたい?》
……どこからか、声が聞こえた。
「……ぇ?」
顔を上げると、赤い表紙の本が、ふよふよと浮いていた。
「っ!?な、本が浮いて……?」
夏希は、一瞬涙を引っ込めて後ろへ下がった。
《──綾部夏希くん。君のお母さんは亡くなりました。……あなたは、過去を変えたいですか?》
本は、こちらへ近づいてきた。顔がないのに、本からは妙な迫力を感じる。
「……か、えたい、よ……」
本が何者かもわからないのに、口をついて出ていたのはそんな言葉だった。
《そっか、じゃあ、過去へ行く?》
更に本から返ってきた返事はそんな言葉だった。
「……は??」
……すでに、涙は完全に止まってしまった。もう、驚きの連発で泣くどころじゃないから。
「……説明しろ」
……夏希は、本に説明を求めた。
「つまり、お前は神の使いで、特殊能力を持っていて、過去にタイムスリップが可能……?」
説明を聞いたが、とんでもない内容ばかりの説明だった。余計に頭がこんがらがった気がする。
《そーそー、君、なんか困ってるみたいだったから、話しかけてみたんだよー》
本はどこまでも軽く言う。その様子に呆れが込み上げてきた。
「俺は……母さんが死んで悲しみに暮れていたんだぞ。それなのになんだなんか『困ってるみたいだったから〜』って……軽すぎるだろ」
《ん?別にいいでしょ。人の話し方にいちゃもんつけないでくれる?》
夏希はしばらく顔がない本と睨み合った。……だがため息をついて、言う。
「……本当にタイムスリップできるんだよな?なら、俺を、過去に連れて行け」
こんな現実離れした話を信じるのはどうかしているかもしれない。けれど、今は母をとり戻りたい……という思いが勝ってしまった。随分と感情任せで行動していると、夏希は心の中でどこか冷静に思っていた。
《……信じるんだ?君はこんな馬鹿げた話信じない主義かと思ってたよ》
「母さんが死んでなかったら信じなかったかもしれないな。……でも、もしチャンスがあるなら足掻きてぇんだよ……」
《……そ。じゃあ、過去、行こっか。大丈夫、過去に行ってる間は現実世界の時、止まるから》
ピカっと光が当たりを飲み込む。
目を開けると、先ほどいた部屋に、いた。
「……おい。本当にここ、過去かよ?」
《うん。過去》
その証拠というように、《リビング行ってみ?》と促す本。
「リビング?……」
スタスタとリビングへ向かう夏希。
「あ、夏希。今から買い物行ってくるわね。留守番よろしく」
そう言ってきたのは、よく知っている人。──夏希の母だった。
「……母さん……」
……本当に過去なんだ……夏希は、改めてそう思った。
「……母さん。買い物行くのやめれば?」
いい説得方法が思いつかず、単刀直入にそう言った夏希。
「え?でも、今日特売日だから……誰になんと言われようと私は行くわよ〜!」
特売日は母が大好きな日だ。説得しても無駄なのかもしれない。
(まぁ……事故の起きる時間とズレてるし大丈夫……だよな?)
一瞬、そう考えたが……心配になり夏希は「やっぱ俺もついてっていい?」と口走っていた。
「買った買ったー!嬉しい……節約できた……ふふ」
夏希の母は、すごく嬉しそうにそう言う。
(無事に買い物できたな。……あとは家に、帰るだけ)
──夏希は気を抜いていた。もうきっと未来は変わったんだ、と。
けれど──
ドンっ!!!
車の、夏希の母が座る運転席に、車が突っ込んできた。
「……え?」
……危機一髪で夏希は怪我をしなかった。しかし……
どくどくと流れる血は、母から出ている。
ゾクっとした。
「……おい、本!!なんで……未来が瓦ねぇんだ!!過去まで来たのに!!なんで!!」
──気づくと叫んでいた。
《それは、君が選択を間違えたからだ》
叫び声に反応して、本が姿を現した。
軽い調子ではなく、ただ淡々と、事実を告げた。
「なんだよ……選択を間違えたってなんだよ!!……俺は!!……2回も母さんを死なせてしまったのかよ!!」
《……なんとしてでも自分の母を取り戻したいなら、またチャンスを授けるけど。でも、失敗したら──また、母を死なせることになるよ》
その言葉に、ぞくっとした。
「……俺は……どうすればよかったんだよ」
後悔することしかできない。
結局、足掻いても足掻いても、未来は変わらなかった。
過去は、変わらなかった。
気づくと、父と別れたあの部屋にいた。
周りを見る。母は、いない。
その代わり、近くのテーブルに置いてあったのは、『食べろよ』とボールペンで書いてある紙と、夏希の大好物のシャケチャーハンだった。
「……父さん」
夏希は、そのチャーハンを食べた。
母の味とは、少し違った。
「……本」
本を呼ぶ。なぜだかわからないけど、本と出会ったのは夢の中ではない──そう確信していた。
《何、夏希》
案の定、本は現れた。
「俺は。母さん失った。けど、まだ失ってないものもある……母の味は、もう食べれないけど……この、父さんの作ったチャーハンもじゅうぶん美味い」
だから、と夏希は続ける。
「俺、今を大切にしたいよ……」
ボロボロと涙をこぼしながら言う。
《……そっか。じゃ、僕はもう、君の前に姿を表さないことにするね?》
「……本。……ありがとう」
《……ん……その愛情、大切にしなよ》
夏希は、泣いた。ずっと泣いた。
「……美味い……」
その涙には、嬉し涙も、混ざっていたのかもしれない。