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悪役令嬢は、本当に”バットエンド”ですか?

#5

第五話:妹にすべてを奪われた悪役令嬢は、一途な幼馴染の腕で溺愛を知る

[太字][大文字]♡甘やかされた妹と、日陰の姉[/大文字][/太字]




「お姉様、その婚約者、とっても素敵。ねえ、私にちょうだい?」

美しいプラチナブロンドの髪を揺らし、コト、と紅茶のカップを置いたのは、私の二つ年下の義妹・エレナだった。
彼女がねだっているのは、ただのドレスや宝石ではない。この国の第二王子・ルカ殿下――私の「婚約者」その人のことだった。

「エレナ、冗談はやめなさい。ルカ殿下は国が定めた私の……」

「あら、シャルロットお姉様はまた私をいじめるのね! お父様、お姉様が私に意地悪をします!」

エレナが嘘の涙をこぼした瞬間、ガタァン!と音を立てて父親が部屋に踏み込んできた。

「シャルロット! またエレナをいじめたのか! お前はアウグスト公爵家の長女でありながら、なぜそうやって我が儘ばかり言うのだ。ルカ殿下との婚約は、エレナに譲ることにする!」

父親の冷酷な言葉が、豪華な婚約祝いの間に響き渡る。
私の言い分なんて、最初から誰も聞いてくれない。数年前に母が亡くなり、父が後妻とその連れ子であるエレナを家に迎え入れてから、この家で私は完全に「悪役」として仕立て上げられていた。
エレナは私の持っているものをすべて欲しがった。
お気に入りのティアラ、日当たりの良い部屋、そして、未来の王妃という地位。彼女が泣き真似をすれば、父も継母も、すべて私が悪者であるかのように扱い、私から奪い取ってエレナに与えた。
私の心は、いつしか冷たい氷のように凍りついていった。
反論しても無駄。何を言っても「悪役令嬢」の嫉妬として片付けられる。
そんな私の暗闇のような日々の中で、唯一、私の心を繋ぎ止めてくれていたのが、幼馴染の存在だった。

「シャルロット。またあの泥棒猫たちに何か奪われたのか」

屋敷の裏手、誰も来ない薔薇庭園の片隅。
そう言って私の前に現れたのは、王国の影の支配者とも呼ばれる、最名門・ナイトハルト公爵家の若き当主であり、私の唯一の幼馴染であるキースだった。
彼は、私の泥に汚れた手をそっと取り、自分の大きな温かい手で包み込んでくれた。

「……キース。いいの、もう慣れたわ」

「慣れるわけがないだろう! あいつらは正気じゃない。シャルロット、お前はこの国で誰よりも気高くて優秀な令嬢だ。あんな偽物の聖女ごときに、お前の価値を踏みにじらせてたまるものか」

キースの鋭い切れ上がった黒い瞳には、私を傷つける世界への激しい怒りと、私に対する狂おしいほどの情熱が宿っていた。
彼は幼い頃から、ずっと私だけを見て、私だけに優しさを注いでくれた。

「待っていてくれ、シャルロット。俺が必ず、お前をあの生き地獄から連れ出す。お前を誰よりも幸せにしてみせる」

その約束だけが、私が辛うじて生き長らえるための、唯一の灯火だった。

そして、運命の夜が訪れた。
学園の卒業記念パーティー。華やかなシャンデリアの下、大勢の貴族が集まる会場の中心で、パリン、とグラスの割れる音が響いた。

「シャルロット・フォン・アウグスト! 貴様との婚約を破棄する!」

声の主は、私の元婚約者であるルカ王子。その隣には、純白のドレスを着て、悲劇のヒロイン気取りで涙を浮かべる妹のエレナが寄り添っている。

「ルカ殿下……突然大声を出すのはおやめくださいませ。耳に響きますわ」

「黙れ、悪女め! エレナへの数々の嫌がらせ、彼女のドレスを切り裂き、夜会で恥をかかせた罪、言い逃れはさせんぞ! 今日を以て、僕の真の婚約者はエレナだ!」

周囲の貴族たちから、ヒソヒソと嘲笑の声が漏れる。

「また妹に奪われたのか」
「哀れな悪役令嬢だな」
「実の家族からも見捨てられた用済みだ」

エレナは私に向かって、勝ち誇ったような、醜悪な歪んだ笑みを浮かべた。

『お姉様、また私の勝ちね。お姉様には、もう何も残っていないわ』

衣服も、部屋も、思い出も、そして未来の伴侶さえも。
私は、この家族にすべてを奪い尽くされた。

「……そうですか」

私は静かに立ち上がり、身につけていたアウグスト公爵家の家紋が入った扇を、床へと落とした。

「では、私はこの家を出ていきます。ルカ殿下、そしてエレナ。どうぞお幸せに」

「フン、行くがいい! お前のような役立たず、どこで野垂れ死のうと知ったことか!」

ルカ王子と父親の冷たい言葉を背中に受けながら、私は一歩も振り返ることなく、パーティー会場の扉へ向かって歩き出した。
その時、会場の重厚な扉が、内側から激しく押し開けられた。

「待て。我が婚約者をどこへ連れて行く気だ、愚か者ども」

響き渡ったのは、地響きのような圧倒的な威圧感を孕んだ低い声。
現れたのは、漆黒の礼服を纏ったキース・フォン・ナイトハルト公爵だった。彼の背後には、国王直属の近衛騎士団がずらりと控えている。
「き、キース公爵!? なぜ貴様がここに……それに、我が婚約者とはどういう意味だ!」 ルカ王子が青ざめる。
キースはまっすぐに私のもとへ歩み寄ると、誰もが驚くほど優しい手つきで私の腰を抱き寄せ、自分の胸へと引き寄せた。

「文字通りの意味だ、お馬鹿な第二王子殿下。シャルロットがアウグスト公爵家を見捨てると同時に、彼女は我がナイトハルト公爵家の『正妃』となる。……ルカ殿下、そしてアウグスト公爵。貴方方が集めた『嫌がらせの証拠』とやらが、いかに価値のない泥細工か、今ここで証明して差し上げましょう」

キースが合図を出すと、騎士団長が一歩前へ出て、分厚い書類を突きつけた。

「エレナ・フォン・アウグスト! 貴様が自分で自分のドレスを切り裂き、姉の仕業に見せかけた現場の魔法映像、および裏でルカ殿下の側近を買収していた通信魔導の記録を、すべて押さえた! 罪名は『王族欺瞞罪』および『公爵令嬢に対する名誉毀損』だ!」

「な……っ!? そんな、嘘よ! 私はただ、お姉様からルカ様を奪いたかっただけで……っ」

エレナが悲鳴を上げる。

「エレナ、お前……僕を騙していたのか!?」

裏切られた衝撃に顔を青ざめさせるルカ王子。しかし、キースの追撃は止まらない。

「ルカ殿下。貴方がアウグスト公爵家と結託し、シャルロットの優秀な領地経営の手柄を自分のものとして王城に報告していた横領の証拠も、すべて国王陛下へ提出済みです。――貴方、明日には王位継承権を剥奪されますよ?」

「あ、ああ……嘘だ……」

ルカ王子は完全に絶望し、床へと突っ伏した。父親も継母も、あまりの事態に腰を抜かして震えている。
キースは私を見つめ、その黒い瞳にとろけるような甘い愛を宿して微笑んだ。

「お前を傷つけるものは、この世界のどこへ逃げようとも俺が許さない。さあ行こう、シャルロット。俺の城へ。お前が受けるべきだった愛のすべてを、俺がこの手で与えてみせる」

「はい……っ、キース!」

私は彼の手を強く握り締め、割れんばかりの拍手と、崩壊していく元家族たちの絶望の悲鳴を背に、光り輝く未来へと一歩を踏み出した。



それから一年後。
私とキースは、ナイトハルト公爵家の広大な邸宅で、息が詰まるほどの新婚生活を送っていた。

「シャルロット、今日のドレスだ。お前の美しいプラチナブロンドの髪には、この特級のマジッククリスタルを織り込んだシルクがよく似合うと思ってね。さあ、着替えておくれ」

「ふふ、キース。毎日のようにそんな高価なものをいただいたら、クローゼットが閉まらなくなってしまいますわ」

朝、化粧台の前に座る私を、キースは後ろから愛おしそうに抱きしめ、首筋に何度も甘いキスを落とす。

「いいんだ。お前が美しく着飾る姿を見るのが、俺の生き甲斐なんだから。今まで我慢してきた分、世界中の贅沢をお前に味あわせてやる」

キースからの溺愛は、本当に「過保護」の一言に尽きた。
食事の時間になれば「シャルロットの手を疲れさせたくない」とスプーンを差し出され、夜は彼の広い胸の中で、これでもかと愛を囁かれながら眠りにつく。
実家で日陰者扱いを受けていた私は、今や公爵夫人の最高峰として、周囲の従者たちからも「本当に美しく、聡明な奥様だ」と心から慕われていた。
一方、私を追い出したアウグスト公爵家と元第二王子は、完全に破滅していた。
ルカ王子は辺境の鉱山へと追放され、エレナと父親は巨額の賠償金を課せられて財産をすべて失い、街の片隅で物乞いのような生活を送っているという。
ある日、王都の市場をキースと仲良く歩いていると、ボロボロの服を着たエレナが、私たちの前に縋り付いてきた。

「お姉様! そのお着物、私にちょうだい! キース様だって、本当は私みたいな可愛い女の子がお似合いのはずよ! お姉様、私にすべてを譲りなさい!」

かつてなら、私は恐怖で身をすくめていただろう。
しかし今の私は、キースの愛によって完全に満たされ、強くなっていた。
私はキースの腕をぎゅっと抱きしめ、エレナに向かって、氷のように冷ややかな微笑みを向けた。

「お断りいたしますわ、エレナ。私はもう、貴女に差し上げるものは、何一つ持っていませんわ。――どうぞ、ご自分で撒いた種の刈り取りを、一生かかってなさることね」

「衛兵、この薄汚い犯罪者を遠ざけろ。我が愛する妻に不快な気配を近づけるな」

キースが冷酷に合図を出すと、衛兵たちが一斉に駆けつけ、エレナをゴミのように引き摺っていった。
彼らがいなくなった後、キースは私の手を引き、包み込むように微笑んだ。

「すまない、シャルロット。嫌なものを見せてしまったね」

「いいえ、キース。私、もう何ともありませんわ。だって私には……世界で一番大切な、貴方がいますもの」

私が満面の笑みで答えると、キースは愛おしさが爆発したように、街中であることも忘れて私を強く抱きしめた。

「ああ、愛している、シャルロット。これからもずっと、俺の隣で幸せになってくれ」

「ええ、喜んで。私、貴方と一緒に、世界で一番幸せな王妃になりますわ!」

青く澄み渡る空の下、私たちは互いの手を強く握り締め、どこまでも続く幸せな未来へと、一歩を踏み出したのだった。

2026/08/08 23:22

ふる003
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