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いつか、いなくなるキミへ。

#3

~心臓が悪い~

[太字][大文字]♡空席の向こう側[/大文字][/太字]



あの日をきっかけに、俺たちの日常は一変した。
昼休みは3人で弁当を食べ、放課後は他愛もない話で笑い合う。俺の隣にはいつも、龍也のうるさい笑い声と、深山さんの眩しい笑顔があった。
ずっと独りだった俺の世界が、2人のせいで一気に色鮮やかになっていく――そんな幸せな毎日だった。
けれど、その日は突然やってきた。
朝のホームルームを告げるチャイムが鳴っても、俺の斜め前の席は空いたままだった。
いつもなら「楠凪くん、おはよ!」と振り返ってくれるはずの、深山さんの席。机の上には、何も置かれていない。
「……遅刻か?」
隣の龍也が、珍しく不安そうな顔で俺を見てくる。今朝送ったメッセージには、まだ既読がついていない。
ガラッと教室のドアが開き、担任が入ってくるなり、小さくため息をついて言った。
「えー、深山だが、今日からしばらく体調不良で欠席となる」
クラスの男子たちが「えーっ!」「大丈夫かよ?」とざわつき始める。
俺の心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がった。
ただの風邪なら「しばらく」なんて言い方はしない。あの時触れた、彼女の氷のような冷たさが脳裏をよぎる。
「……なぁ、葉瑠。放課後、深山さんの家行ってみるか?」
龍也が真剣な目で囁いてきた。俺は迷わず、強く頷いた。


放課後、深山さんの家を訪ねた俺と龍也は、インターホン越しに対応してくれた彼女のお母さんから、深山さんが市内の総合病院に入院したことを知らされた。
「あの子ったら、学校の友達には心配かけたくないから内緒にしてって言ってたんだけど……。本当に良いお友達を持って、一花は幸せね。よかったら、お見舞いに行ってあげて」
そう言って教えてもらった、白い巨塔のような大病院。
静まり返った廊下を進み、指定された「402号室」の前に立つ。ドアの横の名札には、確かに『深山一花』と書かれていた。
トントン、と龍也が優しくドアをノックする。
「はーい、どうぞ」
中から聞こえてきたのは、いつもと変わらない、少し高くて明るい深山さんの声だった。
ホッとしてドアを開けた俺たちは、しかし、その光景に言葉を失った。
「あ、楠凪くんに、伊吹くん! わざわざ来てくれたんだ!」
ベッドの上にちょこんと座った深山さんは、いつものの笑顔を浮かべていた。
でも、その体にはいくつかのコードが繋がれ、傍らの機械が規則正しい電子音を刻んでいる。そして何より、いつも少し青白かった彼女の肌は、病院のシーツと同じくらい真っ白で、痛々しいほど細くなっていた。
「よ、よぉ深山さん! なんだよ、急に休みやがって。クラスの男子全員、お通夜みたいになってるぞ?」
龍也がわざと明るく振る舞いながら、ベッドの横の丸椅子に座る。俺は声が出せないまま、彼女から少し離れた場所に立ち尽くしていた。
「あはは、みんなに迷惑かけちゃったな。でもね、ちょっと風邪が長引いちゃっただけだから、すぐ元気になるよ!」
深山さんはピースサインを作って見せる。
嘘だ。そんな軽いものではないことくらい、この部屋の空気を見れば分かる。
「……深山さん」
俺が掠れた声で名前を呼ぶと、彼女はビクッと肩を揺らし、それからゆっくりとピースサインを下ろした。
隠し通せないと悟ったのか、彼女は困ったように眉を下げ、自嘲気味に微笑む。
「……うん。嘘ついちゃって、ごめんね」
深山さんは自分の細い胸の上に、そっと手を当てた。
「私ね、生まれつき心臓が弱いの。お医者さんからはね、高校生まで生きられるか分からないって、小さい頃に言われてたんだ」
「え……?」
龍也の顔から、完全に余裕が消えた。いつもおちゃらけているあいつが、言葉を失って深山さんを見つめている。
「だからね、高校に入学できた時は本当に嬉しかったの。普通の女の子みたいに、学校に行って、お友達を作って、笑い合いたくて。……2人と一緒に過ごしたこの数ヶ月、私、生まれて初めて『生きててよかった』って心から思ったんだよ?」
深山さんは涙を堪えるように、ぎゅっと布団を握りしめた。
「でもね、やっぱり神様は意地悪だなぁ。もう、私の心臓、限界みたいで……。手術をしても、成功するか分からないんだって」
部屋の中に、ピー, ピー、という機械の音だけが虚しく響く。
目の前が真っ暗になるような感覚の中、俺の脳裏に、あの日彼女が言った言葉が蘇る。
『あったかい楠凪くんに、ちょっと分けてもらいたいくらい!』
あの時、もっとちゃんと話を聞いていれば。もっと早く、彼女の痛みに気づいていれば。
後悔と絶望で胸が張り裂けそうになる俺たちの前で、深山さんは溢れそうになる涙をグッと堪え、顔を上げてにっこりと笑った。
「だからね、2人にお願いがあるの。……私と、最後の約束、してくれない?」

2026/08/09 23:35

ふる003
ID:≫ 10.YZDmJ7U7Dk
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