[太字][大文字]♡足りない言葉[/大文字][/太字]
『ねえ、花咲さん。本当のこと教えて?――幽と、ぎゅーした……?』
ぎゅーはしていない。していないけれど、机の下で、抱き合わんばかりの距離で密着していたのは事実だ。動揺がそのまま顔に出てしまったのを見逃すほど、桃瀬みるという少年は甘くなかった。
「あはは、図星? 花咲さん、わかりやすすぎ。顔、耳まで真っ赤だよ?」
みるくんはさらに顔を近づけて、楽しそうに目を細める。
(どうしよう、どうしよう! このままじゃ幽くんとの秘密が、全部バレちゃう――!)
こむぎがギュッと目を瞑った、その瞬間だった。
ガラッ!!!!!!
本日二度目となるドアの開放音。それはみるくんの時とは違い、明らかに苛立ちを含んだ乱暴な音だった。
「……何してんの、お前ら」
低く、地を這うような冷ややかな声。
入り口に立っていたのは、他でもない幽くんだった。
いつもはどんな時でも冷静沈着、周囲に関心を示さないはずの天才。その彼の瞳が、今は心なしか、見たこともないほど冷たく据わっているように見えた。
「あ、幽! お疲れ〜。もう帰ったかと思ってた」
みるくんは壁ドンしていた手をあっさりと離すと、何事もなかったかのようにひらひらと手を振り返した。その態度には、幽くんの威圧感を全く恐れていない余裕がある。
幽くんはポケットに手を入れたまま、真っ直ぐこむぎたちの元へと歩いてきた。その歩調は一歩一歩が重く、部屋の空気をピリピリと張り詰めさせていく。
そして、みるくんの前に立つと、こむぎの細い手首をぐいっと掴み、自分の背中の後ろへと強引に引き隠した。
「痛っ……」
小さく声を漏らしたこむぎだったが、幽くんの後ろ姿から漂う尋常じゃない気迫に、それ以上何も言えなくなる。幽くんの手のひらは、驚くほど熱かった。
「桃瀬」
幽くんが、みるくんの苗字を低く呼ぶ。
「用がないなら帰れ。花咲が迷惑してる」
「え〜? 迷惑なんてしてないよね、花咲さん? 僕たち、今すっごく良いところだったんだから。ね?」
みるくんは小悪魔的な笑みを浮かべたまま、幽くんの大きな背中の後ろに隠れたこむぎを、ひょっこりと覗き込もうとする。
その瞬間、幽くんの肩がぴくりと強張った。掴まれているこむぎの手首に、さらにきゅっと力が込まる。
「……お前に話すことなんて、こいつには何もない」
「ふーん? じゃあさ、なんで花咲さんから幽の匂いがするの? 今日の幽、いつもよりちょっとイライラしてるみたいだし……さっきまで2人で何してたのさ」
みるくんの鋭い質問が、真っ直ぐに幽くんを射抜く。
生徒会室を支配する沈黙。こむぎが息を呑み、心臓が爆発しそうになったその時、幽くんはフッと鼻で笑った。
「……ただの仕事だ。机の下のな」
(えええええ!?!? 幽くん、それ一番言っちゃダメな表現ーーー!?!?)
こむぎは心の中で頭を抱えて大絶叫した。
幽くんにしてみれば「書類を落としたから、それを拾うための事務的な作業だ」という意味なのだろうが、あまりにも言葉が足りなすぎる。
案の定、みるくんの目が一瞬で、獲物を見つけた肉食獣のようにきらりと光った。
「へえ……? 生徒会室の、机の下、ねぇ……?」
みるくんは口元を歪め、挑発するような不敵な笑みを浮かべる。
幽くんもまた、前髪の隙間から、感情の読めない冷たい絶対零度の視線でみるくんを睨み返す。
いつもは女子たちの憧れの的である2人のイケメン。その2人が、地味なこむぎを挟んで、パチパチと激しい火花を散らし始めていた。
「幽がそんな風に誰かを隠すなんて、珍しいね。……おもしろ。ねえ、僕もその『秘密』、混ぜてよ」
みるくんが一歩、踏み出す。
幽くんはこむぎをさらに背後に庇い、冷たく言い放った。
「断る。お前に関係ない」
夕暮れの光が2人の影を長く伸ばす中、こむぎは幽くんの制服の裾をぎゅっと握りしめることしかできなかった。2人の天才に挟まれた放課後は、まだまだ波乱の予感しかなくて――。
『ねえ、花咲さん。本当のこと教えて?――幽と、ぎゅーした……?』
ぎゅーはしていない。していないけれど、机の下で、抱き合わんばかりの距離で密着していたのは事実だ。動揺がそのまま顔に出てしまったのを見逃すほど、桃瀬みるという少年は甘くなかった。
「あはは、図星? 花咲さん、わかりやすすぎ。顔、耳まで真っ赤だよ?」
みるくんはさらに顔を近づけて、楽しそうに目を細める。
(どうしよう、どうしよう! このままじゃ幽くんとの秘密が、全部バレちゃう――!)
こむぎがギュッと目を瞑った、その瞬間だった。
ガラッ!!!!!!
本日二度目となるドアの開放音。それはみるくんの時とは違い、明らかに苛立ちを含んだ乱暴な音だった。
「……何してんの、お前ら」
低く、地を這うような冷ややかな声。
入り口に立っていたのは、他でもない幽くんだった。
いつもはどんな時でも冷静沈着、周囲に関心を示さないはずの天才。その彼の瞳が、今は心なしか、見たこともないほど冷たく据わっているように見えた。
「あ、幽! お疲れ〜。もう帰ったかと思ってた」
みるくんは壁ドンしていた手をあっさりと離すと、何事もなかったかのようにひらひらと手を振り返した。その態度には、幽くんの威圧感を全く恐れていない余裕がある。
幽くんはポケットに手を入れたまま、真っ直ぐこむぎたちの元へと歩いてきた。その歩調は一歩一歩が重く、部屋の空気をピリピリと張り詰めさせていく。
そして、みるくんの前に立つと、こむぎの細い手首をぐいっと掴み、自分の背中の後ろへと強引に引き隠した。
「痛っ……」
小さく声を漏らしたこむぎだったが、幽くんの後ろ姿から漂う尋常じゃない気迫に、それ以上何も言えなくなる。幽くんの手のひらは、驚くほど熱かった。
「桃瀬」
幽くんが、みるくんの苗字を低く呼ぶ。
「用がないなら帰れ。花咲が迷惑してる」
「え〜? 迷惑なんてしてないよね、花咲さん? 僕たち、今すっごく良いところだったんだから。ね?」
みるくんは小悪魔的な笑みを浮かべたまま、幽くんの大きな背中の後ろに隠れたこむぎを、ひょっこりと覗き込もうとする。
その瞬間、幽くんの肩がぴくりと強張った。掴まれているこむぎの手首に、さらにきゅっと力が込まる。
「……お前に話すことなんて、こいつには何もない」
「ふーん? じゃあさ、なんで花咲さんから幽の匂いがするの? 今日の幽、いつもよりちょっとイライラしてるみたいだし……さっきまで2人で何してたのさ」
みるくんの鋭い質問が、真っ直ぐに幽くんを射抜く。
生徒会室を支配する沈黙。こむぎが息を呑み、心臓が爆発しそうになったその時、幽くんはフッと鼻で笑った。
「……ただの仕事だ。机の下のな」
(えええええ!?!? 幽くん、それ一番言っちゃダメな表現ーーー!?!?)
こむぎは心の中で頭を抱えて大絶叫した。
幽くんにしてみれば「書類を落としたから、それを拾うための事務的な作業だ」という意味なのだろうが、あまりにも言葉が足りなすぎる。
案の定、みるくんの目が一瞬で、獲物を見つけた肉食獣のようにきらりと光った。
「へえ……? 生徒会室の、机の下、ねぇ……?」
みるくんは口元を歪め、挑発するような不敵な笑みを浮かべる。
幽くんもまた、前髪の隙間から、感情の読めない冷たい絶対零度の視線でみるくんを睨み返す。
いつもは女子たちの憧れの的である2人のイケメン。その2人が、地味なこむぎを挟んで、パチパチと激しい火花を散らし始めていた。
「幽がそんな風に誰かを隠すなんて、珍しいね。……おもしろ。ねえ、僕もその『秘密』、混ぜてよ」
みるくんが一歩、踏み出す。
幽くんはこむぎをさらに背後に庇い、冷たく言い放った。
「断る。お前に関係ない」
夕暮れの光が2人の影を長く伸ばす中、こむぎは幽くんの制服の裾をぎゅっと握りしめることしかできなかった。2人の天才に挟まれた放課後は、まだまだ波乱の予感しかなくて――。